いよいよセンター試験まであと8日となってしまいました。ここで自由な発想で物語を考えるのが唯一の癒しになってます。さて、来週12日はセンター前日なのでお休みさせていただきます。次回はセンター明け1月19日金曜日とさせていただきます。
では、本編スタートです!
リュカとヘンリーが落ち着くのを待ってデールが口を開く。
「お二方はご存知ではなかったんですか?カリンさんは知っておられたようですが。」
「いや、ウチも知らんかったんやけど、周りの状況とかから判断してな。」
「そうでしたか。」
「しかしびっくりしたぜ。いつの間にそんな急展開してたんだよ。」
「まあ兄さんとは違って僕はここぞという時にはあまり躊躇しないので。」
「バ、バカ!俺だってちゃんとキスまでは行ったからな!」
「何慌ててるんですか。それより順調そうで何よりです。」
「ありがとよ!………で、式はいつなんだ?」
「9月10日に行うつもりです。」
「…………ああ、親父の誕生日か。」
9月10日はヘンリーとデールの父、前国王エドワードの誕生日である。
「はい。」
すると、デールは何か良いことを思いついたといった風に手を叩いた。
「カリンさん。」
「何でしょう。」
「あなたは兄と添い遂げるつもりはありますか?」
「なっ!?」
カリンの顔に一気に朱が上る。
「い、一応そうできればええかなあとは思ってるんやけど………。」
「兄さんは?」
「うっ…………こういうのはプロポーズの時にきっちり言うもんなんだろうが……………そのつもりだ。」
「なら良かった。」
「「??」」
ヘンリーとカリンの頭に疑問符が浮かぶ。
「イワンさん!」
「陛下、何でしょう?」
「僕のしたい事は分かりますか?」
「…………分かりました。そのように手配いたします。」
イワンはどうやらデールの意図に気づいたようだ。それに遅れてカリンも気付く。
「ま、まさか…………」
「はい、この際パーーッと二組合同で結婚式やっちゃいましょう。」
「「えーーーっ!!!!」」
その時、上の階=王族の私室のある階から1人の女性が降りてきた。デールの花嫁、マリアである。
「あら、何の騒ぎでしょう?」
「マリア、兄さんたちが戻ってきてたんだよ。それで、僕たちの結婚式のついでに兄さんとカリンさんの結婚式もやってしまおうって言う話になってるんだけど、どうかな?」
「まあ!それは良い事ですね。しかし大丈夫なのでしょうか?今城の人たちは私たちの式の準備で手一杯のようですけど。」
「そ、そうやでデール陛下。あんまりこき使うのもあれやろ?」
「そうだそうだ。そんな無茶な事したら城内で過労でぶっ倒れる奴が出るぞ。」
カリンとヘンリーが悪あがきをするが、デールはきっちり対処策まで考えていた。
「そうですね。確かに城内の者だけでは厳しいでしょう。しかし、村の英雄が結婚式を挙げると聞いて、サンタローズ村の人たちが手をこまねいて待っているでしょうか?」
「「……………。」」
2人は完全に反論を封じられて沈黙する。確かにサンタローズ村の人々なら喜んで準備に協力するだろう。
「とりあえず今夜はゆっくりと過ごしてください。夕食も用意させます。サンタローズには早馬を飛ばしておくので、明日の朝に出発なさると良いでしょう。」
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その日のうちにヘンリーの一時帰還とデールとマリアとの挙式の際にヘンリーとカリンの婚礼の儀を同時に行うことが全国に知らされた。花嫁の出身地であるサンタローズを筆頭にアルカパやオラクルベリーでもこの知らせは喜ばれ、あちこちで宴会が開かれた。
リュカ一行はというと、ラインハット城で行われたリュカ一行の帰還と2人の婚約を祝う宴に参加していた。魔物たちも招かれてそれは賑やかな宴となった。酒に弱いリュカはものの1時間で陥没し、スラリンとドラッチはもラインハットの宮廷料理人が腕によりをかけた食事に満足してスヤスヤと寝息を立てている。デールとマリアは仲睦まじく話をしながら時間を過ごし、ピエールとモモも器用にグラスを掴んでワインを嗜みながら何やら会話をしている。
ちなみにリュカは魔物使いとしての才能がさらに開花したのか、今まで何となくの気持ちしか分からなかったのだが、最近は魔物の声が聞こえるそうでモモの直の声も聞こえ始めているそうだ。
そして、当の主役のカリンとヘンリーはそんな面々を横目に夜風が気持ちいいテラスで2人だけでグラスを重ねていた。
「なあ。」
「なんだ?」
「ウチら、ほんまに結婚してまうねんな。」
「らしいな。実感はゼロだが。」
「後悔とかしてへん?」
「どこにだよ。」
「何かプロポーズもせんとなし崩しに結婚が決まってもうたこと。」
「驚きはしたが、後悔はしてねーよ。それよりもカリンが一緒の気持ちだったのが安心した。」
