魔法少女リリカルなのは~絆紡ぎし神王となりしもの~   作:Aura

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【前編】眠り姫と恩返しなの!

~Side 理想の希望、現実の絶望の果ての境界世界~

 

目が覚めるとそこは不思議な場所だった。

 

ボクが立つっている場所は一面に広がる草原で後ろを振り向くと大きな湖と天まで届く勢いの大樹がそびえ立つ言うなれば希望に満ち溢れた世界。

 

しかし前を向けば景色は一変し、どこまでも燃え盛る大地と大きな穴に焼け落ちた大樹の残骸と思わしき物があるだけのどこまでも寂しく、絶望感が漂う世界。

 

そして気が付くと後一歩で絶望の世界に踏み出せる距離まで移動しており、目の前には重苦しく、辛そうな雰囲気を纏い、腰まで届く金糸のような髪を後ろで三つ編みにした碧眼の青年が立っていた。

 

?「等々ここに来てしまったんだね、ジャンヌ。」

 

ジャ「貴女は?」

 

ダ「僕の名はダルキアン。君も知っての通り、君の前世の人物だね」

 

ダルキアンと名乗る青年は優しくも寂し気な笑みを浮かべながら自己紹介してくれた。

 

ジャ「それじゃあここは見覚えがあるけれど....どこなの?」

 

ダ「君の予想通りここは世界樹の麓さ。ここは僕にとっても君にとっても思い入れがある場所だからね」

 

ジャ「それならどうして...」

 

ダ「ああ、君が居る側はかつての僕の理想の世界。そして僕が居る側は現実の世界だからだよ」

 

ジャ「そっか。だからダルキアンは泣いているんだね。」

 

ダ「え? あっ...そうか....僕は君がそこに居て、僕がこちらに居るのが羨ましくて、自分に訪れた終わりが悔しいのかな?」

 

ジャ「ボクも貴女だったからその気持ちが痛い程分かるよ。だからここにはダルキアンだったものとダルキアンしか居ないのだから今だけは沢山泣いて、弱音を吐きだしてしまった方が良いと思う」

 

ダ「そう...だね。うん...君の言う通りだ」

 

それからダルキアンは両膝を付き、頭を抱えひたすら泣き続けていた。

 

かつて神々と人と巨人の間での争いを可能な限りなくそうと努力したのにその努力を同じ人間によって踏みにじられ、挙句の果てには最終戦争の引き金にされてしまった彼は弱音を吐くこと、泣くことは自分のせいで引き起こされた最後で最大の戦争の被害者たちが許してくれるはずがないと今まで我慢していたんだよね。

 

そう思うと自然と一歩踏み出し、今だに頭を抱えて泣いているダルキアンの頭を優しく抱き締め、ボクも一緒に涙を流していた。

 

それからどれくらい時間がたったのかは分からないけれどお互いに泣きやみ、再び向かい合う。

 

ダ「それにしても驚いたよ!まさかこの境界線をあっさり超えるなんてね!」

 

そう言うダルキアンは先程までの重苦しく、辛そうな雰囲気はなくなり、お母さんに再会した時と同じように雰囲気が変わり、なんだか懐かしい...優しくて少しだけお茶目だけれどしっかりと芯が真っすぐ通った雰囲気なのを感じ取り、ボクはいつの間にか....

 

ジャ「もしかして...お父さん?」

 

と、口に出してしまった。

 

そんな事を突然言われたらきっと困惑した顔をしてしまうだろうと彼の顔を見ると―――物凄く驚いた顔でこちらを見ていた。

 

ダ「あはは! まさかこんなにも早く気づかれてしまうとは思わなかったよ!」

 

ジャ「....え? それじゃあもしかして本当にお父さん?」

 

ダ「そうさ! と、言っても僕と彼女は突然消える間際にジャンヌとダルキアンの魂と意志が僕たちの前に現れて「何時か貴方の娘が我々の前に現れる。その時に我々は託すものがあるのでその間だけなら再会し、少しの時間なら最後のメッセージを送ることくらいは出来るが...どうする?」と呼びかけられ、僕たちは彼らに託すことにしたんだ」

 

ジャ「....そうだったんだ。ボクはお母さんとの再会の時には最後の方まで気が付けなくて...満足に会話することも、ボクのせいで二人が消えてしまったことを謝ることも出来なかったんだ」

 

ダ「それは仕方がない事だと思うよ? それに謝る必要なんてないさ! 寧ろ僕らがジャンヌに謝らないといけない。今は高町家の皆さんに良くしてもらっているみたいだけれど僕たちはジャンヌのこれからの成長を見届けることも、辛い時に傍で慰めることも、褒めてあげることも出来ないんだ。だからこれからも寂しい想いをするだろうけど許してくれるかな?」

