FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~ 作:言語嫌い
言語が通ってましたよ! すごいうれしいです。しかし、後期にもまだ、言語(仏語)は残っています。落としたら留年です……泣きそう
言語好きな人には悪いですが……なんで第二外国語なんてあるんですかね?
僕は使わないのに……
一つでいいです。僕は一人で鎖国しています(無理ですけど……)。
勘違いにより一騒動あった翌日、僕らはフェリアに向けて出発するために、自警団の拠点に集合していた。全員が集まったところで、僕はクロムにある提案をした。
「なあ、クロム」
「なんだ、ビャクヤ。どうかしたか?」
「簡単にでいいから自己紹介をしてもらうと助かるんだけど? 昨日はあれのせいでそういうことをできなかったし」
「む。確かにそうだな。すまない、今から簡単に自己紹介をしてくれ。名前と使用武器、くらいでいいか?」
「ああ、それで頼む。あと、出来れば兵種も頼む」
この自警団の軍師として動くからには、最低限人の名前と、使用する武器、と兵種は知りたい。これがないと作戦の立てようがないからね。そのためにも自己紹介は欠かせない。まあ、欲を言えば、実力についても知りたいところだけど、それはまた今度にしよう。
「そうか、なら俺様から行くぜ! 俺はヴェイク。斧使いの戦士だ!」
そう力強く紹介してきたのはヴェイクと名乗る浅黒い肌の青年。動きやすさを重視してか、武装は少ないが、これから向かう地の気候をわかってるのだろうか? 寒いぞ。フェリアは……雪が積もっているらしいし。
「さて、次は私の番だね。貴族的にかれ「こいつはヴィオール。弓使いだ。それ以外は今はいい。次、誰でもいいから頼む」って、少し待ちたまえ。私の―――――」
とりあえず、ヴィオールの自己紹介はとばす。長くなりそうなので。
「ビャクヤ君。私だって、時と場合くらいは考えるよ?」
「はい、次」
「ボクはソワレ。剣と槍を使うソシアルナイト。どちらかと言えば槍の方が得意だね」
次に名乗ったのは昨日の赤い鎧の女性。男勝りな感じがある……なるほど、印象通りというわけか……家事などが出来ないのは。
「私はスミアです。ペガサスナイトですが、まだ見習いで、実戦の経験はないです」
そう丁寧に自己紹介をすませたのは、スミアと名乗るペガサスナイトの少女。まあ、この少女については、クロムに任せるとしても、そのことを考慮して動かないといけないか。なお、ソワレとスミアは同年代だそうだ。少女と女性という具合に代名詞を変えたのには、特に深い意味はない、はずだ。
「まあ、今更な気はしますが、一応、私も自己紹介をしましょうか。名前はいいですね。兵種はグレートナイト。得意な武器は槍ですが、剣と斧も人並みには使えます。状況に応じて指示をください」
「わかった、ありがとうフレデリク。さて、クロムとリズは何か追加点はあるか?」
「ない」「ないよ」
「そうか、なら最後に僕の紹介を。僕はビャクヤ。クロムに拾われた記憶喪失の軍師だ。武器としては剣と、弓を使う。みんな、よろしく頼む」
「さて、これで一応自己紹介は終わったな。今いないメンバーのものはあとで紹介するとして、ビャクヤ、あともう一人魔導師のミリエルも遅れて合流するそうだから、頭に入れておいてくれ。さて、行くぞ」
僕の自己紹介が終わるとクロムは場をまとめ、出発を促す。他のものもそれにならい各々の荷物を背負い外へと向かう。王都を抜けると、馬車とその傍に壮年の男性がいた。彼は? と僕がクロムに問うと、クロムは僕を含めみんなの方を向いて説明を始める。
「この人は今後、自警団専属の輸送隊となってくれるフラムさんだ。各々の武器以外の荷物はこの人に預けてくれ」
「フラムです。よろしくお願いします」
フラム、と紹介された男性は青みがかった緑色の髪をしており、その瞳は髪の色と違い赤い。また、魔導師のような紺色のローブを着ていることから、輸送隊の名の通り本当に非戦闘要員かもしれない。出来れば自衛も出来るといいけど……
「ビャクヤ、わかっていると思うが、彼は戦闘要員ではない。極力、彼の周りにも護衛を置いてくれると助かる」
「わかった。この自警団の軍師のビャクヤです。これからよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「さて、じゃあ、いくか。スミアと、えぇと、すまん。君の名前は何という?」
「……」
いざ出発というところで、クロムがペガサスを連れている二人の名を呼ぼうとして止まった。名前がわからなかったようで聞いてくる。それに答えられず、彼女は僕の後ろに隠れる。僕は昨日の今日でもう忘れたのかと思いながら、クロムに説明をしようとしたところで、街の方から誰かが大きな声でこちらに呼びかけてきた。
「おーい。ま、ま、待ってよーーーー!」
「ソール?」
声の方を向くと、緑色の鎧を着た青年が事らに急いで向かってくる。先ほどのクロムの発言から彼はソールというのだろう。兵種はソシアルナイト、使用武器は剣か。槍はどうしたんだ?
