最近どうも前書きと後書きを載せ忘れますね。大体1週間前に書き上げて予約投稿にしているのですが、塾の夏期講習やらで忙しい上に夏休みで曜日感覚が狂いまくって……
申し訳ありません。では、本編スタートです。
昼前に一行は橋を渡ってサンタローズのある半島に渡った。ガスミンク、鋭い嘴が武器で丸っこい体をした黄色い巨鳥・ピッキー、しいたけの傘を綺麗な茶色にして柄の部分をぶっとくし、そこに顔が付いているお化けキノコ、ピンクのとげぼうず・爆弾ベビー、赤いガップリン・エビルアップルなど10年前とは顔ぶれの異なる魔物たちを倒しながら北進し、途中でドラキーのドラッチを仲間に加えた一行は夕暮れ時にサンタローズに到着した。
リュカは複雑な気持ちになった。今はどこの家も夕食時なのか出歩いている人はいないが、確かに生活感があった。しかし、リュカが暮らしていた10年前よりは村は荒れ果てており、家も半分に減っている。何より、カリンと同じ時を過ごした二階建ての家がなくなっていた。
しかし、妖精の国から持ち帰った桜は成木に生長しており、まだ五分咲きではあるがしっかりと花を咲かせていた。リュカはその桜の前に佇む。そこには墓石が二つ並んでいた。ユリーナとマルティンの墓であった。マルティンが亡くなっていたことに対しては驚いたが、カリンの名前はなく少しホッとする。
すると、以前は建っていなかった小屋から1人の女性が出てきた。薄暗いので顔立ちはわからないが、かなりの長身であることがわかる。
その女性はこちらを見て何かに気づいたのか、急に突撃してきて腰を落とし、リュカの左脹脛に思いっきりチョップを入れる。何の備えもしていなかったリュカは当然のように左足を抑えてピョンピョンと跳ねながら痛がる。
「ちょ!何するんですか!?」
「嘘!幽霊ちゃうん!?」
リュカはハッとなった。その独特な語り口は……
「か、カリン………?」
女性は肩をビクンと震わせる。
「リュ、リュカ………?」
「そうだよぼ「ちょまって!」
リュカの言葉を遮ると、女性は手を引いて先ほど出てきた小屋の中にリュカを連れて入る。
「え、俺は?」
桜の木の前に、1人の緑髪の若者が残された。
「リュカ、リュカやねんな!」
その吸い込まれそうな瞳、だいぶとクタクタにはなっているが、10年前と変わらない紫のターバンを見紛うはずがない。
「カリン、カリンなんだね!」
薄く淹れた紅茶色の髪、青紫の瞳、その独特な口調、そして部屋に立てかけられている弓矢を見て確信する。
2人はお互いを抱きしめた。
「リュカ……正直死んだって思ってた………」
「そこは嘘でも"生きてるって信じてた"とか言わない?」
その時、外に取り残されていたヘンリーが恐る恐る小屋に入ってきた。
「リュカ、その人は?」
「ヘンリー。僕の親友だよ。」
「あ、初めまして。」
「リュカ、2つ質問していい?」
「どうぞ。」
「10年間何をしてたかを一言で表すと?」
「奴隷。」
「ヘンリーさんと知り合ったんは何年前?」
「10年前。」
「ん。大体事情はわかった。とにかく座り。」
カリンは2人に4人掛けのテーブルの席を勧める。2人は片側に並んで座り、カリンはその反対に座った。
「では、改めて初めまして、ラインハット王国第一王子ヘンリー殿下。」
「え、何で何も言ってないのにわかったの?」
「行方不明になった時期と友人になった時期が変わらんこと。ほんであんたらが奴隷してたって話。さらに10年前のラインハットの情勢。こんなけ揃ったら簡単に答えには辿り着く。」
「ご明察の通りだ。」
「リュカ、10年前に何があったか話して。」
リュカは10年前の出来事をカリンに話した。ヘンリーが連れ去られて遺跡に向かったこと。逃げようとしてゲマに敗北したこと。そしてパパスの最期、さらにモモが置き去りにされたこと………。
「パパスさん…………。モモ………。」
カリンは溢れ出した涙を拭った。
「今度はウチの番やね。」
カリンは10年前の攻防戦、その後の村の移り変わり、ラインハットの苛政、それによってビアンカの消息がつかめない事などを話して聞かせた。
「それにしてもカリン凄いな〜、ラインハット軍を蹴散らしたんでしょ。」
「それでも、ウチの油断で大切な命を失った……」
カリンはマルティンの墓の方を見つめる。
「そうか、それを引きずってるから何か表情に影があるのか………」
「やっぱり分かる?」
「うん。」
「ゴメンな、みっともない姿見せて。」
「いいんだよ。とにかく、他の村人にも会いたいな。」
「今日はここで泊まり。明日にしよ。」
