FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~ 作:言語嫌い
今回の話にてこずったのも事実ですが、単純に遊んでいただけな気もします。
……どうでもいいですね。今回は第7章です。それでは、どうぞ
ペレジアからの襲撃を退けた翌日、僕は次の日の準備に追われていた。昨日の時点で大まかに決まった予定をフレデリクやフィレインさんと話し合って詰めていったのが午前中のことであった。クロムはエメリナ様と話があるようで不参加だった。
これにより、明日ペレジアからの襲撃に備えるために、フェリアに助けを求めることに決まった。そして、エメリナ様の暗殺に対策するためにエメリナ様にはイーリス城の東にある離宮に移動してもらうことなった。
そして、午後になっても僕が忙しいのは変わらなかった。今回の行軍に必要なものを頼もうと輸送隊のフラムさんのもとを訪れようと思ったんだけど、彼は今日、体調を崩したらしく動けないとのこと。そんな予想していない事態もあって、現在僕はルフレと共にその分の準備をしていた。
ふと、クロムに今回のことを伝えていないことを思い出したので僕はルフレに声をかける。
「ルフレ。それが終わったらクロムのところに行って今回の行動について伝えてきてくれ」
「わかりました。でも、クロムさんとエメリナ様はいったい何の話をしていたんでしょうか? 一応軍議もあったんですけど」
「まあ、おそらく今日中にクロムが話してくれるよ。それよりも、クロムへの報告を忘れないでね。後、それが終わったら自分の準備も済ましておいてね」
「はい。それじゃ、ビャクヤさん少し抜けますね」
そう言って彼女は部屋を出ていった。その後、ルフレが部屋を出てからそんなに間を開けず、この部屋の扉がノックされた。
「はい。開いていますよ」
「失礼する」
「……って、フラムさん!?」
入ってきた人物はフラムさんだった。正直いって意外だった。そもそも彼は今日、体調が悪いから休んでいると神父さまから聞いていたのだけど……その彼がなぜここに? そして、彼の隣で彼のマントをつかんでいるのは誰? その子もマントにくるまっているせいでどこの誰という以前に、男女の区別すら全く分からない。普通に考えれば彼の息子か娘になるんだろうけど、彼は未婚のはずだ。
「あの、フラムさん? その、今日は体調がすぐれないから休まれると聞いていたのですが……。あと、その子どもは?」
彼は僕の質問を受けたのちに自分のマントの裾をつかむ子供の方を見て少し考えたのち、静かにその口を開く。
「…………ビャクヤ」
「はい」
「これから言うことに驚いたとしても、決して声を上げないでほしい。そして、受け入れてほしい。この子のためにも……」
「? わかりました。ええと、それで、その子供は?」
フラムはその子の紹介をする前によくわからない条件を提示してきたが、特に拒む理由もなかったので了承する。その答えを聞いた彼は隣の子供に目線を合わせると、優しくその子供に話しかける。
「……カナ。了承は取った。フードをとりなさい」
「……でも、みんなのまえではとるなって、フラム言った」
ここに来て、その子供は初めて口を開いた。少し舌足らずの言葉から、だいぶ幼い印象を受ける。声からして、女の子かな? でもそんな子供どうしたんだろう。それに、なぜフードを?
「この人には知らせないといけないんだ。大丈夫。彼は受け入れると言った。だから、安心しろ」
「…………うん。わかった」
彼の説得を受けた少女は僕の前まで来ると、かぶっていたフードをとって、僕を見上げるように顔を上に向ける。僕の予想通り、その子供は女の子だった。マントに隠れていてわからないけど、きれいな黒色の髪の可愛らしい少女だった。
けど――――
「……!?」
「ビャクヤさん? ええと、わたし、カナ。フラムにたすけられた」
「え、え、あ、ど、どうも。僕は自警団の軍師をしているビャクヤだよ。よろしく」
「うん。よろしく」
そう言って目の前の少女――――昨日の夜にエメリナ様の暗殺をしようとしていた少女は答えた。とりあえず、フラムさんに言われていたから、ある程度普通に接することが出来たけど、これはいったいどういうことだろうか……
「フラムさん……説明を」
「座るが、かまわないかな?」
「どうぞ。何か出しますよ。あまりいいものはありませんが」
「カナ、おいで」
「うん」
フラムさんは椅子に座ると、暗殺者の少女――――カナを呼んだ。そして、カナは彼のもとへ移動するとその隣に座るのではなく、当然のように彼の膝の上に座る。そして、彼も特に気にした様子もなく、その行動を見ている。
「…………フラムさん」