「つ、ついさっき聞いたんだけど、今からフェリア連合王国に行くって本当?」
「ええー! 情報おそっ! てっきりソールは来ないんだと思ってたよー。ていうか…このことヴェイクが昨日のうちに伝えておくって言ってたよね?」
「あ……俺様としたことが忘れてた」
おい……ヴェイク、それでいいのか。
「んも――――! もぅ。ヴェイクってば、ほんっと適当! 今日はこの前みたいに武器忘れてない!?」
「うっせー! 今日はちゃんと持ってるよ! ……まぁでも、こうして間に合ったんだし、良かったな! ソール!」
「全然良くないよ! 急いで準備したから髪はボサボサだしお腹はペコペコだよ!」
「それに自分の武器を忘れるとはどういうこと、ヴェイク。それで戦えると思っているのか?予備の武器を積んでもらおうか?」
「う、うるせー! 掘り返すな! だから今日はあるって!」
「はぁ……、で君はソールでいいのかな? 僕はビャクヤ。この自警団の軍師になった。これからよろしく頼む」
「よろしくね、ビャクヤ。君が入団したことは、ミリエルから聞いてるよ。あ、後彼女は明日までには合流するって、とりあえず、今日の野営地に向かうって言ってたよ」
「あぁ、わかった。ありがとう。さてと、クロムの言おうとしていたことの続きになるけど、スミアは空からついて来てくれないか。出来れば周りの警戒も頼みたい」
「わ、わかりました」
「後、クロム。彼女のペガサスの傷はまだ完治していない。フェリアに着くころにはよくなっているだろうけど、今はまだ飛べない」
「そうか、わかった。さてと、今度こそ出発するぞ」
そう言ったクロムの号令とともにみんなは動き出した。
――――――――――――
その後、僕は彼女と並んで歩きだした。僕個人として彼女に聞きたいことがあったからだけど。
「それで、あれから何か思い出せた?」
「ごめんなさい。まだ何も思い出せていません」
「……敬語」
「え、あ、はい。ごめんなさい。気を付けてるんですけど、やっぱり難しくて。もともとこうなのかもしれないんですけど」
「ん~。そうだとしたら下手に変えてもらう必要はないな~。さて、困った。ちなみに、おぼえているのは僕の名前だけかい?」
「はい。それ以外は、必要な知識とかくらいなら」
「そうか…………でも、名前がないというのは不便なんだよな。このまま、君とか呼ぶのは難しいし。二人旅なら問題ないんだけどね」
「……」
「……」
困り果て、二人そろって黙り込んでいると、彼女の連れているペガサスの上からリズがひょっこりと顔を出してきた。そう言えば今回はペガサスに乗りたいって言ったから、フレデリクの馬じゃなくてこのペガサスの上にいたんだっけ? 忘れてた。それは置いといて、顔を出したリズは、こちらを不思議そうに見ながら、話に入ってきた。
「ねえ、名前がわからないんだったら、ビャクヤさんみたいに、何かから名前をもらったらいいんじゃない? もしくはビャクヤさんに名前を付けてもらうとか」
リズ、何かから名前をもらうのはいいことだけど、僕が付けるなんて言う無責任な発言はやめてほしい――――
「え、ビャクヤさん。お願いしてもいいんですか?」
「大丈夫だよ! きっとビャクヤさんなら何とかしてくれるもん!」
銀の少女は期待に満ちたまなざしでこちらを見てくる。きらきら、という擬音が当てはまりそうなくらいに期待している。そして、リズもリズで何やらこちらに過度な信頼と期待を……
いや、そんな急に言われても無理なものは無理だからね……そう言えたらどれだけよかったことか。正直、この状況でそのセリフがいえる奴は勇者だと僕は思う。はぁ、どうしようか……
「名前か……もう少し考えさせてくれないか? さすがにすぐには思いつかない。でも、フェリアに着くまでにはきっと君に合うような名前を付けるから。それまで待ってくれないか?」
「「……」」
