FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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さて、皆さんお久しぶりです。

言語嫌いはテストが一段落したので何とか戻ってきました。

気付いておられるかもしれませんがお知らせが一つ

章タイトルが付きました。詳しくはあとがきで……


第十三話 神剣闘技場~黒白の剣~  

この二日間、この世界に光魔法が存在しないことを知った僕は一番イメージが近い雷の魔法の練習をしていた。そのおかげで、雷魔法の中では一番下位の魔法ではあるが〈サンダー〉を習得することが出来た。その間に、ルフレは上級魔法に手を出していたが……。同じタイミングで始めたのにこの差はなんだろう? 少し悲しくなってくるよ。

 

 

そして、長く続いた剣戟は僕の覚えた雷魔法でマルスの剣を弾き飛ばすことにより終わりを迎えた。

 

「〈サンダー〉!!」

「……っ!!」

 

剣戟の最中、隙を見せたマルスに向かい僕は魔法を放つ。放たれた雷は狙い通りに剣にあたり、剣がマルスの手を離れていく。今のマルスは武器を持っていないため完全に無防備である。だから、この戦いを終わらせるために僕はマルスに向かって剣を振り下ろした。

けれど――――

 

「きて!!」

 

それはマルスによって呼び出された白いビャクヤ(・・・・)カティ(・・・)によって防がれた。

 

「え?」

「……」

 

僕は目の前の信じられない光景に、動きを止めてしまう。記憶が完全に戻っているわけじゃないからわからないけど、それはリンの剣のはず。なのに、なんでマルスが持っているのかがわからず混乱した。けれど、そんな隙を見逃すほどマルスは甘くはない。動揺して、剣にかかっている力が弱まったのを見るとマルスは僕の剣を押し返し、攻勢に出る。僕は急いで剣を持つ手に力を入れて剣が弾き飛ばされないようにした後、迫りくるマルスの攻撃に耐えるべく、必死に守る。そうしながら、僕が懐の方に手を伸ばすと、マルスは先ほどのことを警戒してなのか、いったん距離を開けた。

 

そのまましばらく相対するも、先ほどからマルスの手に握られている剣のことが気になって仕方がなかった。だから、僕は――――

 

「……っ!」

 

――――僕は構えを解いて、マルスへと近づいた。それをマルスは構えをとかずにじっと見つめている。そして、マルスの剣の間合いに僕が入ったときも、マルスは特に動くそぶりを見せず、ただ、じっとこちらを見据えている。警戒を解いてもらうべく、僕は手に持っていた剣を消した。それを見たマルスは少し驚くそぶりを見せた後、静かにその構えを解く。マルスが一時的に戦闘を中断してくれたことに驚きながらも、僕は聞いておきたかったことを聞いた。

 

「マルス……、なんで君がその剣を持っている?」

 

仮面のためにマルスの表情はわからない。だが、少し動揺しているのが伝わった。ほんのわずかな所作であったが、間違いなく先ほどの言葉で動揺している。その動揺の理由を探るために僕が続けて質問をしようとしたところで、顔を少し伏せながらマルスは口を開いた。

 

「これは、もらった……」

「もらった?」

 

マルスの言った言葉が理解できずに僕はもう一度聞き直す。そうすると、マルスは無言でうなずいた。聞き間違いでもなく、マルスはこれをもらったらしい。けど――――

 

「どういうことだい? なんでその剣がここにある? そもそも、ここのあるのが……」

 

僕はそこまで言って、思いついた。マルスがその剣を持っている理由を。それは、リンが直接マルスに渡したという可能性。その剣は、リンが持っていたはずのもの。そして、彼女の手を離れてかつ、マルスが誰かからもらったんだというのなら、その可能性が高い。だから僕は確認を行う。

 

 

「マルス。その剣は、リンからもらったものかい?」

 

 

そう聞くと、マルスは伏せていた顔をあげる。顔には仮面があるため表情はわからないが、驚いている気がする。先ほどの質問が予想外のものだったんだろうか? 僕が、その名前を出すことを予想できなかったのかな? どちらにせよ、はっきりとはわからないけどリンのことは知っているようだ。なら、聞きたいことがある。彼女のことを知っているなら僕のことを知っている可能性もある。だから、聞けば僕の知らないことを知っていて教えてくれるかもしれない。そして、それが僕の記憶を思い出す助けとなるかもしれない。あくまで可能性の話だ。けれど、僕のことを知っているのは間違いないと思う。初めて会ったとき、僕を見て明らかに驚いていたし。

