FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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今回は第七章 侵略の後編に当たる物語です。

所々、本編にはないやり取りが混じってきています。

それでは、本編をどうぞ


第十九話 侵略~託された想い~

 

「……クロム。聞きたいことはいろいろとありはする。けれど、それはどうしてもしないといけないことなのか?」

「……ああ。今のあいつは何か危ない気がする。だから、頼む」

 

こちらに来るなりティアモと行動したいと言ってきたクロムだが、どうやら、彼のお人好しの性格が今回の行動の理由のようだ。

 

こちらとしてはあまり嬉しくないけど、どうせ行っても押し通そうとするんだろうな。度々思うけど、フレデリクは苦労をしているんだな……

 

これからは僕もこれに巻き込まれるわけだけど……仕方ないか。僕もこれのおかげで今があるんだし。

 

「後できちんと説明してくれよ」

「!! ああ、わかった」

 

クロムに許可を出すと、クロムは一度後ろに下がった。おそらく、ティアモのところに行っているんだろうな。

 

僕は隣で一部始終を見守っていたルフレの方を見る。彼女も半ばこうなることを想像していたのか、仕方ないですね――――という感じで肩をすくめ、僕に――行きましょう、と声をかける。その手にはすでに風の魔導書が握られていた。

 

「ごめんね。本当なら、僕と一緒に後方からの魔法攻撃のはずだったのに、前衛にしてしまって」

「気にしないでください、ビャクヤさん。あなたと一緒に戦うということに変わりはありませんから……それに、約束しましたから」

 

そう言って、彼女はこちらを向いて微笑む。僕もそれに――そうだね、と返し魔導書の代わりに、剣を握る。そして、まるで見計らったかのようなタイミングで、ガイアが隣に現れた。

 

「いつでもいけるぜ」

「よし、なら、行くよ。敵を殲滅する!!」

 

敵へと駆け出しながら、僕は今回の襲撃について考えていた。もしもの時のために一応考えていた策が役に立ったことは良かった。けれど、神官の裏切りだけでなく、王都警備とクロムから聞いていたティアモがこちらに来ているという事実が、僕を不安にさせる。でも、それについて考えるのは、とりあえずこの戦闘を切り抜けてからだ。

 

「〈エルウィンド〉!!」

 

聞きなれた彼女の声と共に、僕の周囲に風が吹き荒れ、目の前の敵をなぎ倒す。そうして、体勢を崩した彼らに対し僕は剣を振るい、彼らの命を刈り取っていく。

 

周りでも同じように、弓や魔法の援護を受けながら、僕たち自警団はペレジア兵を倒していった。空ではスミアや、クロムたちが戦っているおかげか、ドラゴンナイトからの襲撃はなかった。

 

次第に敵の数は減っていき、戦局は完全に僕らの方に傾いた。

 

 

 

 

 

 

僕は指揮官の周りのドラゴンナイトたちの間をすり抜け、指揮官に肉薄する。指揮官はドラゴンを繰って上空に逃げようとしたが、ルフレの放った風魔法が頭上を通り過ぎたため、飛び上がることが出来ない。

 

「終わりだよ」

「は! イーリスごときにこのオーリオ様が負けるかよ!!」

 

逃げれないと判断した彼は僕の方を見ると、ドラゴンを繰って僕へと攻撃を仕掛けてくる。それを、前進みながらよけ、ドラゴンを切り付け確実に羽を奪う。これによって、地に落ちた指揮官はドラゴンから急いで降りると、こちらに対し槍を構える。

 

「遅い」

 

それと同時に、彼の腕は僕によって飛ばされ、返す刀で彼を袈裟に切る。僕がこの指揮官と戦っている間に、彼が最後になっていたようで、皆こちらに集まってくる。

 

オーリオと名乗った彼も、自分の部隊が全滅したのを悟ったのか、自嘲気味に笑うと、こちらに最後の言葉を投げかけてくる。

 

「は、俺に勝ったくれーで、いい気に……なんな、よ? お前らのいねー間に、王都の奴らは……皆殺しだ。さー、どうするよ、エメリナ? 自分だけ助かるか……それとも、戻るか? おめーを信じて……」

「そこまでにしてもらおうかな。これ以上は耳障りだ」

 