悩んだ末、僕は問題を先送りにすることを選択した。とはいえ、無期限にすると彼女たちの期限を思い切り損ねることは間違いない。というか、思いつかない限り機嫌を損ねるので、それを最小限に抑えつつ、自分の考える時間を取るとすると、これくらいになる、のだが、彼女たちは目に見えて、落胆している。しかも、それだけでなく、二人とも申し訳なさそうにするから、こちらの罪悪感が……
そう思っていると、銀の少女は再び顔をあげると、こちらに向かって微笑んだ。
「ビャクヤさん。無理を聞いてくれてありがとう。名前、楽しみにしているね」
「……あぁ、いい名前を、君に合う名前をきっと考えておくよ」
「ビャクヤさん、わたしも無理を言ってごめんなさい。あの時すぐ思いついてたから、そんな感じでパパッと決めれるかと思ってた」
「自分の名前と違うからね。それに僕は特徴的なものを持っていたから簡単に決まったんだよ。さて、この話はこれでおしまい! 今は、この行軍を満喫しよう!」
「行軍を満喫するのは変だよ、ビャクヤさん。するなら休暇でしょ」
「休暇みたいなもんだよ」
「そうかな? うん! そういわれてみればそんな感じだね! みんなで楽しくピクニックに行っているみたい!」
「君もそう思わないかい?」
「……そうですね。私も楽しむことにします」
その微笑みは、どこか、ぎこちなかった。リズの時とは違うぎこちなさ。引っかかる違和感がわからぬまま、そのまま前を見て足を進める。
―――――
あれからしばらくして、リズが周りの景色に見とれて楽しそうにしだした頃、服の裾が軽く引っ張られる。そちらを見てみると、不安げな顔でこちらを見てくる彼女の姿があった。
「どうかしたのかい?」
「約束……ですよ。私に、名前を付けてください。何もないのは、怖いです……」
「……うん。約束するよ。だから、安心して」
彼女の懇願に、僕はそう答えると、彼女の頭を軽くなでる。その答えを聞いて、彼女は少し安心したようで、表情も柔らかくなっていた。
「ビャクヤさん。手をつないでくれませんか?」
「ん? いいよ」
「ありがとうございます」
「って、ダメ――――! わたしもビャクヤさんと手をつなぎたい!」
「え、でもリズ。今ペガサスに乗っているからさすがに難しいと思うけど……」
「う! で、でも、とにかくダメなものはダメ!」
「なんでだよ。よくわからな――――」
「べ、別に、リズさんには関係ないです! それに彼はいいと言ってくれました。だから、いいんです!」
「それでも! やっぱり――――」
「いいえ! ――――」
僕の隣で何やら二人はヒートアップしている。何をそんなにもめているのやら……
「ビャクヤ……少しいいか」
「ん? どうしたのクロム。何かあった?」
「月夜ばかりと思うなよ……」
「ちょっと待った! おかしいよね!? なんで、そんな宣言を受けないといけないの!?」
「ふん! この朴念仁が!!」
「理不尽だ!」
ふん! とそっぽを向いてクロムは元の位置に戻る。相変わらず、よくわからん行動をする。って、なんだよ、ヴィオール。そのわかってないね、という仕草は。わけがわからないよ……
「ふぅ~。あの二人があまりにも不憫だよ。いや、でもまだ――――」
「何をぶつぶつ言っている?そんなに暇なら、仕事をあげようか?」
「めっそうもない。私は――――」
何をするでもなく、ただ取り留めもない話をしていると、突如、上空より声がかかる。
「クロム様!! 前方に突如、武装した集団が現れました!」
「! 突如? 屍兵か! 全員戦闘準備を! もうすぐ接敵するぞ!」
クロムはそう言いながら、ファルシオンを鞘より抜き放つ。それを聞き、自警団の者たちも、おしゃべりを止め、武器をかまえる。また、聞きなれない単語を聞いた僕は、ペガサスに乗せていた弓と矢筒を背負うと、クロムに駆け寄る。
「クロム! 屍兵とは、前回のあの異形の化け物のことか?」
「あぁ、そうだ。幸いむこうはまだ気づいていない。が、じきに気付くだろう。それまでに……」
「あぁーー! 俺様の斧がない!!」
「「……」」
スミアからの報告を受け、屍兵との戦いへの準備を各々進めている中、ヴェイクが大きな声を上げる。僕はクロムと目を合わせると同時にため息を着いた。
