では、本編スタートです!
リュカ、ビアンカ、カリンの3人がアルカパに戻る頃には日は既に昇り切っていた。8時ごろといったところか。
「遅くなっちゃったね。父さん心配してるかな?」
「そうね。でもすごく楽しかったわね。」
「先猫救出する?それとも先寝る?」
「猫にしようよ。」
「でも先に怒られる方が先かもしれないわね。」
「それな。」
アルカパの入り口に着くと、起きている衛兵が驚いてこちらに詰め寄って来た。
「どこへ行ってたんだ。危ないじゃないか!それにしてもいつ村の外へ出たんだ?」
お前の管理不足やろボケ!と叫びそうになったカリンをリュカが抑え、ビアンカが応対する。
「ちょっとレヌール城までよ。あなたがウトウトしてる間に抜け出させてもらったわ。」
「肝試しでもしに行ったのか?」
「馬鹿ね〜。ちゃちゃっとお化け退治して来たのよ。」
「何?嘘を吐くな!そんな証拠がどこにある?」
「それがあるのだよ。」
答えたのはビアンカではなかった。宿屋から出て来てこちらに歩いて来たパパスである。
「昨日まで北の空を覆っていた禍々しい魔力が消え失せた。レヌール城は怨霊から解放されたのであろう。この子たちには私から注意しておこう。だいぶ疲れているようだし、ここは通してやってくれぬか?」
「……わかりました。」
3人はホッと一息ついて宿屋に向かった。
「おお、ビアンカ、カリン、リュカ。帰って来たか。心配したよ。まあ、人助けをして来たわけだし、お咎めは無しとしよう。とにかく朝ごはんをお食べ。」
「まったく、一昨日の晩も抜け出しだろ?バレてないと思ったら大間違いだよ!ま、いいんだけどね。子供はこれくらいヤンチャなのが丁度いいよ。」
「村の外へ勝手に出たのは感心せんが、まあよしとしよう。さっさとご飯を食べてしまって早く寝なさい。もう一泊してから帰ることにしておいたからな。」
「「「はーい。」」」
3人は朝ごはんを文字通りかきこむと、すぐさま猫を助けるために用水路の前に向かった。すると、カリンたちがレヌール城のお化けを退治したことは既に町中に広まっており、悪ガキ2人は猫を連れて待っていた。
「お、来たな。待ってたぜ。約束通りこの猫はお前たちに譲ってやろう。」
「でも本当に退治してくるなんてお前ら勇気あるよな。」
「どういたしまして。」
「あんたたちこの子に手出ししてないでしょうね?」
「まあ見た感じじゃあ特に何もされてないみたいだけど。」
「約束通り何もしてねーよ。じゃあな。」
男の子2人は去って行った。
"わー、美咲ガチで退治してきたんだ。"
「ねえねえ、この子の名前を決めましょ!」
「そうだね。ビアンカは何か候補ある?」
「ボロンゴ、プックル、チロル、ゲレゲレ………」
猫はあまり嬉しくなさそうな顔をする、
「なーんかイマイチナンセンスやな〜。この子も気に入ってへんみたいやし。そもそもこいつオスメスどっちなん?」
リュカが抱きかかえて腹を見せる。どうやらメスのようだ。
「そうねー。男の子の前提で考えちゃってたわ。そういうカリンは何か候補があるの?」
"いや、仮に私がオスでもちょっとセンスない名前が並んでた気がするけど………"
「……………モモ。」
"えっ…………。"
「いいと思うけど、どうして?」
「言われへんな〜。でも大切な名前。」
"美咲………!"
「ふにゃ!ふにゃ!」
猫は尻尾をブンブン振り回してモモがいいとビアンカにアピールしている。
「わっ、この子この名前気に入ったみたい。」
「なんちゅう食いつきや。リュカもモモでいい?」
「いいよ。」
「ところでさあ……」
ビアンカが申し訳なさそうに切り出す。
「私の家ってお客さんが来るからモモを引き取れないの。だからリュカとカリンでお世話してくれない?」
「リュカヨロシコ。」
「カリンも少しは手伝ってくれるよね。」
「それは当たり前。」
「じゃあ2人ともお願いするわね。」
「「オッケー」」
"やった!美咲と一緒に暮らせる!"
