FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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第二十話 邪龍のしもべ

じりじりと肌を焦がすような砂漠の陽射しが照りつける中、僕は広げられた地図とにらめっこしながら、皆について行く。地図とこれまでの行軍の状況を見るに、今のところ、行軍は僕らの思い描いた通りに進んでいる。

 

「ビャクヤさん」

 

予定を確認できた僕が地図をしまうと、頭上からルフレが声をかけてきた。どうやら、今日の目的地に着いたらしい。僕は、もうじき休憩できるのを嬉しく思うとともに、小さくため息をつく。しかし、いくら現実逃避していても現状は変わらない。ルフレからの報告を受けた僕はクロムのもとまで走り、並ぶ。

 

「クロム、ここらで一度休息をとろう。村も近くにあるようだし、何よりオアシスが近い。水の補給や食料の調達などをすませてから出発にした方がいい」

「わかった……」

 

僕の報告に対しクロムの返した返事はどこか重く、暗かった。この砂漠の移動につかれたというわけではないだろうから、何か別のことなのだろうか。

 

「どうかしたのか?」

「いや、ここまでは何とか見つからずに潜入できたが、国境の警備兵が少ない。あえて俺たちを誘い込むつもりらしいな……」

 

どうやらクロムは敵がいないことに疑問を抱いていたらしく、そのことで不安になっていたらしい。まあ、確かにもうすでにペレジアとの国境を越えてだいぶ進んだが、ペレジア兵との戦闘はなく、誘い込まれている気がしないでもない。まあ、たとえそうだとしても進むしかないのだが。

 

けれど、今回はそれとは近いようで遠いような厄介ごとが、こちらに向かって来ているようだ。

 

「…………そのことなんだけど、実は前方に武装した集団が見えるらしいんだよね」

「何! まさか、罠にはまったのか!?」

 

僕のその報告にクロムは驚きを隠せなかったようで、素早く抜刀すると、僕に敵のことを聞いてくる。僕は其れに対し軽くため息をつきながら、手を水平まで上げて、前方を指さした。

 

「でね、その子が今来たよ」

「……子供? いや、あれは敵襲ではなくて、明らかにただの少女だろう」

 

子供が来たくらいじゃ僕も何も言わないよ。それくらいわかってほしい。その後にいろいろあるからこうして報告しているわけだし。

 

「…………ルフレからの報告によれば前方で何者かが争っているらしい。とりあえず、戦闘準備をしてね」

「ああ、わかった」

 

僕らの会話はそこで途切れ、話を聞いていたフレデリクが後方へと下がり、他の自警団の者たちに戦闘準備を促していく。そして、僕たちはというと……

 

「ビャクヤさん。前方から武装集団が迫ってきます。もうすぐ接敵します」

「うん。わかった。それはそうとして、目の前の光景について君からも意見を聞きたい。女性として、あれはどう見える」

「はい? …………」

 

僕の言葉を聞いたルフレは僕らの見ている方へと視線を向け、次第に、その視線が冷たくなっていくのを僕は隣で感じていた。いつの間にかクロムの隣にいたリズの視線も同様に冷たい。

 

皆の視線がこうも冷たくなっている原因は現在も目の前でくりひろげられている、とある出来事のせいである。おそらく誰が見ても同じ感想を抱くだろう。以下その一部始終である。

 

 

 

小さい女の子がこちらへと向かって走ってきた。長い距離を走ったためか、立ち止まると荒くなった息を整え始める。

 

「はあっ、はあっ、はあっ! こ、ここまで逃げてくれば……」

 

そんな少女の後ろから少女の体を自らの影で覆うような形で傭兵然とした壮年の男性が現れ、呆れたように少女に話しかけた。

 

「まーて、つってんだろ。ほんと、わかんない嬢ちゃんだなぁ」

 

その言葉に少女はびくりと体を振るわせると恐る恐る後ろを振り返り、大声で悲鳴を上げた。

 

「きゃあぁぁぁぁっ! いやぁぁぁぁっ!」

 

その悲鳴に男の方も驚いたらしいが、すぐに立ち直ると慌てて少女をなだめはじめる。

 

「おいおいおい、まずいって! あんた、追いかけられてる自覚ある?」

「うう、ぐすっ! せ、せっかく、ここまで逃げてきたのに。うう~、ノノ、ここで死んじゃうんだ!!」

 

その言葉を最後にその少女――ノノは声を上げて泣き出してしまった。その様子を見ていた男は頭を軽く書きながら、困った表情で小さくつぶやく。

 

