ハリー・ポッターと悪魔の双子 作:ボルヴェ
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sideダンブルドア
ヴォルデモートの寄生木を潰す事によって、賢者の石についてのいざこざは解決した。
逃がしたとも言えるが、石自体を奴の手から護れただけでも十分だった。
主にあの双子の功績じゃが、二人にはこれについての加点及び表彰は絶対にしないようにと口を揃えていいよった。確かに表彰については表沙汰にする分死喰い人やヴォルデモートの目に止まる可能性が無いとも言えんが、加点位はいいんじゃないだろうか。
というか表彰自体も、今回の事態で話によればバージルだけとはいえヴォルデモートと面識を持ったのだ。今更ではないかとも思う。
まあ本人達が止めろという以上ワシの独断で無理矢理行う事でもないのだから仕方が無い。
了解の返事をし、報告を済ませた双子が校長室を出ていとうとした時、ふとバージルが足を止めた。まだ何か用があるのかとその背に話しかけると、ゆっくりとその顔がこちらに向けられる。
ぞわりと、背中に悪寒が走る。
殺意ではない。だが確かに敵意の混ざった雰囲気。鋭い瞳を向けられまるで金縛りにあったかのような、自身が蛇に睨まれた蛙になった様な錯覚を覚えながら、唾を飲み込み彼の言葉を待つ。
やけに耳に残る、自身の嚥下音。
「……悪魔としての正体を現したのはウロス・ブルーニただ一人だったが、クィリナス・クィレルも奴程とは言わずとも悪魔の力を利用していた事を、お前は知っていたか」
全く知らない事だ。その点の驚きも強いが、そう言おうにも声が出ない。まるで麻痺を起こした喉が言うことを聞かない。
バージルは続ける。
「分かりやすく言い換えてやろう。
後ろでダンテが壁に背を預けて手持ち無沙汰な仕草をしながらも、いつも通り余裕に満ちた表情でこちらを見ている。だがその目は一切笑っていない。
「相手が死喰い人であれ誰であれ、狩る対象が悪魔なのは変わらん。……ダンブルドア、貴様には恩もある。感謝している。だが、」
一層強くなる、抜き身刃の如き冷たい気迫。一つでも余計な真似をしてしまえば、身体の末端から切り刻まれてしまうような重圧に満ちた空気。
そして悪魔は、最後の一言を口にした。
「───俺達を貴様らの争いの道具として利用しようとしているのならば、それ相応の覚悟はしておけ」
その言葉の答えなど聞く気が無いともでも言うように、バージルは無駄のない動作で背を向けて扉へと足を運ぶ。ダンテも「じゃーな」と軽い口振りでその後を追うように出ていった。
『それ相応の覚悟はしておけ』
頭の中で何度も再生されるあの言葉。
結局ダンブルドアはそれから数十分、その場から動く事が出来なかった。
sideハリー
目覚めて初めに見えたのは、知っているような知らないような天井だった。
というか何故か記憶があやふやな気がする。頭でも強く打ったかと体を持ち上げようとした時、全身に激痛が走り、再び体がベッドに沈んだ。苦しい。電流が走ったような痛みに、動けない。そういえばあの悪魔教師に骨折くらいおかしくない程度の強さで吹き飛ばされたんだった。
しかしそれからすぐにダンブルドア先生が来て、賢者の石を護れたこと、またニコラス・フラメルとの相談の末、石は破壊したことを伝えられ、ホッと息を下ろす。
その後何があったのか、何をしたのかを一から全て話した。三人で罠を切り抜けた事、ブルーニにヴォルデモートが取り付いていた事、奴が悪魔になった事。
そしてブルーニが何故僕に触れて怪我をしたのか、その正体が母の魔法だということを聞いて、みぞの鏡を覗いた時と同じくらい、両親を近くに感じた。
母の愛。御伽噺の様なものが僕を護ってくれている。明確な理由は分からないが、とても暖かい気分が僕の中に広がり、みぞの鏡を見た時と同じような切なさと嬉しさを確かに受けた。
しかし問題が解決したからと言って身体は数本骨が折れている為に暫くはベッド安静。
退屈を紛らわすために、ロンとハーマイオニーが持ってきてくれていたお菓子に手を伸ばそうとして、ふとあやふやな記憶の一つがぼんやりと思い返される。
ブルーニが僕を突き飛ばしてから記憶はない上その点に関して詳しい説明をされ無かった為よく分からないのだが、多分その後にダンブルドア先生か誰かがブルーニを倒してくれたんだと思う。
あれだけ啖呵を切りながら僕は何も出来なかったのだ。
それに一矢報えたのも、母の加護があったからであって僕の力じゃない。
ロンは命を張って先に進めさせてくれた。ハーマイオニーはその知恵で罠を越えて導いてくれた。
僕は何が出来た? 英雄と囃したてられて、僕は一体何をした?