僕は自分の仮説を確かめるために口を開いた、が――――

 

「リンにもらったのなら、彼女のことを――――」

「違います……」

 

それは、マルスの言葉によってさえぎられてしまう。え? と、驚く僕に対し、もう一度マルスは、違う、とそう告げた。そして、僕がそのことについて考え始めるよりも先に、マルスは続けた。

 

 

 

「もらったんです。シエルという、私の大事な人に…………」

 

 

そして、マルスは僕の目を見てはっきりとそう告げた。

 

 

そんなマルスの言葉を聞いて、そんな彼女(・・)の姿を見て、怪我もないのになぜか少し胸が痛んだ……

その痛みが何か知るのは、まだずっと先のことだった…………

 

だから今はただ、突如発生した胸の痛みに戸惑うばかりであった。

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

フェリア闘技大会、第四回戦。仮面の剣士マルス対イーリス自警団軍師ビャクヤの戦いは誰もが予想もしない形で幕を下ろすことになった。

 

「……ビャクヤ。いったい何があったんだ? 急に降参するなんて……」

「……うん」

 

戻ってきたビャクヤにクロムはそう尋ねた。それもそのはずだ。流れとしては、彼の方が有利であったからだ。確かに、マルスは新たに剣を取り出しビャクヤを押していたが、それでも、魔法の使えるビャクヤの方が有利な状況ではあった。それなのに、ビャクヤは戦闘を止めてマルスに近づいた。そのまま、少し話した後に、急に降参したのだから誰もが驚いたことだろう。そして、誰もその意図がわからなかったはずだ。

 

「それと、なんでマルスまで降参したんだ? ビャクヤ、何か知っていないか?」

「……うん」

 

そして、ここにいる人たちを驚かせたのはビャクヤだけではない。相手であったマルスもだ。それ故に、クロムは近くにいたビャクヤにそのことも尋ねた。そう、ビャクヤの降参と同時にマルスも降参をしたのだ。そのため、この闘技大会において異例の結果である、引き分けが生まれた。しかし、引き分けにした場合、次の試合でクロムが勝った場合は特に問題はないが、西の代表が勝った場合に問題が起きてくる。その場合、トータルで両者ともに二勝二敗一引き分けという結果になり、優劣がつけられないことである。

 

そのため、闘技大会は一時中断。こんなことになると予想もしていなかった東の王フラヴィアと西の王バジーリオは互いに困った表情で話し合っている。この二人の話し合いにけりがつくまでは、再開されることはないだろう。それ故に、今一時的に両方に陣営は控室に戻ることとなった。

 

「あのなー、ビャクヤ。何か言ってくれないとわからないんだが……」

「……うん」

 

控室に向かう途中、クロムは何度もビャクヤに話しかけるも、ビャクヤは完全にうわの空で声をかけても反応がない。結局、何も聞き出せないまま控室へと着いたクロムたち一行だが、そこにはすでに、リズの姿があった。リズはクロムたちが部屋に入ったのを見ると自身の杖を持って彼らに近づく。

 

「おつかれさま!! みんな! 怪我とかない? 大丈夫? 痛いところがあったらわたしが治すよ!」

「安心しろ、リズ。今回こちらにけが人は出ていない」

「本当に?」

「ああ」

「ビャクヤさんはなんか大丈夫そうじゃないけど?」

「……」

 

近づいてきたリズにクロムはそう答えると、リズは今のこのメンバーの中で唯一様子のおかしいビャクヤについて聞いてきた。それに対しクロムは何も返せない――――と、いうより、原因がわからないため、何を言っていいのかがわからないのであった。そんな兄の様子を見て何か悟ったのか、リズはう~ん、と考え始める。

 

「ねえ、おにいちゃん。治癒の杖使ったら治るかなあ?」

「……だめだろうな。きっとそれでは治らん」

「そんなぁ~。ねえ、何かいい方法ないの?」

「……と、言われてもなぁ~」

 

二人でビャクヤのこの状態を何とかしようと試行錯誤しているところに、ヴィオールが何か思いついたらしくその方法を提案した。

 

「ビャクヤ君の頭を思いっきりぶってみてはどうかね? 余り貴族的な方法ではないが、少なくとも正気には戻るだろう。まあ、それ以外にも――――」

「思いっきりたたけばいいんだね!! 任せて! そういうのは得意だから!」

 