 

ジャ「許すも何もないよ! 元を辿るのなら全てボクが引き起こしてしまったことなんだから...」

 

それからボクはさっきとは逆にお父さんに抱き締められながら謝りながらひたすら泣き続けた。

 

ダ「他にも沢山話したい事があったんだけれど....そろそろ時間がなくなってきてしまったから本題に入ろう」

 

ジャ「ぐすん...本題?」

 

ボクがようやく落ち着いたタイミングでお父さんが話を切り出す。

 

ダ「内容は全部で3つ。一つ目はジャンヌにある物を預かっている。」

 

ジャ「ある物?」

 

ダ「そう、ジャンヌが前世で使用し、ジャンヌ以外は何故か使えなくなってしまった物と言えばわかるかな?」

 

ジャ「ま、まさか!? フレイさんの勝利の剣なんて言わないよね!?」

 

ダ「誠に残念な事に...聞かされた時は正気を疑ったけれどティルフィングまであるんだよね」(苦笑)

 

ジャ「......その二本があればあっさり世界征服なんて余裕なんだよ? ただでさえ既にロストロギア指定されそうな武器が3種類もあるのにまだ増えるの!? 勝利の剣に関してはまあ、常に帯剣してなかったり他の剣を握ると何処からともなく飛んできて刺されそうになるレベルで気にいられちゃったのは分かってたけれど....もしかしてティルフィングの方はボクを自分の手?で刺殺してないから[使い逃げは許さないよ?]的なことじゃないよね!? 違うよね!?」

 

そう、前世のダルキアンだった時にこの二本は何故かボクを剣なのにまるで意志があるかの様に溺愛するレベルで気にいられていたんだけれど今でいうところのヤンデレ属性持ちだったのか常に帯剣しておかないと後ろから刺されそうになる悪夢を何度も何度も味わったトラウマが甦り、捲し立てるように青い顔をしながらお父さんに詰め寄ってしまう。

 

ダ「じ、実はやっぱりこの二本は病んでるらしくてね。....ダルキアンが殺された後に真っ先に人間たちに襲い掛かったせいで僅か10分で3つの都市を潰し、このままだとやばいって事で慌てて本来はフェンリルを縛る為に作ったはずのグレイプニルでぐるぐる巻きにして亜空間に封印したレベルだったらしいよ」(遠い目)

 

ジャ「....ボ、ボク...用事を思い出したからこの辺で...」

 

ダ「....逃げても良いけど多分刺しに来るよ?」

 

ジャ「ア、アハハ...やだなぁ、お父さん。まさかボクを溺愛してた二本が刺しにくるわけないじゃん♪」

 

ダ「そ、そうだよね! 流石にそんな事しないよね!」

 

ジャ・ダ「「........」」

 

しばらく重い沈黙が流れ、耐えきれなくなったボクは早々に諦め、切り出すことにした。

 

ジャ「そ、それでその二本をどうやって渡すつもりなの? 既に剣ならレーヴァテインがあるんだけど?」

 

ダ「その事なんだけれどね。実はラピュセとさっき話し合ってラピュセ・ティルフィング・勝利の剣の3本が何故か意気投合したせいで「それならみんなの良い所取りしてしまった一つのデバイスに統合してしまえばいいのです!!」とカオスな展開の結果新しいデバイスにすることで意見がまとまったんだけれど....」

 

ジャ「....転生してから全然戦ってないのにパワーアップしすぎているのは気のせいかなぁ。気のせいだよねぇ」(遠い目)

 

ダ「現実逃避しているところで悪いんだけれど二つ目の悪い知らせがあって、この前の目覚めの事件でロキの馬鹿が面白がって戦いで死んでしまったフェンリルの魂と、ジャンヌの魔力と合わせ、しかもどうせならと性別と人格をオス→メスに替え、しかもジャンヌの守護獣にした挙句に黄昏の力に目覚めると同時に現れるようにしていたらしくて...現在、外が突如としてジャンヌの布団の中に現れた狼耳&尻尾の生えた幼女が潜り込んでいる騒ぎでパニック状態です」(冷や汗)

 

ジャ「最恐にして最凶にして最狂の専用剣型決戦兵器が二本にこっちの世界の北欧神話だと主神であるオーディンさんすらうまうまと飲み込める狼が使い魔とか.....ボクの人生終わったんんじゃないかな? 終わってるよねぇ」

