FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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さて、みなさん昨日ぶりです。
珍しくハイペースな言語嫌いです。

とりあえず一言、春休みは最高です!

……本編について。今回主人公の出番はないです。このお話は前回のお話の補足と、この小説内での魔法の設定となります。魔法の設定については、めんどかったら読まなくていいです。適当に流してください。

それではどうぞ


第十七話 間章 与えられたぬくもり

夜、ペレジアのものと思われる暗殺者に襲撃を受けたイーリスの王城は、その一団を撃退したことにより、本来の静けさを取り戻していた。

 

そんな中、一人の少女が中庭にて王城を静かに眺めていた。正確には明りの漏れているとある部屋である。つい先ほどまで、彼女はその部屋の前にいた。そして、ことが終わったのを確認すると、その場を静かに、それでいて素早く離れたのだった。

 

その理由は二つ。彼に自分のことを隠すためと、未練を断ち切るため。彼女は自分の存在を知られるわけにはいかない。いや、自分がいるというのはばれても構わない。だが、自分が何者なのかということを悟られるわけにはいかないのだ。彼女の倒すべき敵【  】はもちろんのこと、味方である彼らにも、とりわけ彼――――ビャクヤに知られるわけにはいかなかった。

 

そう、そしてそれこそが彼女が素早くあの場を離れた二つ目の理由にして、最大の理由。自分の持つ未練を断ち切ること。それは彼女にとって最も厳しいことであった。もし、一度でもその手を取ってしまえば、自分はもう戻ることはできない。そうなれば、自分が何者なのかということがばれてしまう。そうなると、自分の持つ情報をうまく生かせない。いや、もしかしたら、歴史がゆがんだことにより、自分の手では修復できなくなるかもしれない。それ故に、干渉を極力避け、自分の知る未来の通りに事を運ばなければならない。その運命の分かれ道にたどり着くその時まで……

 

だからこそ、彼らとともに居たい。彼に隣にいてほしい、彼にまた支えてほしい……そういった願望は捨てなければならない。

 

「これで、未来は変わる……そうですよね、シエルさん」

 

彼女は誰もいない中庭で一人つぶやく。しかし、彼女は未だ先ほどの部屋を見つめている。その瞳に映るのは、羨望と寂しさ、そして、一つの大きな感情。彼女は動くことのできない自分に、仮面の中にしまいこんでいたはずの感情に縛られる自分に苦笑する。

 

「捨てなければならない……そうとわかっているのに、捨てきれるものではないんですね、この感情は……。だからでしょうか、あなたが私に振り返ってくれなかったのは……」

 

彼女はそうつぶやくと目線をその部屋から外すと、場内からこちらへと向かってくる人物に移す。その姿がはっきりと視認できるようになると、彼女はうれしさと共に少しだけがっかりとした気持ちになった。

 

「この気持ちも、そう簡単には捨てれるものではないですね――――――いえ、どちらも捨てることなんてできないんでしょうね。ですが、やっぱり、あなたは来てはくれないのですか……」

 

そのつぶやきは次第に近づいてくるあわただしい足音にかき消されていった。彼――クロムが彼女の前にたどり着いたときには、すでに彼女の顔には先ほどまであったような感情は消えてしまっていた。

 

「マルス。また、黙って姿を消すつもりだったのか?」

「はい。ここでの私の役目はすでに終わりました。私がこれ以上ここにいる必要はありません」

「必要があるとかないじゃない。俺達はお前にここにいてほしいんだ。それにお前は妹だけじゃなく、姉さんまで助けてくれた。俺はお前に何か返したい。それに、リズだってそうだ。あいつもお前に……」

「その言葉だけで十分ですよ。それだけで、私は救われますから」

 

クロムの言葉をさえぎるように、マルスは自分の言葉をかぶせる。それ以上の言葉を聞くことを拒絶するかのように、彼女は言葉を紡いだ。

 

「今回、私がこの事件に介入したことにより、未来は変わりました。後は、あなたたちの仕事です」

「……もし、お前が来ていなかったらどうなっていたんだ?」

 

クロムのその問いに対し、マルスは少し悩むそぶりを見せるも黙っていてもいずれ思い当たると思ったのか、先ほどと同じように語りだす。

 

