では、本編スタートです!
城の外と変わらない魔物たちを倒しながら一行は奥へと進んでいった。途中からはヘンリーが構造を思い出したため、ヘンリーのガイドでスイスイと進むことができ、一行は日が落ちきる前にラインハットの中庭に出ることができた。
そして、近くを通りかかった3人組の兵士を10年前にサンタローズ防衛戦で使用したカール特製の眠り薬を散布して眠らせ、鎧を剥ぎ取って手足を縛り、口を塞いで植え込みの裏に転がした。
「とにかくデールと会って方針を決めるまでバレなきゃいい。最悪来た道を帰ればいいからな。ボートも二艘しか無いから俺たちが乗らない方を沈めればいい。」
「で、どうやって会うん?」
「何とかデールの部屋に入れれば何とかなると思う。ま、それが一番の難関なんだがな。」
「巡回を装うのが一番じゃないかな?」
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そして夜半、誰もいないタイミングで3人は国王デールの部屋の前に現れた。先王が寝室として使っていた部屋は今は太后が1人で使っているようで、デールの部屋は幼少の頃と変わっていなかった。扉の前に立っている眠そうな目をした衛兵に向かってカリンが歩き出した。
「おいおい、大丈夫か?随分眠そうじゃないか。」
カリンが無声音で話しかける。当然暗いのでほとんど顔は認識できない。
「おっとこれはいけない。巡回ご苦労だな。」
「もう巡回終わりかけなんだ。何なら代わってやろうか?帳簿にはちゃんとつけとくからよ。」
ヘンリーが幼少時に夜に抜け出す際に仕入れていた巡回システムの情報を基にカリンは話を進める。
「そうか?悪いな。またビールでも奢るよ。」
「無理は体に毒だからな。お疲れ!」
衛兵は巡回ルートに沿って去っていった。物陰から見守っていた2人も姿を現わす。
「いやはや、実力行使にならなくて良かったよ。」
「すごい演技力だな。あいつ全く疑ってなかったぞ。」
「ま、ウチがちょっと本気を出せばこんなもんや。」
「しかしここは鍵が掛かってるぞ。どうやって開けるつもりだ?」
「それはね………」
カリンは鞄から二本の針金を取り出した。
「鍵の技法だね!」
「その通り。」
カリンは鍵の技法(ただのピッキング)を用いてデールの部屋の鍵を開けた。
「誰だ!?」
真っ暗な部屋の中から若い男の声がした。よく見てみると剣を構えているようだ。全く動じることなくヘンリーが応対する。
「まあまあ焦りなさんな、国王陛下。」
「予を暗殺しに来たのか?」
「取り敢えず剣を置こうか。こっちも丸腰だからな。それにしても騒がないんだな。さすが国王、意外に肝が据わってる。」
「いつ母上に殺されるか分かったものではないからな。お前たちのような者を差し向けて。」
「なるほど、頭の回転も速いと見た。とにかく灯つけようぜ。ここはお互いに顔を合わせて話し合いといこうじゃねーか。」
若い男はこちらをかなり警戒しながらもロウソクに火を灯した。3人はそれに合わせて兵士の鎧を脱ぐ。
「あ………あなたは!」
「随分久しぶりだなぁ、デール。ちゃんと親分の顔は覚えててくれたみたいだな。」
「兄さん!生きていたんですか!」
「10年も放ったらかしにして悪かったな。俺がいない間にお前も随分成長したじゃないか。」
「しかし危険を冒してまで何をしにここへ戻って来たんですか?」
「クーデターを起こすため。」
「!?」
「ていうのは言い過ぎだけど、とにかくお前の母親はどうやら偽物かもしれないという情報があるんでな。なんか証拠なり尻尾なり掴みたいと思って潜入してきたわけだ。」
「僕も母さんは偽物だと思います。完全に人が変わってしまっていますからね。僕も僕で暇を持て余してたもんですから、色々と書庫を漁って調べたところ、どうやらオラクルベリーの南にある修道院からさらに南東に進んだところにある塔に祀られている"ラーの鏡"という代物は真実の姿を示すという言い伝えを見つけました。僕では身動きも取れないのでこれを取りに行くことはできません。兄さん、急だし親分に頼むのも何なんですが、取ってきていただけないでしょうか。」
「当たり前だ。」
「ありがとうございます!ところで、後ろのお二方は?」
「こっちの紫ターバンが俺と一緒に10年間地獄を生き抜いたリュカ。こっちの女性がリュカの親友のサンタローズのカリンだ。2人とも腕は立つ。」
