FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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皆さんのお久しぶりです
無事? テスト期間を終えた言語嫌いです。

ということで、あけましておめでとうございます。遅すぎるかもしれませんが、どうか今年もよろしくお願いします。このような作品ですが、それでもいいという方は完結まで気長にお付き合いしてもらえたら嬉しいです。

さて、それでは本編です。どうぞ――


第十五話 未来を知るもの~月下の出会い~

テミス伯のご令嬢、マリアベルがペレジアに捕えられた……その知らせから始まった今回の事件。その終わり人々の想像よりも呆気なくおとずれ、そして最悪な結果を残していった。

 

 

 

ペレジアとイーリスによる戦争という最悪の結果を――

 

 

 

「ようやくか……」

 

しかし、それによって、ペレジア王ギャンレル――彼の立てた計画は数年の時を経てようやく実を結んだ。そして、彼の望みどおりに事は進み、イーリスとペレジアの間で戦争が起きた。だが、まだ油断はできない。戦争を起こすことはあくまで計画を始めるためのカギでしかなく、彼の望みを叶えるためにはむしろこれからの方が重要であった。彼が挑むモノは、戦争などという生易しいものではないからだ。

それ故に、ここからの計画はミスできない。小さなミスが己の死へとつながっていく。

 

「ギャンレル。予定通り最高司祭をエメリナの暗殺に向かわせた」

「ちっ! てめーか……相変わらず気配の読めないヤローだな」

 

ここは、ペレジアの王城にある彼の自室。そこで一人静かに思索にふけっていた彼に、黒いコートでその体を完全に隠した人物が話しかける。話しかけられたギャンレルは苛立たしげに振り向いて、殺気のこもった目でその人物の姿をとらえる。視線を向けられた人物は軽く肩をすくめると、彼の殺気を気にせずに言葉を紡いでいく。

 

「おやおや、せっかく報告に来たっていうのになかなかひどい扱いをするね」

「お前の扱いがこれ以上良くなることはねえよ。何を期待しているかは知らねえが、俺たちの関係を忘れたわけじゃねえだろうな」

 

彼の言葉を聞いたその人物はやれやれと言った風に軽く頭を振ると、君も頭が固いねー、と前置きをしてから話し始める。

 

「忘れてはいないさ。僕たちは己の利害が一致しているから協力をしているにすぎない。まあ、でも、君が僕を切り捨てるのは簡単だけどね……」

「よく言うぜ……で、それは置いといてだ。あの餓鬼も向かわせたか?」

 

彼はその人物の軽口を流すと、今回の計画において最も重要なこと――暗殺者の少女のことについて尋ねる。本来の計画を変更し、無理やり組み込むことになった暗殺者の少女。彼女はこの人物の推薦によってギャンレルに拾われ今まで育てられてきた。要するに今回の作戦のかなめと言ってもいい少女だ。ではなぜ、彼女がそんなに重要なのか……

その理由は――――

 

「ああ、その点は抜かりない。ちゃんと彼女にもエメリナ暗殺に向かわせたよ」

「そうか。ならいい。それで、これでてめーの言う通り本当に未来が変わるって言うのか?あんなガキ一人加わっただけで」

 

未来を変えるため……

 

「さあ、どうだろうね。でも、少なくとも彼女の運命は変わったさ。何も持たず、何も与えられず、ただ死を待つだけだった彼女の運命は君が彼女を育てたことによって変えられた。彼女は今やこのペレジアだけでなく、この世界の中でも指折りの実力を持つ暗殺者になれたんだからね」

「……んなガキのことはどーでもいい。俺が言っているのはあの胡散臭い司祭のジジイが生き残るかどうか聞いてんだよ」

 

そう彼が尋ねると、その人物は心底どうでもいい風に語りだした。

 

「別に、彼がどうなろうと僕には関係ないよ。僕にとって今一番重要なのは君の生死だから。まあ、君が見て来いっていうなら彼の様子を見てくるよ、ついでに死にそうだったら生き返らせてから連れ帰ろうか?」

 

その人物はとても軽いノリで生き返らせる、そう彼に提案し――――

 

「……!」

「……ちっ」

 