「…………言うな。私から離れたがらないんだ、何故か」
「? フラム、どうかした?」
これも血なのだろうか? とフラムさんがつぶやいているが、いったいどういうことなのだろう。まあ、それはいいとして、本題に入らないと。僕はお菓子と飲み物を二人に出すと、僕自身も彼らの向かいに座る。
「それで……説明してもらえますか?」
「……さほど話すことはないんだがな。とりあえず、簡単に説明させてもらう」
「どうぞ」
「私の部屋の前で瀕死の状態で倒れていたから、助けた。そしたら、それが今回エメリナ様の暗殺に加わっていた少女だった」
「…………」
…………なるほど、説明することは確かにほとんどないな。要するに死にそうな子供がいたから助けた、と。うん、僕でも知らなかったらきっとそうすると思う。
「そう、ですか。それで、その少女をどうするつもりですか?」
「私が引き取って育てるつもりだ。それと――――」
彼は、その先の言葉を続けようとして、急に口を閉ざした。その後、少し悩んだ後、再び口を開く。
「いや、これについてはまた後で話そう。とりあえず、今、この子に危険はない。それだけは保証する。それに、彼女もまだ本調子ではないから、当分は戦闘をこなすのは無理だろう」
「わかりました。それではその少女についてはあなたに一任します。その方がその子も喜ぶでしょうし。あなたもそれでいいですか?」
「フラムといっしょにいればいいの?」
「そうだよ」
「うん。そうする」
カナはそう言うとフラムさんに抱きつく。心なしか、先ほどよりうれしそうに見える。正直、だいぶ不安だったが、先ほどの表情を見る限り、大丈夫そうだ。
この少女は先ほどから、ほとんど表情が変わっていない。どころか、感情がないのではないかと疑いたくなるくらい、声にも浮き沈みがない。まるで機械のようだったから、もしかしたら、ペレジアから指示があれば簡単に裏切るのではないかとも思った。けれど、これほど、フラムさんになついているなら問題はないだろう。
まあ、フラムさんの軍内部での今後の評価については、この際無視させてもらう。
「それでは、フラムさん。一応、このことはほかの自警団の人達にも伝えておきます」
「ああ、感謝する」
それで話は終わったようで、彼は膝の上にいるカナを抱えて立ち上がり、その後、カナを地面に下ろす。その間、抱えられたカナはずっとカップを持ったまま不思議そうにフラムさんの顔を見ていた。
こうして、いつの間にか敵であったはずの暗殺者の少女――――カナが自警団の仲間になった。
「それでは、私はここらで――――」
「あ、すいませんもう一ついいですか?」
「……なんだ?」
彼らが退出する前に、僕は途中から気になっていたことをたずねるために彼を呼び止めた。彼はこちらに振り替えることなく、立ち止まる。
「体調が悪いというのは?」
「嘘だ」
そ、即答とは……いや、それはそれで疑問があるんだけど。
「ええと、午前中はどうされていたんですか?」
「…………」
「フラムさん?」
「…………?」
彼は黙したまま答えない。どうやら答えるつもりはないようだ。僕は諦めて自分の仕事に戻ろうとしたのだが、カナが不思議そうにフラムさんを見た後に、僕の方を見て衝撃の事実を口にする。
「あのね、フラムはカナといっしょにねてたの」
「…………フラムさん?」
フラムさんはやはりこちらには振り返らない。だが、しばらくすると沈黙に耐えきれなくなったのか、しぶしぶと口を開いた。
「…………事実だが、どうかしたか」
どうやら開き直ったようである。カナの方を見ても、何やら昨日何かいかがわしいことがあったようには見えない。見えないだけかもしれないが、とりあえず何もなかったのだろう。いや、そう思いたい。
……まあ、別にいいか。これ以降は彼とこの少女の問題だし。
「…………いえ、何でもありません。ですが、そのことは僕以外の人には知られない方がいいでしょう」
「ああ、そうだな」
こうしてこの会話は僕と、フラムさん、そしてカナの三人の間の秘密となるはず、であった……が――――
「…………」
「え、ええと、その、あの、ごめんなさい!!」
聞き覚えのある声が扉を開けた向こう側から聞こえてきた。その後、何やら走り去っていった音も聞こえる。
「…………あれは、リズの声だったかな?」
「……そうだったな。困ったことになった気がする」
「…………どうしますか?」
「…………なるようになるだろう。後は、知らん」
「そうですね」
リズがこの後、誰にも話さないということはないだろう。おそらく、今日中には自警団の全員に知れ渡っているだろうな。
「とりあえず、お疲れ様です」
「…………」