その提案を最後まで聞こうともせずに、リズは自分の杖を握ると、ビャクヤの後ろに立ち、おもむろに杖を振りかぶった。もちろん、ビャクヤは気付くそぶりさえ見せない。そして、リズは振りかぶった杖をそのままおもいっきり振りぬいた――――

 

「って、何してるんですか!」

 

――――が、何にも当たらなかったため、最初の勢いに振り回されてリズはその場に倒れこむ。そして、件のビャクヤはというと、先ほどから彼の隣に座り必死に話しかけているルフレによって助けられていた。ルフレは少し前にこの部屋に来ており、その際に様子が変だったビャクヤが心配で声をかけていたが、後ろに誰か来たので確認しようと振り向いた。そしたら、リズが杖を振り上げてビャクヤの頭をいつぞやの夜と同じように狙っているのを見て、急いでビャクヤを抱き寄せたのであった。この結果、杖の軌道上にあったビャクヤの頭はその軌道から消え、先ほどのような結果となった。

知らないうちに助けられていたビャクヤはというと――――

 

「ひゃう!」

「ん? ルフレ? どうしたの? というより、なんでこんなことしてるの?」

 

――――と、ようやく周りのことに目が言ったらしく、自分をだき抱えている彼女に今の自分の状況を尋ねていた。

それに対し、ルフレは先ほどの失態を隠すように努めて冷静に答えた。

 

「え~と、ビャクヤさんがずっと上の空だったので、みんなでどうしようか話し合っていたところなんです」

「そう。ところで――――」

 

ルフレの答えで自分の聞きたかったことを聞けなかったビャクヤは質問しようともう一度口を開くが、それは第三者の介入によってさえぎられてしまう。

 

「ルフレさん!! いつまでビャクヤさんを――――」

「失礼するよ。シ……ビャクヤさんはいる、か……な…………」

 

そう、突如ここに現れたマルスの声によりさえぎられた。ついでに、リズの声もさえぎられた。そのため、彼女は少しむくれている。

マルスは部屋の中の様子――すなわち、ビャクヤの状況を見ると静かに腰の剣に手を添える。その何とも言えないマルスの雰囲気に皆一歩下がった。おそらく、直感的に感じ取ったのだろう、今マルスの近くに居てはいけないと。そんな周りの様子などお構いなしに、そのまま一直線にビャクヤのもとへと向かうと、彼を見下ろして静かにこう告げた。

 

「……二人の王が呼んでいる。僕と一緒に来てくれないかい? 先ほどの試合の結果についていろいろと話があるらしいんだ」

「あ、あぁ。わかった。今から向かうよ」

「それと、いつまで……その人に抱かれているつもりですか? ぼさっとしてないで行きますよ」

 

マルスは事務的に必要事項をビャクヤに告げながら、ビャクヤから彼を抱いているルフレへと視線を移し、ビャクヤに対し再び口を開く。マルスからの視線を受けたルフレは彼を放すと、彼から少し距離を取った。それを見届けるとマルスは、ビャクヤの手を引いて足早にここから出ていった。

後に残された一行はそのひと幕をただ呆然と見ていた。

 

 

それから、少し下のち、帰ってきたビャクヤより大会の再開が告げられた。決勝である西の代表ロンクーと、東の代表クロムの戦いがそのすぐ後、正式に東の王フラヴィアより伝えられ、クロムたちは闘技場へと向かった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

闘技場にて、クロムと西の代表であるロンクーが静かに剣を構える。両者の間に言葉はなく、ただじっとその始まりを待っていた。西の王バジーリオは両者の準備が整ったのを見ると今までと同じように、開始の合図を告げる。

 

「さて、これが最後の試合だ。用意は――――いいようだな。では、始め!!」

 

合図とともにクロムは飛び出し相手に切りつける。それに対しロンクーはクロムの剣を自らの剣でいなしその威力を打ち消し、力を受け流す。クロムはそれにより体勢を崩しそうになるが、立ち位置を変えつつ体勢を立て直すと再び切りかかる。それを再びいなし、クロムのバランスを崩そうとする。それを、先ほどのように対処するともう一度切りかかる。しかし、今回の剣には速さはあれど、その一撃に先ほどのような重さはない。クロムは今回の攻撃もいなされると思い、あえて軽い一撃にすることで次の動作への移行を早くし、そのまま一撃を入れるか、戦いを終わらせようとした。

 