「クロム。僕はこれから、スミアのペガサスに乗って状況を確認する。その間にヴェイクには、輸送隊の中の予備の斧を渡して。頼む」
「あぁ、任された。お前が戻りしだい戦闘、でいいか?」
「うん。他のところに行かれても困るから、こちらから仕掛けて気付かせる。おそらく作戦というほどのものはないから、まぁ、二人ないしは三人に分かれられるようにしてくれ」
「わかった――――スミア!! いったん下りてくれ。話がある」
「は、はい。今すぐ!」
クロムの呼びかけに、スミアは上空より下りてくる。クロムより状況を聞いたスミアはこちらに向かってくるが、それよりもまず、彼女に言っておかないと。
「リズ。わかっているとは思うけど、フレデリクとタッグを組んでくれ。後、フレデリクには、輸送隊の護衛を行ってもらうことも伝えてくれるかい?」
「うん! わかったよ!」
「後、君は僕と組もう。風の魔法が得意なんだよね?」
「はい、そうです」
「じゃあ、準備しておいて。僕が戻るまでに、ペガサスはフラムさんに預けておいて、あとは馬をお願い。それで移動するから」
「へ? え、ちょ、ちょっと待って。わたしまだ下りて――――」
彼女はそれに頷くと自らの天馬を引いて輸送隊のもとへ急ぐ。その際、降りるタイミングを失くしたリズが慌てていた気もするけど――――うん、僕は何も見なかった。
「ビャクヤさん。あの、行きましょう」
「あぁ、わかった。お願いするよ」
はい、とスミアは返すと、僕とともに天馬にまたがり、空へと飛翔する。
上空から前方を見ると確かに、あの時見た屍兵がいた。どうやら、目の前にあった丘のおかげでこちらにはまだ気づいていないようだ。数は相変わらず多いが、この数なら普通に撃退できる。地形の確認と、屍兵の数の確認は済んだ。さぁ、始めよう。
―――――――
「戻ったか。どうだった?」
僕が戻ると、クロムがこちらに尋ねてくる。また、クロムの後ろでは僕の言った通りに、タッグを組んでいるのが見える。ソールとソワレ、ヴェイクとヴィオール、フレデリクとリズ。後は、今下りてきたスミアとクロム、僕と銀の少女となるかな。
「数はこっちよりも多いけど、橋のむこうとこちらに分かれている。接敵すれば、橋の向こうの奴らも気付いて向かってくるはずだ。だから、極力、ばれないように五体は倒したい。だから隊を分けよう。クロムとスミア、ヴェイクとヴィオールで、この丘の左から、残りで右から行く。クロムたちが、接敵しだいこちらも攻撃を仕掛け、奴らの隙をついて極力数を減らす。まあ、理想はこの時点で、相手の数の三分の一を削ることだけどね。その後は、極力固まって動こう。数の上では向こうが多い。だから、単騎で囲まれることが無いように動くこと。ソシアルナイトの二人には遊撃を行ってもらう。でも深追いはしないこと。とりあえず、これでいいかい?」
「少し待ちたまえ、ビャクヤ君」
僕が作戦を説明すると、珍しく真剣な顔でヴィオールが口を挟んできた。
「なんだ、ヴィオール。要件は手短に」
「そうするよりは、せっかくペアを組んだんだから、最初に分かれた後、合流せずにそのまま戦えばよくないかい? その方が効率もいいし、何より数がより速く減る」
「まぁ、それでもいいけど、君たちの実力がわからないから、安全を取るよ。それに、これと戦ったことがない人が半数だからね。下手に分散しすぎて、各個撃破されても困る。まあ、慎重すぎるかも知れないが、もう一つの目的として、今回は君たちの実力を見たいんだ。まあ、だから、この作戦で行かせてくれ」
「ふぅ、確かにその通りだ。下手に動かすべきではなかったね。すまない」
「いや、いいよ。気に入らなくて勝手に動かれるよりは今ここで言ってくれた方がいい。予定外のことが起きなくて済むから」
「ビャクヤ、これでいいか。なら、いくぞ、目的は敵の全滅だ。気を抜くなよ!」
クロムの号令とともに、クロムたち四人は丘の向こう側に向かう。僕は少女の手を引き馬の前に乗せると弓を手に取りかまえる。騎馬の二人も僕らの隣に轡を並べる。
