では本編スタートです!
カリンとリュカはスライム、おおきづち、ドラキー、グリーンワーム、地中を素早く移動する、頭がセミで鋭い鎌を持つせみもぐら、モヤっとボール(知ってるかな?)に顔をつけたような姿・とげぼうず、文字通りの姿をしている一角ウサギといった魔物たちをばったばったとなぎ倒しながら洞窟を下へ下へと降りて行った。そして、2人は地下二階の一角で件の薬師・カールを発見した。どうやら上から落ちて来た岩が足の上に落ち、身動きが取れなくなっているようだ。
「カールさん!」
「う、うん?カリンか。どうしたんだこんなところへ。」
「カールさんを助けに来たんや。それよりどうしたん?」
「いや、薬草を無事取って来て帰ろうと思ったら少し地震があったらしくてな。そのはずみでこの岩が落ちて来たのだ。」
「そう言えば昨日ちょっと揺れたな〜。あんまり気にも留めてなかったけど。」
「それより、そっちの子は?村の子ではないようだが。」
「忘れたん?パパスさんの息子のリュカやで。」
「おー、あの時のな。大きくなったなあ。だが、子供だけでこんなところに来ちゃいかんだろう。危ないじゃないか。パパスさんもサンチョさんも心配しているだろう。」
「…………リュカ、カールさんは見つかった事やし、怒られるのは嫌やから帰ろ!」
「うん!」
「あ〜〜!こら!ゴメンって!嘘だから!謝るから見捨てないでくれ!」
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二人掛かりで岩をどかせることに成功すると、カリンがカールの足の様子を見る。
「あかんな、完全に折れてるわ。」
ホイミ系の呪文と薬草の効果は傷口を塞いで止血することである。そのため体の中で折れている骨に対しては効かない。というより、馬鹿正直に骨をくっつけてしまうため、接合部がきっちり噛み合わないとズレたまま骨がくっついてしまい、動かせなくなる恐れがあるのだ。(ちなみに薬草は塗布すると上記の効果が発生し、すりつぶして飲むと、体力回復と造血機能の増進の効果がある。しかし、失った血は戻ってこないので、出血多量による死亡は防ぐことはできない。)
「うーん、参った参ったマイケルジャクソンやな。」
「「え?」」
「えっ?あっ、お気になさらず。独り言ですから。」
流石にリュカとかウチの腕力でカールさんを運び出すのは無理やな。戦闘要員も残しとかなあかんし。
すると、最悪なことに魔物がここを取り囲み始めた。合計10匹は下らないだろう。リュカもカールも顔が青ざめている。
「リュカ。」
「な、なに?」
「外へ出てパパスさんを呼んで来て。ウチはここでカールさんの様子見とくから。」
「ダメだよ!カリンとカールさんを置いては行けないよ!カリンが傷つく姿は見たくないよ!」
こういう時こそ年の功である。この時、カールはカリンの表情がガラリと切り替わったことに気づいた。それは、いつもの陽気な彼女ではなく、前世でインターハイに出場した時の、勝負師の顔であった。カリンは震えているリュカの両肩に手を置き、目を覗き込んで余裕の笑みさえ浮かべながら言葉の一つ一つをリュカの脳に叩き込むように話す。
「ええか、リュカ。2人とも残ってもカールさんは運び出せへん。つまりどちらかが助けを呼びに行かな埒が開かへんねん。この状況やったら武器の射程が長いほうが残るべきなんは分かるよな。つまり、あんたがここでぐずってる暇なんかないねん。これが3人が全員が生き残る一番確率の高い方法やねん。ウチはビアンカとダイアナさんを悲しませたくないし、ウチもあんまり死にたくはない。だから、出口へ向かって全力で走って、パパスさんを呼んで来て。ええな。」
大人の落ち着きを醸し出すカリンの態度を見てリュカは冷静さを取り戻した。体の震えは止まり、目には決意の篭った強い光が宿った。そして、カリンに向かって大きく頷いて見せた。
「分かった。すぐに呼んでくるから、待っててね!」
リュカは出口に向かって駆け出して行った。カリンはすぐにカールに向き直る。
「カールさん、今からリュカを追わせないためにこっちに注意を引きつけます。危険な目に遭うと思いますけど、ごめんなさいね。それと、薬草を摘み取るその小ちゃいナイフ貸してくれます?」
「うむ。この命、カリンとリュカに預けよう。ほらよ。」
カリンは小さく頷いてナイフを腰のベルトに差し込むと、リュカを追おうとしたドラキーとグリーンワームを連続で射抜き、大声で叫ぶ。