 

あんまりにあんまりな内容にボクはその場に崩れ落ちるとorzの体勢となってしまう程に伝えられた内容が酷かったのです。

 

ダ「そ、そんな汎用人型決戦兵器みたいな事言われても....事実だから否定できないけれど少なくとも勝利の剣もティルフィングも既に剣としての性能だけ残して意識は残っていないからジャンヌの騎士甲冑とラピュセの新しい名前を考えてあげるだけで済むし、フェンリルに関しては元々ジャンヌが乗り物やベッド代わりに使ってたんだから今更じゃない?」

 

何故かダルキアン時代のボクはフェンリルを偶々ロキから紹介された当時はまだまだ仔犬みたいで物凄く可愛かったから色々と芸を仕込んだり、身体が大きくなるにつれてモフモフ&サラサラな毛並みと丁度いい柔らかさで良くフェンリルのお腹をベッドにし、尻尾を布団代わりに使ってたり、走るのが速かったって理由でスレイプニルを使うことなんて滅多に出来ないから遠くに行く際の馬代わりにしてたんだよねぇ。

 

ジャ「今更だけれど無知ってある意味凄いよね! こっちの世界の北欧神話だと神々に災いを招くとか、オーディンさんを丸のみだよ? それがボクが係ったせいでフローズヴィトニルとかヴァナルガンドとか呼ばれることなくボクとセットで勝利を引き寄せる者(シグルドリーヴァ)って意味で呼ばれてたもんね!」

 

ダルキアンとしての人生を共に過ごした半身と言っても良い程に常に一緒に行動し、争いが起こる度に共に戦場を駆け抜けていたせいでそう呼ばれてしまう程の事をやらかしていたのです!

 

ダ「あはは...その話をダルキアンから教えられた時は驚き過ぎてしばらく唖然としてしまったんだよね。と、とりあえずそういう事だから今世も面倒を見てあげてくれないかな?」

 

ジャ「まあ、フェンリルとは何だかんだで半身のような感じだし、あのモフモフ&ふわふわでサラサラな毛並みは気持ちが良いのもあるけれど戦闘力は多分その辺の魔導士相手なら完封出来ちゃうよね?」

 

ダ「うん、今はジャンヌと同い年の6歳だから推定ランクはAA+くらいだけれど専用デバイスが名前から想像できるだろうけどスコル&ハティってカートリッジシステム搭載型のガントレッド型アームドデバイスをハティの遺言で死んだ際に「我々に沢山の楽しい時間や穏やかなひと時を送らせてくれた恩返しとして自分たちを材料にデバイスにして欲しい。そうすれば我々は今度こそあの方を守ることが出来るのだから」と言われたオーディン様がその意志を汲んで製作したものをどうせなら同じ狼のフェンリルに持たせることでジャンヌの守護獣にしようと考えて持っているから魔導士処かベルカの騎士相手でも余裕だと思うよ」

 

それを聞いて思わず絶句してしまったボクは悪くないと思う。

 

だってフェンリルもそうだけれどあのスコル&ハティの双子とも沢山遊んだりしたけれど死後までボクの為にその力を振るってくれるとは思わなかったから...。

 

だって確かに一緒に遊び、時にはふざけ合ったりしながら家族の様に育ってきたけれど精々恩があるとしたら偶にふざけ過ぎて怪我してくる二匹の治療くらいしかしていなかった。

 

それに寧ろ恩があるのはボクの方で、あの世界には家族と呼べる者が当時には居なかった当時、フェンリルやスコルとハティがボクの家族になってくれた恩がある。

 

だから死んだあとまでボクに尽くそうとしてくれているのが申し訳なく思う気持ち以上にとても嬉しくて、再び形は違えど家族が揃って共に居られる事で嬉しさのあまり再び涙があふれ出し、心から色々な感情が溢れ出てくるのを感じる。

 

ダ「色々と思うところはあるだろうけれど最後に三つ目の話が残っているんだよね」

 

ジャ「うっ...ひっく...三つ目は...なに?」

 

何とか涙を堪え、お父さんの言葉に耳を傾ける。

 

ダ「三つ目の内容はジャンヌは今、目の前に広がっている現実の絶望を受け入れる又は拒絶するのかの答えを出さなければいけないんだ。仮に拒絶しても黄昏の力が封じられてこれ以上辛い思いをしなくて済むが――受け入れるのなら黄昏の力を手にする代わりに更なる辛い思いを受け入れないといけない」

 

ジャ「どんな事を受け入れなきゃいけないの?」

 