けれど、相手のロンクーもそんなに甘くはなかった。彼は今回クロムの剣を真正面から受け止めた。自らの策を読み対抗してきたロンクーに対しクロムは剣の形状による特性を生かし、そのまま力で押し切ろうと試みたが、クロムが力を入れた直後、ロンクーは絶妙なタイミングで刃を逸らし、彼の体勢を崩した。

 

そのまま、前のめりに倒れそうになるクロムに対し、ロンクーは一気に攻めに転じ、クロムに攻撃を仕掛けた。クロムは前のめりになったのを利用し、前方へと飛ぶことでロンクーの斬撃を躱し、距離を取った。その後、急いで振り向くと目の前にはロンクーがおり、すでに攻撃の態勢に入っていた。そのため、後方へと大きく飛びクロムは再び距離を取るとロンクーがその距離を詰めて攻撃をしてくる。

 

そうしているうちに、始めは攻勢に出ていたクロムはいつの間にか防戦一方になっていた。

このまま、ロンクーが押し切る……誰もがそう思っていたが――

 

「……!?」

「ぐ……!」

 

――その時、ロンクーの放った攻撃を受けてクロムが大きく後方に飛ばされた。否、正確にはクロムが自分から大きく飛んだのである。

大きく後ろに飛ばされたクロムは着地すると同時に体勢を立て直し、目の前のロンクーに剣先を向ける。大きく距離を取られたロンクーも剣先をクロムに向け、立ち止まり間合いを測る。

 

この状況は奇しくも、あの時の状況と同じであったが、誰も気づきはしない。そして、両者はどちらからともなく駆け出し――――

 

 

 

――――  キン  ―――― 

 

 

 

―――― 一際高い金属音が闘技場に響き渡り、彼らは互いに相手の後方へと駆け抜けた。

 

 

今ここに、フェリア闘技大会の最後の試合の幕は下りた。クロムの手にはファルシオンが握られており、ロンクーの手には半ばから折れてしまった彼の刀があった。そんな両者の間に折れた剣先は突き刺さっていた。彼らはどちらからともなくふりかえると、互いにその剣先へと目を向けた。それを見たロンクーは小さく、本当に小さく笑うと剣を腰の鞘に戻し両の手をあげる。

 

「勝者、東の代表クロム!!」

 

それを見たバジーリオが大きく勝者の名を宣言すると、それとともに会場は大きな拍手とともに称賛の声に包まれた。

 

 

 

そんな中、マルスは一人その場を静かに後にした……

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

大会が終わり控室にて休息を取っていると、ものすごく機嫌のよさげなフラヴィア様が訪ねてきた。

 

「おおー!? すごいじゃないか! あんたたち! まさか勝っちまうなんて! とにかくこれで、イーリスとフェリアの同盟は成立だ。約束通り兵を出そう!」

「本当か! 感謝する!」

「それはこっちのセリフさ。なにせ久々の勝利だ。今夜は祭りだよ!」

 

と、それだけ言うと回れ右をして、近衛を引き連れ部屋から出ていった。おそらく祭りの準備をしにいったのだと思う。

機嫌がとてもいいのはよくわかったんだけど、同盟成立みたいな重要な事柄をさらっと流さないで欲しい。まあ、僕らが何を言ったところで同盟はきちんと成立していることには変わりないんだから問題はないんだけど……こういうこと以外の重要なこともこんな感じに流されたらたまったもんじゃない。

はぁー、この人との付き合いは苦労しそうだな…………

 

「やれやれ、盛り上がってるな」

 

嵐のようにやってきて去って行ったフラヴィア様のすぐ後に西の王をやっているバジーリオ様が部屋に来た。傍らには、クロムと戦ったロンクーという剣士が控えていた。突然訪ねてきた西の王を見てクロムは何かを思い出すようにあごに手を当てて考えると、ゆっくりと口を開いた。

 

「あんたは……確か、バジーリオだったか?」

「ああ、西の王をやってるバジーリオだ。改めてよろしくな、王子さん。しかしお前さん、いい剣を使うな。うちの代表のロンクーもいい線いってたんだが……」

「ああ、そうだな。俺も危なかった。どちらが勝ってもおかしくない戦いだったな」

「そうなんだよなー。ま、こればっかりは仕方ない。今回はお前が勝った。終わってからこれ以上何かを言う気はないさ」

「バジーリオ様、一つ質問があるのですが、よろしいですか?」

 

クロムとの会話が一区切りついたところで僕は会話に口をはさんだ。

 

「ん? なんだ、イーリスの軍師ビャクヤ。後、かたっ苦しい敬語はなくていいぞ」

「……マルスについて、知りたい。何か知っていることはないですか?」

 