「僕の合図とともに二人には前にいる、あの二体に向かってもらう。もう一体反対側にいるけど、それは僕たちがやっておく。仕留め次第そちらの援護に回る。奴らのことについてはクロムから聞いてるから問題ないよね?」
「うん、問題ないよ」「説明は受けたからね」
「よし、じゃあ――――!」
僕が次に、目の前の少女にもう一度確認を取ろうとしたとき、屍兵の断末魔が聞こえてきた。すぐに飛び出そうと売る二人を一度止めて、屍灰が完全にこちらから目をそらした直後に、指示を出す。
「今だ! 行け!」
「はは、待ってたよ!」「うん、じゃあ、行くよ!」
合図を聞くやいなや二人は駆けだす。それを確認すると僕も馬を繰り、彼らの後ろを追いかける屍兵に狙いを定める。
「今だ! 唱えて!」
「はい! 〈ウィンド〉!」
突き出した掌に魔力により生まれた淡い光が風と共に集まり、彼女の紡いだ言霊とともに、集められた風は、屍兵へと向かい、弾けた。彼女の放った風魔法によりダメージを受け止まったところを、僕の矢が屍兵の頭を射抜いた。それにより、それは消滅した。
「え? 消えた……」
「不思議かもしれないけど今は置いといて。次、いくよ。あの二人も消えたことに戸惑ってるみたいだし! もう一度頼む。威力よりも早さを! 足止めをしてくれればいいから!」
「は、はい! 〈ウィンド〉!」
倒した敵が消滅したことに戸惑っている二人へと向かっていた屍兵に、彼女の唱えた風魔法が直撃する。それにより、彼らは迫っていた屍兵に気付くと、風により体勢を崩した屍兵を一刀のもとに切り伏せる。
「ふぅ、危なかった……」
「危なかったじゃないよ。さっき聞いたよね。屍兵のことは大丈夫かって……僕らがいなくても大丈夫だったかもしれないけど、間違いなく怪我してたよ?」
「う……」「……」
「こいつらは普通の兵士とは違う。このことを忘れないで」
「「「はい」」」
「さてと、クロムたちもこっちに来ていることだし、橋のほうまで行くよ。二人はクロムたちの方に行って、指示を伝えてくれ。伝え終わり次第、こちらに合流。周りに屍兵が多いようなら、クロムたちと行動して」
「わかった」
そう伝えると、彼らは、馬を繰ってクロムのいる方へと向かう。残った僕らは、フレデリクたちとともに、橋へと向かう。その途中、フレデリクが話しかけてくる。
「ビャクヤさん。私は、このまま護衛でいいのですか? 正直、戦力が不足している気がしますが……」
「大丈夫。これで問題ないよ。むしろ、輸送隊が一番狙われて欲しくないところだからね。実力のわかっている人を付けたかったんだ。ごめんけど今回はこれで我慢してくれ、フレデリク」
「わかりました。お任せください」
「さて、もう少しだな。頼むよ」
「はい、任せてください」
僕がそう言うと、彼女は元気良くうなずく。これなら、問題ないかな。
「じゃあ、馬上から魔法で援護して。僕は下りてあいつらに切りかかるから」
「待ってください! 私、馬は乗れません!」
ペガサスに乗れるからと言って馬に乗れるわけじゃないんだ……似たようなものだから問題ないと思っていたのに。
「え……。そ、そう。じゃあ、フレデリク。ここら辺で僕の馬と輸送隊を頼む。いずれクロムたちとも合流するだろうから、ヴィオールを護衛に回して」
「わかりました」
「頼むよ。じゃあ、馬を下りてここからは走っていくよ。僕の後ろから来て」
「はい」
少女の返事を聞くと、僕は弓を預け、剣を持って屍兵に向かう。こちらに向かってくる屍兵のうちの一体をすれ違いざまに、切り伏せ消滅させる。そのまま、橋の方へと踏み込むと、目の前の屍兵だけでなく隠れていた弓を持った屍兵も現れる。振り下ろされる斧と、こちらを狙っている矢。危険ではある、が……
「……! 隠れていたか! だが」
「〈ウィンド〉!!」
その攻撃は、後方から唱えられた風の魔法により防がれる。その隙を突き目の前の屍兵二体を切り伏せる。
「大丈夫ですか!」
「あぁ、助かったよ。この調子で片づけてしまおう。クロムたちも来たみたいだし」
