では、新作小説を生暖かい目で見守って頂けると幸いです。
*5/26 スコットの設定を追加しました。
第1話 その始まり
目の前には、ずいぶん中世ヨーロッパを匂わせる服装のふくよかな中年女性が、喜色満面の表情でこちらを見ている。室内を見回すと、木組みの山小屋のような建物の中にいることが見て取れる。驚くは自分の体だ。確か23歳ピッチピチの社会人2年目のOLであるはずの自分とは思えないほど体も四肢も小さく真っ赤っかで、首も座っていない。おまけに全ての声は甲高い泣き声に変換されてしまう。
そんな自分は、以前の自分と同年代くらいの妙齢の女性に抱かれ、あやされている。するとどうやら産婆らしい中年女性が自分を抱く女性に語りかけた。
「ユリーナちゃん、玉のような女の子だよ。早く名前をつけてやりな。」
「女の子ね。今日からあなたの名前はカリンよ。」
混乱する頭を必死で制御しつつ、カリンと名付けられた女児は、ここまでの来歴を振り返ってみる。
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湯川美咲 1993年3月14日生まれ
性別 女 大阪府生まれ
中学、高校では弓道部に所属。インターハイに出場経験あり。運動神経抜群で身長173センチという高身長。顔は美人の端っこにぶら下がるくらい。つまり中の上から上の下(親友談)で勉強もソツなくこなし、結構モテた。(自分で言ってて恥ずかしい……)
猛勉強の成果で地方国立大に合格。関西弁を抜くことを最初から放棄し、2015年に卒業。就職難に揉まれながらもそこそこデカい大阪の中小企業に就職。
趣味は料理と読書。
しかし2017年3月12日、帰宅途中に交通事故で死去。享年23。
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そうだそうだ。私一回死んだんや。ほんでそのあとやたら焦った閻魔的ポジションのやつに会ったんや。
「マジごめん!!」
「何慌ててるか知りませんけど、私死んだんですよね。」
「冷静だね。」
「もうちょい生きたかったな〜。職場楽しかったし。でもあれやろ、天寿ってやつやろ。」
「それが………全然全うしてないんですよ、あなた。」
「マジ!?」
「ほんとは84歳で体悪くして死ぬはずだったんですけど、なんかの手違いでこんなことになってしまいました誠に申し訳ございませんだから殴ったりしないで〜〜!!」
「落ち着け!早口でまくし立てんな!ものっそい気になるけど気にしてへんから!落ち着け顔上げろ額を床に擦り付けんな!」
「許してくれます?」
「急にケロッとすんな…………でもやっぱあんまり死にたくなかったな。」
「転生とかしてみます?」
「できんの?」
「ちょうどひと枠空きがあるんですよね。」
「よろしくお願いします。」
「ドラゴンクエストって知ってる?」
「……………スライムが出てくるゲーム?」
「やったことは?」
「ありません。ゲームはあんまりやらんかったから。」
「一回しか言わないからよく聞いてね。魔物という人間にとって敵になる存在がうじゃうじゃいるから。頑張って身を守ってね。そうじゃないとまた死ぬから。」
「他に何か気をつけることはある?」
「世界救っちゃう主人公の近くに生まれちゃうけど、何やるかは自由だから。物語に干渉しようがしまいがあなたの勝手です。じゃ、頑張ってね!」
「ちょ、そいつの姿とか教えて!平和に暮らしたいから!世界とか救わなくてもいいから!」
「あっ、時間だ。では良い人生を!」
「あ、行くなコラ!ちょ、下に引っ張られる〜〜!!」
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はい、これがいわゆる転生者ってやつですね。しかもかなりファンタジーな世界に。魔物とか言ってたな〜。結構やばそう。ちょっと体鍛えとかな。まぁいっぺん死んでるわけやし、閻魔にあんなこと言うといて何やけど、今度は別にスリリングに生きてみるのもアリかな。ま、主人公の顔知らんからどうなるか分からんけどな。どうせ弓道しかできひんし。取り敢えず、ええ子ちゃんキャラすんのもしんどそうやし、自然体で生きてみますか!