翌日、女性陣が彼に対して少し距離があったのは、おそらく今回のことと関係しているのかもしれない。その他にも、ルフレからもらっていたお菓子について、僕とルフレ、ガイアの間で一悶着あったが、それについては僕の記憶の中にしまっておこうと思う。
こうして、僕らは次の日に、裏街道へと向かった。フェリアへと助けを求めるために、エメリナ様の安全を確保するために……
――――――――――――――
「…………」
「どうしますか?」
イーリス国内には、イーリス城をはさんで大きく二つの道がある。一つは、ペレジアの方面――――すなわち、イーリス城の西側にあるのが表街道。この道は表という名の通り、普段からフェリアなどの他国との交易や旅をする際に利用されている道であり、道の途中には小さな村もある。また、整備も行き届いており利用しやすい道となっている。
クロム達自警団がフェリアに行く際に利用した道もこちらのものとなっている。
さて、ではもう一つの道はどうだろうか。その道は、主に裏街道と呼ばれており、その名の通り、他国から見るとイーリス城に隠れて見えない道となっている。当然、利用者も少なく、道もそこまで整備されているわけでもない。
しかし、そのように表に比べて不便になっている理由もある。そう、この裏街道には、イーリスの王族の立てた離宮が存在するのである。そして、この存在は他国にも知られておらず、緊急の際に隠れる場所となっている。
そのため、この度襲撃を受けたイーリスは、フェリアに向かう際の道を表から裏へと変更し、その途中にある離宮に聖王エメリナを連れていくことにした。そうすることで少しでも彼女が暗殺されることを防ぐためである。本来ならクロムと共にフェリアへと行くのが最も良い選択であるが、それは聖王エメリナの意思により不可能となったため、代替案としてこの案を実行することになった。
そして、今、この道の入り口にとある白き主従がいた。
彼らは道の入り口で立ち止まっている。その理由が、先ほど見たドラゴンナイトの一団である。思考を続けていた司祭の男性は、顔をあげると己に仕えている騎士に尋ねる。
「……あれは、どこのに見えた?」
「……飛んで行った方角からして、ペレジアのものと考えるべきでしょう。それにイーリスには天馬騎士団は存在しますが、ドラゴンナイトは存在しなかったはずです。フェリアにはいるらしいですが、あの方角へ向かうのはおかしいと思われますし、何より、裏街道を使うとは思えませんし、ここまで来るはずがないです。普通にイーリス城に訪問すると思います」
「だろうな。俺もそう思う。裏街道で戦闘があったのか、それとも準備をしているのか」
「そこまでは見えなかったので、判断はできませんが、これから行われる場合だと確実に巻き込まれます」
彼らのいる場所はイーリスの南側。先ほど女性が話した通り、フェリアの兵がここまで来るのはふつうありえない。それ故に、ペレジアのものと考えるのが妥当である。
「…………仕方ない。表の道に行こうか」
「しかし、それでは戦闘に巻き込まれる恐れがあるのでは?」
その女性の言葉に対し男は少し顔をしかめる。今回、彼らが裏の道を通るのは、戦闘に巻き込まれるのに避けるためである。それだというのに、裏を通って巻き込まれては意味がない。かといって、表を通れば間違いなく、ペレジアとの戦闘に巻き込まれるだろう。
だが――――
「表を通るが、イーリス城までは行かない。その途中に小さな村があったはずだ。そこに一日か二日ほど滞在することにしよう。それくらいもすればおそらくあの戦闘も終わっているだろうし、情報も入るだろう」
「……そう、ですね。わかりました。それではそのように」
「…………行くぞ」
「はい、行きましょう――――カルマ様」
二人はそう言って来た道を引き返し、表の道へと向かった。
―――――――――――――――
白き主従の会話より数日前のこと、件の裏街道では戦闘が行われていた。
だが、本来狙われるはずのない裏街道に何故、ペレジアの軍が侵攻してきたのか。そもそも、他国の認識ではその道には特別な価値はない道である。
だからこそ、裏をかいた……その可能性もあるが、今回は違った。
「わ、わ、私だ! ギャンレル殿から話は通っているだろう!? 約束通り、私の身の安全は保障してくれるんだろうな!?」
一人の神官の裏切りによって、エメリナを含むクロム達自警団はペレジアの軍に奇襲をかけられることとなった。エメリナに長年仕えていたという神官の起こした一つの裏切りから、この物語は彼の思惑通りに――――
「もう少しだな……」
「そうだね。これで、イーリスは崩れるだろうね……」
「……け、てめえは黙ってな。だが、その通りだ。これで、全て壊せる。この世界のすべてを」
「…………」