「あぁ、向こう側の方は片づけた。後はこいつらだけか」
「いや、砦の中もだ……」
僕の言葉とともに、また増える屍兵。G並みだな、と思った。何がとは言わないが……
「どうする?」
「クロム、スミア、ソールで、中央突破。残りで露払いをしよう。さっさと終わらせよう」
「ふ、そうだな。なら、行かせてもらう! スミア、ソール、来い!」
「わかりました」「わかったよ」
クロムたちが最奥にいる屍兵に向かい、残った僕らで、湧いてきた屍兵を倒していった。後は殲滅なので、フレデリクたちにも出てもらい、全ての屍兵を倒しつくしたところで、クロムたちが向こうから戻ってきた。
「そっちも終わっているようだな、ビャクヤ。向こうにいた屍兵はすべて倒した。スミアに確認してもらったが、とりあえずこれ以上はいそうにない」
「そうか。こっちも終わったところだ。おそらくこれで終わり」
「ふぅ、いきなり戦闘とは、私も運がない――――いや、初めが比較的優しい戦闘であったことを喜ぶべきか……」
状況の確認をしていると、後ろから輸送隊のフラムさんがぶつぶつとつぶやきながら橋を渡ってこちらに来ていた。あなたもお疲れ様でした、と声をかけようとしたところで、重たい羽音とともに、低い咆哮が聞こえた。
「!! まだ、残って……っ!」
敵の声の方向を振り向くとそこには、一気のドラゴンナイトが、橋を渡ろうとしている少女に迫っていた。今から、弓に矢をつがえているのじゃ時間がかかりすぎる! そう判断した僕は皆の前であることも考えず、手にあの弓を呼ぼうとした……けど、それは意味がなかった。何故なら――――
「〈ウィンド〉!!」
そう唱えた彼女によりその攻撃が届くことはなかったからだ。周囲から集められた風により彼女にその斧は届かず、その後の風の魔法により屍兵はドラゴンともども消滅した。
「…………きれい」
その光景を見ていたリズが小さくつぶやいた。
「そうだね……」
僕は彼女にそう返した。彼女の言う通り、そこには、先ほどまで命のやり取りしていたとは思えない、幻想的な光景があった。少女の起こした風の魔法は、周囲の風を集めると同時に、川面から無数の水しぶきが上げていた。それらが放たれた風魔法により周囲へと舞い、陽の光にあたり輝き、彼女の周りに虹を創っていた。
しばしの間、誰もがその光景に見とれていた。ふわりと髪をなびかせながら、彼女がこちら向き、どうしたの? と声をかけるまでの間、ずっと……
「うん。決めた……」
――――――
その夜、食事や、野営の準備を終え、各々自由に過ごしているとき、僕と銀の少女は少し離れたところで見張りをしていた。
「今日は、お疲れ様。初めての戦闘だったけど、何とかなったね」
「は、はい。ありがとうございます。役に立ててよかったです」
僕の言葉に少し照れたように彼女は答えた。
「戦いを始める前はね、君を守りながらどう戦おうかって、そう考えていたんだけど心配なかったね。正直、あんなに魔法が使えるとは思わなかった」
「あ、それは私も驚きました。まさか自分がこんなことできるなんて思ってなかったので。最後に襲われた時なんか、無意識のうちに体が動いていたんです。魔法の訓練をしっかり受けていたのかもしれませんね……でも――――」
先ほどまで明るく語っていた彼女は急に言葉を切った。どうしたの? そう僕が尋ねる前に、彼女はポツリポツリと話し始める。
「でも、肝心の記憶が全く戻ってこなかったんです。浮かんでくるのは魔法の知識や戦いの知識ばかり。あなたの役に立てるのはうれしいです。けれど――――」
「……ルフレ」
「え……」
辛そうな顔で話し続ける彼女を見ていられなくなり、僕は彼女の頭をなでながら、『名前』を呼んだ。僕のつぶやきを聞いた彼女は驚いたように顔を上げた。
「君の名前だよ。つける、って約束したからね。古い言葉で、虹。さっき見た光景が忘れられなくてね。僕個人としてはとってもあってると思ったんだ」
「……」
「えぇと、ダメ、かな? 確かに、安直なことは認めるけど――――」
