提督が幻想郷に着任しました   作:水無月シルシ

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沢山お待たせしてごめんなさいでした。
久しぶりなのに話がそれほど進まず申し訳ない……。
ひとまず勢いで投稿しましたので、誤字脱字はご容赦ください。


047 霊二号準備会議

 霊二号作戦開始の3日前。

 鎮守府の会議室にて、青年は友好的な勢力の面々と顔を合わせていた。集まったのは、艦娘代表の長門、赤城をはじめとして、早苗、にとり、文、魔理沙、咲夜、妖夢、鈴仙、萃香、そして青年を合わせた計11名。会議室のテーブルにて、青年を筆頭に顔を突き合わせるようにして会議に臨む。

 

「改めて、以上がダブルスカウターの成果だ。入手した艦娘の中から作戦に出撃する者もいるが、戦前の練度は維持しているから問題はないだろう」

「了解。これだけ増えればひとまず安心かな」

 

 長門の報告に対し、青年は一つ頷く。

 霊一号作戦の際に広げた制海権内及び僅かに外側を偵察し、発生する深海棲艦を撃破して積極的にカード回収を行う威力偵察艦隊『ダブルスカウター』による艦娘集めは順調であった。

 入手した艦娘としては、

 

 睦月型駆逐艦から、六番艦の『水無月』、八番艦の『長月』、十番艦の『三日月』。

 朝潮型駆逐艦から、一番艦の『朝潮』、五番艦の『朝雲』、六番艦の『山雲』。

 陽炎型駆逐艦から、二番艦の『不知火』、三番艦の『黒潮』。

 長良型軽巡洋艦から、二番艦の『五十鈴』。

 球磨型軽巡洋艦から、五番艦の『木曾』。

 高雄型重巡洋艦から、三番艦の『摩耶』。

 千歳型水上機母艦から、二番艦の『千代田』。

 

 の、計十二名。

 特に駆逐艦の増員が目立つが、今後のことを考えれば水雷戦から輸送に護衛まで何でもできる駆逐艦の増員は、大幅な戦力増強ができたといっても過言ではない。

 

「あやや。カミツレさん、鎮守府内の報告を聞かせるために呼んだわけじゃないんでしょう?」

「ん? ああ、うん勿論」

 

 長門からの報告を聞いて少し息をついた青年は、文の急かすような問いかけに同意を返す。

 集まった面々に一通り目を配ってから、青年はおもむろに口を開いた。

 

「予想がついているかもしれないけど、霊夢さんを捜索する作戦――霊二号作戦を発令する予定です」

 

 眼光を鋭くする者、腕を組んで天井を仰ぐ者、長い溜息を吐く者と反応は様々だが、青年は続ける。

 

「作戦の開始は3日後の早朝。3個艦隊を編成して、前回引き返した地点の更に奥を目指します。前回は手掛かりまででしたが、今回は本人、あるいは本人と思しき存在を実際に確認することまでを目的としています。……まあ、現場判断で可能であれば、奪還まで」

 

 赤城を一瞥すると、彼女は意を決して頷く。

 

「編成について私から説明します。第1艦隊は私が旗艦となり、加賀さん、朧、曙、漣、潮。第2艦隊は蒼龍が旗艦となり、飛龍、睦月、如月、弥生、卯月。この2個艦隊は空母を主力とする機動艦隊です。第3艦隊は金剛旗艦、榛名、高雄、愛宕、摩耶、鳥海と水上火力を集中させた高速打撃部隊となります」

「私たちが聞きたいのは一つだけ。それで『霊夢』と戦えるかどうかよ」

「咲夜さんの言うとおりです。霊夢の御札は無制限で、御札が変化したコウクウキっていうのもかなり強いって聞きました。前回より人数が減っているみたいですが、勝てるんですか?」

 

 咲夜、鈴仙からの立て続けの質問。難しい顔で首をかしげているが、言うことは尤もである。彼女たちは軍艦についての知識などなく、霊夢を助けるための作戦で霊夢と戦い抜けるかのみを気にしているのだから。