「聖王エメリナは命を落とし、【炎の台座】が奪われていたはずです。そして、大きな戦争がはじまり――人々は終末の未来を迎えていく……なんて言っても、信じられませんよね」

 

マルスは己の知る未来を語った後に、自嘲気味に一言付け足して話を締めくくる。クロムは語られた未来が自分の予想していたもの以上にひどかったことに驚きを隠せないようであったが、やがて立ち直ると彼女に言葉を返す――――

 

「いや、信じる」

 

そう、一言返した。マルスは少し驚いた表情になるも、すぐに納得したようで軽く笑みを見せる。先ほどまでの事務的なものや、自嘲的なものではない彼女自身の笑みを……

 

「お前の言葉のすべてを俺は信じる。だから、何かあればいつでも俺を頼ってくれ」

「……ありがとうございます。では……また、どこかで。そう――」

 

マルスはクロムに背を向けて歩き始めながら一言。彼女の知る中で最もふさわしい言葉を紡ぐ

 

 

――――いや、紡ごうとした。

 

 

「いや、少し待ってくれ。ビャクヤからお前に伝言があった」

「……ビャクヤさんから、ですか?」

 

マルスは足を止めてクロムからの言葉を待つ。

 

「ああ、一言だけなんだがな。

 

“風の導きの先で……”

 

あいつはそう伝えてくれって言ったぞ」

 

 

 

 

――――なんで、あなたはその言葉を選んだんですか……

 

 

 

 

「正直、何が言いたいのかさっぱりわからん。挨拶であることはわかるんだが……」

「クロムさん……それは、彼の故郷……いえ、彼の大切な人のいる地方に伝わる言葉です。意味はその言葉の通り、“再会”を約束するものですよ。要するに別れのあいさつの一つです」

「ん? そうなのか。ということはあいつ、俺がマルスを引き留められないって思っていたのか……後で覚えていろよ」

 

――――ええ、本当に、私もそう思いますよ。

 

「それでは、クロムさん。私からもビャクヤさんに伝言を頼めますか?」

 

――――本当に、あなたはずるい。どうして、いつも、いつも……

 

「ああ、なんだ? 言ってみろ」

 

――――私が小さいころからそうでした。あなたはどんなときだって必ず……

 

「“風の導きの先で……”そう、伝えて、ください……」

 

マルスはそう言って今度こそ中庭を後にした。後ろでクロムはその背中が見えなくなるまで、見送り続けた。

 

マルスはクロムから姿が見えないところまで来ると、歩くのを止めて駆けだす。城壁に空いている穴のある場所まで。彼女はそこから外へと出るとそのまま城壁に体を預けて座り込む。

 

「そうですよ……あなたは、いつだって、いつだって…………」

 

彼女は嗚咽交じりに言葉にならない/言葉にしてはならない――――言葉を紡ぐ。

 

「――――――」

 

決して紡がれてはならない言葉は、今、ここで、彼女の感情と共にすべて吐き出され続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして……」

 

それからどれくらいの時間がたっただろう……城壁のそばで体を丸めるように座りながら静かに泣いていた彼女は、ポツリと明確に言葉を紡ぐ。

 

「どうして、こんなにも……こんないも温かいのに……あたたかいのに…………」

 

どこか嬉しそうに、そして、どこか悲しげに、苦しそうに、彼女は言葉を絞り出す。

 

「どうして、こんなにも……苦しいの? うれしい、はずなのに……こんなにも温かいのに……」

 

彼女は知らない。彼女が知っているのは、どうしようもない絶望か、とてつもない大きな悲しみか、どちらにせよ、このような苦しみを彼女は経験したことなどなかったのだから。彼女にはいつも、それ以上のどうしようもない絶望だけが常に降りかかっていた。

 

故に、彼女は知らなかった――――

 

「どうして……あたたかいはずなのに…………どうして、苦しいんだろう……」

 

彼女の答えを知るものはここにはおらず、その答えを導く存在は彼女の傍にもういない。

 

彼女のこの痛みをどうにかできる人物は、今/もう、ここにはいないのだから……

 

 

 

だが――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

「……〈ライブ〉」

 