僕は皆がこちらに来る前に、この指揮官の息の根を止める。僕は死んだのを確認すると、みんなの方に向かいながら、剣に着いた血のりを落とし、剣をしまう。空からはクロムやスミア達が降りてきた。クロムはティアモの繰るペガサスから降りると、こちらへと駆け寄ってくる。そのクロムとは違い、一人思い悩むようなティアモの顔も気になるが、今は急いでみんなに伝えないといけないことがあるから、先に指示を出す。

 

「ビャクヤ!!」

「クロム、エメリナ様と合流するよ。急いで。どうやら、まずいことになっているみたいだ」

「な!? どういう事だ?」

「説明するから、行くよ。それと、ティアモ」

「……っ! は、はい」

 

僕はクロムと共にこちらへと近づいて来ていたティアモに声をかける。心ここにあらず、といった感じだった彼女はその声で我に返ったらしく、こちらへと上ずった声で返事をした。

 

「聞いていたよね。エメリナ様に王都で何があったのか、話してもらうから。そのつもりでいて」

「え……、あ、はい。わかりました……」

「頼むよ」

 

ティアモは僕の言葉にどこか戸惑いながらも簡潔に答えたが、その顔は依然として暗いままだった。ひとまずそれは置いておいて、僕はクロムと協力して自警団のみんなを集めると後方にいたエメリナ様のもとへ移動する。後方では、エメリナ様の周囲にフィレインさんの連れてきた天馬騎士団とフレデリクの姿があった。

 

幸い敵はほとんど漏れていなかったらしく、エメリナ様たちにはこれといって目立った傷はなく、負傷した兵もいそうになかった。いたとしても、杖で完治できるレベルだと思われる。

 

「フレデリク。大丈夫だった?」

「はい。ビャクヤさんたちのおかげで、こちらには敵はほとんど漏れてきませんでした。ありがとうございます」

「そうか。良かった……それと、エメリナ様。一つ……いえ、二つほど報告があります。僕からと――――」

 

フレデリクからの報告を聞いた僕は先ほど手に入れた情報を伝えるために、エメリナ様の方へと向き直る。その際に、ティアモが僕の後ろに来ていることを確認するために一度言葉を区切り、確認してから言葉を再び紡ぐ。

 

「――天馬騎士ティアモから報告があります」

「……続けてください」

「はい。それと、おそらく僕と彼女の持つ情報は同じと思われます。僕が先ほど倒した敵の指揮官から聞いたことは、イーリスの王都はすでにペレジアの軍に攻められている、ということでした。そして、そこの警備に当たっているはずのティアモがここにいるということは……」

「イーリスの王都はすでに落ちている、ということですか?」

「おそらく……ここからは、ティアモの方が詳しいと思います」

 

エメリナ様は僕の言ったことから、想定できるうちの最悪の結果を導き出した。そして、その予想は間違いなく当たっている。ティアモの様子を見る限り、それは間違いではないだろう。

 

僕は話せることをすべて話したため、ティアモに後の報告を任せる。そのため、一歩引き彼女の少し後ろまで下がった。ティアモはゆっくりと顔をあげると崩れそうだった顔を引き締め、エメリナ様に報告を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の報告は僕やエメリナ様の最悪な予想通りとなった。王都にはギャンレルの率いるペレジア軍が攻め入り、王都に残っていた軍は壊滅。王都を落としたギャンレルはそのまま王都に陣を引いて、部下がエメリナ様を連れてくるのを待っているらしい。ティアモのいた隊もまた、同じように襲撃を受け、彼女をかばい全滅し、そのティアモはエメリナ様に報告のために、ここまで必死に逃げてきたそうだ。そして、ここにもギャンレルの追手が迫っているらしく、今すぐフェリアへと逃げないとまずい状況になっている。

 

報告をしていたティアモは仲間の命の重さや、請け負った責任の重さ、失った悲しみに耐えきれなくなったのか、途中で泣き崩れてしまい、一端下がってもらった。

 

そんな報告を受けて、エメリナ様は決意を固めていしまわれたようだった。

 

「戻ります」

「エメリナ様!? それは――――」

 

その言葉を聞いて、天馬騎士団の長であるフィレインさんが驚きの声を上げた。僕を含む自警団のみんなも同じ表情をしている。皆の驚きをよそにエメリナ様は続ける。

 

「私が戻らなければ、多くの民が犠牲になるのです。これ以上、私のために散る命を見過ごすわけにはいきません。フレデリク」

「はい」

「あれをここに……」

「……っ!! わかりました……」

 

フレデリクはエメリナ様の命令を受け輸送隊の方へと向かう。エメリナ様はそのフレデリクの後姿をじっと見つめていた。

 