「まいったなー、こりゃあ。俺、そんなに悪人面かい? ちょーっと傷付くぜ」

 

 

 

さて、この一部始終を見ていた、我らが自警団のリーダーことクロム団長は、一歩踏み出して、彼らとの間合いを詰めると、その男に向かって抜刀した剣を向けながら話しかける。

 

「目立つことは避けたかったが、黙って見過ごすわけにはいかん! おい貴様!! その少女に手を出すな!!」

 

声をかけられた男はというと、その意味が分からないという感じに首をひねるが、言っていることの意味にすぐに思い至ったらしく、慌てて否定を始めた。

 

「あ? って、待て待て、俺は……」

 

しかし、悲しいかな…………おそらくクロムたちの勘違いなのかもしれないけど、今のその状況で君がどれだけ弁明しても、誰も聞いてはくれないだろうね……

 

男の弁明を聞こうともせず、ルフレ、リズがさらに言葉をかぶせる。

 

「そうですね……今すぐその子の傍から離れてください。そうしないなら、この槍で貫きますよ。それとも、切り刻まれたい?」

「そうよ、かわいそう!! そんな小さい子を狙うなんて、ヘンタイ!!」

「え? なんで初めて会った相手にこんなにひどい扱い受けてんの俺? おい、おたくら勘違いしてない? 俺はこの子をだな……」

「はいはい、そんな変態さんに君たちは近づかないでね。君たちも十分彼に狙われる対象になりかね…………ぐぉ!」

 

男へと特攻しようとするルフレとリズを宥めようとした僕に対しなぜか、ルフレとリズが攻撃をしてきた。しかも、杖の先端と魔導書の角というなかなか攻撃力の高いところで狙ってくるあたり、なにやら不満があることがわかる。わかるのだが、やはりわからない。僕は――――

 

「君たちの心配をしただけなのに……と言いたいんですよね、ビャクヤさん?」

「え……!? なんで、わかるの?」

「…………ビャクヤさんはわかりやすいですからね。こと、こういうことに関しては」

「………………」

「さあ、なんででしょうね。私にもわかりません。でも、なんとなく、わかるんです。かん……ですね。たぶん」

 

「そんな険しい目で……あ、違う!? どこか冷めた目をしている!? ま、まあ、とにかく俺は敵じゃねえ!! いい加減信じろって!!」

「わかった。詳しい話はここを切り抜けてから聞こう。ビャクヤ、行けるな」

「え、あ、うん。大丈夫だよ」

 

そんな会話をしているうちにどうやら、ルフレの言っていた武装集団も追いついたようだ。そして、なにやら、あの男は少女と共にこちらの味方になるらしい。戦場で無駄話をするべきじゃないな。話に全くついて行けなくなってしまう。まあ状況的に見て、あの武装集団を蹴散らせばいいだけかな? さっさと済ませよう。どうやら準備が出来てないのは僕とルフレだけみたいだし。

 

ルフレは素早くペガサスに乗るとこちらに手を差し出してくる。

 

「行きましょう、ビャクヤさん」

「行こうか、ルフレ」

 

僕はルフレの差し出した手を握ると、彼女の騎乗するペガサスへと体を移動させる。それと同時に彼女のペガサスが羽ばたきはじめ、空へと登る。

 

「ペレジア側へ騒ぎが気付かれないように、迅速に片づけるよ!」

 

それを合図に自警団の皆も進軍を開始した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

戦況ははじめ、敵陣の方がやや有利だった。それもそうだろう。私たちの中で砂漠での進軍の経験があるものは少なく、ペレジアに入ってからも戦闘というものをしていないため、勝手がわからないのもうなずける。だが、その中でも、天馬騎士や、魔導師といった者たちは特に支障はなさそうだった。天馬騎士はそもそも地形があまり関係ない。そして、魔導師はその身軽さゆえに、砂漠に足をとられにくく、また、後方支援になることが多いため、足場を確保しやすく、移動も他の者たちよりも容易に行える。

 

そして、一番被害を受けているのは剣士や騎馬の者たちだ。その中でも、フレデリクやヴィオールを除く騎馬の者たちはひどかった。慣れない砂漠での戦いだということを指し引いても、危うい場面が多すぎる。まあ、それらは後方からの弓や魔法により何とかなっているのだが。

 