 深海化している可能性の高い霊夢。幻想郷の異変を幾度となく解決している彼女の実力は折り紙つきも折り紙つきで、あらゆる弾幕を正確無比な弾道予測により回避し、どこにそれだけ持っているのか不思議なほど圧倒的な数の御札による弾幕で敵を制する。当然ながらスペルカードを有し、能力と相まって発揮されるそれは、恐ろしく凶悪に相手を撃ち滅ぼす。

 何を隠そうこの会議のメンバー。青年、長門、赤城、早苗、にとり以外の者たちは、皆一度は本気の霊夢と戦っているのだ。彼女の強さは、骨身に沁みてわかっていることだろう。故に、気がかりは彼女の強さに対抗できるかというそれだけ。

 

「戦いに絶対はありません」

 

 それでも赤城は、肯定するでもなく、しかし全てを否定するでもなく、淡々と事実を告げた。

 

「私も霊夢さんと思しき深海棲艦と空戦を経験したからこそわかります。彼女はとても強いです。でもそれは、取れる手段の限られている我々にとって、今回の作戦を全て否定する理由にはなりません」

「で、でも、それは皆さんが危ない目に遭ってしまうだけでは……」

「ふふふ。妖夢さん、ご心配ありがとうございます。鎮守府防衛戦力を残し、艦戦偏重の正規空母を4隻。慢心するわけではありませんが、我々一航戦と二航戦の練度は冗談抜きで世界一という自負はあります。人数が少ないということは艦隊直掩範囲も狭くなるため、前回よりは善戦できるでしょう。我々も戦う艦、与えられた状況で最善を求めるしかないのです」

 

 これが、一航戦を誉れとする赤城の出した結論。

 前回は制海権も狭く、外洋は未知の領域であったがために大規模な艦隊を編成せざるを得なかった。

 しかしながら今回は、前回広げた制海権をある程度維持しているため、道中比較的安全に進撃できる行程が増える。そして、前回の戦闘は母基地から放たれる陸上機の航続距離内であったと想定するならば――、

 

 

 我々が博麗霊夢に届く日は、そう遠くはないのかもしれない。

 

 

 故に艦隊は少数精鋭。艦隊防空範囲を狭めてエアカバー範囲を限定させ、艦戦の搭載割合を増加させることによって少しでも博麗霊夢と渡り合える確率を増やそうと考えた。対空射撃は薄くなるが、全員が全員高い対空性能を持つわけではないため、今後の課題となるだろう。

 

「カミツレさんはそれでいいんですね?」

 

 困惑気味に、早苗からの問い。

 

「良いも悪いも、今回は真っ向から霊夢さんと戦う気はないよ。制空権だけ絶対渡さずに、霊夢さんと思われる存在を発見したらもう即撤退。艦攻艦爆も少ないから、敵の他の大規模艦隊と遭遇しても状況次第で撤退。どう、安全でしょ?」

「提督よ。我々を心配する気持ちはありがたいが、流石に及び腰すぎるのではないか? 少しは信じて送り出してくれ」

「うーん……でも心配だしなあ」

「なら、比叡と霧島を中核とする高速艦隊を制海権内で待機させることにしよう。異状あれば急行、それで問題ないだろう?」

「そうだね、そうしよう。でも、撤退の方針はそのままで。僕らには霊夢さんとの戦いに関する知識がなさすぎるんだから」

「フッ、そう言うなら仕方あるまい」

 

 長門からの提案を受け入れ、早苗に笑顔を向ける青年。自分たちもただではやられるつもりはないから安心してほしいという思いで微笑んだのだが、早苗はやはり不安そうである。

 無理もない。博麗霊夢という存在について未知なのは、彼女も同じなのだから。

 青年はにとりに顔を向け、口を開く。

 