その時、ヘンリーが口を開いた。
「1つ聞いていいか?」
「どうぞ。」
「この村の人間は俺の事を恨んだりしてるだろうか?一応パパスさんに汚名を着せた当事者だが………。」
「大丈夫ちゃう?大体の事情はみんな知ってるし。ま、ウチが攻防戦の時に喋ったからってのもあるやろうけど。」
「そうか………」
「そうだ、僕、魔物使いになったんだよ!」
「は?魔物使い?」
リュカは小屋を飛び出す。しばらくするとスライムとブラウニーとドラキーを連れて帰ってきた。
「スラリンとブラウンとドラッチだよ!」
「うわ〜、能力は凄いけど、名前………。」
「ほら、やっぱりヘンリーは信用できないな!」
「てめぇ、俺が名付けたのスラリンだけだろうが!」
そのやり取りを見てカリンは微笑む。その笑みは、10年前の屈託なさが、完全にではないが戻っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝、カリンは村の者たちを広場に集めた。
「皆さん、昨晩、私のところにええ知らせと悪い知らせが1つずつ飛び込んできました。どっちから聞きたいですか?」
「じゃあ悪い知らせから聞こう。」
スコットが答えた。カリンは小さく頷くと、自分の感情を制御しながら悪い知らせを村人に伝えた。
「パパスさんは既に10年前に魔物の手にかかって殺されてしまっていました………」
村人はやや予測していたことでもあったのだろうが、それでも悲しみを抑えることができずに皆涙を流した。カリンも頬に涙を伝わせる。
「パパスさんに黙祷!」
村人たちだけでなく、まだ建物の陰に隠れて村人たちの前に姿を見せていないリュカとヘンリーも、パパスの冥福を祈って目を閉じる。
「そして、ええ知らせです。」
村人たちは息を呑む。
「パパスさんの息子さんのリュカが生きて帰ってきました!彼がパパスさんの訃報を持ってきたのです!10年前に目の前で父であるパパスさんを殺され、その後10年間にも及ぶ奴隷生活を耐え抜いて、ここに帰ってきてくれました!」
リュカが建物の陰から姿を表す。ある者は喜びを爆発させ、ある者は感涙を流してリュカの帰還を祝福した。
少し場の興奮が収まった頃を見計らって、再びカリンが話し始めた。
「さらに、もう一つ知らせがあります。リュカと同じく奴隷に落とされ、それでも共に支え合って10年間の過酷な奴隷生活を耐え抜き、リュカの親友となった人物を紹介します。」
建物の陰から緑色の髪の毛の若者が姿を表す。
「10年前にカタリナ太后の陰謀に巻き込まれ、行方不明となっていたラインハット王国第一王子、ヘンリー殿下です。」
その場にどよめきが走る。しかし、ヘンリーを非難する声は上がらなかった。それどころか、村人たちはリュカを助けたことを感謝する声や、労いの言葉をかける。
「さ、ここからは無礼講です。皆さんでパパスさんを偲び、リュカの帰還とヘンリー殿下の来訪を祝いましょう!」
リュカは多くの懐かしい人との再会に心を弾ませた。リュカが仲間にした魔物たちもずいぶん可愛がられ、あっという間に時は過ぎた。しかし、ヘンリーは自分の国であるラインハットの惨状を聞かされ、心は晴れなかった。
「何するつもりかは知らないけど、やたらめっかし軍拡して税金もどんどん重くなるし、ラインハット城下町の人の心も荒んでてねえ。」
「この村が攻められたのは見せしめの要素が強い。強大な武力によって反抗できなくしようとしてるんだよ。」
ヘンリーの心の中で、故郷に帰るべしという思いが強まっていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜になり、村人たちは皆家に帰り、リュカとヘンリーと魔物たちは引き続きカリンの小屋に泊まることとなった。そんな中、カリンがリュカに声を掛けた。
「ひっさびっさに冒険せえへん?」
「どうしたんだい、急に。」
「洞窟の川挟んで反対側の入り口あるやろ。」
洞窟は川を挟んで東西に分かれていたのだ。
「そこに生前パパスさんが入ってんの見たんやけどな。気になって何回かチャレンジしてみてんけど魔物は強いし復興作業もあるしで全然踏み入れられてへんねん。」
「………分かった。」
こうして、10年ぶりにリュカとカリンが揃っての冒険が実現しようとしていた。
<次回予告>実に10年ぶりにサンタローズの洞窟に潜ったリュカ。その最深部でリュカはパパスが生前に残した手紙を発見する。その側には、光り輝く一本の剣があった。
次回 第28話「英傑の遺言」
賢者の歴史が、また1ページ。