元オリックスの平野がダイヤモンドバックスに入団するとか。メジャーはフォークの使い手が少なく、需要が高かったみたいです。それにしてもオリックスフロントよ、年齢もさほど変わらん劇場型抑えを取るなよ………。
では、本編スタートです!
ベネット老人に頼まれて古代魔法のルーラを復活させるために必要なルラムーン草を取りに行くために、カリンとヘンリーと魔物たち一行は、木で出来た人形のような姿をしたパペットマン、肌が青く、赤い服を着た腐った死体・リビングデッド、灰色のつちわらし・スモールグール、キラーパンサー、おばけキノコらの魔物を倒しながら、サラボナ方面へ向かう南方向への街道から離れ、ほとんど誰も足を踏み入れない大陸の西端へ向けて進んでいた。初日から見えてはいたが、4日目になって麓までたどり着いた険しい山を仰ぎ見てカリンは1つ息をつく。
「でかい山やな。」
「セントベレスほどじゃ無いけどな。それでも十分に高い。」
2人の進行方向左手に聳え立っている山を見たときの感想である。地図には"グレートフォール山"と書かれていた。かなり斜面が急な山で高さはおよそ8000メートルでこの世界で第2位の高さを誇る山だ。ちなみに最高峰はリュカとヘンリーが地獄の奴隷生活を送ったセントベレスで、こちらは標高10000メートルを超えている。
「この山の向こうやな。」
「ああ。」
一行は山の縁をぐるっと回るように進む。その行程だけで丸1日を費やし、一行が大陸の西端に到達したのは11日目の昼過ぎである。カリンとヘンリーの2人は夜まで仮眠を取ることにした。
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一方リュカは、ルラフェンのベネット宅で人質と言う名の小間使いに徹していた。
「これをその棚に戻しておいてくれ。」
「そろそろくたびれたわい。ちょっとお茶を入れてくれんか。」
「買い出し頼まれてくれんかのう。」
などの様々な依頼をこなしながらひたすらカリンとヘンリーの帰りを待っていた。
そんなある日、休憩中にベネットと茶を飲んでいると、唐突にベネットが話しかけてきた。
「お前さん、良い人はおらんのか?」
「はい?」
「彼女じゃよ。」
「居ませんね〜〜。いるとありがたいんですけど。」
「まあ色々と思うところがあるじゃろうが焦りなさんな。緑頭に比べたら地味じゃがお前さんもなかなかええ男じゃし、すぐにええ人が見つかるはずじゃ。」
「そうですかねえ。」
「しかしお前さんら3人共苦労してるようじゃのう。なかなか物腰やら目やらが据わっとるから
「はい。僕とヘンリーが16でカリンが17歳です。」
「ならまだ軽く10年はチャンスがあるんじゃ。諦めてはならんぞ。ま、所詮は年寄りの戯言じゃからのう。聞き流しておいてくれても構わんが。」
「いえ、分かりました。ルーラが完成した暁には結婚式にご招待しますよ。」
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8月15日の夕暮れ時、ピエールに見張りを任せて3時間ほど仮眠を取っていたカリンとヘンリーはモモに起こされて早めの夕食を取った。そして、夜になると光る性質を持つというルラムーン草の特徴を見届けて採集を楽にするためにのんびりと日没を待っていた。
「そう言えばさ、ヘンリーってウチのどんなとこが好きなん?」
なだらかな丘の斜面で寝転んでいたカリンが隣で足を伸ばして寛いでいるヘンリーに唐突に話題を振った。
「………最初は奴隷生活の最初の頃だな。俺ってさ、こう見えても王族だからガキの頃はあんまり城の外に出た事なくてよ。おもちゃとか遊びっていうのは"与えられるもの"だったんだよな。でも、奴隷生活じゃあ夜っつうのはなかなか暇でさ、手持ち無沙汰だったんだよな。
そんな時にリュカが色々カリンに教えてもらった遊びとか歌とか教えてもらったり、冒険の話とか聞かせてくれたんだ。それ聞いてるうちに、"ああ、王族じゃねーし、剰え女の子なのに俺より色んなこと知ってる子供がいるんだな"って知って、すんげー興味が湧いた。」
「ま、ウチが特別に広過ぎたんやけどな。」
「でまあ色々話聞くうちにこんな完璧な女の子がいるのかって思うようになってよ。」
「おいおい、あいつウチのことどんだけ脚色したんや?」
「"根性が据わってて、頭良くて、料理できて、可愛くて、話も面白い。" 完璧超人だな。」
「うわっ、恥ずかし!」
「でも決定打になったのはサンタローズで実際に姿を見た時だな。目の前にリュカの話に聞いていた可憐な少女をまんま大きくしたような綺麗な女性を見て、もうズキューーン!!って感じだったな。旅を始めたら料理で胃袋掴まれて、話も面白くて、でも時折見せる悲しげな目が庇護欲を掻き立てて………。こんな素敵な女性と生涯添い遂げたいって思ったんだよ。」