そう僕が訪ねると、バジーリオ様はやっぱりかー、とつぶやいて僕の方をすまなそうに見てくる。

 

「……じつは俺もよくわからん。もうどっかに行っちまったしな。ふらっと流れてきてうちのロンクーを軽く倒しちまってな。これは……! ってことで無理やり口説いた」

「……要するに身元がわからないと」

「そういうことになるな……って、おい。なんだ、そのダメな王だな、みたいな視線は。これでも人を見る目はある。その俺が大丈夫だと思ったんだから問題はない」

「……」

「ぐ……そ、そういえば、一つ変わったことを言っていた」

 

周りの視線に耐えられなかったのかバジーリオは、苦し紛れに話題を変える。

 

「変わったこと? マルスは何と言っていたんですか?」

「ああ、代表になってくれ、と頼んだら辞退したんだよ。マルスはよ」

「辞退? それは珍しいことなのか?」

「ああ、珍しいというか初めてだよ、こんなことがあったのは。普通、この国の闘技大会に参加したい奴は自分の腕を確かめるためと、その実力を国の王であるやフラヴィアに認めてもらうために来ている。それでもって、俺が認めた奴しかこの闘技大会には参加できないから、これに参加しただけである程度の名声が得られる。だから――」

「代表になろうものなら、それ以上の名声が得られるから今後の生活もしやすくなるし、軍に志願しやすくもなるから、いいこと尽くしだということか。それなのになんでマルスは辞退したんだ?」

 

そう聞くと、バジーリオはあさっての方向を見た……

要するにあれか、知らないと。

そんな僕らの気持ちが伝わったのか、彼は改めてこちらに向き直るとばつが悪そうに答えた。実際のところそうする必要はないにもかかわらず…………いい人だな、バジーリオ様は

 

「マルスは戦いたい奴がいるから、二番手にしてくれと頼んできたんだよ」

「二番手? ということは、僕と戦いたかったのかな?」

「順番だけ見ればそうなる。けどな、肝心のマルスがもうどっかにいっちまったから聞くに聞けないんだよ。本当にお前さんと戦いたかったのかがな」

「……」

 

そこまで話すとバジーリオは口をつぐんだ。どうやらこれ以上は知らないようだ。しかし、彼が最後に伝えた情報は、マルスの正体を知るのに重要なものになりうる情報だった。確定をするのは不可能だが、少なくとも僕との関係があることが分かった。まあ、結局これがあったからと言ってマルスの正体がわかるわけじゃないんだけどね。

結局僕の記憶につながる情報をつかめなかった僕がやれやれ、とため息をつくと、少し場の雰囲気が重くなってしまった。

そんな、重くなった空気を払拭するようにフレデリクが口を開いた。

 

「なにはともあれ、これで我が国を助けていただく同盟は成立しました。すぐに国へ戻って、エメリナ様へご報告を差し上げましょう」

「ああ。そうだな。姉さんもその報告を待っているはずだからな」

「ちょっとまった。帰るんなら、ついでにこいつを連れて行ってくれねえか」

 

そういうと今まで背後に控えさせていたロンクーを呼ぶ。

 

「…………」

「ロンクーってんだ。愛想のねえ奴だが、腕は一級だぜ。剣の才能は、俺の見立てじゃ

あのマルスと互角だ。もっとも……マルスとやらせた時は、なんでかすぐのされちまったがな」

「……そうか。まあ、これからよろしく頼む。俺はクロム。それで、こいつがビャクヤ、この軍の軍師だ」

「ああ、よろしく頼む」

 

紹介されたロンクーは一言だけ挨拶すると、そのまま口を閉ざす。バジーリオの紹介通り、愛想は……寡黙な人物であるみたいだ。

そんなロンクーの様子を見て、彼は何かを思いついたようで、くっくっと笑いながら話し始める。

 

「実を言うとな、ビャクヤ。こいつは女が苦手でな。女に近づくことが出来んのだよ」

「戦力になるのか? それは……」

「まぁ、こう見えて、将来は俺の後継者として考えている男だ。それに、戦いのときは必死に抑えているようだ。まあ、その反動か、お終わったらぶっ倒れてるがな……とはいえ、軍のないイーリスにとっちゃあ戦力はひとりでも多い方がいいだろ。使える駒は多い方がいい。ちがうか?」

「そうだね」

「ま、こき使ってくれや」

 

 

 