「ルフレ……」
彼女の反応がなくて、不安になった僕は必死に弁明を始めるけど、それは杞憂だった。彼女は一度自分の名前をつぶやくと、次第にその顔は喜びに満ちていき――
「ビャクヤさん!!」
「ん? って、あーー!!」
と、大きな声で名前を呼ぶとともに、抱きついてきた。もちろん急なことだったので踏ん張れず地面に倒れる。まともに受け身が取れなかったので、体中が痛い……
「い、いきなりどうしたんだい?」
「ルフレ」
「ん? 僕の言った名前気に入ってくれたのかな?」
「うん! やっぱりビャクヤさんはすごい!! リズさんの言う通り本当に私に名前をくれた! 私の本当の名前を!」
「そうか……え!? 本当の名前?」
一瞬、普通に良かった、と返そうとして、返答に詰まった。本当の名前――と彼女は言ったからだ。彼女は、僕のつぶやきにうんうんと頷く。
「思い出したのか? 名前を……」
「はい! あなたの言葉で思い出しました。 あなたの言葉とその手のぬくもりで。いつのことかも、誰がしたかも思い出せません。けれど、これだけは思い出せたんです。誰かが、私の名前を呼んでいたんです。ルフレと……あなたと同じように、優しく私の頭をなでながら」
「そうか……よかったな、ルフレ」
嬉しそうに語る彼女に、そう返すとともにもう一度その名前を呼ぶ。
「はい! ……あ、れ? なんでかな、涙が止まらないよ……」
「……」
僕はゆっくりと体を起こすと泣き出してしまった彼女の頭を優しくなでる。空には、きれいな月が浮かんでいて、僕らを優しく照らしていた……
けど、ここで終わらないのが僕らしい。
「ビャクヤ? 交代だ。もう戻ってもいい……ぞ」
「おやおや、ビャクヤ君。君もなかなかやるね。とりあえず、ご愁傷さま、と言っておこう」
「ビャクヤさん……何してるの……」
交代の時間になったらしく、クロム、リズ、ヴィオールが現れる。さて、いま客観的に見て僕らの状況というのは、うん、まずいね。何が、とは言わないけど、彼女は僕の上にまたがって泣いていて、僕は上半身を起こして、頭を撫でている。これは誤解を生むな、間違いなく……というか、ヴィオール。気付いているならどうにかしてくれよ!
「すまないがこればっかりは遠慮させてもらうよ。私も命は惜しい」
見捨てるのか! そう思ってヴィオールを見ようとするが、チャキ、っと音がして、ブン、と何やら素振りの音も聞こえる。気のせいだと思いたい。けど、目を完全にそらせているヴィオールと、怖くて僕に抱きついているルフレの様子を見ればそれが現実であることがわかる。
「クロム、リズ」
「なんだ、何か言い残したことでもあるのか?」
「……」
「僕は無実だ……」
「そうか。リズを傷つけた罪、その身で払ってもらう!!」
「はい?」
クロムの言ったことがわからずつい聞き返すが、そんな余裕はなかった。何故なら――
「ビャクヤさんの……ビャクヤさんの、バカ―――――――!」
リズの杖によるフルスイングが僕の頭を襲ったからである。こうして、僕の一日は幕を下ろした。次の日にもまた一騒乱あることなど思いもせずに……
――翌日
「すぅ――――」
「なんでさ……」
隣でルフレが寝ていた……
さて、この話でようやく、彼女――ルフレの名前が出てきました。そして、ミリエルの出番を期待していた人たちへ、すみません、彼女は間に合わなかったようです。次回は登場するはずです。
長いけど、ぐだった感があります。文章が相変わらずあれです……
次回はまた閑話です。翌日から、フェリア到着までですね。たぶん。もしかしたら本編にするかもしれませんが、不明です。
作者の書く量によって変わります。
さて、相変わらず適当ですが、また次回で。
~追記~
忘れていましたが、オリキャラとして輸送隊にフラムという男性を追加です。作者の気が向いたら出てきます。
オリキャラ、オリジナル武器に関しては、ある程度増えてきたら一度まとめるかもしれません。まあ、やるとしたら当分先ですが……
少ない場合はしないと思います。