「うわ、振っといてなんやけど聞いてみたらなかなか恥ずかしいな。」
「そういうカリンはどうなんだよ。」
「まあ初対面の時は顔は十分ストライクゾーンには入っとったな。話おもろいし、強いし、意外と聡いしみたいな感じで見てて、まあ思えばこの時点で惚れてるようなもんやけど、しばらくそんな感じで時を過ごしとったらお前が修道院でボロ出したやろ。そっから、あんたがウチのこと色々女の子扱いしてくれてたことにも気付いてさ、ええ男やな〜〜って思ったし、これが好きっていうことなんかな〜〜とか思ってんけど、10年前のことが引っかかって、"ほんまにマルティンさんに取り返しのつかんことしたウチが幸せになってええんかな?" とか思っててんけど、ニセ太后殺した後にルカさんとリュカに"気にすんな"って言われたら、色々気持ちが抑えられへんくなった……って感じかな。」
「そうだったんだ。」
「なんか2人で並んで寛いでるだけで満たされてんな。」
「そうだな。」
するとその時、ちょうど日が沈んだ。それと同時に地上の草原が一箇所に固まることなく、だがびっしりと淡く光り始める。その光景は、まるで真っ黒なキャンバスに光る砂を散りばめたようであった。
「うわ〜〜、すげぇ綺麗だ。これが全部ルラムーン草か。」
魔物たちも息を呑んでいる。
「むむ、これは絶景でございますな。」
"うわ〜〜"
カリンがこの絶景に相応しい言葉を思いつく。
「これぞまさに…地上の星、やな。」
まるで夜空をそのまま転写したようなその幻想的な光景にしばらく一行は見惚れる。
「そういえば今日お盆か。」
「お盆?」
「ウチが前に生きてた世界では8月13日〜15日は死者が現世に帰ってくる期間って言われてる。んで15日は死者があの世に帰る日で、死者の魂を載せてる灯篭を川に流したりする日やねん。」
「……こん中にパパスさんとか親父もいるのかな?」
「マルティンさんも母さんもおるんかな?そういえば墓参りしてへんし、ちょっと手合わせとこ。」
カリンはそう言って直立して手を合わせる。ヘンリーもそれに倣ってみる。見てみるとモモも器用に手を合わせて冥福を祈り、ピエールも騎士の礼を取っていた。スラリンとドラッチも今は静かにしている。
地上の星空のもとで、一行の間に静かな時間が流れる。
そしてカリンが名残惜しそうに足下の光=ルラムーン草を5本ほど引き抜いた。それを大切そうに布に包む。
「これで目的は達したな。夜が明けたら引き返すで。」
そう言ってカリンは残りの面子を追い返す。1人残ったカリンは地上の星空を向いて座り、カバンの中から平たい瓶に入ったブランデーを取り出した。瓶を軽く掲げ、一口飲む。
「おいおいカリン、1人でしけこむなんて水臭いぞ。」
後ろからヘンリーが近づいてきた。
「アホウ。あんたが来ることぐらい織込み済みやから。」
そう言いながら蓋を閉めたブランデーを投げ渡す。ヘンリーも軽く瓶を掲げて口をつけた。そして地面に腰を下ろし、地上の星空をぼんやりと眺める。
「なあ。」
「何だ?」
「勇者、ほんまに見つかるんかな?」
「分かんねえ。」
「パパスさんの遺志を継いでリュカのおかんを探すわけか………。」
「それとパパスさんの敵討ちも入ってるな。」
「たまに不安になんねんな。なんかノリでついてきてリュカとあんたの足手纏いになってるんちゃうかって。」
「そんな事ねーよ。」
「そう思ってくれてるって事も分かってんねんけどな……。」
「自信が無いんだな。」
カリンは軽く頷く。
「弓も通用せえへんくなってきてるし、回復呪文やったらピエールも唱えられるし、戦力になってないような気もするんや。」
「大丈夫だよ。カリンはみんなにとって必要だ。戦闘全体を俯瞰して最善の指示を送れるし、弓が通じなくなってきたって牽制とか色々役に立ってる。料理も上手いしムードも作ってくれてるじゃねーか。それに……お前は、お、俺の彼女なんだぜ。」
「そういうの反則やわ。ありがと、やる気出た。」
そう言ってカリンはヘンリーの唇を去り際に奪おうとする。しかし、ヘンリーが頬に触れようとしたカリンの両手を掴んだ。
「おいおい、やり逃げは無しだぜ。」
「う………だ、だって恥ずかしん………。」
今度はヘンリーがカリンの唇を奪った。最初は目を丸くしていたカリンだったが、すぐに受け入れて舌を絡める。30秒ほど続け、お互いに離れると、2人の間に唾液の橋が架かった。
「な、恥ずかしくは無くなっただろ。」
「顔赤くしてそっぽ向きながら言う台詞ちゃうやろ。」
2人は笑い合う。そしてもう一度口付けをした後、今度こそ翌日に備えて2人は床に就いた。
<次回予告>ついにルラムーン草を手に入れてルラフェンにカリンとヘンリーが凱旋する。ついに結実したベネットの20年に渡る研究。ルーラを習得したリュカが、その記念すべき試射の場所に選んだのは?
次回 12月29日金曜日午後9時3分投稿 第47話「ルーラの復活」
賢者の歴史が、また1ページ。