こうして、大魔王を倒した英雄リュカの片腕にしてムードメーカー、弓使い賢者カリンの物語が幕を開けた。
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それから5年の月日が流れた。
「幸せは〜 歩いてこない だから歩いて行くんだね〜」
はい、湯川美咲改めサンタローズのカリンです!一昨日5歳になりました!誕生日は前世と変わらず3月14日です。それではウチの生誕5周年を記念して、この世界についてちょっと整理してみよう!
・この村の名前はサンタローズ
・父親はウチが生まれる前に既に亡く、母も病気を患っている。しかもここ最近調子が良くない。ちなみにメッチャ優しいけど若い頃はやんちゃしてたらしい。
・周りは関東弁やけどなぜか関西弁に違和感なく反応してくれる。ありがたい。
・文字は前世と全く違う。勉強中。
・5歳の誕生日に母に弓矢が欲しいと言ったらマジで今の私にはちょっとデカイくらいのサイズのやつと、大人用もくれた。大丈夫か?子供にこんなもん持たせて。練習には家の地下室を使っている。あんまり鈍ってなくて安心。
・髪の色は薄く淹れた紅茶の色。目の色は青紫。顔立ちは前世の頃とそっくり。どうやら運動神経も悪くないっぽい。
「1日一歩 3日で三歩 三歩進んで二歩下がる〜」
人口50人に満たないこの村では同年代の子供がおらず、こうして前世で覚えた歌を歌いながらブラブラ歩いている次第です。
気づいたら村の入り口に着いた。今日も魔物と盗賊に備えて衛兵のスコットが村の外に目を配っている。
スコットはまだ18歳にも関わらず武芸に長けており、顔もそこそこイケメンな長身の男である。昼の見張りを全面的に任されるほど、その信頼は厚い。
「スコットさん!ご苦労さん!」
「お、カリンか。今日も散歩かい?」
「うん。やっとぬくくなって来たね。」
「そうだなぁ。もう春だな〜。」
「あ、スコットさん。人が近づいて来るで。」
「盗賊かもしれん。ちょっと影に隠れてなさい。」
「ほーい。」
カリンは草むらの陰から近づいて来る人影を観察する。1人は筋骨隆々とした偉丈夫だ。その隙のない動きからかなりの実力者と伺える。その隣に並んで歩く柔和な表情の太った男も相当腕が立ちそうだ。その少し後ろからは3〜4歳の幼子が健気に先行する2人の大人の後をつけて来ていた。そして、スコットが村に近づいて来た筋骨隆々とした男を呼び止める。
「旅人とお見受けするが、何者か?」
「わたしはパパス。この太った男がサンチョで後ろにいるのは私の息子のリュカだ。遥か東の大陸から人を探して来た。このラインハット国と西の大陸をこれから隈なく旅をするにあたって拠点となる場所が欲しくてな。旅を終えたらそこに住まいたいとも思っている。ここなら空気も澄んでいるし、食い物もうまいと思ってな。空き家か何かないだろうか?」
その無骨な見た目に反する慇懃な言葉遣いにスコットは緊張を解いて応対する。
「生憎空き家はありませんが、しばらくの間なら宿屋を使うといいでしょう。旅人は皆隣町のアルカパに流れてしまって暇をしているでしょうからな。」
「そうか、それはありがたい。して、その草むらに誰かいるようだが?」
「村の娘のカリンです。活発な5歳の娘なんですが、歳の割りにしっかりしていましてね。カリン、出ておいで!」
許しを得たカリンはパパスにお辞儀する。
「初めまして、カリンです。」
「ほう、カリンと申すか。礼儀正しい子だな。このリュカと遊んでやってはくれぬか?」
「はい。」
カリンはリュカに近づいていく。紫色のターバンとマントを身に纏い、その黒い瞳には、吸い込まれそうになるような柔らかい不思議な光をたたえていた。
「カリンよ。よろしくね。」
差し出されたカリンの右手にリュカも恐る恐る手を伸ばす。
「僕リュカ。4歳。」
2人の小さな手のひらがしっかり互いを握った。
こうして、英雄リュカと名パートナーカリンの、生涯破られることのない友情が成立した。
こうして 伝説が はじまった……!
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星のドラゴンクエストの天空コラボにどハマりなうです。
<次回予告>リュカと友誼を結びんだカリン。一方でカリンの母ユリーナはパパスに面会を申し込む。
次回 第2話「初めての旅、始まる。」
賢者の歴史が、また1ページ。