強く刻まれた眉間の皺に気付かないハリーに、コンコンと何処かから何かをこつくような音が聞こえた。暗い思考が途切れる。
音の方向は背後の窓。
鳥かなにかが啄いたかなと顔を向けて、その視界に入るまさかの人の姿に、驚いて噴き出しかけた。腕を精一杯に伸ばして、慌てて窓を開ける。
「ダンテ! 何でこんなとこから!?」
「シーッ、静かにしろ。授業サボってっから。ポンプリーに見つかったら摘み出されちまう」
裏地の紅いローブをヒラリと翻して、ダンテが窓から室内に入ってくる。相変わらず予想の出来ない登場の仕方である。というかさらりとサボったという単語が聞こえてきたが、良いのだろうか。
「お前の友人に此処に居るって聞いてな。具合はどうだ?」
「……そっか。普通に骨は折れちゃったけど、元気だよ」
情報が早い、流石はダンテ。というか別に授業をサボらなくても見舞いにこれる時間はあるんじゃないか。誰の授業をサボったのかは分からないけど、僕の見舞いのせいで彼が叱られるのは何だかやるせない。
ので、ダンテが怒られないように祈っておくことにしよう。
嵐の如き来客者の手には数十個という明らかに多すぎる蛙チョコレートの差し入れ。その山を受け取りながらも、笑顔で隠しきれない冴えない表情と未だ引き摺る靄のかかった感情によって押し黙ってしまう。折角ダンテがお見舞いに来てくれたというのに。
「……ハリー」
「、えっ、モゴッ」
しかし再びダンテの声に我に返る。それと殆ど同時に、間抜けに空いた自分の口にチョコレートが突っ込まれた。口の中で蛙チョコが跳ねてる気がする。
何度でも思うが食品の癖に食べるのに苦労する奴だ。強引に歯を当てて喉の奥にしまうために口を動かす。
「
「うめぇだろ」
「いや、……美味しいけどさ」
突然の事に思わずムッとした表情をしたハリーにダンテは満足そうな顔をして、稲妻のような傷の走ったその額にそこそこの威力のあるデコピンをお見舞いした。
地味に痛む額を抑えながら、藪から棒に何なのだという文句を含んだ目を向ける。
「そんな難しい顔はガキンチョには似合わねぇよ」
その言葉に思わず口へと手を当てる。どうやら僕の暗い考えがしっかり彼に伝わっていたらしい。いや、それもそうか。隠そうともしてなかった。
わざわざダンテに心配をかけるような真似をしたくは無かったのに。また心配をかけて、助けてもらおうとしているのか。
とは思いつつも、これは一種のチャンスなのかもしれないと開き直る自分もいる。
結局僕は意を決してハリーは口を開いた。
「……ダンテ」
「何だ、またそんな真剣な顔しやがって」
「僕は知らない間に英雄なんて言われるけど、そんな事を言って貰えるような奴じゃないんだ」
僕の言葉を聞いてダンテは口を閉じる。その目に普段ハリー達を茶化すような色は無く、ただ先を急かさず待ってくれている。嵐のような男とは言うけれど、こういう状況を逐一分かってくれるところがダンテの優しいところだと思う。
「頭は良くない、チェスも上手くない。魔法が沢山使えるわけじゃない。……今回の事も、こうなった原因の事も、解決できたのは僕の力じゃないんだ」
僕は何を言っているんだろうか。
ダンテは確かにすごい。確かに何度も助けられたし、何度も憧れを持った。けどそれだけだ。この自由気ままな男の事を何も知らない。彼も今回の出来事なんて知らないはずだ。
というのにこんな訳の分からない事を突然話してしまった。何を言っているのだと笑われるだろうか。
そんなハリーの心配をそんな事かと言うように、ダンテはいつも通りの笑みを見せた。
「お前が英雄かどうかなんて俺は知らねぇ。俺が知ってんのはハリー・ポッターっていう新人シーカーのひよっこ一年生だ。
パーシーの弟も、あの賢い嬢ちゃんも初めこそお前を"闇の帝王を倒した英雄"として見ただろうが、今でもそうだと思うか?」
ロンとハーマイオニーの顔が思い浮かぶ。ダンテの言う通り出会いこそ確かに"ハリー・ポッター"の名前に食いついてきただろう。列車で見た、僕の名前を言った時の彼らの顔はそうだった。
