では第3話、スタートです。
旅仕度って言ってもわからんからな〜。とにかく弓矢と着替えだけ持って来たけど、大丈夫やんな。
カリンがそんなことを思いながら歩いていると、先行するパパスが足を止めた。
「魔物だ。」
うひゃー、初の魔物との遭遇ですよ!興奮する!
すると草むらから黄色い首長いたち2匹と青と白の縞模様の化け猫・プリズニャン2匹が現れ、パパスに襲いかかった。
よっしゃ、パパスさんが撃ち漏らしたやつをこの矢で仕留め…………る暇もねぇ!パパスさん強っ!マジ秒殺!アイツ人間かよ……
魔物の死骸は死んでから1分もしないうちに風解し、死骸のあった場所には金貨が落ちていた。
へぇ〜、こうやってお金稼ぐんや。知らんかった。この世界の通貨単位は
「2人とも、怪我はなさそうだな。では、行くとしよう。」
初実戦いつになるんやろ……。
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しかし、その機会は意外にも早く訪れた。昼下がりになり、アルカパの街並みがうっすらと見え始めた頃、一行は10匹以上の魔物に囲まれてしまったのである。ご存知青いプルプル玉ねぎ・スライム4、首長いたち4、巨大な緑の青虫・グリーンワーム3の構成であった。
パパスは手始めに正面にいた首長いたち2匹を剣で真っ二つにすると、飛びかかって来たグリーンワームに斬りかかった。しかし、その時にパパスの反対側から首長いたち2匹が子供たちに向かって来ていたのである。パパスは既にグリーンワームに向かって跳躍しており、引き返しようがなかった。パパスは最悪の未来を想像し、肝を冷やした。しかし……
「甘いわァ!!」
カリンは5歳の女の子とは思えないほどの気迫のこもった声でガラの悪いセリフを叫びながらつがえた矢を放った。矢は首長いたちの脇腹にヒットし、矢を受けた首長いたちは倒れ込んで悶絶する。もう1匹の首長いたちも弓を用いてうまくいなし、カリンから距離を取ったところでカリンの矢を食って絶命した。
「ウチに襲いかかろうなんて100年早いねん、ボケ!」
その殺気立った宣言に残りの魔物は逃げ出した。
「リュカ、カリン、怪我はないか!?」
「うん、カリンがやっつけてくれたから怪我してないよ。」
うん、小指で鼻くそほじりながら言われると妙に説得力ある。
「カリン、怖い思いをさせてすまなかったな。」
「え、あんな啖呵の切り方見てから言う?」
「それもそうだな。それにしても見事な集中力と正確性だったぞ。まだ弓も背丈に合ったものではなかったのに。」
「あざーす。」
「うむ。」
パパスは無言で拳をカリンの頭頂部に打ちつけた。
「痛っ、さすが女の子ととしてこの言葉遣いはまずいですよね。」
「うむ。理解が早くてよろしい。では、行くとしよう。」
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アルカパは旧レヌール王国とラインハット王国の丁度中間地点に位置する街で、以前は両国間を行き交う行商人が多く立ち寄り、交易も盛んに行われ、街は大変な賑わいを見せていた。しかし25年ほど前にレヌール王家が断絶し、城も魔物の襲撃によって廃墟と化してしまうと、アルカパは衰退の色を示し始めた。それでも、商人たちはビスタの港からラインハット城を目指す旅人のための中継点として再活用し、以前ほどではないまでもアルカパは賑やかさを取り戻していた。
サンタローズの比ではない賑わいを見せるアルカパに一行が到着した頃には日は大きく傾き、気温もやや下がり始めていた。
「少し冷えてきたな。まだ春先であることだ。早く宿屋に泊まりたいものだな。」
そう言って街のメインストリートの突き当たりにある宿屋へ入って行くと、30半ばほどの黒髪の男が店番をしていた。
「いらっしゃい。旅人さんですか。子供2人と大人1人で10ゴールドですが、泊まっていかれますか?」
「うむ、よろしく頼む。それと1つ聞きたいのだが、ここにダイアナという女性がいるだろうか?」
「家内に何か用ですかな?」
「おや、あたいに何か用かい?」