「カリンさん、私の力が至らないせいでサンタローズには大変なご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。」
「ほんまやったらこの場で頭スコーンって割って脳みそチューチュー吸いたいとこやけどな。ま、それは事が済んであんたがどうこの国を動かすかを見てからでも遅くないやろな。」
男3人はカリンの発言のえげつなさに悪寒を感じた。
「そ、そしてリュカさん。何があったかは詳しくは存じ上げませんが、兄と共に生き抜いてくれた事、非常に感謝します。」
「そこまでのことはしてないよ。」
「じゃ、俺たちはこの辺でお暇しようか。早いとこラーの鏡を手に入れちまおう。」
「わかりました。どうかお気をつけて。」
「中庭の植え込みの裏に兵士を3人転がしてるから回収しとけよ。」
「はい。お任せください。」
3人はデールの部屋を辞し、再び兵士の変装をして兵士の詰所の勤務表にチェックを入れ、中庭のシェルターへの入り口に入り、元来た道を戻ってラインハット市街に帰還した。遅いながらも宿を取ってゆっくり英気を養い、翌日の午前9時ごろ、ラーの鏡を手に入れるべくオラクルベリー方面へ進路をとった。
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「なるほど、ラーの鏡の伝承ですな。」
まだラインハットを出たばかりという頃、とにかく人の言葉を話し、魔物達へも細かい情報伝達ができるピエールに事の次第を伝える(その他の魔物は人間の言葉の細かいニュアンスまでは伝わらない。人間と行動するうちに覚える種類もいるようだが、一朝一夕にという話ではない。byモンスター爺さん)。どうやらピエールには心当たりがあるようだ。
「その昔、人間に化けたとある魔王の正体を見破ったという伝説があります。確かにそれを持ってくる事が叶えば、ニセ太后を見破る事ができるやも知れませんな。」
「へー。結構ちゃんとした伝承残ってるんや。」
「しかしラーの鏡が祀られているという神の塔は非常に神聖な場所で、心の清らかな者にしか扉は開かれないという伝承もある故、それが気がかりですな。」
「あ〜。ウチパスや。全然心綺麗ちゃうもん。」
「俺もアウトだな。」
「僕は?」
「いや〜、リュカはリュカで腹黒いからな〜。大事な情報は出し惜しみするし。」
「まだヨシュアさんの紹介忘れてた事怒ってるの?」
「別に根に持ってる訳じゃねーけど、とにかくお前は腹黒い。」
「うー。思い当たる節が何個かあるから言い返せない〜〜。」
「何なん?その思い当たる節って?」
「こいつ、奴隷時代に1人だけラクしようとする事にかけては天才的だったんだよ。まあ俺がよくダシにされたもんだ。こいつが失敗したくせに"ヘンリーがやりました。でも反省してるので仕事増やすぐらいで許してやってください。"なんて平気で吐かしやがったからな。」
「あのリュカがいつの間にかこんな捻くれた子になってたなんて、お姉さん、悲しいわ〜。」
「あんたも顔をニヤつかせながら言うセリフじゃねーぞ。」
「ハハハハハ。ご主人もヘンリー殿もカリン殿も愉快ですな。しかし、拙者もこれ以上は存じ上げません。オラクルベリーの南にある例の修道院に立ち寄るのがよろしいでしょう。」
「あそこに戻る事になるのか。」
「ヨシュアさんとマリアさん、元気にしてるかな?」
「あ〜〜、ウチには絶対に不向きな場所や。」
「そうだな。おしゃべりなあんたにはあの静かな場所は不向きなんだろうな。」
「それにカリンが一番性格悪いからね。」
「リュカ?」
「なに?カリン。」
「一番性格悪いって誰のこと?」
「だって自分で言ってたじゃん。」
カリンは両手で拳を作り、その人差し指だけをやや突き出してリュカのこめかみに当てた。そして、その拳を左右にひねった。
「いたたたたたたた!ごめん謝るからやめて〜〜!」
「謝って済んだら警察いらんわボケ!」
「ギブギブ!痛い〜〜!!」
「…………けーさつって何だ?」
賑やかな一行はアホ話を繰り広げながら順調に歩みを進め、3日後にリュカとヘンリーが流れ着いた修道院に到達した。
<次回予告>ラーの鏡を手に入れるために神の塔に向かうリュカ一行は、リュカたちがセントベレスから脱出した際に漂着した海辺の修道院で歓待を受ける。リュカが今後の相談のために修道院長と話っているなか、与えられた客室で休むヘンリーとカリン。そこで事件は起こった。
次回 第32話「恋するヘンリー」
賢者の歴史が、また1ページ。