「オイコラ!お前らの相手はこの私や!」
カリンは文字通り矢継ぎ早に矢を放ちまくり、飛びかかってくる魔物の群れを1匹ずつ射抜いてゆく。
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パパスは洞窟の前に立っていた。昼ごはんの時間になってもリュカとカリンが帰ってこないとサンチョに知らされたパパスは、村の各所を聞き込んで回り、どうやら2人は病気に臥せったダンカンのための薬草を取りに洞窟に入ったまま戻って来なくなった薬師のカールを探しに行ったらしいことが明らかになった。そして昼下がりになり、パパスは洞窟内の探索に出向こうとしていたのである。
洞窟内に足を踏み入れようとすると、中から走ってくる足跡が聞こえてきた。それは、紛れもなく紫のターバンを被ったリュカであった。
「父さ〜ん!!」
「リュカ、何をしていたのだ!志は結構だが昼には戻らないと………」
ここでパパスは息子のリュカが今まで見せたことがないほど切羽詰まった表情をしていることに気づいた。
「何があった?」
「カールさん見つけたのは良かったんだけど、カールさん足を骨折してて………。とても担いでからそうになかったからどうしようかと思ってたら魔物に囲まれちゃったんだ!それでカリンが自分は残るから父さんを呼んで来いって。でもどうしよう!かなりの数だったんだよ!もしカリンが死んだら………」
「落ち着け!リュカ、案内してくれるな!」
「うん!こっちだよ!」
親子は、勇敢な1人の女の子(精神年齢は31歳)を救うために洞窟の中へ駆けて行った。
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どのくらいの魔物を屠っただろうか?
大声で魔物を挑発してから15分。カールを壁にもたれさせ、カリンは矢を放ち続けた。激闘の末に当初31匹を数えた魔物はせみもぐら2匹、とげぼうず2匹、ドラキー1匹の残り5匹まで撃ち減らされていた。
しかし、カリンは力が強くないため、一発では仕留められないことが多く、魔物の数より多い矢とその分だけ多くの体力を使ってしまう。そのために隙も生じ、魔物の攻撃を受けることが多かった。すでに薬草も使い切り、ホイミも魔力切れで打てない。矢も回収できないところに全て飛ばしてしまい、護身のために借り受けたナイフの刃は半ばで折れてしまっていた。それでも美しい紅茶色の髪を振り乱し、肩で息をしながら、カリンは魔物と向かい合っていた。
「カリン!もう良いんだ!私を置いてお前だけでも薬草を持って逃げてくれ!」
「アホなこと………言わんといてください…………。あんたには、………こんな目に遭わされたことに………文句を言わなあかんねんから……………はあ、はあ。」
すると、ドラキーが飛びかかって来た。カリンは弓にドラキーを噛みつかせ、そのまま地面に叩き伏せる。まず1匹。ちょうどそこに野球ボール大の石があったので、とげぼうずに向かって投げつけた。さらにその先にあった矢を転がりながらつがえ、放つ。矢は石が当たり怯んだとげぼうずに過たず直撃し、とげぼうずは息絶えた。そこから立ち上がろうとした時であった。
「カリン!右だ!」
気づかれないように近づいて来た1匹のセミモグラが、カリンの膝をついていた左脹脛を鋭い鎌で貫いた。宙に鮮血が舞った。
「あああああ!」
カリンは浮かしかけていた左足を地面につけてしまう。それでも激痛に耐えながら弓でセミモグラをはたき、弾き飛ばす。すると、とげぼうずがカールに向かって跳躍していた。軌道を見ると、とげぼうずはカールの頭を潰しにかかっていた。それを察知したカリンはカールの前に立ちはだかった。そして、2度目の死を覚悟した。
しかし、予想していた衝撃は訪れなかった。不審に思って視線を動かすと、パパスが投げた剣がとげぼうずの腹に突き刺さり、軌道を変えてカリンのすぐ隣に落下していた。生き残っていたセミモグラもリュカに叩き伏されている。
危機は去った。そう安心した瞬間、カリンの意識はブラックアウトした。
<次回予告>危機は去った。そしてその夜にはカリンの誕生日パーティーが盛大に開かれる。しかし丁度その頃、死者を司る冥界ではある重要な決定がなされていた!
次回、第8話「後始末と宴と異分子と」
賢者の歴史が、また1ページ