FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~ 作:言語嫌い
第六章まで行くとか言っていましたが、無理でした。
今回はタイトルではわからないと思われるので、一応補足を。
これは、外伝1 弱きもの、それは にあたるお話です。
ただし、90%くらいオリジナル
ドニは…… とりあえずどうぞ。
実は本編にあまり関係ないので読まなくてもいい話だったりする……
――――某国某所にて
「そうか、もう始まるのか」
男は食料を持ってきてくれた村の住人に代金を渡した後にそうつぶやいた。
村人から受け取った食料を室内へと運び込もうとしていた女性はその小さなつぶやきに反応する。
「ん? 何が始まるの?」
男はその女性に聞かれたと知り、少し顔をしかめる。彼としては彼女に聞かれたくなかった内容のようだ。男はどうごまかしたものかと考えるが、こういった時の彼女にうそを言って見抜かれなかったことがないことを思い出すと、あきらめて話し始める。
「戦争だ。つい先日、イーリス聖王国のデミス領のご令嬢が隣国のペレジアに誘拐されたらしい。誘拐した側のペレジアの王についてのうわさはあまりいいものを聞かない。おそらく、高い確率で戦になる」
「戦争に……」
「ああ」
男性は女性のつぶやきに短く答えると、彼女の持っていた荷物をその手から受け取り、家の中へと戻る。女性は自分の運ぶはずだった荷物を彼が持って入ったことに気付くと、慌てて彼の後を追いかけて中に入る。
女性は彼に追いつくと、彼の持つ荷物を彼の腕の中から奪い取り、彼に抗議しはじめる。
「ちょっと! たまには私にも手伝い位させてよ!」
「そうは言うが、お前は女で俺は男だ。こういった力仕事を私がすることに何らおかしいところはないはずだ。むしろ、普通は女性にさせる方がおかしい」
その様に男が世間一般的に見ても当たり前と思われる常識を説くと、彼女はさらに彼に詰め寄って抗議する。何やら彼の一般論にとても不満があるようだ。
「またそう言う! そううまいこと言って私に何もさせないつもりでしょ! ご飯作ってあげるって言ったら怪我をすると危ないから駄目だっていうし……」
「いや、実際に危なっかしすぎて見ていられん……それに一回怪我をしている以上、余り……」
「それに、洗濯を手伝うって言ったら、一人で歩くのは危ないっていうし……」
「徒歩5分の距離で迷子になって帰れなくなっていたのはどこの誰だったか……」
「ならと思って、家の中の掃除をしようとしたら、これも怪我をするから駄目って言ってさせてくれないし……」
「俺が帰った時に君が本の中に埋もれていなければ、俺も何も言わなかった……」
「…………」
「わかってくれたか。俺がお前にダメというのには理由がある。俺が言ったことが改善されるまでは少なくともお前には任せ……」
「……バカ!」
「む……」
自分が挙げた例すべてにダメ出しされた理由を添えてくる男に反論が出来なくなる。しかし、それで今の気持ちがおさまるわけでもないため、女性は彼の足を思い切り踏むと、そのまま食料を持って奥の方へと去っていく。彼の忠告を無視して……
「……え? って、きゃーー」
先程女性が去って行った方から、悲鳴と共に何かが崩れ落ちる音と、ちょうど人が一人倒れた音がする。
男性はこうなることを予想していたのか、半ばあきらめたようにため息をついて、彼女のもとへと向かった。彼女を見つけると、そこには予想通りの光景が広がっていた。女性は男の姿を見つけると、ばつの悪そうに眼を逸らす。
「……今後も、俺が荷物を運ぶ。絶対に一人では運ばないことだ。いいな」
「……はい」
荷物の下に下敷きになっている女性を救出した後、二人で荷物を片付けるとそのまま男の方が荷物を持って倉庫へと向かう。男は倉庫に着くと荷物を倉庫の前で下ろし、倉庫の中からカバンを数個と、見覚えのない木箱を持ってきた。
「ねぇ、それなに?」
「見れば分かる。とりあえず、これをこのかばんのうちの二つに分けて入れてくれないか?俺は違う準備をしてくる」
「? いいけど……」
「なら、頼む」
男は彼女にそう言うと、そのまま裏口を使い家の外へと出る。残された女性は彼に言われたとおりに、木箱を開けて中のものをカバンへと移す作業をとても慎重に行う。さすがに、任されたことまで失敗して、迷惑をかけたくないらしい。