私はそう言って自分のできる唯一の回復魔法を発動させた。私はほかの魔法はからきしだめなのだが、なぜかこれだけは使えたのだ。母からも、そして、父からも使えるのなら便利なのだから覚えておきなさいと言われ、けいこの合間にこれの練習をしていた。

 

その甲斐あってなのだろうか、私の手の中にいる少女も徐々にぬくもりを取り戻していき、血色もよくなってきている。だが、それでも、それは最初の状態から比べたら、であって決して良い状態ではない。むしろ、これからの治療によって彼女の生死が決まるだろう。

 

私は、夜であるということも無視して、とある青年のいる部屋へと向かう。おそらく彼ならこの時間でも起きているはずだ。それに、私が知っている中では彼が一番回復魔法に秀でている。先ほどの騒動に駆り出されていなければよいが……

 

一抹の不安を抱きながら、私は少女を抱えて全力で彼のいる部屋へと駆ける。

 

「いた……! 待ってくれ、リベラ!!」

「? あなたは、輸送隊のフラムさんですか。どうかされましたか、こんな夜更けに……」

 

ちょうど部屋から出ようとしていたところのリベラを見つけた私は、慌てて彼を呼び止める。ここでどこかに行かれては、この少女はおそらく取り返しのつかないことになる。そう思っての行動だったが、彼はいつものように見る人すべてを引き込むような笑顔でこちらに振り替える。

 

―――― 一応、彼について一言説明しておこう。絶世の美女のような神父様(・・・)である。彼の美貌に、多くの女性が嫉妬し、そして恋した。そして多くの男性が恋をして(女性と勘違いしてだが)、玉砕した(一部の奴らは除外する)。私も初めは女性と勘違いしたものである……

 

まあ、そんな彼であるが神父であるため、回復の魔法を扱うのはもちろん、戦闘もこなせるという万能な青年である。ちなみに学もあるので文武両道だったりする――――

 

私は、彼のもとにたどり着くと、自分が抱いている少女を彼に見せる。彼はその少女を見ると表情を変えて、再び部屋のドアを開けて私に中に入るように促した。

 

「夜分遅くにすまないとは思う。だが、頼む、彼女を治してやってくれ。おそらくこれをどうにかできるのはお前だけだ」

 

リベラは私の手から受け取った少女を布団に寝かせると、彼女の傷を素早く確認した後、私に振り替えり指示を出してきた。

 

「奥から、杖を持ってきます。それまではあなたが回復呪文をかけてください。状態がこれ以上悪化しないように。正直に言って、これ以上ひどくなったら私でもできるかわかりません」

「わかった。……〈ライブ〉」

 

私は彼に言われたとおりベッドに横たわる少女に手をかざし、回復魔法をかける。だが、彼の言っていた通り、杖がないこともあって気休め程度にしかなっていない。わずかに体力を回復させたところで、彼女の衰弱の方が強いため、すぐに意味がなくなる。

 

そして、杖を介さないこの回復方法はすごく魔力効率が悪い。本来、回復魔法を使うのに杖は必要としない。それがなくても治癒の呪文は唱えられるし、素質さえあれば、上級の呪文を使うことも可能である。だが、そうすると、今いる神官のうちの3分の1以上が初級魔法のライブを扱えず、上級魔法である〈リカバー〉を扱えるのはほんの一握りのものになるだろう。私もそうだ。杖さえあれば、上級は無理でも中級魔法の〈リライブ〉くらいは扱える。

 

さて、ここまでの解説でわかった人も多いと思うが、杖とはあくまで回復に使う補助具なのである。そして、杖に使われている、魔石によって魔法の効率を良くし、それに魔方陣を組み込むことでより上位の魔法を扱えるようにしたものである。だが、刻まれた魔法陣の効力も何度も使えば薄れ、いずれ形を成さなくなる。そうなると、それはただの補助具となり、自身の実力以上の術は使えなくなる。自分で魔方陣を書くことが出来ないのだから当たり前であるが……

 

