なにわ淀川花火大会を見てたら前書きと後書き書くのを忘れてました。それにしても綺麗でした。生ではなくテレビ大阪の中継でしたが………くそ、次は絶対生で見てやる!
では、本編スタートです!
正午になり、ラインハット軍は再侵攻を開始した。30人ほどの小集団が時間差で突入してくる。
「これだよ。これをやられたら困るんだよ!」
絶対数が圧倒的に不足している以上、この戦いで大事になってくるのは如何に多くの敵を労なく屠るかである。しかし、このような戦法を取られると、一度に倒せる敵の数は少なく、時間差をつけた間断ない攻撃は防衛側の精神力と体力を大幅に削ぐ。さらに30人というバランスもいい。多すぎて一度に多く屠られるリスクは少なく、かといって少なすぎてすぐに捌き切れるというものでもない。
「とにかく、集団を集めて纏めて叩くしかない!」
カリンたちはあらゆる手を尽くした。地味に今までやってなかった川に架かっている橋を落としたり、カリンが井戸に隠れて敵をやり過ごして後輩から襲いかかって襲撃したり、足元に紐を張ってこけさせたりといった、どちらかと言えば二流のトラップでラインハット軍を困惑させ、次々と仕留めていく。
しかし、その防衛線は徐々に後退し、午後2時現在、カリンの家を中心に戦いが行われているという状況である。それでもサンチョ、スコット、マルティンが前衛で槍を振るい、後衛でカリンは援護し続けるというフォーメーションは、数の利をもってしても容易に覆せるものではなかった。
「サンチョさん、そろそろあれやりましょ!」
「分かりました!」
サンチョとマルティンが二個集団を引き連れてカリンの家に入り込む。スコットは後から来る集団に備えていた。カリンは心の中で母に詫びながら家の柱に爆薬をセットし、メラで導火線に点火した。そして首から下げていた笛を吹く。するとサンチョとマルティンが窓から飛び降りた。そして3秒後、ユリーナに譲り受け、パパスとリュカとサンチョと共に時を刻んだ愛する二階建ての家は、カリン自身の手で爆破された。そして、涙を拭きながらカリンは次にやってきた集団に対処していった。
その後もジリジリと防衛線を下げながら教会に貯めておいた水を扉を爆破して鉄砲水のようにして放出するなど、様々な仕掛けで一行はラインハット軍を苦しめ続けた。
しかし、その中で大きな問題が発生した。カリンの矢が尽きてしまったのである。カリンは矢を求めてまだストックを置いている洞窟へ向けて走った。しかし、それを目ざとく見つけたラインハット兵の1人が、カリンに向かって槍を投擲したのである。しかし、その軌道に立ち塞がった者がいた。そして、ラインハット兵が投じた槍は当然のように立ち塞がった者=マルティンの左胸を貫通した。
「親父!!」「マルティンさん!」
「マルティン殿!!」
マルティンはゆっくりと膝をつき、その後仰向けに倒れた。心臓を貫かれ、即死であった。残された3人の目から涙が流れる。しかし、その悲しみとショックをエネルギーに変え、ラインハット軍に襲いかかった。怒りと悲しみに燃えた3人の猛攻は激烈を極め、まともに太刀打ち出来る者はいなかった。その隙にマルティンの遺体は村の男たちによって洞窟へ運ばれ、泣き崩れるマルティンの妻を中心に死化粧を施し、刺さった槍は抜かれ、血が拭われていく…………。
イワンはその報告を聞き、ついに決断する。
「時は満ちた!残存部隊の半分を突撃させよ!我ら本体も負傷者に対する警備兵を除いてそれに続いて村へ入る。この戦いを終結させるのだ!」
(どうやら勝ったな。見事な戦いぶりであったが、ここが潮時だ。)
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「どうやら夕暮れ時にはこの村に入ってきそうだぜ!集団も一旦引いてあそこに合流するつもりだ!」
武器屋の主人がサンチョに手当てを受けるカリンにことの次第を伝えた。マルティンを欠いたことが災いし、苦手な格闘戦に持ち込まれ、左腕を骨折していた。そうでなくても戦っていた3人は傷だらけであった。スコットも肋骨を骨折していた。残りの村の男も多かれ少なかれ怪我をしている。文字通りの死闘であった。
「分かりました……。サンチョさん、最後の悪あがきをよろしくお願いします…………。」
「分かりました。」
(どうやら講和のテーブルには引き出せそうや……)
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ラインハット軍の残存部隊の前半半分は、抵抗が無いのをいいことに村の奥へと進行した。あちこちから煙があがり、建物は倒壊し、畑は戦闘によって荒れていた。仮に再建するならその苦労が思いやられる。しかし、ラインハット兵は妙に体が気怠くなっていき、そして………