その直後、後ろへと飛んだ。その人物がさっきまでいた場所を彼の振るったいびつな形をした剣が通り過ぎる。交わされたのを見た彼は舌打ちと共に、剣を腰の鞘に戻し、目の前の人物に向きなおる。

 

「いきなり、危ないじゃないか。僕が死んだらどうしてくれるんだい?」

「その程度で死ぬほどやわなつくりはしちゃいねーだろうが。だがな、次また妙なことを口走ったら、確実に殺してやる……」

「はいはい。せいぜい口には気を付けますよ。それで、僕はこれからどうすればいいのかな?」

「お前の存在はまだ隠しておく。だから今まで通り、見つからねえようについてきな」

「やれやれ、人使いの荒い王様だこと。けっこう疲れるんだけど、あれ」

「知るか。言われたことをこなしてろ。そおしたら、俺も言われたことくらいはやってやる」

「ふふ、期待しているよ」

 

その返事を聞かずに彼は、部屋を後にした。彼にとって、この人物はとても心強い協力者ではあるが、信用に足る人物ではないからだ。また、この人物を彼が受け入れられないというのも大きい。

 

一方、むちゃくちゃなことを言いつけられ部屋に置いて行かれたこの人物は、先ほどまで彼が眺めていた窓より外を眺めながら、小さくつぶやく。

 

「ああ、本当に期待しているよ。僕のピエロさん……」

 

そのつぶやきは何時かのように誰にも届くことなく空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

国境での戦いを終えた僕らは今後のことについて話し合うためにも一度、イーリスの王城へと戻っていた。今回の戦いはこちら側へは特に被害も出ず、攫われていたマリアベルも救出できたので、良い結果に終わったとみることも出来るけど、たった一つ。僕らが戦いを始める直前にペレジア王ギャンレルの放った言葉により、この結末は不幸中の幸い、正直に言ってあまりいいものではなくなった。

 

そう、ギャンレルの言った、イーリスとペレジアの戦争――――この言葉によって……

 

「姉さん……」

 

クロムは後悔の念を隠しきれぬまま、姉であるエメリナ様に話しかけている。今回の戦争のきっかけとなったのは、クロムがエメリナ様に向かってきたペレジア兵に攻撃をしたからでもある。クロムはその責任を感じているようだった。

 

「気にしないでください、クロム。あなたは私を思って行動してくれたのです。それを責めるつもりはありません」

「だが、そのせいで……」

 

イーリス城のとある一室にて、僕とクロム、フレデリク、エメリナ様の4人は今後のことについて話し合うために集まっていた。先ほどのクロムの発言に対しエメリナ様は気にするな、と言われたが実際はその通りだ。あれは僕らには防ぐことのできない戦争だったから。ギャンレルは戦争を始めるために芝居を打ったに過ぎないが、後手に回っている今の現状では、それが罠だとわかっていても僕らには進むことしかできない。

 

「クロム様、今はこれからのことについて考えるべきです。すでに戦争は始まってしまいました。おそらく、ギャンレルはイーリスへの進軍の準備を進めているはずです。まずはこれについて対策を立てましょう」

「そうですね。クロム……フレデリクの言う通りすでに戦争は始まってしまったわ。だから、今はイーリスの民を守ることを第一に考えましょう」

「ああ、そうだな……」

 

フレデリクの言葉によって再び話し合いが始められる。今後イーリスはどのように動くべきなのか、僕らは何をすべきなのかについての話し合いを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなところで何をしているんだ? クロム」

「ビャクヤか……。少し、考え事をな」

「考え事、ですか?」

 

話し合いの後、僕は一度自警団の拠点に戻り、ルフレと明日の準備をしていた。準備が終わるころには高かった日も落ち、周囲は夜の闇に包まれていた。これ以上することのくなった僕たちはルフレの勉強を見るために僕の部屋に戻る途中だったのだけど、何やら呆然と立ち尽くしているクロムを見つけたため、声をかけた。今思うと昼ごろから姿が見えなかったきがするけど、まさかずっとここで考え込んでいたんじゃないだろうな……とどうでもいいことを思いながら。

 