そして、敵は明らかにこの地形になれている。まあ、当たり前だろう。ここが本拠地なのだから。となると、ふつうなら、こちらからも戦死者が出ていてもおかしくないのだが、今のところそれはない。けが人はいるにはいるが、それも戦闘に支障のない者ばかりであり、問題ない。

 

では、なぜこんなにも被害が少ないのか。その理由はやはり、彼にあるのだろうな……

 

私はゆっくりと馬の手綱を引きながら、目の前の戦場を天馬と共にかける二人組に注目していた。なお、カナには危ないので荷馬車の中に隠れてもらい、私自身もいつでも動けるように馬から降りている。

 

「フラム……どう? 勝てそう?」

「ああ、問題はないだろうな。始めは危うかったが、ビャクヤのおかげで何とかなりそうだ。よく見ているよ、彼は」

 

荷馬車からひょっこりと顔だけ出してきたカナの質問に答えると、私はカナに荷馬車に戻るように言いつけ、ついでに、荷馬車の横にくくりつけてある槍に手を伸ばす。

 

さきほど、カナに言った通り、ビャクヤは本当によく戦場を見ている。天馬に乗り戦場を縦横無尽に駆けまわり、時に敵の攻撃や守りを崩し、時に味方の補助をこなす。魔法と剣を使い分け、ペガサスから降りて、敵陣に切り込んだかと思うと、魔法であたりを吹き飛ばし、ルフレに来てもらいまたペガサスに騎乗といった、息があってないとできないような離れ業を繰り出したりもしている。

 

まあ、そんな彼の活躍もあって、戦況はこちらに有利に働いているのだが……いつの世にも、このような混乱に乗じて賊とやらは出てくるのだな。そのことを改めて実感させられる。

 

「フラムさん! 危ない!!」

 

私たちの護衛としてついていたティアモがこちらへとペガサスを急がせて向かってくる。そして、後ろを振り向けば賊が僕に向かって斧を振り上げてきていた。

 

間に合わない――――そう、私と彼女は思った。けれど、私と彼女の中の感情は大きく違っただろうけど……

 

ティアモはきっと、また助けられないと悲観的になっていただろうけど、私はどちらかと言えば、面倒事が増える程度にしか認識してなかった。そもそも間に合わないのは彼女がここに間に合わないだけであって、この攻撃をかわすことに対してではない。

 

私は賊が振り下ろしてきた斧を躱すと、手に持つ槍で賊を貫き、その首をはねた。

 

「え!? うそ……」

 

こちらへと向かってきていたティアモは私の行った一連の動作にひどく驚いているようだった。まあ、それも当たり前か。私はそもそも初級の回復魔法が使えるだけの非戦闘要員としてこの部隊に配属されている。槍の扱いにたけている方がおかしいのだから。

 

ティアモは私の傍に降り立つと、私の挙動に細心の注意を払いながら私に先ほどのことを聞いてきた。

 

「フラムさん……あなたは、いったい…………」

「そこまでだ、ティアモ。これ以上の詮索はしないでくれるかな?」

「ですが!」

「この軍の軍師ビャクヤはこのことを知っている。その証拠にここの警備は君だけと手薄だろう?」

 

ティアモは私の言葉をいぶかしむように聞いていたが、次第に記憶の中の彼の指示と私の言葉が結び付き、そして、今のこの現状を見てしぶしぶ納得した。まあ、一応、上官の指示があるから無理やりそういうことだと思い込むことにしたんだろうが。

 

「納得は出来んかもしれんが、そういうことだ。このことは誰にも言わないでくれ」

「わかりました。ですが――――」

 

彼女はそこで言葉を切ると意味ありげにこちらに微笑んでくる――――経験上、このような笑みを浮かべた女性と相対したときに、良いことが起きたためしがない。そんな私の心情を知ってか、彼女は先ほどの鬱憤をぶつけるように私へと言葉を投げかける。

 

「荷馬車から顔をのぞかせている少女に対する口止めは、あなたのお仕事ですよね。あの少女の世話係はあなたなのですから」

 

ティアモは荷馬車から顔を出しているカナの方を見ながらとてもいい笑顔でそう言い切ると、ペガサスに乗り再び私たちの警護に戻った。そして、私は荷馬車から顔をのぞかせ、きらきらという擬音が似合いそうなほど瞳を輝かせてこちらを見てきているカナに対し、どのように先ほどのことを説明し、口止めをしようかと考え始めた。

 

前方からは次第に戦闘の音が消えつつある。戦闘が完全に終わり、皆と合流するまでには何とか終わらせなければ……

 