けれど二人は、この学校に入学する前に少しくらい喋っただけの僕の為に、怒って、笑って、叱ってくれた。それは"ヴォルデモートを倒した英雄"というハリボテではなく、"ハリー・ポッター"の友人として。
「ハリー、外聞に惑わされんな。ソイツはお前を煽てるだけ煽てて時が来れば捨てる、一瞬で何の迷いもなく捨てる。……見えない声を振り切れ。何が正しくて何を信じるのかはお前自身が考えるんだ」
「……でも、どうすればいいか」
ダンテが何を言いたいのかは分かる。だけどどうすればいいかは分からない。僕はまだ11歳の子供で経験も何も無い無知だから。
それでもダンテはいつもの飄々とした表情を崩さずに僕の目を真直ぐ見た。
「難しく考えんな。近いところから見ていけ。例えば……そうだな、お前はスリザリンが嫌いか?」
「……うん。マルフォイだってすぐに喧嘩を売りに来るし、嫌なやつばっかだと思う」
思い返される列車での嫌味な言葉。あの時カチンときてから以来マルフォイ筆頭にスリザリンが嫌いになった。グリフィンドール生だって皆嫌っているのだからと。
「じゃあそのマルフォイって奴は、本当にお前が何も言わなくても初対面から喧嘩売ってきたのか?」
「え、……いや、そう、じゃない」
ふと思い返す。一応曲がりなりにも、いや随分ひん曲がった言い方だったがあの時のマルフォイは「友達になろうぜ」に近いニュアンスの発言をしていた。そして「友達は僕が選ぶ」といって突き放したのは僕の方だった。元よりスリザリンの評判の悪さをロンから伝えられていたし、マルフォイが上から目線な物言いをしてきたのも事実だったのだからあちらも悪いと思うけど。
「良いんだよ、ムカついたんなら思ったことを言ってやれ。そもそもアイツも相当ひん曲がってるからな。けど実際何も知らない奴を先入観で決めつけんのはいただけねぇ」
「……でもスリザリンに入るような奴は、危ないやつだし」
「思うのは自由だ。問題はなんでそう思ったか。お前は人から聞いてそう判断したんだろ?」
「それは、そうだけど……」
遂に尻すぼみになっていった言葉が、ハリーの揺らぐ思考を物語る。そのまま居心地の悪くなった目線を自分の手元へと下ろした。
ダンテに言われるがままに考えて、いかに他人の言葉に身を委ねていたのかが浮き彫りになっている。人に英雄だどうだと言われるのをどこか鬱陶しく思っていたのに、自分もそれと同じようなことをしていたのだと。
「……もしお前が英雄だって語られんのが嫌なら、お前も"外聞"の一部にならないようにしなきゃな」
僕の曇る内心を察してくれたのかは分からないが、それ以上言うことなく、ダンテはハリーの頭にいつものように手を置いた。
たった一年間でこの手に何度救われただろうか。危険に晒された時も不安になった時も、少々乱暴だったがいつも正しい方向を指し示してくれる。
しかし身を委ねるのはこれで終わりにしたい。ダンテという英雄も、僕はまだ11歳で魔法覚えたてのひよっこという事も関係ないのだ。
まだ迷惑はかけてしまうかもしれないが、それでも。
今はこの先輩の背中を見させてもらおう。けどいつかは隣に、いやその先に行きたい。烏滸がましいけれど、英雄なんて仰々しい呼び名をされるのならば逃げるのではなくそれ相応の魔法使いになって黙らせてやりたいと、この豪快な男の影を見て初めてそう思えた。
俯いていた頭を持ち上げる。その顔に最早迷いは無い。
「───決めたよ、ダンテ」
未来の英雄が、隠れた英雄を見据えだした。
□■□
ホグワーツはそのまま学年度末を迎え、パーティの為に全生徒が大広間に集まった。バージルというまさかのスリザリン生のおかげもあってドラゴンの件での大減点は存在し得ないものとなり、結果グリフィンドールの優勝という形で一年の幕が降ろされた。
弟であるロンの活躍、そして自身の寮の優勝に狂喜乱舞となったパーシーに、ダンテは大爆笑はすれど止めることはなくグリフィンドール生はいつもより三割増はお祭り騒ぎとなった。
ハッフルパフとレイブンクローは祝福している様子であったがスリザリンは見事なまでの落胆っぷりだ。正直なところ原因を作ったーー作らずともスリザリンは優勝できなかったであろうがーーバージルは我関せず、寮間の優劣など欠片も興味無さげな表情で瞑想するように静かに目を閉じている。
