DQ5 天空の花嫁と浪速の賢者   作:かいちゃんvb

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甲子園の決勝戦、あんなにワンサイドゲームになるとは思いませんでした。何がともあれ、花咲徳栄優勝おめでとう!
では、本編スタートです!


第28話 英傑の遺言

翌日、カリンとリュカとヘンリーは洞窟の前に立っていた。久々にルカに魔力を見てもらった結果、カリンは眠りを覚ますザメハとあらゆる物の鑑定ができるインパス、そして毒沼や電気床を無効化するトラマナの呪文を、リュカはインパスと洞窟や塔を一瞬で離脱できるリレミト、ヘンリーはメラとマヌーサとルカナンと爆発を起こして敵にダメージを与えるイオを習得していた。

 

以前とは違い、今回は筏に乗って川を遡りながら進む。リュカが10年前に通った道を横目に見ながら筏を漕ぎ進めて行くと、そこには下り階段がある小島が見えてきた。大きさにすれば半径2メートルほどである。くねくねと長い階段を降り続けると、未知のフロアに出た。

 

「へ〜、こんなところあったんだ。」

 

「ウチもこのフロアまでしか行ってないねんな。左奥に階段があんのと、そこの一個手前の分岐を奥に行ったら金が入ってたわ。使わんから非常用に置いてたんやけど、取ってまうか。」

 

「そうだね。」

 

テンポ良く話す2人を見て、ヘンリーは複雑な気持ちになる。

 

 

第一王子として何不自由なく育ったヘンリーにとって、過酷な奴隷生活の中で娯楽を見つけ出すのは困難であった。城の中の生活では既に遊ぶためのおもちゃが用意されていて、それを使って遊ぶのが普通であったため、本当に何もない空間で就寝前の僅かな余暇を過ごすことはヘンリーには不可能だった。そんな時に、リュカは自分の体験談をヘンリーに話した。

 

薬師を救出するために子供だけで洞窟で魔物と渡り合ったこと、虐められていたベビーパンサーを助けるために、廃墟と化した大きな城の中を駆けずり回ったこと、春が来るようにするために強敵と渡り合ったこと………。

 

城の中に閉じこもっているだけでは決して経験できない冒険の数々をヘンリーは聞いた。その中で、リュカはしきりにカリンの名前を出しては褒めていた。強く、賢く、優しく、可憐で家事までできる理想の女の子。幼いヘンリーの目にはカリンはそう映った。

彼女はまた、何のおもちゃがなくても遊べる方法を数多くリュカに伝授していた。藁の敷物の上で石を弾きあってどちらが先に座敷の外に出すかを競ったり、一方が言った単語の最後の文字を先頭に置いて新しい単語を作り、それを交互に続ける遊びなど、カリンは多くの娯楽をリュカとヘンリーに提供した。カリンがリュカに伝授した歌は苛酷な奴隷生活に挫けそうになった心を何度も奮い立たせた。次第に、ヘンリーの中でカリンの存在が大きくなっていった。

 

そして、晴れて自由の身になったリュカとヘンリーはサンタローズへ向かった。そして、ヘンリーはそこで初めてカリンを見る。

薄い紅茶色の長い髪、整った目鼻立にくりっとした青紫色の瞳。抜群の美人ではないが、万人が好感を持つ容姿に加え、リュカとはほぼ変わらず自分より僅かに低い、女性にしては長身とそこから伸びる手足は理想的な筋肉のつき方をしており、あまり主張しすぎず、かといって小さすぎない胸の膨らみが女性らしさを醸し出す。

話してみれば気が強くて毒舌ながらも気さくで話しやすく、その独特な訛りとジョークはかえって話のテンポを弾ませる。そして、カリンが作ってくれたヘンリーの初めて見る料理はヘンリーの胃袋を掴み、ふと時折見せるもの悲しげな表情が庇護欲を掻き立てた。

 

間違いなくヘンリーはカリンに恋をした。

 

しかしそれを表に出したり、リュカとカリンの間に無理矢理割って入るほどヘンリーは子供ではなかった。しかし、それでも二人が親密にしていると、やや不機嫌になってしまう自分がいた。互いが相手をどう思っているのか分からないという点も、ヘンリーの苛立ちを助長する。

 

「ヘンリーも何か言いなよ。」

 

「そうやそうや、こいつ奴隷生活のどさくさに紛れて悪さしてへんかったか?」

 

そして、カリンに話しかけられると内心舞い上がってしまう自分に羞恥心を抱くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

カリンの話通り、洞窟の中の魔物は凶暴だった。文字通りの姿をした腐った死体、亀の甲羅を背負った青い龍・ガメゴン、二足歩行で羽がなく、逆に腕が太くて怪力を誇るフクロウ・アウルベアーの攻撃は強力であったし、文字通り体が金属で出来たスライム・メタルスライムは倒そうとするなり最後っ屁のようにメラだけ打って逃げていった。それでも、呼吸の合ってきた3人の手に掛かって彼らはゴールドの山となっていた。