お父さんは悲痛な表情でお父さんが告げた言葉はボクにとっては文字通り絶望的な現実を突きつけられることになる。

 

ダ「ティルフィングや勝利の剣との統合による紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)の管理人格への多大なる負担でノルン内部に一度収納され、良ければ一時的に機能不全程度になるが最悪の場合は管理人格であるAIに致命的な損傷を与えることになる」

 

ジャ「ッ!? そ、それってつまり....ラピュセが死ぬかもしれないってこと?」

 

ダ「その通りだよ。だけれど必ずしも最悪の結果になるとは限らない。」

 

ジャ「つまりはそうなる可能性もあるってだけの話だよね?」

 

ダ「うん。だから受け入れるのなら生半可な覚悟で受け入れちゃダメだって事だね。だから絶対に後悔しないように覚悟を決めて欲しいんだ。」

 

最悪な結果が脳裏によぎる。

 

でも、そんな事を考えるのは今までボクを支えてくれたラピュセに対する侮辱だし、パートナーに対する信頼を裏切る事だと思い返すし、覚悟を決めてお父さんの目をしっかりと見ながらボクはお父さんに選択に対する答えを示す。

 

ジャ「ボクが出す答えは――どんなに辛い現実だろうと絶望だろうとそれを見て見ぬフリをしてしまったらボクはボクでなくなってしまう。それにラピュセが死んでしまうかもしれなけれどあくまで「かもしれない」って可能性の話なのにそれが怖くてここで受け入れないなんて選択をしてしまったらラピュセに対する裏切りになるからボクはどんな最悪な結果になろうと受け入れるよ」

 

そう答えると突如として目の前の絶望の荒野の世界に亀裂が走り、砕け散る。

 

ダ「その答えを待っていたよ。やっぱりジャンヌは僕と彼女の自慢の娘だね♪」

 

先程とは景色が変わり、黄昏色の空へと変わった世界樹の麓で満足そうな笑顔を浮かべる今にも消えてしまいそうだけれど半透明のジャンヌでもダルキアンでもない、お父さんとお母さんがこちらに笑顔で手を振っている。

 

母「貴女は頑張り屋さんだけれどこの先の貴女の道は辛く険しいことも沢山あると思います」

 

父「だけれど決して諦めずに辛い時には休み、後ろを振り返っても良いのだからゆっくりと自分の歩む道を見つけなさい」

 

母「そして他人の為に頑張ることも良いけれど自分を犠牲にしたらダメですよ?」

 

父「だが、絶対に犠牲にするなとは言わない。けれど代わりに自分だけの幸せを必ず見つけると約束して欲しい」

 

母・父「「それが私(僕)達からの最初で最後の願いなのだから」」

 

ジャ「約束するよ!! 必ず他人の為だけじゃなくて自分だけの幸せを見つけるから!! だから安心して見守っていてね?」

 

堪え切れなかった涙を流しながらも精一杯の笑顔で応える。

 

お母さんと再び再会できたけれどこれが本当に最後だという事が嫌でもわかるから。

 

だから最後の別れくらいはしっかりと笑顔でお別れをしたい。

 

母「ええ、ちゃんと見守っていますよ」

 

父「例え姿は見えなくとも僕達はジャンヌの心の中や記憶の中に居るし、傍で見守っているから」

 

ジャ「うん...うん! お父さん、お母さん...ずっとずっと大好きです!」

 

そして別れの時は訪れ、ボクの両親は温かく優しい微笑みを浮かべながら光となって消えて行き、ボクはその場にうずくまり意識は手放した。

 

意識を失う前の最後の光景は消えてしまったはずのお父さんとお母さんに優しく抱き締められる感覚と優しくボクの頭を笑顔で撫でてくれている二人の姿だった。

 

~Side Out~

 

 

 

 

 




補足:今回登場したダルキアンと父親ですがここでの逃れられない現実や絶望から訪れるであろう耐えがたい結果を受け入れると覚悟を決めることで神眼の封印が完全に解除されました。

アームドデバイスであるスコル&ハティは名前から想像出来るように太陽と月の文様とイメージしたカラーリングのガントレッド型となる予定です。

そして察しが良い人は気が付くと思いますが太陽と月(正確には日食と月食なのですが)のデバイスを持つ守護獣の主=黄昏って安易な考えで登場させてみました。

そして紅蓮の聖女の魔改造に関してはどちらの前世でも認められましたので二つの要素を混ぜ合わせた今後のダルキアン式魔法を開発するうえでのキーアイテムになる予定ですので色々と思うところがあると思いますがよろしくお願いします。


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