そうして、彼女が箱の中のものをすべて移し終わったころに、男が再び家の中に戻ってきた。その手には何かを入れた包を持っており、女性は今この中にあったものと、男に手の中にあるそれを見て思ったことを男に尋ねた。
「どこかに行くの?」
訪ねられた男は小さくうなずくと、彼女に包の中に入っていた衣服――外套を一枚渡す。女性はそれを広げて何かを確認した後、そのまま着こむ。男性はそれを確認すると、彼女の荷造りしたカバンのうちの一つを背負うと、彼女にもう一つを背負ってもらう。
「戦争になると、この一帯も危ない。ここはイーリスと、ペレジアの境目に位置する森だからな。だから、始まってしまう前にここを発つ。準備はすでに出来ている。馬も用意しているが……乗れるか?」
「わからない……」
男はそれに短く、そうか、と答えるとそのまま彼女を促して外へと向かう。外にはすでに先ほど村人からもらった食料と、もう一つ小さなカバンを背負った馬が待機していた。
「そうだろうと思っていたから、馬は一頭しか用意していない。馬に荷物を預けて、歩いて移動しよう。」
「うん、わかった。それで、どこに行くの?」
「イーリスの南東の端に小さな村があるらしい。国境からも王都からも離れているから戦争に巻き込まれることもないだろう。しばらくはそこで暮らそうと思う。だから、この家ともお別れだ。何か持っていくものがあるなら、今のうちに持ってきてくれ」
「うん」
女性はそう答えると、家の中に入っていった。そして数分後、小さな箱と白い槍を持って出てくる。また、先ほどと違い、外套の上から槍と同じように白い鎧を着ていた。男はそれを見てため息をつく。
「その手に持っている箱に関してはいい。それは、お前が大切に扱っていたものだから持っていくのもわかる。だが、なぜ、俺が隠していた槍と鎧を持ち出した? その上、なぜ、装備している?」
「…………」
黙して答えない女性に対し男はさらに言葉を紡ぐ。
「前に行ったはずだ。お前は戦うことに……」
「……戦える」
「何?」
答えないと思っていた女性から返事があったため、男は驚いて言葉を途切れさせる。
「私だって戦える! 戦って、あなたを守ることが出来る!」
「…………」
女性の強い意思表示に今度は男の方が黙した。それに対し女性は一度深呼吸をして男に対し静かに最後の言葉を紡ぐ。これで彼を説得できなければ、彼女には打つ手がなかった。
「それはあなたが一番知っているはず」
「…………」
男はしばし黙考していたが、結局、女性の言葉に答えず身をひるがえして馬の手綱を握る。そして、動く気配のない女性に対し振り向かずに短く
――――行くぞ
と答えた。
それに対し女性はうれしそうに頷くと、彼の隣に並んで歩き始めた。
――――――――――――――――――
――――なあ、お前は知っているか? ある村に現れた白の主従のうわさを……
うわさ? なんだ、それは?
――――おや、知らないのか? この一帯じゃあもうだいぶ有名な話なんだがな
いや、聞いたことがない
――お、その噂なら俺も知っているぜ。と、言うか知らないつうことは、あんた旅人かい?
ああ、そうだ。ここには少し用事があって訪れたんだ。それで、その噂とは?
――――気になるかい? まあ、そうだろうな。さて、どこから話したものか……
ん? そんなに話すことがあるのか?
――――いや、そんなにあるわけじゃないんだがな……なんというか
――今じゃ、いろいろとその噂にも尾ひれついていてな
なるほど、白の主従の噂もたくさんあると……だが、噂だろう? そんなに困ることはないと思うんだが
――――長いんだよ……
――ああ、長いんだ、どれも、な
……長い?
――――始まりが誰かは知らないが、完全に一つの物語になっていてな。この食事の席だけで全部語るのは無理がある。
――噂なのに、どれも完結しているんだよ。物語としてな……俺も吟遊詩人から聞いたぐらいだ……
――――俺もだ。まあ、他のうわさに関しては大筋を知っていれば後はそのどこかが変わっているだけなんだが……知らんことには話にならん
なるほど、だから、長いのか。だが、私も宿の時間があるからできれば手短に済ましてくれるとありがたいんだが。概要でいいから教えてくれないか?
――――まとめたら、意味がないんだよ
――ああ、意味がない
……どうしろと
――――う~ん。だから困ってるんだろ。知っている奴と話がしたかっただけなんだが、知らないっていうのも、もったいないしな……
――あ! いいのがあるじゃないか
――――うん?