「………ありがと。」
「それより気になる事がある。」
「何?」
「ベネット爺さんが言ってたリュカが一目惚れした女だ。」
「あ〜。確かにウチも気になる。」
「リュカの恋路が叶うことを願って乾杯でもするか。」
「せやな。」
2人のグラスが小気味良い音を立ててぶつかった。
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翌朝、リュカ一行はサンタローズの村の前に立っていた。二日酔いで潰れているリュカに代わってカリンがルーラを唱えた。
「おっ、好きな場所にひとっ飛び出来る呪文を覚えたって噂は本当だったのか。おかえり、カリン、リュカ。」
一行を出迎えたのは村の門番、スコットである。
「ただいま。でも、帰ってきたんはウチらだけちゃうで。」
「?」
スコットは小首を傾げる。
「ほれ、こいつ。」
カリンが見せたのは大きなキラーパンサーであった。スコットはしばらく考えた後にその正体にたどり着いた。
「ま、まさかこの子は………モモちゃんか!」
「そうです。うちのモモです。」
「おおそうか。無事だったんだな。そいつは良かった。さてカリン、どうやら腹を括ったみたいだね。」
「はい。」
「さあ、もうルカが手ぐすね引いて待ってるよ。早く行ってきな。」
カリンは小さく頷くと、ルカの待つ小屋へ消えていった。後には二日酔いでまだフラフラしているリュカと、新郎のヘンリー、そして魔物たちが残されている。
「さて新郎さん、色々と話をしましょうや。それとリュカはどっかで寝てなさい。まったく、昨日何杯飲んだんだ?」
「俺の記憶ではワインまる一本は空けてましたよ。」
「酒弱いくせに無茶しやがって。」
「それよりヨシュアさんは?ラインハット城でも姿を見なかったんですが。」
「ああ、彼なら今海辺の修道院に行ってるよ。牧師の依頼と出席者を集めにね。」
「最後まで抵抗してたんですか?」
「いや、マリアさんもデール陛下のことを愛していると分かったら案外すんなり受け入れたよ。さすがに妹の恋路まで邪魔するシスコン兄貴ではなかったらしい。」
「ちぇっ、面白くねえ。」
「おっと、お前さん、考え方がカリンに似てきたのと違うか?」
「いえ、元々です。」
「そうか。まあ、何がともあれカリンを頼むよ。マイペースな癖にしっかりしてるカリンの夫なんて大役が務まるのはあんたとリュカぐらいだろうからね。」
「お褒めに預かり、光栄です。」
「さて、花婿の方も婚礼衣装の採寸をせねばな。武器屋の主人と薬屋のカールが待ってる。さっさと行きな。」
「では、失礼します。」
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魔物たちもそれぞれのお気に入りのスペースで寛いでいる。その間に酔いの醒めたリュカはカボチのペッカやルラフェンのベネット爺さんにカリンとヘンリーの結婚式の招待状を配って回った。2人ともその場で快諾してくれたため、9日に再度ルーラで迎えに上がる事となった。
ひと段落してリュカがサンタローズに帰ってくると、意外なことにカイルを抱いたルカがリュカの帰りを待っていた。
「あれ、ルカさん。どうしたんですか。」
「今からまた酒場?」
「はい?」
「私を舐めてもらっちゃ困るわよ。あなた、カリンのこと好きだったでしょ?」
図星であった。長い奴隷生活の中でカリンに会うことがモチベーションであり、サンタローズに帰ってきて成長したカリンを見て想いを伝えたくなった。だが、親友のヘンリーのために自分の気持ちを押し殺して今日まで過ごしてきたのだ。しかし、いざ2人が結婚するとなると少しムシャクシャした気持ちになって、それを奥底に沈めるためにアルコールの力を借りようとしたのだ。
「………参りました。」
「いいのよ。恋心を持つことは誰にも止められないからね。私も随分パパスさんに惚れ込んでたものよ。結婚してるって知ってたのに。」
そう言ってルカはウイスキーのボトルを投げてきた。
「ま、酔い潰れない程度に程々にね。付き合うわ。」
「カイルのことは良いんですか?」
「私は飲まないから。」
「…………ありがとうございます。」
「今日が終わったら諦めて他の人を探しなさい。大丈夫。あなたは良い男だから。」
祝福の行事を前にして1人の若者が心の整理をつけたのだった。サンタローズの英雄カリンとラインハットの英雄ヘンリーの結婚式まで、あと13日である。
<次回予告>ラインハット新暦11年9月10日、ラインハット国民にとって革命記念日に並ぶお祭り騒ぎとなる、合同結婚式が青空の下で執り行われた。4人の若者が、未来への希望を胸に、一つ幸福の階段を上っていく。
次回 1月19日金曜日午後9時3分投稿 第49話「史上最大の儀式 前編」
賢者の歴史が、また1ページ。