「今話した皆は一次改造中だよね? にとりさん、進捗はどうかな?」

「もう9割終わってるよ。追加の比叡たちもどんとこいさ」

「早いね、ありがとう。比叡たちが終わったら、作戦に参加しない子もどんどん一次改造していこう。資源は大丈夫かな?」

「改造も含めて、この作戦あと10回分は使い切っても大丈夫だよ。ボーキサイトの供給も追いついてきたからね。紅魔館の艦隊はどうするんだい?」

「一時的に交代させながら、順次改造できるように段取り組むことになるかな。頼める?」

「お安い御用だよ」

 

 にとりは胸をドンと叩き、鼻息荒く自信満々に答えた。

 艦娘の改造は、主として艤装の強化となる。霖之助やパチュリーから得たヒントを基にして、にとりがあーでもないこーでもないと頭を悩ませながら改造に関する理論を構築してくれたのだ。

 今回施す『一次改造』は、あくまで既存の装備の強化や戦前利用していたものを復元して装備させるに留まるため、多少は強くなれるがこれまでと大きく変化するような能力向上は見込めない。

 だが、にとりが理論構築した『二次改造』は、長門すら呆気にとられる改造理論であった。『二次改造』は既存の装備を大幅に強化更新するもので、にとり、艦娘、艤装の付喪神の全員が全く同じイメージを持って作業にかからなければ到底不可能とのこと。イメージを持つために、にとりが設計図を起こしたり青年がその艦娘に関する戦闘の来歴を書き起こしたり艤装を模した特殊なアイテムが必要になったりとハードルは高いが、その分『二次改造』によって得られる能力の向上は絶大なものであるらしい。艦娘によっては、艦種の枠を超えた火力の発揮が可能になったり、そもそも艦種そのものが変わってしまったり、搭載機数が大幅に向上したりと、艤装の付喪神が使用側の艦娘に影響を与えてしまうほどに。

 

「さて、作戦とは別に皆さんにお話があります」

 

 にとりの話を聞き入れた後、青年は会議に参加する面々を見渡した。

 

「鎮守府は今後、艦娘を幻想郷各地に滞在させる予定です。霊一号作戦によって制海権を広げることはできましたが、内地に突如出現する深海棲艦が現れなくなったわけではありません」

「そうだな。私も博麗神社で過ごしてはいるけど、神社にもぽつぽつ出るからその度に倒してるよ」

「萃香に同じく。永遠亭の周りでも近くの川に現れますね。私は人里に行く機会も多いんですが、その道中でも見かけるので都度に倒してます」

「紅魔館は、電たちの艦隊が霧の湖に現れる敵を倒してくれてるから安心ね。今でこそ解決したけれど、またお嬢様たちが深海化することを考えると……背筋が凍るわね」

 

 青年の言葉に思い思い語る彼女たちだが、無論この事象は青年も把握している。

 霊夢の捜索救助についてはそれはそれとして、未だに幻想郷各地に出現する深海棲艦を止めることはできていない。以前よりは出現頻度は減ったようであるから制海権の維持が必ずしも効果がないわけではないようだが、深海棲艦が幻想郷の民を深海化させる可能性を考えれば、出現頻度が少ないことは等号で安全に結びつくわけではない。

 故に、艦隊規模の拡大に合わせて艦娘を各地に派遣し、深海棲艦を早期に発見、撃破する。紅魔艦隊が泊地化するにあたっての実績を残しているため、次からは派遣先と派遣する艦娘を選出するだけで防衛範囲を拡げることができるのだから、電たちの功績は大きい。

 

「それで、私たちの次はどこに派遣しようというの?」

「……人里、同時に永遠亭です」

 

  ぴくりと、鈴仙が眉を上げる。

 

「ご存じのとおり、人里は人間が幻想郷で暮らしていく上でなくてはならない場所です。我々鎮守府や守矢神社も浅からぬ関係を築いている上に、幻想郷で生活が営まれている最大単位です。戦力配備を怠った場合、最も被害が出るのはここでしょう。配備する戦力もその分多くなる予定です」