 

エメリナ様はフレデリクの持ってきたものは受け取るとクロムに近づき、持っていたものを手渡した。

 

「クロム。これをあなたに」

「【炎の台座】? 姉さん、これはいったい……」

「それを持って、フェリアに行きなさい」

「な……!? どういう事だ、姉さん!?」

 

【炎の台座】イーリスの国宝であり、強大な力を持つとされるもの。かつて世界を救ったという英雄マルスの時代からあり、彼を助けたとも伝えられているものである。そんなものを今、クロムに渡すということは――――

 

「【炎の台座】はイーリスの国宝であり、イーリス国王の証。そして、強力な力を持つとされる神器。かつて、【炎の台座】をめぐって多くの血が流れました。どうか、私の代わりにあなたが【炎の台座】を守って……」

「そんな……そんな言い方はやめてくれ! それじゃまるで――」

「クロム……お願い」

「お姉ちゃん!! だめだよ!!」

 

エメリナ様はやはり、クロムに国を今ここで渡すつもりだったようだ。そして、そのことに、僕も何も思わないわけではない。そして、このことに、クロムはもちろん、リズも何も思わないわけではない。普段静かに聞いているリズがクロムとエメリナ様の会話に割って入り、エメリナ様の行動を止めようと口をはさむ。

 

それに対し、エメリナ様はリズの目線に合わせてしゃがむと、彼女の頭を優しくなでながら話しかける。

 

「リズ。あなたもクロムと一緒に行きなさい」

「そんな、なんで……」

「泣かないで、リズ。またきっと、すぐに会えるわ」

 

リズはエメリナ様にそう諭されると、こぼれそうだった涙を拭いて無理に笑顔つくった。何時ものようでありながらも、どこか痛々しい笑顔を……

 

「うん。わかったよ、お姉ちゃん。だから、必ずまた会おうね……約束だよ」

「ええ、約束よ」

「我ら天馬騎士団は、エメリナ様と共に行かせてもらいます」

 

その様子を静かに見守っていた、フィレインはやり取りが終わったのを見ると、エメリナ様の護衛としてついて行くと、伝えた。エメリナ様はフィレインさんのその覚悟を静かに受け止めると、それを了承した。許可をもらったフィレインさんはエメリナ様から視線を外すと、僕の方に向き直る。

 

「ビャクヤ殿……一つ頼みがある」

「……なんでしょうか?」

「ティアモのことを頼みたい。あいつはこちらではなく、クロム様の護衛として自警団に加えてやってくれ」

「……彼女が納得するでしょうか」

 

ティアモはおそらく、フィレイン様と共に行こうとする。そして、ついて行ったが最後、彼女は二度と戻ってはこない気がする。いや、間違いなく、そこで死に場所を探そうとするだろう。

 

仮に、こちらに付いてきたとしても、彼女はきっとこちらでも死に場所を探し続けるだろう。そのような兵は、正直あまり好ましくない。自警団のような少数精鋭ならなおさらだ。それくらいはフィレインさんもわかっているはずだ。

 

「しないだろうな……だから、ティアモに伝えてくれ。“私たち天馬騎士団の魂はいつも共にある”と。たとえどれだけ離れていたとしても」

「……わかりました。そのように、伝えておきます」

「よろしく頼む」

 

僕はフィレインさんからの言伝を受け取ると、静かにその場で一礼する。これから死地へと赴く彼女達へ、今、僕のできる最大の誠意を示しておきたかった。僕が顔をあげた時にはすでに彼女は仲間へと指示を出していた。これが、最良だとわかっていても、僕はやはり心のどこかで納得が出来ていなかった。けれど――――

 

――――僕は、軍師だ。時には、そうせざるを得ないこともある。割り切らないといけないことなんだ、これは。

 

僕は自分にそう言い聞かせてから、フレデリクに今後のことを尋ねる。

 

「フレデリクはどうする? エメリナ様について行くのか、それとも、クロムについてくるのか」

「私はクロム様と共に行きます」

 

フレデリクはその質問を受けると、特に迷うそぶりも見せずに、即答した。その際に、エメリナ様の表情が少し暗くなった気がしたが、一瞬だったのと、視界にたまたま入っただけなのでよくわからなかった。どちらにせよ、フレデリクは今回はこちらに付いてくれるようである。

 

「そう、わかった。お願いするよ。フレデリク」

「私からも、お願いします。……フレデリク」

 