――歌だよ、歌。誰かが詩にした奴があるだろ? それならそんなに時間かからねえ
――――ああ、あれか。そうだな。あれくらいなら、困らないか。よし、俺が一肌ぬいでやっか
そうか。頼む
――――ノリ、悪いのな……お前
すまない
――――まあ、いっか。なら始めるぞ……
~これはある村に現れた白い主従の物語~
ここは、ある大陸の最果ての地……
村がある
穏やかで優しい村が……
人がいる
暖かで優しい人たちが……
城がある
かつて優しき主のいた城が……
そして――
賊が来た
力持たぬ民を脅かす賊が……
奪っていった
賊はあらゆるものを……その城に集めた
かつて、優しき主のいた城は今はすでに賊のもの
村の象徴は黒く染まる
少年がいた
ごく平凡な優しき少年が
嘆いた
何もできなかった自分の無力に
少年がいる
嘆き悲しんだ少年が
駆けた
全てを捨て、助けを求めるために
そして――
賊が来た
逃げた少年を捕まえるため
光があふれた
暖かく優しい光が……少年を守った
今、絶望を抱いていた少年は目にする
白く輝く光の主従を
【外伝 想いの始まり ~白銀の騎士の誓い~】
――――――あの日、あの時、私は死にかけた。
ある町に向かう途中、最近になっていきなり現れたという屍兵に私たちは襲われた。
幸い、敵の数は少なく、また動きも鈍かったため脅威と呼べるほどのものではなかった。
簡単に倒せるはずのものだった……、誰も怪我をすることなく終わるはずだった。
そんな戦いと呼べないような戦いだった。
けど……
けれど、私は……
私は動けなかった。
目の前に屍兵が迫ってきているのに、まったく動くことが出来なかった。屍兵の動きが見えるのに、どう動いたらいいかもわかっているのに。なのに、私は屍兵の攻撃にただ怯えて身を小さくすることしかできなかった。かつて、二つ名を関していたころの騎士としての私は完全に死んでいた。もし、屍兵の振り下ろした剣が私の持つ槍にあたってはじかれなかったら、私はあの場所で死んでいたかもしれない。
でも、私は助けられた。他でもない、彼によって。
振り下ろされた一撃によって無防備になった私へと最後の一撃を放ってきた屍兵は、彼の持つ光魔法によって消滅した。
だけど、彼は怪我をした。私のせいで……私を助けたせいで、彼はひどい怪我を負った。
私の声を聞いた彼は、自分へと放たれる一撃を無視して目の前の屍兵ではなく、私へと迫る屍兵へと準備していた光魔法を放った。でも、そのせいで彼は自分へと迫る屍兵の攻撃を避けきれずに怪我をした。
出発の前、彼に守ると言ったのに……
今度こそ、この恩を返そう、そう思っていたのに……
なのに……
なのに、現実は彼が私をかばって怪我をした。守ると言いながら、結局今回も守られていたのは私だった。
そんな私を彼は責めなかった。彼は屍兵の攻撃に身をすくめることしかできなかった私に――怪我はないか――と、自分が怪我しているのにもかかわらず、私の身の心配をしてきた。傷口から血がとめどなく流れてるのにもかかわらず、私のことをまず確認した。私は彼に怪我のないことを伝えると、すぐに自分の怪我を治すように言った。それでようやく彼は自分の怪我に意識を向けた。その時になって初めて彼は自身の怪我を自覚したと言った方がいいかもしれない。
私はこの彼の行動が少し引っかかったけど、この時は彼が自分の怪我を治したことに意識が言っていたため、特に気にしなかった。それよりも、彼の怪我が治ったのがうれしかったのと同じくらい、自分のことが私は許せなかった。なにもできず、ただ守られてばかりいた自分が。だから、気付けなかった……彼の異常に
だけど、この時感じた引っかかりを私が知ることになったのはだいぶ後になってからだった。
目的の村の近くで少年を助けたあの日、彼は村に着いてその村の現状を知ると賊の討伐を申し出た。もちろん、一人で……
村の者たちは出来るのかと疑ってきたが、彼は問題ないと言い切った。そして、戦うことのできない私をこの村の護衛という名目で、自分を戦場から引き離した。
その言葉を聞いて、私は何とも言えない不安に襲われた。不安……いや違う。これは不安なんかじゃない。それもある、けど、これは……
これは……
そんな風に心の整理のつかないまま、私の頭の中はひどくぐちゃぐちゃだったのにもかかわらず、いつの間にか私の手は城へと向かう彼の腕をつかんでいた。
「どうした?」
彼がそう不思議そうにこちらに尋ねてくる。
だけど――――私には、私にも……
――――わからない。私にもわからなかった。どうして彼の手をつかんだのか、なんでこんなにも……苦しいのか、寂しいのか、つらいのか…………自分のことなのに、自分のことが何もわからなかった。