「……明日、俺たちはフェリアへ援軍を求めに行く。だけど、その前にお前たちには知っておいてほしいことがあるんだ」

「それが、今回の悩みの種か」

「ああ。先日ギャンレルの言ったことは覚えているな? あいつの言う通り、姉さんが聖王を継ぐ十五年前まで、イーリスは前聖王の命令でペレジアと戦争を行っていた。その戦争によってペレジアは多大な犠牲を払うことになったが、犠牲になったのはペレジアだけでなくイーリスもだった。国民は皆徴収され、次々に死んでいった。イーリスの国内はひどいありさまだったらしい」

「……!? なんで、前聖王はそんな状態で……」

「ルフレ……今は話を聞こう」

「はい……」

 

クロムの話を黙って聞いていたルフレは耐えきれないと言った風に声を上げた。彼女も僕も記憶がない。戦争というものを知識の上では知っていても、実際にあったことを聞くのはつらいことだったのかもしれない。特に、心優しい彼女にとっては苦痛であったのだろう。だけど、今は静かに聞くべきだ。これは僕らのいる国の目をそむけてはいけない事実なのだから。

 

「すまない、ビャクヤ……。そんな時に前王が急逝し、姉さんが十に満たない年で聖王を継いだ。それからだ。姉さんの苦しみの道が始まったのは。自国だけでなく他国の民の恨みや怒り、それらはすべて聖王である姉さんに向けられた。聖王を憎む群衆から石を投げられ、顔にひどい傷を負ったこともある。それでも姉さんは、俺とリズの前でしか涙を見せなかった……」

「…………」

「俺は姉さんを守りたい。姉さんの理想を。姉さんは兵を家族のもとへ帰し、人々の訴えを聞き、そうして少しずつ、少しずつ民の心を取り戻していったんだ。だが、その理想もギャンレルのような人間には通じない。それでも俺は姉さんの理想を守りたい。姉さんの代わりに、この手を汚してでも……イーリスには姉さんが、聖王が必要なんだ」

 

クロムの中では始めからこの答えは出ていたのだろうし、これを僕らに話すことも決めていたんだと思う。だけど、それを実行に移す――その一歩が踏み出せないでいたのかもしれない。だけどね、クロム。ルフレがどうこたえるかは僕にはわからない。けれど、僕の答えは初めから決まっているよ。あの日、助けられた時から……あの日、エメリナ様の前で誓った時から、ね。

 

僕は隣で聞いていたルフレの方をみて、彼女の意思を確認すると、彼女は静かにこくりとうなずいた。だから、僕は彼に向き直って、告げる。

 

僕らの意思を……

 

「その通りだよ」

「お前は……!」

 

――――はずだったんだけど、どこからともなく現れたマルスによってそれはさえぎられた。しかも、クロムもそれに驚いてマルスの方を向いている。

 

……なんでだろう。こう、いつもタイミング良くというか、悪くというか、僕に対して嫌がらせをしているとしか思えないタイミングで人が来すぎじゃないだろうか? 僕の運はそんなに悪いのだろうか…………

 

そしてルフレ、余計みじめになるから背伸びしてまで僕の頭を撫でなくていいんだよ……慰めてくれているのはわかるけど、気持ちだけいただいておくよ。だから、その手を下ろしてもらえないかな? 一通り挨拶を終えた二人がとても不思議そうにこっちを見ているからね。

 

「ルフレ……」

「? 確か、こういう時にはこうしてもらった記憶があるんですけど?」

「…………うん。ありがとう。でも、もういいからね」

「ビャクヤ? どうかしたのか?」

「いや……なんでもないよ。それで、マルスはいったい何のようだい?」

 

僕は気を取り直して目の前のマルスに向きなおる。それとともにルフレに、他の人に見えない程度に小さく手で指示を出しておく。指示を理解したかは確認出来なかったけど、おそらく問題ないだろう。

 

「聖王エメリナに迫る危機について」

「! 姉さんの! それはいったい……!」

「クロム。落ち着いて。それで、どうしてきみがそれを知っているんだい? それと危機とは何かな?」

 