なお、この理論は魔導書にも当てはまる。魔導書とは一般的に二種類あり、簡単に言うと、学習用と実践に使う補助用である。そして、実戦用が先ほどの杖のような役割を果たす。自分で覚えきれない、うまく使えない魔法を魔導書に魔方陣を書き込むことで後は魔力を通すだけで呪文を唱えられる状態へと持っていってあるものが、魔導書である。こうすることで、自分の使えない魔法だけでなく、使うことのできる魔法に関してもより早く唱えることが出来るようになっている。まあ、魔導書に魔力を通すだけだからな……

 

まあ、だが、欠点もあり、一度魔力を通すと二度目はその魔方陣を使えないということだな。それで、本になっているのだが。もちろん、宝石のものもある。値段は十倍以上違うがな……

 

今までの説明でわかりにくいのなら、そうだな……極東にあるというお札を思い浮かべるといいだろう。ほら、陰陽師が使うような使い捨てのあれだ。あれが本になっていたり、杖になっていると思ってくれればいい。

 

まあ、今までの説明で何が言いたいかというと、そろそろ魔力がつきそうだ、ということだ。もともと魔力が少ないというのに、杖を使わない効率の悪い方法を用いているのですぐに限界が来てしまう。……リベラはまだか?

 

「フラム。もういいですよ、後は私が代わります」

「そうか。頼むよ。けっこう限界だったからね」

「それでこの子が助かるのですから、少しくらいは我慢してください。さて、行きます。

〈リカバー〉」

 

そう言って彼は、リカバーの杖を用いて上級の回復魔法を行使する。要するに、最も効果がある回復魔法を最も効率よく使っている。

 

すなわち――――

 

「リベラ。その子はそんなにひどい状況なのか?」

「できれば話しかけないでください……ですが、あなたの質問の答えは、その通り、と言っておきます」

「そうか……」

 

彼にして珍しく余裕のない声でこちらに言葉を返してきた。それだけ切羽詰まった状態なのだろう。よく見れば、包帯と、彼が連れてきたであろうシスターも控えていた。とりあえず、彼女に状況を聞く。

 

「それで、あの少女の状態は聞いているか?」

「……私はそこまで聞いていません。ただ、彼にしては珍しく焦っていました。私へも指示もとても短く、『重症患者に対する治療の用意を』とだけ言った後、彼自身はあの杖を探しに出て行かれました。私が準備を終えるころに戻られると、今度は私の手をつかんで走り出したので本当に驚きましたよ。まあ、それらの様子から患者が相当危ない状態にあるのはわかったのですが……」

「……そうか。こいつに頼って正解だったな」

「そうですね。おそらく彼でなければと取り返しのつかないことになったでしょう」

「ああ」

 

それ以上話すことがなくなった私たちは、彼の治療が済むまで静かにその様子を見守っていた。

 

 

 

それから、大体十分位した後、ようやく彼はようやく呪文を唱えるのを止めて、杖を下ろした。そのまま、静かに一度だけ深呼吸をしたのち、こちらに振り替える。

 

「一応、これでいいと思います。体力もある程度戻ったはずですし、怪我も回復しました。ただ、元がひどかったので、完全に回復とはいきませんでした。これ以上は彼女の自己回復に任せる方が後々のことを考えるとよいでしょう。まだ、この年です。体もまだ発達段階ですし、無理な回復は控えるべきです」

「そうか……なら、後は食べるものを食べてしっかり休息をとればいいということか?」

「そうなりますね。さて、私たちは一度向こうの部屋に行きましょうか。それでは、彼女の着替え等お願いします」

「わかりました」

 

そのまま、私はリベラに連れられて隣の部屋へと移動した。彼は部屋に入るなり、椅子に腰かけると、そのまま背もたれに全体重を預ける。よほど先ほどの治療が大変だったようだ。まあ、普段の治療が長くて5分だというのにあれだけやれば当たり前か。

 

「それで、もう、あの子は大丈夫なんだな?」

「ええ、大丈夫ですよ。私が言うのだから間違いはありません。明日からはあなたの部屋で休ませてください」

「ああ、わかった」

「それと、今日、明日は彼女の様子を見てあげてくださいね。私たちは今回の主劇で怪我した人たちを見に行きますので」

「…………」

「頼みますよ」

 