「では、どうして永遠亭へ? 師匠も知っているんですか?」

「永遠亭の周りには河川は限られてるけど、艦娘の皆でも航行できる水路がある以上、深海棲艦が全く現れないとは言えない。のともう一つ。仮に永遠亭周辺で深海化が起きた時、情報網がない僕らには知る手段がない。人里から艦載機で偵察も考えたけど、迷いの竹林がある以上空からの偵察は難しいんだ。まあ、あとは永琳さんの希望もあるかな」

「私たちが深海棲艦に呑まれてしまうとでも――いえ、紅魔館や閻魔だって、霊夢ですら深海化してるものね……。師匠は何か言っていたんですか?」

「あー、っと。……拗ねてた、かな?」

「は、はい?」

「と、ともかく。鈴仙さん、今日は帰ったら永琳さんに艦娘の皆を受け入れる準備だけお願いしますって伝えてくれる?」

 

 意を飲み込んだような飲み込んでいないような顔で、鈴仙はぎこちなく頷いた。どう捉えても納得をしていないというか永琳の拗ねる姿が想像できないような顔をしているが、それはさておき。

 

「改めて、作戦開始は3日後の早朝。今回は鎮守府のみの作戦のため、皆さんは普段どおりに過ごして頂いて構いません。ただ、もし作戦中に内地に深海棲艦が出現した場合、速やかに倒してもらえるなら我々も負担が少なく済みます」

 

 会議も終わり際、青年は魔理沙に目線を合わせる。

 

「結局、1か月きっちり待たせちゃったね。魔理沙ちゃんごめん」

「だからちゃんはやめろよな……そりゃあ私も、霊夢には早く帰ってきてほしいから気持ちは焦るけどさ。冷静になって考えてみれば、結局あいつ相手なんだから準備しすぎるに越したことはないかもしれないんだぜ」

 

 「ま、早く会いたいなあ」と、それまで神妙な面持ちで会議に臨んでいた魔理沙が、椅子の背もたれに寄りかかって大きく息を漏らした。呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな表情で、柔らかく微笑みを浮かべる。

 

 誰よりも霊夢への思いの強い魔理沙だからこそ、誰よりも霊夢を心配してやまない魔理沙だからこそ。

 そして、誰よりも霊夢の強さを知っている彼女だからこそ、生きていると分かった霊夢に安堵して悪友心を持ったのかもしれない。

 

 そんな少女の思いを無駄にしてはならない。

 そんな少女の捻くれを、それが正しいものとして受け入れてはならない。

 

「もしどうにも気持ちが落ち着かなかったら、話ぐらいは聞いてあげられるから」

「……はん。認めたくねえけど、変わったなカミツレ」

「それは……いい意味で?」

「当たり前だ。あとさっきお前、1か月待たせたって言ったよな? 冗談じゃないぜ。言っとくけどな、私の気持ち的には――」

 

 「4年半くらい待たされた気分だぜ」と、彼女は悪戯っぽく口角を上げた。

 ともあれ、霊二号作戦の発令は間もなく。

 博麗霊夢の捜索は、ようやく再開される――。




着任
睦月型駆逐艦六番艦『水無月』
睦月型駆逐艦八番艦『長月』
睦月型駆逐艦十番艦『三日月』
朝潮型駆逐艦一番艦『朝潮』
朝潮型駆逐艦五番艦『朝雲』
朝潮型駆逐艦六番艦『山雲』
陽炎型駆逐艦二番艦『不知火』
陽炎型駆逐艦三番艦『黒潮』
長良型軽巡洋艦二番艦『五十鈴』
球磨型軽巡洋艦五番艦『木曾』
高雄型重巡洋艦三番艦『摩耶』
千歳型水上機母艦二番艦『千代田』


現状と今後について活動報告に記載しますので、興味ある方はご確認ください。
更新頻度の見通しはまだ不明ですが、今後とも拙作をよろしくお願いいたします。

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