僕はマルスに掴み掛らん勢いで迫ろうとするクロムを片手で制すと、マルスとクロムの間に立ち、マルスに剣を向ける。僕の後ろではルフレが風魔法の準備をしているのか、魔力の高まりが感じられた。

マルスはそれらを気にした様子もなく、淡々とただ自分の知っていることを述べていく。

 

「僕は未来を知るものだ……といったら信じてくれるかな? 僕の知る未来では今日、エメリナは暗殺される。そして、そこから生まれた絶望の未来を僕は知っているんだ」

「暗殺……!?」

「なるほど、その証拠が……」

「うん。出てきたら? もうばれているよ、とっくに……」

 

そう、言ってマルスは振り向きざまに剣を抜くと、背後の茂みから出てきた暗殺者を一刀のもとに切り伏せた。マルスは軽く剣をふって血を落とすと僕らの方に振り向いた。

 

「これで、信じてもらえたかな? 僕が未来から……」

「避けろ!!」

「え? ……!!」

 

暗殺者を一人倒したことで気が抜けていたのだろう。木の上に潜むもう一人の暗殺者に気付かなかったマルスは、僕の声でもう一人の存在に気付くと無理やり体をねじって何とか剣を躱した。己のかぶる仮面と引き換えに……

マルスを助けるべくマルスへと向かっていた僕は、予想だにしなかった光景を前に足を止めてしまう。

 

「え……」

 

「ビャクヤさん!! 下がって!」

「……っ!」

 

僕はその仮面の下に隠された素顔を見て呆気にとられ、戦いの最中にもかかわらず大きな隙をさらしてしまった。当然暗殺者はその隙を見逃すはずもなく、僕へと標的を変えると手に持つ剣で僕の命を刈り取らんと、攻撃を仕掛けてくる。ルフレの呼びかけで何とか意識を取り戻すも、慌てていたせいか、地面に足を取られみっともなく転んでしまう。これでは間に合わない。一撃を覚悟した僕に、後ろから聞きなれた呪文と共に、一陣の風が吹き荒れた。

 

「〈エルウィンド〉!!」

「彼には指一本触れさせません!」

 

ルフレの風魔法によって僕に振るわれた刃は阻まれ、それによって崩れた体勢を暗殺者が立て直す前に横から着たマルスに切り伏せられ息絶えた。

 

「ビャクヤさん!!」

「ビャクヤ!!」

 

後ろの方から、ルフレとクロムが小走りに近寄ってくるのがわかる。だけど、今の僕にはそれをきちんと認識することが出来なかった。いや、それらについて考えが回らなかった、といった方が正しいだろう。

 

 

 

――――いや、違う。これは言い訳だ。いや、言い訳にすらなっていない。本当はわかっている。なんで頭が回らないかも、なんであんな隙をさらしてしまったのかも……

 

 

 

目の前で暗殺者を倒したマルスは剣に着いた血のりを軽く払うと腰の鞘にその剣を収め、こちらへと体を向ける。先ほどまでの張りつめた顔と違いやわらかな笑みを浮かべて彼女は軽くしゃがむとこちらへと手を差し伸べてくる。

 

 

 

――――ただ、僕は見とれていた。彼女の美しさに。こんな汚れた戦いの中でも輝いている彼女に。ただ……

 

 

 

 

「ご無事ですか、シエルさん……」

 

 

 

 

月明りの中こちらへと手を差し伸べて微笑んでいる彼女に、僕はただ、呆然と見とれていた。

 




と、言うわけで、今年初めの本編はマルスとビャクヤの出会いとなりました。
クロムの見せ場は、む……マルスにとられてしまいました。まあ、マルスにとられたのなら彼も本望でしょう。きっと喜んでくれるはずです。次回は、未来を知るものの後編となります。ここから原作とすこしずつですが違う展開になっていきます。

本当はこの次の話までを去年の間にあげる予定だったのですが……今後はこのような予定は言わない方がよさげですね。ことごとく、失敗してますし。

さて、ここら辺で終わろうと思います。感想等ありましたらお願いします。
次回は「未来を知るもの~暗殺者の少女~」です。お楽しみに……

テスト明けでテンションのおかしい作者でした

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