その後、隣の部屋からシスターに呼ばれた私はリベラに言われたとおり、彼女が目覚めるまで、彼女の傍にいた。

 

まあ、一日二日の徹夜なら体には影響はないから問題はないだろう。私の体は普通のものより丈夫だから……

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

――――少女は夢を見ている

 

黒い死神を倒してくれた彼の夢を、自分を優しく包んでくれた彼の夢を。

 

彼女は知らなかった、この感情を――――人からもらう優しさという感情を

彼女は知らなかった、このぬくもりを――――人との触れ合いがこんにも温かいということを

 

 

だから、少女は思った。これは夢なのだと。

自分にこんな風にしてくれる人がいるわけがないのだから……

 

少女は暗殺者だ。彼女は拾われてからただそれのみを教えられてきた。

それ故に、叱られることはあっても褒められることはない。

教官は厳しくあったが、優しいことはなかった。

だから、少女はこの温まりが信じられなかった。

 

けれど、今の少女にとってそれらはどうでもいいことだ。

なぜなら、彼女はもうじき死ぬ。だから、最後に、こんな暖かな夢をくれた彼に感謝しながら、意識を手放した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

「ここは、リベラという神父の部屋だ。それと私はリベラではなくフラムという者だ」

「ふらむ? …………あ!」

「ん? どうかしたか?」

「フラム。フラムは……そう、ヒーロー?」

「……何が言いたい?」

「わたしをたすけてくれた。あのくろいのからわたしをすくってくれた」

「? 助けたのは確かだが、黒いのとはなんだ? それとお礼なら私でなく、リベラに」

「わたしにぬくもりをくれた。ほら、わたしの手はこんないもあたたかい」

「いや、これは君が握ってきたからであって、私が与えたものではない……っておい! 聞いているのか?」

「ふふ、やっぱり、あたたかい」

「いや、あのだな……布団から出ると風邪を引くと思うのだが」

「あたたかーい」

「君は話を聞いているのかね?」

「簡単なことですよ。あなたが彼女と一緒に布団に入って寝ればいいんですよ」

「リベラ。いたのなら声をかけてくれ」

「いえ、珍しく困った表情をされていたので、つい……それで、彼女に風邪をひいてほしくないのであればそれがいいと思いますが?」

「そうだな。そうしようか……それではリベラ。私はこれからこの子と一緒に寝る。後のことは任せた」

「……ビャクヤさんに伝えておきましょう。出発の準備に輸送隊も追加するようにと」

「ああ、助かる」

「……それでは、おやすみなさい」

「ああ……さて、寝ようか。私も布団に入るが構わないか?」

「うん。あたたかいから、いい」

「そうか……おやすみ」

「? おやすみ?」

 

 

 

 

 

 

 

隣からは規則正しい少女の寝息が聞こえてくる。昨日の夜に見たような苦しげな表情ではなく、その表情はとても穏やかのものだった。

 

彼は知らない。

彼が当たり前のように行った行動によってこの少女に迫る死神を追い払ったことを。彼にとって当たり前だったこの行動が彼女をどれだけ救ったのかを。

彼はまだ知らない。

 

だから、彼は穏やかな彼女の寝顔を見て、一言小さくつぶやいた。

 

「よい夢を……」

 

 

 

 

――――死神の鎌はついに振るわれることはなかった

 

彼女に伸ばされたのはヒトの手、彼女が掴んだのは温かなヒトの手だった

 

そう、この少女の運命は、彼によって変えられた……

 

 

まだ、この少女の物語は、始まってすらいない――――――

 




まえがきの通り、この物語は、六章 未来を知るもの の補足です。魔法の設定については、ついでに入れました。なお、この設定は作者の勝手の妄想と、想像により造られたものであり、公式とは全く関係ありません。

そして、暗殺者の少女を助けたのは輸送隊のフラム(とリベラ)でした。彼女については、これから間章などで少しずつ語っていきます。なお、主に絡むのはフラムです。

さて、次回は七章で、ティアモが仲間になります。お楽しみに。

と、言ってますが、登場は1章早いので少々フライング気味ですが……
リベラももちろんフライングしてます。

それでは、また次回で会いましょう。
フラムはロリコンじゃない……はずだ。

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