こうして、新たにロンクーという不愛想な剣士が仲間になった。

なお、彼の女嫌いはこの後に開かれた祭りという名の宴会にてその全容を垣間見ることになる。主にリズの仕掛けたいたずらによって……

そして、すまないロンクー。そこまで苦手だとは思わなかった。今後はこういういたずらは控えよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

「……わかっています。わかってはいたんです。こうなることは……」

 

フェリアの闘技場から少し離れた平原にてふと立ち止まると、マルスは闘技場の方角を見る。

 

「でも、それでも……見たくなかった。わかっていたからこそっ……」

 

マルスは今は首飾りとなっているビャクヤ・カティに触れる。思い出を懐かしむように。二度と会えぬ人(・・・・・・・)との日々を忘れないように……

 

「そう、これはシエルさん――あなたからもらったんです。私をずっと――――っていう約束の証として、あなたが私にくれたんですよ」

 

そう、哀しげにつぶやく。剣の首飾りをそっと握りながら、ただ、そう小さくつぶやいた。

 

「――――、シエルさん。許されないことかもしれない。けれど、いつか――――」

 

その言葉は、誰にも届くことなく、ただ風に流れて空へと消えていった。

 

このつぶやきを聞いていたのは、マルスの胸元にある白い首飾りだけ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

「いらない……」

 

少年はつぶやいた。

 

「いらない……」

 

少年は己の手の中を見て、そうつぶやいた……

 

「いらない……、もう、こんなものは必要ない」

 

少年は己のなしたことを見て、そうつぶやいた。目の前で息絶えた/殺した亡骸を見て……

 

「いらない……、そうだ、いらなかったんだ」

 

そう、少年はつぶやく。月さえ見えぬ、曇天の闇夜の天を見上げ……

 

「僕は、変わる……変わらないといけないんだ……」

 

少年は立ち上がるとその手に持つ少女の亡骸を見て決意を持って/悲しげにつぶやいた。

 

「僕は……、僕は、変わる。変わって見せる。変えてみせる。この世界のすべてを。君の望んだ世界にするために。君の理想の世界を創るために。だから、もう、これはいらない」

 

そういうと少年は身に着けていた腕輪を外して、目の前の亡骸に投げる。

 

「仲間なんてものは必要ない。俺は、一人で行く。もう、誰も――――ない」

 

そう、少年はここに誓い、彼女の愛用していた杖を手に取る。そうすると、そのまま歩きだし、近くのオアシスを目指す。

 

「忘れるな。この痛みを、この過去を……。この、約束を……」

 

彼は手に持っていた剣を振りかざす。それに合わせて、彼の目の前の大地は大きく抉られた。そこに、少女を横たえると、静かに土をかけていく。最後に、少女の顔が埋もれるというところで少年は一度手を止めると、少女に語りかける。もう、決して話すことのない少女に……

 

「これで、いいよな……これでいいんだよな――――ルリ……」

 

その少年の声に応えるはずの少女はただ黙するのみ。ただ、声なき声を震わせ、嘆くのみであった。

 

「叶えてみせる。君の願いを。必ず。それが、君とした最後の約束だから……」

 

そして、少年は王になる。すべてを捨てて、壊れたままで……

 

 

 

 

これは、一人の少年と、一人の少女によってつむがれた一つの約束の物語。

 

物語は終焉(バッドエンド)を迎えてもなお、紡がれ続ける。

交わされた一つの約束のために……

今はもう、叶えられることのない壊れた約束のために……

 

 

 

「さぁてと、はじめるかぁ! このくそったれな世界を壊すためによぉ!!」

 

少年は……破滅へと歩みだした




さて、まえがきの続きです。

章タイトルにある通り、これは陽光の聖女(作者が勝手につけました。FE特有の称号みたいなもんです)ルートです。

さて、ルートとあるように他のヒロインのルートもあります。ただし、このルートを含めて4人分ですが……完結までさらに長くなってしまったけど、きっと後悔はしていない、はずだ

それぞれのルートのヒロインのヒントは、プロローグを見てください。今回書き直していますので、ヒントがあると思います。なお、読まなくても問題ないです。物語にはさほど関係ないので。

それと、今回ちょこっと出てきた少女ルリですが、作者の考えたオリキャラであり、故人です。しかし、この物語にしっかりとかかわってくる予定。

さて、それではこの辺で。また次回会いましょう。
ティアモをクロムとくっつけてみたいと、少し妄想している作者でした……
うん、反感をかいそう

〈追記〉
11/26 後半部分を少しだけ書き直しました。

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