因みに試験についてはハリー、ロン、ハーマイオニー共に合格し無事に進級を果たした。ダンテは進級のかかった試験ということからどうやらバージルに助けを仰いだようで、彼の鬼教師っぷりが存分に発揮されまさかの順位一桁代という好順位をたたき出した。元々覚えの良い男だったのだから偶然でも何でもなかったのだろうが。
それでもDanteと記入された解答用紙に高得点が並ぶという信じられない光景に、先生の何人かが白目を向いて倒れかけたという話は後に学校中に知れ渡るが、これはまた別の話である。
そしてバージルに関しては最早定期化しかけているが、五年連続学年主席の座を獲得したのであった。
そして更に時は過ぎ、ホグワーツでの一年は終わりを迎えた。
ハリーはハグリッドと別れの言葉を交わしロン、ハーマイオニーと共にキングス・クロス行きの特急列車へと足を進める。
友人を得て、英雄に出会った。充実した一年間だったからこそダーズリーの家に戻るのは苦痛だ。しかし自分の家はそこしかない。来年からホグワーツに行けないわけじゃないのだ。若干足取りは重いが仕方が無いと、もう割り切っていた。
ふと視界に、マルフォイの姿が目に映る。
「ハリー、特急が来たよ。早く乗、あれ、……ハリー?」
ロンと、続くハーマイオニーの声を悪いと思いつつも無視して、ハリーはその顔色の悪い男に近づいた。撫で付けられた金髪と共に相変わらず喧嘩を売るような表情がこちらに向けられる。けれどハリーはいつもと違った穏やかな表情で彼の顔に向かい合わせた。
「おやおやポッターじゃないか。グリフィンドールの英雄様が僕に何のようだ?」
聞き慣れた挑発。多分今までのハリーだったらロンも交えて激しい口論間違いなしとなっていただろう。だがもうこれまでとはいかない。その通りに、ハリーは気にもとめないと、マルフォイに向けて口角を上げた。それは悪意のない自然な笑みだった。
「僕、君に会った時"友達は自分で選ぶ"って言ったよね」
「あぁ、お前が愚かなグリフィンドール生な事がよーく分かった瞬間だったね。それがどうし、」
「だからマルフォイ、君に言いたいことがある」
続けざまの言葉を遮ったハリーに、訝しげな表情のままマルフォイが黙る。そして深く一息を付けて、あの言葉を思い出した。
『思ったことを言ってやれ』
そんな単純な、しかし強く背中を押される言葉を胸に、強い意志で口を開く。
「まず会う度にそうやって嫌味を言うのはいけないな。君のは相手に対する文句というより喧嘩を売ってるだけになっちゃってるから、もっと具体的に何が気に食わないのかを教えてくれないと僕は何も出来ない。それとハーマイオニーやロンに対する暴言。あの二人も言い合いはしたけど出身や家の立場に対してどうこういう事はなかった。態度や行動と違ってそれは正せないよ。君の考えについて正せとは言わないけど、相手の配慮もするべきだ。いくら喧嘩とはいえどね。それとこれが一番重要、騙すのは良くない。決闘を申し込んだのなら、決着はちゃんとつけないと格好悪いだろ。だから次僕に挑む時はちゃんと勝負するように。
……よし、スッキリした。それで君は何の文句がある?」
「……は?」
マルフォイは珍しいくらい呆けた顔になっている。何だよその顔は、と笑いかけるがここで笑ったらまた言い合いになっちゃって話にならない気がしたから耐える。
どうやら全く頭が追いついてないらしい。何故突然こんな馬鹿真面目な文句を息継ぎ無しのマシンガントークをしてきたのかと拍子抜けしたマルフォイなどお構い無しにハリーはその短い疑問に言葉を返した。
「僕は友達は自分で選ぶけど、今の君と僕はいざこざがありすぎるんだ。だからここは満足するまでお互いの文句を言いあってそれを無くそうとしようと思って。……あ、まずい列車が出る」
「お、お前はいきなり何意味の分からないことを言い出す……おい襟を掴むな! 引きずるなー!」
「早くしないと列車が出るから、後は中で話そう。あ、ロンとハーマイオニー! 君らも一緒に話すんだ!」
「あ、ハリー。どこに行って、た……ハリーはなんでマルフォイを引きずってるの!?