店の奥から気の強そうなユリーナと同年代くらいの茶髪の女性が姿を現した。件のダイアナである。
「実は、サンタローズのユリーナ殿から遣いを頼まれてな。」
「おや、ユリーナかい?去年から病気してるらしいけど、大丈夫なのかい?」
「それが、もうあまり永くないそうだ。」
「何だって!?あのユリーナが!?」
「驚かれるのも無理はないが、あなたと娘さんをサンタローズまで迎えるようにと仰せつかった。」
「その話は本当かい?」
「ここにユリーナ殿の娘のカリンを連れてきている。」
パパスは言葉をつづけようとしたが、ダイアナはそれを手で制した。
「そうかい、カリンが一緒なんだね。これは信用せざるを得ないね。あの子、相変わらず先を読むのが上手いんだから。」
「ご理解いただき、感謝する。」
ダイアナはダンカンに向き直る。
「あんた、しばらく家を空けたいんだけど、大丈夫かい?」
「任せなさい。こう見えたって、お前が嫁いでくるまでは1人で切り盛りしてたんだからな。」
「すまないね、迷惑ばっかりかけて。」
「夫婦なんてそんなもんだよ。」
うわ〜、ダンカンさんええ旦那やわ〜。ダイアナさん男見る目あるな〜。
「ではお客さん、部屋へお上がりください。あと、夜にうちらの娘のビアンカを寄越しますので、相手をしてやってくれますか?私は少しダイアナがいない間どう効率よく回すか考えなければなりませんし、ダイアナも明日の支度で忙しいでしょうから。」
「わかりました。」
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日も暮れてすっかり暗くなった頃、一行は夕食を終えて一息ついていた。すると、ダンカンの言う通りに金髪の女の子が現れた。
「ビアンカです。6歳です。」
うわ〜、可愛らしい子が来たよ。将来絶対美人になるわ〜。
すぐにリュカとカリンと打ち解け、しばらく遊んでいると、時間も時間ということでパパスがリュカを連れて部屋についている風呂に入っていった。
「2人になっちゃったね、カリン。」
「せやね。」
「何して遊ぶ?」
まだ遊ぶ気かい。でも何しようかなー。
パパスはリュカを洗い終わって浴槽につけ、自分の頭を洗いながら自責の念に駆られていた。また愛する者を守れなかった。カリンがいなければリュカを失っていたかもしれない。パパスは自分の弱さを呪った。
すると、風呂の外から歌声が聞こえて来た。
「上を向いて 歩こう
涙が こぼれないように」
どうやらカリンがビアンカに歌を教えているようだ。パパスは最初はただ耳を傾けているだけだったが、その歌詞にどんどん引き込まれていった。
パパスは数多くの国を周り、様々な歌を聞いて来たが、このような歌を聞いたことがなかった。修辞をほとんど用いない単純な歌詞と耳に残る優しいメロディーがパパスの荒んだ心を癒していく。
(過去を悔やんでいる暇などないな。とにかく、経験を糧にして前に進まなければな……)
パパスは誰にこんな素晴らしい歌を教わったのだろうかと耳を傾けていると、驚くべき事実がカリンの口から語られた。
「ねえ、カリンは誰にそんなお歌を教えてもらったの?」
「ううん、ウチだけが知ってるの。母さんも村の人も吟遊詩人の人も誰も知らんから、あんまり言いふらさんとってな。」
「リュカにならいい?」
「リュカにならええけど。」
「ねえ、他にはどんなお歌を知ってるの?」
「いっぱい知ってるよ。」
「教えてよー。」
「ダメ。もうパパスさんとリュカが上がってくるから、また今度な。」
「はーい。」
(カリン、本当に不思議な子だな。サンタローズに来たのは正解だったな。)
晴れやかな気持ちになったパパスは立ち上がり、リュカに声をかける。
「よし、リュカ、そろそろいいだろう。上がるとしよう。」
「父さん、頭の泡は流さなくていいの?」
「…………。」
今日のアルカパの夜は平和である。
祝!カリン初実戦!ちなみに、リュカは退屈すると鼻をほじり始めます。
<次回予告>翌日に一行が村に帰ると、村の中は妙に静まり返っていた。一体村で何が起こったのか? そして、カリンの母ユリーナの意外な秘密が明かされる。
次回、第4話「さらば、遠き日」
賢者の歴史が、また1ページ。