僕がフレデリクの言葉にかけるのに合わせて、エメリナ様もフレデリクに言葉をかける。フレデリクはエメリナ様の方を向くとそのまま、彼女の前に膝をついた。エメリナ様はそれを見るとひざを折り、フレデリクの高さに合わせる。

 

僕はその行動にひどく驚いたが、驚いたのは当然僕だけではなく、フレデリクもだった。フレデリクはエメリナ様のその行動に驚いて顔をあげたが、エメリナ様はその顔を両手で優しく包むと、こつり、と額を合わせて目を閉じる。

 

彼らの関係は王と騎士という主従の関係である。だが、そこには主従関係だけでは表せない、確かな絆があるように思えた。

 

「お願いです……どうか、必ず、無事でいてください」

「――――承知しました。どうか、エメリナ様も、ご無事で……」

「…………ええ」

 

二人は閉じていた眼を開けると、そっと体を離して立ち上がる。その様子を今までじっと黙ってみていたクロムだったが、ついに耐えきれなくなったのか、口を開く。

 

「待ってくれ、姉さん! やっぱり、俺は――――」

「……クロム。私は、あなたを、リズを、そしてこの国の民たちを愛しています。だから、私は行きます。フェリアから援軍が来てくださるまで、王都は私が、私たちが守ります」

「だが……」

 

しかし、それはエメリナ様によってさえぎられてしまった。エメリナ様はそのまま、クロムを優しく諭すが、それでも、クロムは納得できず、異論を唱えようとした。

 

けれど――――

 

「大丈夫。私だって初代聖王の血を引く者ですもの。イーリスで民と共にあなたを待っています」

「…………わかった。必ず助けに行く。だから、無事でいてくれ、姉さん」

 

クロムは、エメリナ様の見せた笑顔の前に引きさがった。いや、引き下がらずを得なかった。エメリナ様の先ほどの顔は聖王としてのものではなく、一人の姉としてのもの。ただ、クロムの姉として、弟を安心させるためのもの。そして、同時にゆるぎない決意の表情でもあった。

 

「ビャクヤさん……クロムをお願いします」

「…………はい」

 

僕は立ち去っていくエメリナ様が最後に言った言葉を胸に深く刻みこんだ。

 

 

 

そして、エメリナ様は僕らに見送られながら、天馬騎士団を率いてギャンレルの率いるペレジア兵の居座るイーリス城へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、僕らは急いでフェリアに移動した。フェリアへの道中において一番不安だった国境地帯でも特に戦闘はなく、ペレジア兵に遭遇することはなかった。

 

そのおかげで、予想しうる限り最も早くフェリアへとたどり着けた。けど、あのギャンレルがここまで何もしてこないというのも気になる。イーリスの攻略に手間取っているとしても、こちらへ兵を派遣するくらいは可能なはずだ。それが一切ないということが、僕を不安にさせた。

 

だけど、今の状況で不安なのは僕だけではなかった。実の姉であるエメリナ様が敵陣へと少数の兵を率いて向かっているクロムやリズも不安で仕方ないんだと思う。リズはその不安を紛らわせるために、様々な人に話しかけて、無事かどうかを尋ねている。帰ってくる答えはリズを安心させるための、不確定要素の多いものであるが、それでも彼女の心にとっては平静を保つことへの助けとなっているらしい。

 

しかし、クロムの方はリズよりひどかった。

 

「お姉ちゃん大丈夫かな……大丈夫だよね? ね? フラヴィアさん、急いで援軍の準備してくれているし、みんなで王都に行けば間に合うよね?」

「…………」

「…………うん、きっと大丈夫だよ。だから、落ち着いて、リズ」

「う~」

 

リズは最初に比べれば落ち着いてきたが、やはりまだそわそわしている。不安で仕方がないのだろう。けれど、クロムはずっと上の空。何を言っても返事をしない。しても生返事で、こちらに意識を向けない……重症だな。

 

「ねえ、お兄ちゃんもそう思うよね? お姉ちゃんは無事だよね?」

 

僕から望む答えを得たリズは、次にクロムに聞き始めている――――のだが、やはり、返事はない。ただ、ぼーっと立ったままである。完全に周りが見えておらず、自分の世界に入っている。反応がないのを不思議に思ったのか、服をつかんで軽く揺さぶりながら再び声をかける。

 

「お兄ちゃん? ねえ、お兄ちゃんってば!!」

「……ん? ああ、リズか。どうかした?」

「もう……しっかりしてよ、お兄ちゃん。お姉ちゃんを行かせたこと、まだ後悔してるの?」

「…………」

 

ようやく、リズの声に反応したかと思えば、やはり全く話を聞いていなかったようだ。そして、リズも聞いていたがエメリナ様を一人で行かせたことをだいぶ後悔しているようだ。おそらく、どうすればエメリナ様を行かせずに済んだのか、というすでに僕らにはどうすることも出来ないことを考えているのだと思う。

 

「クロム様」

 

まあ、クロムの考えが僕にわからないわけではない。そして、僕も出来るのならば、エメリナ様のことを止めたかった。もし、許されるなら、――――を――て、僕が――……っ!