」
「ハリー! いきなり走り出したと思ったらどこに……って、マルフォイ!? 何でお前がこんなところに!」
「知るか! コイツに聞け!」
そんなグリフィンドールとスリザリンのコントじみたやり取りに他生徒達が奇怪な視線を送りながら、ホグワーツ特急は駅を後にした。
やがて誰もいなくなったホームで佇む、先程の様子を静かに眺めていた銀髪の男は、今頃列車の中で面白い言い合いをしているであろう彼らの影の追って満足そうな笑みを浮かべ、ホグワーツの方向へと踵を返す。
恐らく敷かれかけたレールをぶっ壊し始めたであろうハリーの行く末に期待しながら。
「……なんて良い感じに終わりかけてんのに、相変わらずの水差し野郎だよなお前ら」
しかし束の間、後もう少しで校内に帰りかけたといのに、誰も居ないと思っていた中庭に現れた無数の悪魔共。その群れの中心では、やれやれと言いたげなダンテが呆れ混じりの声で呟いた。
普段ホグワーツでは悪魔、また魔法生物の侵入を防ぐために特有の結界が張られているーーダンテとバージルの気配を追ってくる為ーーのだが、何故敷地内に現れているのか。
不快な声を聞いて顔を歪ませた、どこぞの名画の如き顔を携えた悪魔はその手に握られた大鎌で余裕綽々な男を貫かんと飛び上がる。が、その体はダンテに近づく前に少しの狂い無く真っ二つに寸断された。
誰がやった等見なくとも分かる。背後に現れた気配に顔を向けること無く、頭を乱暴に掻きながら溜息を零してボヤいた。
「何でこんな悪魔が湧いてんだ。結界はどうしたよ」
「生徒の帰省に合わせて結界の範囲をホグワーツ校内まで縮小しただけだ。大方魔力の節約が目的だろう」
なんだその適当な理由は、と思ったが結界というのは特殊な魔力を有する一種の魔具を使用した物なのだ。しかもそれは悪魔を宿しているだとか、悪魔が直接姿を変えたものではなく"魔力を宿している"だけの代物。
勿論特殊な魔力の配分を考慮しながら供給すれば再び使用こそできるが如何せんその作業は容易じゃない。それを考慮すればこの判断は妥当とは言えるが。
「Humph……結界解いた途端ラブコールか。熱烈なヤツらだな」
「こんな脆弱な手勢を寄越す程度の連中に興味など無い」
気付けばバージルも含めて覆い囲む程の悪魔の大群を、脆弱だと切り捨てる。それもその筈だ。奴らはついこの前手合わせをしたベリアルの足元にも及ばない下級悪魔の集まり。
人間間での数の暴力は驚異的な威力を持つが、悪魔という圧倒的に力量差の存在する種族に関しては塵を払う行為に等しい。
双子は背中合わせに悪魔共を見渡し、互いの獲物を構える。その蒼い瞳には悪魔らしい闘争心が隠されること無く鈍い光を放った。
「どうやら休暇もくれないらしいな」
じりじりと詰め寄る悪魔共を鼻で笑えば、いつの間にか呼び寄せたエボニーとアイボリーを器用に手元で回して銃口の先を標的に合わせる。
挑んで来たのならそれ相応の覚悟と命を懸けてもらう。慈悲など、無い。ダンテは至極楽しそうな笑みを浮かべて、指に引っ掛けたトリガーを躊躇無く引いた。
「
ハリー→原作と違いダンテと出会ったことによる自信喪失からのダンテの支援(?)により狭い視野が無くなった。原作のスリザリンに対する異常な嫌悪も無くなった。これからマルフォイを嫌な奴から苦労する奴に華麗な転身を遂げさせるのはきっとこの子。
ダンテ、バージル→原作より幼少期の環境が悪くなかった&兄弟と離別、対立する事が無かった為周りに対する考えの視野が広くなった。相変わらずの戦闘狂チックな双子ではあるが心境の変化は小さくない。
小説の方針で固まったのは、双子が人間対人間の争いに手を出さないと誓っている事。これはスパーダにも言えることだった為。なので決してダンブルドア陣営とは言えない。ただ死喰い人が悪魔の力を悪用する為に粛清している節があるという。正直どこかしらで矛盾が発生している気しかしない。
賢者の石編は終わりになります。