私は、はぁー、とため息をつきつつ、カナへの説明を開始した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「……終わったね」

 

僕は目の前に倒れている魔導師を見ながらポツリとつぶやく。その声に応えるように上空からルフレの繰るペガサスが降り立った。

 

「はい。先ほど倒した敵がこの者たちを率いていたようですし、残党もほとんど片付いています。戻りますか?」

 

どうやら彼女はシャラールと名乗った男の最後の言葉を聞いていないようだった。いや、おそらく、僕と彼の戦闘中にあった言葉を聞いてはいないだろう。

 

「うん。一度クロム達のところに戻ろう。戻るついでにほかの自警団の人たちも回収しながら戻るとしようか。合図を見ていない人もいるかもしれないし」

「そうですね。でも、一応そういう人の相方はしっかりしているので大丈夫だと思いますよ?」

「それでも、一応ね……」

 

僕はルフレにそう答えながら、空に手を向けると初級の雷魔法〈サンダー〉を唱える。唱えられた魔法はある程度の高さまで上るとこめられた魔力が付き自然に霧散していく。とはいえ、せいぜいペガサスが飛んでいる位置くらいまでしか飛ばしはしないが。あまり高いと、見つかりたくないものに見えるからね。

 

「さて、戻ろうか」

「はい、ビャクヤさん」

 

僕は差し出された手を再び握ると、彼女のペガサスに乗りクロムたちのもとへと向かった。

 

 

 

 

 

 

僕らがクロムたちのもとへ戻ると、ほぼすべての自警団の者たちが集まっていた。残る数人も先ほど声をかけておいたのですぐに集まるだろう。そして、クロムと先ほどの少女と傭兵は何やら今後のことや今までの経緯について話し合っているようだった。僕はペガサスから降りるとフレデリクに話しかける。

 

「フレデリク。とりあえず今までの話を簡潔にまとめてくれないか?」

「わかりました。とりあえず、あのノノという少女がマムクートということは知っていますね?」

「ああ、知っているよ」

 

マムクート――――この大陸ではすでに伝説となりつつある存在の竜神族である。その寿命は僕ら人よりもはるかに長く、数千年はゆうに生きるとされている。どこまで長寿なのかはいまだ不明ではあるが。また、竜であるだけあり人よりも強い。竜石と呼ばれる己の力を封じ込めた石に普段は本来の力を凝縮しておくことで人の姿をとり、戦闘の時にはその竜石に封じ込めた力を開放し、本来の竜の姿をとり他者を圧倒する。

 

まあ、要するに小さい少女の姿だからと言って侮っていい相手ではないということだ。おそらく年齢も僕らよりもはるかに上だろうし。この部隊で一番の年長者はおそらくフラムさんだが、彼よりもはるかに上となる。

 

「どうやら、このノノというマムクートの少女はギムレー教徒に狙われているようです。それを放っておけなくなったあの傭兵――――グレゴというそうですが、彼が雇い主の意向を無視し彼女を連れて逃げだしたのが先ほどの戦闘の始まりだそうです」

「そうか……フレデリク、ギムレー教徒とは?」

「千年前に聖王様が倒したとされる邪龍ギムレーを神と信じる者たちのことです」

「…………」

 

僕らの会話はここで途切れた。そして、ちょうどクロムたちの方の会話も終わっていたようで、クロムといつの間にか向こうの会話に加わっていたルフレがこちらに話しかけてきた。

 

「それで、ビャクヤ。お前はどうする。俺としては二人とも自警団の仲間として迎え入れたいのだが……」

「ビャクヤさん、マムクートは人よりも強靭ですし、ギムレー教徒に狙われているのなら、なおさら共に来てもらう方がいいです。それに、傭兵のグレゴ……彼については私も聞いたことがあります。優秀な傭兵です。おそらく人柄についてはバジーリオ様の方が詳しいかもしれませんが、迎え入れて損はないでしょう」

「そうだね……フレデリクの言うこともあるし、二人を仲間に入れるというのは僕も賛成だよ」

 

彼らについての方針が決まった僕らはかねてからの予定通り、このあたりで陣を引き休息をとることにした。自警団のみんなは慣れない砂漠での戦闘で疲れたのか、準備を終えると、各々休息をとりはじめた。中にはすでに寝ている者もいる。まだ日は沈んではいないのだが、まあ、そういう人たちには夜起きていてもらえばいいか。

 