「とりあえず決まった事やし、パパスさんにモモの事一応許可とったらさっさと寝よーぜ。とにかく疲れた。」
「そうね。早く宿屋に戻りましょ。」
「モモ、おいで!」
リュカがモモを呼ぶ。
"本当は美咲に呼んでほしいねんけどな〜。ま、いっか。"
「ふにゃあ!」
モモは明るく返事をし、3人の後を追って宿屋へ向かった。
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翌日になり、ついにビアンカとの別れの時が来た。昨日は結局3人とも寝ることはなくモモとずっと遊び、一日中はしゃぎ回った。ちなみに、教会で魔力を見てもらった結果、カリンは親分ゴースト戦で使用したルカニに加え、味方全員の素早さを上げるピオリムを習得。リュカも竜巻を発生させて空気の刃で敵にダメージを与えるバギとスカラを習得していた。モモの件についてはパパスはあっさりと許可したため、モモもこの町を離れることとなる。宿屋を離れる際には家族総出で見送ってくれた。
「パパスさん。旅の話、面白かったです。またお話ししましょう。カリンもリュカも元気で。」
ダンカンは1人ずつと再会を約して握手をした。
「カリン、あんたは本当にユリーナにそっくりだわ。きっとユリーナも誇りに思ってると思う。でもだからこそ無茶をしすぎないように。分かったね!」
「はい。」
「リュカ、カリン。本当に楽しかったわ。絶対また冒険しましょうね。そうだ、モモにこれあげる。」
ビアンカはモモの首に自分のリボンを巻きつけた。
「じゃあね。」
3人は町を出てサンタローズに向かう。そしてその日の夕方、予定より1日遅れてサンタローズへの帰還を果たした。
家に帰るとリュカはベッドに倒れこんで爆睡し、パパスは村の人々に今回のリュカとカリンの武勇伝を語らっており、さらにサンチョは夕食の準備をしている。つまり、カリンとモモだけが暇を持て余していた。
"今がチャンス!"
そう判断したモモはカリンの服の裾を引っ張った。
「えっ、何?」
なおもモモはカリンの服の裾を引っ張り続ける。
「分かった。遊びたいの?」
その言葉も無視し、モモはひたすらカリンを家の外に出そうとする。
「え、え、外に出たいのは分かったから引っ張らんといて。」
するとモモはすぐに裾を離した。
(えっ、ひょっとして人間の言葉通じてる……?)
そしてモモはカリンを人気のない、さらに地面が土である所へ先導した。そこでモモは地面に自分の足で線を描き始める。
(……………?)
モモは思うようにまっすぐにならない線にイライラし、幾度か訂正を繰り返しながらひたすら線を引き続ける。
モモが線を引き続けること5分。ようやく形になった。それを見てカリンは唖然とする。
「……………嘘やん」
そこには"わたしはももか"と平仮名で書かれていた。
「ほんまのほんまに桃華なん?バレー部の武田桃華なん?」
「ふにゃあ!」
大きく返事をすると再び地面に平仮名を描き始める。
"みさき、ひさしぶり。"
その瞬間、カリンの目から涙がどっと溢れ出した。
「なんであんたがこんなとこおんのよ〜〜。」
そう叫んでモモに抱きついた。 モモも涙を流している。
モモは地面に、今度は爪を出して漢字混じりで説明を始めた。
"会社でイジメにあって、ずっと耐えてたんだけど、それで体悪くして脳梗塞でぽっくり死んじゃった。そしたらエンマに会ってさ、美咲と一緒のところで人生やり直さないかって言われて、今ここにいる。"
「チッ、相談してよっつってもウチが死んだ後やもんな。ごめんな、あんたが辛い思いしてる間にこっちでのうのうと暮らしとって。」
モモは首を左右に振る。徐々に書くことにも慣れてきたのか、かなり速いペースで地面に文字を刻んでいく。
"いいの、また美咲に会えたから。これでも私、あんたの葬式の時に号泣してんで。あー、なんて友達思いなんやろ、私。"
「変わってなさそうで何よりやわ。」
"どうも。それより今も弓矢使ってんねんな。"
「まーね。これ以外取り柄ないし。とりあえず、当面このことは秘密で行こか。とにかく手足器用に動かせるように鍛えといて。スムーズにコミュニケーション取れるように考えとくわ。」
"ありがとう"
「カリンちゃ〜〜ん!夕食の時間ですよ〜〜!早く戻ってきて下さ〜い!」
サンチョの声が家の方から聞こえてくる。
1人と1匹は顔を見合わせ、かつてのように笑いあった。
今年の梅雨は雨降らないですね〜。お陰で体育のソフトボールが潰れなくて嬉しいですけど。でも蒸し暑いのだけはマジ勘弁。太陽が照りつける真夏の方がマシや……
<次回予告>3月も半ばを過ぎたのに春の気配を見せないサンタローズ。そこに見知らぬ旅人が現れた。しかし驚くべきことにその旅人はある人物にそっくりだった。果たして旅人の正体と目的は?
次回 第14話「怪しい旅人」
賢者の歴史が、また1ページ