だから、答えられなかった。彼の問いに。でも、答えた。ひどく小さい声で、ささやくような声で、一言―――――――わからない、と。
そう、答えた。そう、答えてしまっていた。そして、彼は少し困った顔でこちらを見てきた。でも、彼は私の手を振りほどこうとはしなかった。そうできるはずなのに、彼は私の答えを待ってくれた。
「私は……」
彼は私に優しい。彼に言ったらそんなことはないと言って即座に否定してくるだろうけど、彼は間違いなく私に、というよりおそらく身内に優しい。だから、私は彼に甘えてしまう。彼の優しさについ甘えてしまう。今だってそうだ。彼が私の答えを待ってくれるから、私のことを気にかけてくれえるから、私はこうやって自分のわがままで――――わがままともいえないわけのわからない気持ちを理由に、彼を引き留めてしまっている。
「私は…………私はあなたを……」
「…………」
「……あなたを守りたい」
いつの間にか私の口からは彼への答えが、私への答えがすんなりと出ていた。わからないはずなのに、答えられないはずだったのに、なぜか、彼への答えを私は示していた。でも、わからない。答えが出たはずなのに、なんで、こんなにも胸の中がもやもやしているのかが、私にはわからなかった。だからかな? 彼がこんなにも困った顔をしているのは。
「……カーム…………気持ちはうれしい。だが、お前は……」
「…………」
彼はそれ以上を言わなかった。いや、言うことが出来なかった。だって、いつの間にか彼の顔が私の目の前にあったから。いや、おそらく、そうじゃなくても彼は言わなかったはずだ。だって私は……
「…………」
「…………」
そっと、彼から体を離した。さっきから、体が勝手に動いてしまっている。自分の意思で止められない。ほら、今だって、彼がすごく近い。体を離したはずなのに、いつの間にか彼を抱きしめている。
「私は、戦えない。魔物にも、先ほどの賊相手にもまともに動けなかった」
「…………そうだな。お前は戦えない」
「うん。わかっている。でも……」
彼は周りに気をつかってか、私と同じように小さな声で返事をした。そう、わかっている。戦えないのに、戦いたいことも。そうわかっていた。そう、わかっていたんだ……きっと。ずいぶんと前から、もしかしたら、出会ったあの日から、わかっていたはずなんだ。そう私は……
「私は騎士だから」
そう、私は騎士だ。だから、私はこんなにも、きっと、彼が大切なんだ。彼に居なくなってほしくないんだ。彼の傍に居たいんだ。だから――――
「ずっと、あなたのそばにいて、あなたを守りたい」
「……お前の決意はわかった。だが、今回は残れ。今のお前では戦力にならない」
そう言うと思った。だって、彼の腕をつかんだ時、私の槍を持つ手は震えていたから。この先にある戦いに怯えていたから。でも――――
「もう、迷わない。私はもう戦いから逃げない。私は戦いを恐れない」
そう言って、今度こそ彼の体から離れる。私はいつの間にか地面に突き立てていた槍を今度はしっかりと握りしめると、彼の前に片膝をついて頭を垂れる。
「誓いをここに。これから先、私はあなたの剣であり楯となる。私はあなたの騎士となることをここに誓います」
「……はぁ」
はい? なんでいきなりため息を? 私は顔をあげて彼を見た……が、彼は片手で頭を押さえていた。先ほどまでの雰囲気は完全に払拭され、何とも言えない気まずげな雰囲気が場を支配した。
「あの~、レ……カルマ? どうかしたの? 私けっこう真面目に話していたんだけど?」
「いや、悪かったな。まさか、こんなことを言い出すとは思いもしなかったからな。だが、まあとりあえず、ほら」
彼は片膝をついた私に手を差し伸べてくる。私は彼のその手を取り立ち上がる。
「それで、カーム。お前はそれでいいのか? お前の気持ちが本当だというのはよく分かった。だが、その誓いはお前自身を縛ることになる。俺がお前を縛らずとも、な」
「? それが、どうかしたの? 騎士とはそういうものでしょ」
「そうか。それでお前がいいのなら、そうするといい。なら、これからよろしく頼むぞ、騎士カーム……いや、
「うん!」
「行くぞ」
私は彼の隣に並んで二人で賊のひそむ城へと向かった。この村を救うために、ずっと立ち止まっていた私を始めるために。
結果だけ言うと、私たちは城にいる賊を殲滅し、私も本来の実力……記憶に残る騎士時代の私の実力を取り戻すことが出来た。そして、彼も認めてくれた。
こうして、私は彼の騎士になった。