カリンたちは宝箱から850Gを回収し、一つ下のフロアに降りる。しかし、そこは妙な造りになっていた。

 

正面には深い水たまりがある。そこを渡れば下に降りる階段と宝箱に到達できるのだが、水面が周りの陸よりかなり低く、手をつけてみると一瞬にして手がかじかむほど冷たい。これでは泳いで渡っては凍えてしまう。仕方なく右へ伸びている道へ進むが、宝箱が1つ置いてあるだけで、水たまりの向こうへは回り込めないようになっていた。仕方なく宝箱を開ける。中には鉄の胸当てが入っていた。幼少期から変わらず皮のドレス(サイズは大人のもの)を着用していたカリンが装備する。

 

「さーて、こっからですよ。どうやったら向こうへ渡れるか」

 

「そういえばこの水たまりの上だけ天井がやけに低くないか?」

 

「そうだね、ヘンリーの言う通りだ。僕らの頭が普通についちゃうよ。」

 

「それに、よく見るとこの天井、明らかに後付けやねんな。周りの岩とちょっと色違うし。それにこの水面の不自然な低さも気になる。」

 

「あ、カリン!ここにハンドルがあるよ!」

 

リュカが壁にある隠し扉を開けると、中には歯車と明らかに歯車の中央にある突起にはめれば長いハンドルになりそうなL二つを互い違いにくっつけたような形(╹ーー┐←こんなやつ)の棒があった。

 

「なるほど、このハンドルを回せば天井が降りてきて水たまりにはまって渡れるようになるってわけだ!」

 

「よし、そうと決まれば男気ジャンケンやな。」

 

「男気ジャンケン?なんだそれ?」

 

「普通ならジャンケンして負けた人が罰ゲームをやるんだけど、勝った人が罰ゲームをすることを喜びながらやるのさ!昔カリンとよくやったよ。」

 

「お、おう………」

 

「それでは………」

 

「「男気ジャンケン、ジャンケンポン!!」」

 

結果はカリンとヘンリーがパー、リュカがグーであった。

 

「よっしゃ〜!勝ったで!」

 

「くそ〜、やりたかったのにな〜!」

 

「…………ルールは理解した。」

 

ヘンリーとカリンが向かい合う。

 

「「男気ジャンケン、ジャンケンポン!」」

 

カリンがチョキ、ヘンリーがパーであった。

 

「よっしゃ〜!これを待ったったんや〜!」

 

「悔し〜!」

 

結果、カリンがハンドルを回した。すると、ヘンリーの予想通りに天井が降りてきて、水たまりを塞いだ。降りた天井の上部は完全に平らであった。

 

「だけど、父さんはいつの間にこんなもの作ったんだろうね?」

 

「元々あったやつを利用しただけかも知れへんけどな。ま、先に進もか。」

 

宝箱の中から辺りを暗闇で包むことのできる闇のランプを入手し、ついに一行は最深部に到達した。そこには、宝箱と一本の美しい剣が保管されていた。

 

「とりあえず宝箱を開けよか。」

 

リュカが宝箱を開けた。中からは便箋が出てきた。

 

「!?これ、パパスさんの字やで!」

 

「えっ!?父さんの!?」

 

"リュカよ、お前がこの手紙を読んでいるということは何らかの理由で私がもうお前の側にいないのだろう。既に知っているかもしれんが私は邪悪な手に攫われた妻のマーサを助けるために旅をしている。私の妻、お前の母には生まれつきとても不思議な力があった。私には分からぬが、その威力は魔界にも通じるものらしい。多分妻はその能力故に魔界に連れ去られたのだろう。

リュカよ、伝説の勇者を探すのだ!私の調べた限り、魔界に入り邪悪な手から妻を取り戻せるのは天空の武器と防具を身につけた伝説の勇者だけなのだ。私は世界中を旅して天空の剣を見つけることができた。しかし、未だ伝説の勇者は見つからぬ。

リュカよ、残りの防具を探し出し勇者を見つけ、そして我が妻マーサを助け出すのだ!私はお前を信じている。頼んだぞ、リュカ!"

 

「するとこれが天空の剣か……」

 

カリンは天空の剣を手に取って構えようとしたが、あまりにもの重さに取り落としてしまう。

 

「重っ!」

 

「多分勇者にしか扱えないんだよ。持ち運ぶぶんには影響はなさそうだし、とにかく持って出よう!」

 

「せやな。」「賛成!」

 

リュカたちは来た道を戻り始めた。敢えてリレミトを使わないことで、3人はパパスの遺言を噛み締めた。

伝説の勇者を見つけ、リュカの母マーサを救い出す。

数十分後、旅の明確な目的を得たリュカたちは晴れやかな表情でサンタローズの洞窟から帰還した。




<次回予告>洞窟から帰還した一行はある人物から送られて来た手がかりを元に、ラインハット城へ進発した。ラインハットの窮状を救うために。
次回 第29話「関所を突破せよ」
賢者の歴史が、また1ページ。

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