――――そして、彼女の最悪の想定通りに事は進む。
「まだです……まだ、まだ、私は諦めません」
「――エメリナ様…………」
知らぬ間に、壊された想いに気付かぬまま、彼は〈 〉に繰られ、――の未来を担い、彼女は壊れた理想を抱き――の未来を背負わされる。
――――世界は、破滅へと少しずつ近づいていく。
「…………見つけた」
様々なイレギュラーを含んだままに……
僕は目の前のペレジア兵を見据えながら、隣のクロムに話しかける。
「クロム……ヴィオールとガイア、ロンクーを借りるよ」
「……ああ、わかった。すぐに加勢する」
「ルフレにある程度指示は伝えてある。彼女の指示に従って動いてくれ。ルフレ、頼むよ」
「……わかりました。気を付けてください、ビャクヤさん」
「うん。それと、フレデリク」
ルフレと共にクロムが後ろへと下がった。それに合わせて下がろうとするフレデリクを僕は呼び止める。彼はリズを乗せたまま馬上で首だけで振り返る。
「……ここに」
「エメリナ様を頼みます」
「…………お任せください」
フレデリクが下がり、僕の周りに残されたのは先ほど僕が指名した三人だけとなった。僕は彼らを一度見ると、もう一度前を見据え、ペレジア兵へと近づく。これで、彼らとの間合いに入ったようなものだ。
「とりあえず、エメリナ様の安全の確保と、みんなの準備が整うまでの足止めをするよ」
「はー、私たち4人でかい? 相変わらず無茶ぶりをするね、ビャクヤ君は」
「君一人でやってもらってもいいんだよ、ヴィオール」
そう返すと、彼は軽く肩をすくめると弓に矢をつがえ、斜め前に向けて引き絞った矢を放った。
「な……!?」
「……ちゃんと仕留めてくれよ」
放たれた矢は近づいてきたドラゴンナイトへと吸い込まれていき、落ちてきたところをガイアが素早く仕留めた。それを合図に、全てのペレジア兵が動き出した。
「ロンクー」
「……なんだ」
「行くよ」
「ああ」
ロンクーとともに僕は駆け出し、魔導書を開くと前方の敵めがけて雷の魔法を放つ。
――――〈エルサンダー〉
放たれた雷は目の前の敵に当たると弾け、周囲の敵へとその余波をばらまく。その余波にはもちろん威力なんてものは存在しない。少し体がしびれるくらいのものではあるが、それが、彼らの足止めになった。本当にわずかな時間の足止めでも、僕らにとっては十分すぎる時間だった。
「ロンクー」
「……ふん」
「さて、俺も行くかな」
雷の駆けた後をロンクーが駆け、その後におくれて、ガイアも続き、敵陣へと切り込んでいく。僕はそのまま、ヴィオールと共に、ドラゴンナイトの牽制を続けながら、彼らの様子を確認する。一人、二人と切り倒したところで敵兵も立て直し、迎撃をしようとする。それに合わせ再び僕は彼らに向けて雷の魔法を放つ。
「〈サンダー〉」
「……っ!! 下がれ!! 下がって、弓兵を守れ!!」
僕ら二人に加え、後方でドラゴンナイトを牽制しているヴィオールたちを含めた4名に完全に抑えられてしまっているためか、ペレジア軍の指揮官は一度軍を下がらせ、魔導師や弓兵による遠距離攻撃に切り替えた。
「予定通りだ……下がるよ」
僕は当初の予定である時間稼ぎを達成できたので、ヴィオールたちと共に、後方へと下がった。少し下がるとルフレがこちらに声をかけてくる。準備が終わったのだろうか、クロムと一緒にこちらへと来ていた。
「ビャクヤさん。準備が終わりました。いつでもいけます」
「そうか。じゃあ、予定通り、攻めようか。クロムも行けるね?」
そう、僕はクロムに確認を取ったところ、彼は少し悩むそぶりを見せた後、僕の方を向いてややためらうように口を開く。
「ああ。それと、ビャクヤ……一つだけ変更させてくれないか?」
「ん? 何かあったのか?」
クロムがこの段階になって作戦に口を出すのは珍しい。いや、作戦の方向性に口をだすことは確かにあったが、よっぽどひどいものでなければ決まった後に口出しをすることはなかったらしい。フレデリクによればだが……。まあ、本人も考えるのは向かないと言っていることより、本当に珍しいと思う。
ともかく、そんなクロムが作戦を変更させてほしいと言ってきた。はたして、僕の作戦の中にまずいところがあったのか、それとも――――
「ああ、今回の戦い、地上ではなく空でティアモとともに行動したいんだが、いいか?」
イレギュラーな事態が起こり、クロムのお人好しな性格が発動したかのどちらかだろうね。
次回は第七章~侵略~の後編となります。
クロムが原作にない道を通るかは、彼女次第になります。
次は早めにあげれたらいいな……と思いながら、ここらで終わります。
誤字脱字、感想等ありましたらお願いします。
それでは、また、次回で会いましょう。