イワン率いる本体が村へ入った時、先発していたはずの前半半分は皆縛られて、武器を持った村人に包囲されて村の中央の広場に集められていた。どうやら眠りこけているようだ。そして、イワン達の行方を、危険な存在として報告のあった少女と太った男と若い長身の男が塞ぐ。
「ここからは武器ではなく、会話でやりあいましょう。あなた方だって彼らの命が惜しいでしょう。」
3日前の先遣部隊を正論で論破したという、左腕を吊った満身創痍の少女がイワンに告げる。イワンはその言葉に頷き、崖をくり抜いて作られた薬師カールの家に少女と2人だけで入っていった。
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「私が今日の昼から全権を預かったイワンだ。」
「今回の防衛戦の統括を担当したカリンです。」
イワンは目を疑った。この娘に茶を出させておいて指導者が出てくるとばかり思っていたが、この娘こそが指導者だったのだ。そんな動揺を表に出さずに続ける。
「表の兵はどうしたのだ?」
「あなたをここに引きずり出すために、ウチの村の薬師のカールさん特製の催眠作用のある煙で夢の世界へご招待しました。」
「なるほど。」
「こちらが求める事はただ1つ、村人の生命の確保です。それさえ保障していただければ、別にこの村が滅ぼされたという風に報告していただいても構いません。そうすれば、広間の兵は無傷で解放します。」
イワンは悟った。この村は決して反乱分子の集まりなどではないと。もしそうであるなら、ここで兵士を無傷で返すという提案は行うはずがない。逆に後の事を考えて後発の兵とまとめて皆殺しにした方が戦力を削ぐという観点では有利である。彼らは単に殴られたから殴り返しただけで、何も彼らに非はない………。そしていつしかイワンは賢く、強く、何より優しいこの少女の力になってやりたいと思うようになっていた。
「承知した。実はこの件、私個人としては妙に感じている。どうやらそちらに非はないようだ。立場や家族もあるので公にとはいかないが、この件を独自に調査しよう。」
「ありがとうございます。非常に助かります。」
2人は握手を交わした。
「そなたのような知将と戦えた事、誇りに思う。」
「私としてはもう2度とやりたくないですけどね。」
「それもそうだな。」
イワンは捕まった兵を連れてすぐに帰途についた。戦いは終わった。
こうして、サンタローズ防衛戦は終結した。ラインハット軍は1300名の兵を動員したが、住民達の激烈な抵抗に遭い、死者145名、重傷者624名を出しながらも、摂政皇太后の指示通りにサンタローズ村を滅ぼしたと記録されている。
それから、10年の月日が流れようとしていた。カリンは長身の美しい女性に成長した。マルティンを自分のせいで殺してしまったという自責の念に駆られ、リュカやモモやパパスが帰らないことに心を痛め、カリンは村の英雄であるにも関わらず、その表情には常に影が付きまとっていた。村人はそんな彼女を心配していた。
さらに、カリンにとっては良くないことが続いた。多くの村人がサンタローズを離れた。残ったのはシスタールカ、スコット、マルティンの妻、宿屋の主人一家(3人の子供がいる)、カール夫妻と7歳になる息子、武器屋夫妻と9歳になる娘、その他数名のみであった。サンチョはパパス達を探すためにサンタローズを離れた。アルカパのダンカン一家が西の大陸に引っ越した。カタリナ摂政皇太后は苛政はラインハットの人心を蝕んだ。ビスタ港が封鎖され、西の大陸との連絡手段が無くなり、ダンカン一家の消息は知れなかった。
しかし、良いこともあった。スコットは、兼ねてから想いを寄せていたシスタールカと結婚した。妖精の世界から持ち帰った桜の苗は立派な木に成長し、毎年花を咲かせていた。
そして、あの戦いから10年が過ぎた年の3月、世界一高い山であるセントベレス山山頂において、再び物語は動き出そうとしていた………。
月曜日からは高校野球が始まりますね!今年も球児たちの青春から目が離せません!それはそうといつの間にか僕も歳を重ねて高校球児たちに歳上がいなくなりました。なにか感慨深いものもありますね。
<次回予告>長く過酷リュカとヘンリーの奴隷生活であったが、彼らはまだ希望を捨てていなかった。10年の時を経て再び伝説が始まる。
次回 8月9日水曜日午後9時3分投稿 第24話「奴隷生活についての一考察」
賢者の歴史が、また1ページ。