 

「……っ!」

 

「えい!!」

「んな!?」

「スミアさん!?」

「おや」

 

何やら、可愛らしい掛け声とともに鈍い音がその場に響いた。僕はその声に思考の海から現実に引き戻された。状況を見る限り、スミアがクロムを殴ったんだろうな……。それにしてもきれいに決まったんだと思われる。腰も入れて突き出されたであろう拳はきれいにふりぬかれていた。

 

「あ、す、すみません! フィレイン様から教えていただいたんです。気合を入れるときにはこうするのが一番って……」

 

そのスミアさんは自分のしたことを再認識すると、急いでクロムに謝りはじめた。だけど、スミア……普通はそういう時に殴ったりはしないよ。特に女性の場合は、さらに言えば君みたいな人なら、普通は……

 

「あの……スミアさん、それって、たぶん平手打ちだと思うんだけど……今、思いっきりぐーで殴ってたよね?」

「え……? ま、間違っていました」

「……間違っているよ、それは」

「ビャクヤさんまで……」

 

スミアさんは少なからずショックを受けているようで、だいぶ動揺している。クロムはまだくらくらするらしく、頭を押さえている。まあ、だが、どうやらあの状態からは抜け出せているようである。

 

「ははは、いい仲間じゃないか! 嫁にするならそういう女がいいよ」

「いつからおられたんですか、フラヴィア様……」

「ん~、クロムが殴られるとこからだね」

 

一部始終を見られていたわけですね……それにしても、本当に良かった。この場にルフレがいなくて。どうかルフレ、君はこんな変な情報に惑わされることなく、純粋なままでいてくれ……

 

「さて、気合が入ったところでこっちも援軍の準備が整ったよ。うちの連中は戦と聞いて大喜びさ。私も久々に腕がなるねえ」

「フェリア王が自らついて来てくれるのか?」

 

クロム、そこも重要だけど、今はその獲物を狩る目をした目の前の戦闘狂の警戒をしようよ。いや、そんな変なことをするとは思っていないけどね。でも、あれは少し、いやだいぶ怖い……味方だけど、取って食われるんじゃないかって思ってしまう。

 

「ああ、あとはついでにうちのぼんくらも連れて行くよ」

「ぼんくら……ひどい扱いですね」

「ん? あんなのでもいないよりましだろう?」

「おい、ずいぶんな扱いしているじゃねえか」

 

フェリア王フラヴィア様だけでなく、バジーリオ様もどうやら参加してくれるらしい。まあ、そのバジーリオ様はフラヴィア様のあんまりな紹介に少々ご立腹なようだが……当たり前か。

 

「と、そんな場合じゃねえ! クロム! ついさっき密偵から伝令があったんだ」

「何があった?」

 

その後も少しフラヴィア様に愚痴っていたバジーリオ様だったが、ふと、我に返ると慌ててクロムに向き直った。伝令の内容を告げる際に、少しリズの方を心配げに見たが、そのまま、その内容を伝えた。

 

「――イーリスの王城が陥落した」

「な!?」

「それだけじゃない。ペレジア軍はエメリナさんを連れ去り、全軍ペレジアへ戻ったそうだ。ペレジア王ギャンレルは、エメリナさんを公開処刑するつもりらしい」

「そ、そんな!!」

 

バジーリオ様の報告を受けたリズは、膝から崩れ落ちそうになったので、慌てて後ろから支える。無理もない。姉であるエメリナ様との約束を守るために、必死に不安で折れてしまいそうな心を無理やり奮い立たせていた状況に実の姉が殺されるとなれば、耐えられなくなってしまうだろう。

 