かくいう僕は、グレゴを雇い入れるためにフレデリクと共にお金の話をするとともに、グレゴからギムレー教団についての話を聞き出していた。グレゴを雇うことに対する話はすんなりと決まったけど、ギムレー教団についてはフレデリクがすでに知っていることしか情報は得ることが出来なかった。王都も近いことだし、ガイアを先行させて情報収集に当たろうか。いや、バジーリオ様たちがすでに密偵は放っているって言っていたから、これ以上はいいか。

 

「それでは、グレゴさんのことも終わりましたので、ビャクヤさんもこれくらいにして早く休んでくださいね」

「いや、まだバジーリオ様たちのところに戻ってきた密偵の報告を聞いていない。だからまだ休むわけにはいかないよ……何だい?」

 

僕がテントを離れバジーリオ様のところへ向かおうすると、僕のコートのフードをつかまれ、その動きを制される。僕はフレデリクに文句を言おうと振り返ったが、そこに居たのはフレデリクではなく、ルフレだった。

 

…………何故だろう。彼女のその笑顔に恐怖を感じてしまうのは――――

 

「ビャクヤさん」

「……はい」

「休んでください。報告は私が聞きに行きます」

「いや、でもそれじゃ君が休憩できない。だから――――」

「なら、報告はフレデリクさんに聞いてもらいますから休んでください。いいですね? これなら私も休息をとれるので問題ないでしょう?」

 

有無を言わさぬ口調で彼女はそう言うと僕の腕を引いて僕に割り当てられているテントへと引っ張っていく。フレデリクはそれを微笑ましそうに見た後、バジーリオ様のもとへと向かっていった。どうやら、この状況をどうにかしてくれることはなさそうだ。

 

僕はこの状況をどうにもできないと悟ると、小さくため息をつく。そして、さすがに自分より小さな少女であるルフレに引っ張られているのは恥ずかしいので、ルフレに手をはなしてもらうように頼んだ――――が……

 

「ルフレ。わかった。わかったから、手を放してくれないか? ちゃんと休息をとるから君も自分のテントに戻ると――――」

「今日の私のテントはビャクヤさんと同じテントです。だから、ビャクヤさんが途中で仕事をしないように見ておきますよ。なので、きちんと休息をとってくださいね。ああ、それと、このことはフレデリクさんからそう頼まれたので、本来ビャクヤさんと同じテントになるはずだったヴィオールさんには他のところに移ってもらいました。具体的にはクロム様のところに」

 

ルフレの口から出てきたとんでもない発言に度肝を抜かれることとなる。

 

「え゛……冗談、だよね?」

 

僕と共に寝るって、しかも、フレデリク公認なんじゃ覆せる気がしない。というより、クロムの扱いがひどくないか!? いいのか、フレデリク。一応お前の主だろう!

 

「たまには仲間と共に寝るのも悪くはないでしょうと、フレデリクさんは言っておられましたよ? まあ、クロムさんもあまり気にされないでしょうから、問題はないと思います」

「…………」

 

いつの間にか、退路は断たれていた。

 

「それと、ビャクヤさん。ここのところ夜更かしが続いているようなので、今日は早めに就寝してもらいますよ? 具体的には今から寝ましょう。お昼寝が出来るなんて幸せなことだとは思いませんか?」

「うん……そうだね」

 

これなら、ルフレが寝静まったところで抜け出せば、問題はない。そう思っていたけど、現実はそんなに甘くはなかった。テントに戻ると、テントの中には大きめのベッドが一つ置いてあるだけ、それ以外に就寝に仕えそうなものは何一つとおいていなかった。

 

「さ、寝ましょう。砂漠の夜は寒いのでくっついて寝るといいそうです」

「……そうだね」

 

僕はこの時いろいろと諦めた……

 

 

 

 

 

 

とりあえず、疲れがたまっていたのは事実だったようで、その後に昼間しっかり寝た。そして、昼寝をしたのにもかかわらず夜もしっかり寝ることが出来た――――とだけは言っておこう。なお、ルフレがいたので途中で目覚めても仕事をするのは不可能だったと追記しておく。

 

そして、ルフレに誰かきちんと教育をして欲しい――とも思った。ティアモあたりがいいだろうか……

 

 




さて、次回でついに九章へと到達します。
長かった……主に僕の遅筆のせいですが、長かった。けれど、まだ半分にも到達していない。

先を見ても仕方ないので、これくらいにして、次回持本編の投稿となります。作者の気まぐれ次第で、間章になるかもしれませんが、予定は本編です。

それでは、また次回でお会いしましょう。

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