いや、なってしまった……そう、言った方がいいかもしれない。
私はこの日、変わった。変わることが出来た。
でも、知らなかった。
騎士になることが、騎士でいることが、こんなにもつらいなんて。私は思いもしなかったんだ……
その時の私はそんなこと本当に思いもしなかった。
だって、側にいられるだけでいいはずだったから…………
ただそれだけで、幸せのはずだったのに……
静かに、扉をたたく音が聞こえた。この扉をたたく人は一人しかいない。
「……ウィンダ、起きているか?」
「はい。今、開けます。お待ちください」
「…………」
そして、私の本当の名前を呼んでくれる人もこの人しかいない。そう、彼しか……
扉を開けると、そこには彼――レナートがいた。私にとって、とても大切な人で、守りたい人で、守るべき人。そして――――
「どうぞ、何も出せませんが、中は暖かいです」
「そうか」
そして、私の好きな人。
「ウィンダ。夜も遅くすまないな。つい先ほど城下の村に行った時ある噂を聞いた。いや、噂ではなくおそらく事実だろうが……」
「その噂とは?」
「ドニからの情報だ。始まったらしい。イーリスと、ペレジアの間で戦争がな」
彼はそう言って、ため息をついた。私はそこから彼の憂鬱の理由を推測して、それを尋ねた。
「いつから始まっていたのですか?」
「おそらくは、俺たちが旅立ってからすぐのことだな。話によれば、誘拐されたマリアベル嬢を救出する際に戦闘になり、そこから戦争へと結果的に発展することになったそうだ。まあ、間違いなく向こうの王様の計画通りなんだろうがな」
「それで、主はどうされるのですか?」
「そちらについては特に何もしない。出来ることがないからな。まあ、だが、これを見てくれ」
彼は懐から手紙を取り出すと、私に読むように言って渡す。私はその手紙を開くとさっと目を通した。彼は私が呼んだのを確認すると、一言こう言った。
「ということで、俺は旅に出る。だから俺の留守を……」
「ドニに任せるんですね。わかりました。明日出発前に頼んでおきます。それで、どこに行くんですか?」
彼の言葉にかぶせるように私は言葉を紡いだ。すると、彼はなぜかあきらめたようにため息をつくと、行先を告げた。
「平和の村――ペーセだ」
「わかりました。お供します」
私が即答すると、彼は困ったように笑った。
「お前には残ってここの警備にあたってもらいたいんだがな」
「忘れましたか? 私はあなたの騎士です。あなたの傍にいて、あなたを守るのが私の役目です」
そう、私は彼に返したけど、やっぱり少し胸が苦しかった。でも、ほんの少しだけ感じた痛みを誓いの中に隠して、私は騎士になる。
彼を守る――――ただその誓いを守る騎士に……
―――――――――
――――話は以上だな……
――へえ、お前のところの歌はそう終わるのか。こっちの歌は
……難攻不落の城があるが不可解、その城には王と白き槍使いの騎士しかいない、なのに、そんな奇跡を起こした恋もある……そう終わっているぜ
――――ん? お前のところはあの主従の間に恋愛感情があったことになっているのか?
――ああ、そっちと違ってな。騎士としてついてきた彼女が彼に気持ちを伝えた、みたいな感じだな……って、忘れてた、すまねえな。とりあえず、こいつの言った通り、これで以上だ。また詳しく聞きたかったら、来てくれ。いつでも教えるぜ
そうか、助かる。なかなか興味深い噂だったよ。さて、連れが来たから、私はここでお暇させてもらうよ
――――おう、またな
ああ、また…………
そんな奇跡を起こす恋もある……か。私ももし叶うのなら、せめて、あの人くらいは救ってみたいものだ……
へえ、あなたでもそう思うことがあるんだ。天才の名を継いだあなたに不可能はないと思ってたけど?
そう思っていた時期もあった。だが……いや、今はいい。私たちにできることを今はしよう
ええ、そうね。で、どうするの?
向こうに……、海の向こうに行こう
そう、なら行きましょう
ああ
ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございます。このような作品ですが、出来れば来年もよろしくお願いします。
今回のお話についてですが、クロムたちにこの外伝を拾ってもらうのは時系列的に厳しいものがあったので、自由に動ける方々に動いてもらいました。と、言うことで序盤に起こる残り三つの外伝も彼らに拾ってもらいます。
なお、彼ら――レナートとウィンダの物語は、残り三つの外伝にて完結する予定。
さて、ここいらで終わります。アドバイス、批評、感想等あったらお願いします。
それでは、良いお年を