少し前かがみになりリズの顔を除くとその顔色は悪く、顔面蒼白だ。だが、すぐに僕が見ているのに気付いたらしく、こちらに顔を向けてくる。その顔は先ほどのように、まだ悪いが顔は普段通りの柔らかで温かい/――――に――笑顔だった。僕は周りの人に聞こえないようにリズの耳元で小さく一言だけ伝える。その言葉がリズに伝わった直後、彼女の笑顔が凍った。

 

「……え、なんで――――」

「スミアさん、リズを連れて下がって。指示があるまで二人とも部屋にいてくれ」

「は、はい。わかりました。リズ、行くよ」

「……うん」

 

スミアさんは急に指名されたせいか、少し驚いていたけれど僕の言ったことの意図を理解したのかすぐに納得したらしく、困惑顔のリズの手を引いて退室していった。バジーリオ様と、フラヴィア様はじっとその様子を見ていたが、リズが退室すると話を再び始めた。

 

「さてと、これは、あからさまに挑発してきているが、どうするんだい?」

「うちの密偵が入っていることはむこうも知った上でのことだ。こちらの動きを誘おうって考えだろう。まあ、罠はって待っているだろうから、うかつに乗るのは危険だぜ」

「そうですね」

 

フラヴィア様とバジーリオ様の言う通り、今回のこれはペレジアからのあからさまな挑発と捉えられるんだけど……

 

「ペレジアへ向かう!!」

「おいおい? 王子さんよ、落ち着けって。わざわざ、見えている落とし穴に足突っ込む馬鹿がどこにいるってんだ?」

「俺がその馬鹿だ!! くそっ、姉さんが処刑されるってのに、じっとなんかしてられるか!」

「動くなってわけじゃないさ。私たちだって気持ちは同じだ。だが、行くんなら敵の罠をだし抜いてエメリナ殿を助けなきゃならない」

 

バジーリオ様もフラヴィア様もクロムの発言に驚いてクロムを諌めている。だけど、僕はさほど驚いていない。むしろ、そう言うと思っていたよ、クロム。だから、これから僕が言うことも決まっている。

 

「行くよ、クロム。策は僕が考えるから、君は前を向いて走ってくれ」

「ビャクヤ……」

「それはいいけど、問題はあんたがちゃんとした策をひねり出せるかということだね。皆の命を……何より、エメリナ殿の命を背負うことになるよ」

 

フラヴィア様とバジーリオ様は試すようにこちらを見てくる。その瞳はこちらのすべてを見透かしているようで、僕の言葉に込められた想いや、重さを見極めようとしている。だから、僕は彼らの目をしっかりと見て肯定の意思を示した。

 

「……あぁ」

 

短く僕の口から出た言葉は目の前にいる二人の王にしっかりと届き、やがて、二人の王はその顔に笑みを浮かべていく。そして、弾けるような笑いがフラヴィア様から漏れ出した。

 

「はははっ!! たいしたタマじゃないか、気に入ったよ!」

「ビビッても気負ってもいねえ。よほどの大物か大馬鹿だな。どっちにしろおもしれえ奴だ。よっしゃ、じゃあ行こうじゃねーか! 少数でペレジアに潜入、エメリナ様を救い出そうぜ!」

 

二人の王は説得できた。後は、僕の言葉に驚いたようにこちらを見てきている、クロムに自分の意思を伝えればいい。いや、正確には伝えなおせばいい。どうやら、クロムは僕がいることの意味を理解できていないようだし。だから、そのクロムに対し、僕は少し笑みを浮かべて向き直る。まるで、わかっていないクロムに伝えるために。

 

 

「クロム。僕は君の軍師だよ。忘れたのかな? 君の考えを実現させるのが僕の役目だ」

 

 

「…………そうだな。そうだったな――――なら、ビャクヤ。俺は姉さんを助けたい! だから、力を貸してくれ!!」

「ああ、もちろんだよ、クロム」

 

僕は差し出されたクロムの手を取った。

 

 

 

 

 

でも、この戦いで僕が手にしたのは――――避けられない、運命という名の死神の手だったのかもしれない。

 

だからこそ、僕は、あのと――、誓ったノニ、モウ、二度ト、――――ないよウニト……

 




どうも、なかなか投稿のできない言語嫌いです。
書きたいことがまとまらず、そして、うまく表現できないために、投稿に時間がかかっています。

次回の投稿もいつになるかはわかりませんが、なるべくはやくあげれるように努力したいと思います。

さて、それでは、次回でまた会いましょう。

そろそろ、クロムの嫁を決めなければと少し焦っている言語嫌いでした。自分の妄想全開で行くのはさすがにまずいかな……

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