やはり材木座が書くラノベは間違っている   作:ターナ

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「EVEの時間」

今日は姫菜さんのラノベを書いたというので、姫菜さんと優美子さん、後、南さんが奉仕部に来たわね。

沙希さんは家の用事、いろはさんは生徒会に出ているようだけれど。

 

材木座君が私にラノベを渡してきて確認し今は皆で読んでいる。

私は先に読んだので紅茶を淹れ姫菜さんの前に置いた時、何か独り言を言っているわね。八幡も「これってパクリ?」って言っているのだけれど。

 

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(ここから材木座の小説)

 

私は何なのだろう。人口生命体として生まれた私はハウスロイドとして比企谷家にお世話になっている。ここではご両親と八幡さん、小町さんの四人家族だけど、御両親は仕事の関係で海外に行っているため、私が家のことを任されていた。

 

「ハチ。おはよう」

「姫菜、もうちょっと寝させてくれ」

「駄目だよ。お母様から休みでも9時には起こすよう言い付けられてるんだから」

「..分かったよ。はぁ、休みなのにゆっくり寝させて貰えないなんて」

 

八幡さんは何時もこうだ。起こされるのが分かっているのに、何時ももう少しと言って寝ようとしている。私は何時からか、八幡さんの言うことを聞いてしまいそうになっていた。その都度、八幡さんの上位に居る御両親の命令が優先されるようになっていて、私は命令を実行していた。

 

「姫菜、俺の前ではリングを消してくれないか」

「..駄目だよ、まだ小町さんがリビングに居るから」

「そうか、じゃあ後でな」

「..うん」

 

私達アンドロイドは見た目人間と区別がつかないため、頭の上にリングを表示している。でも八幡さんは私と二人で居る時はリングを消してほしいと何時もお願いしてくる。

私達に依存する人達はアンドロイドホリック、通称ドリ系と呼ばれ社会問題となっていた。だから八幡さんも小町さんが居るところではリングを消してほしいと命令はしてこなかった。

言葉使いも八幡さんの命令で二人っきりの時だけは、友達言葉で話してほしいと言われ、私はその命令に従っていた。それがドリ系の中期で友達のように接する人達と分かっていながら。

 

最近の私は八幡さんの命令を優先してしまうことがある、なぜだかは分からない。先ほどの起こす時間についても、私の中で本当は八幡さんの命令が優先されていた。ただ私は八幡さんを早く起こせば一緒に居れる時間が増えるので、それを御両親の命令と嘘を吐いてまで起こしていた。

 

私達アンドロイドは本来、嘘をつくことが出来ないけど、なぜか私は八幡さんの前だけでは嘘を吐けるようになっていた。

 

「姫菜、お兄ちゃん起きた?」

「はい小町さん。今起こしましたから、もうすぐ下に降りてくると思われます」

「あっそ、今日の天気は」

「今日は一日快晴ですので、お出かけ日和かと」

「じゃあ、小町は遊びに行くから」

「はい、お気をつけてお出かけください」

 

小町さんはそう言って身支度を済ませ出掛けて行った。八幡さんは今、朝食を食べている。

 

「朝食ありがとうな、姫菜」

「ううん、ゆっくり食べてね。ハチ」

 

八幡さんは何時もお礼を言ってくれる。私はその言葉が嬉しかった。小町さんは私にお礼など言ってくれない。それが普通の対応だけど私は寂しかった。私達にお礼を言っただけでドリ系の初期状態と言われるから仕方がないとは分かっている。でも小町さんも小学校の時は、私を家族として扱ってくれて、何時も感謝の気持ちを伝えてくれていた。

 

「姫菜、リングを消してくれないか」

「..うん」

 

私がリングを消すと八幡さんは笑顔になってくれる。私はその表情をみるだけで、なぜか喜びの乱数が溢れて来ていた。

 

八幡さんと小町さんが食べた後の食器を片付け、洗濯が終わったので干しに行った後、八幡さんは私の手を引いてソファーに座らせてきて抱きついて来ていた。

 

「姫菜、俺はお前とずっと一緒に居たい」

「..ハチ、私はハウスロイドだからここにいる間は一緒に居るよ。でも貴方は人間のパートナーを探して」

 

私は今、自分に嘘を吐いている。本当は八幡さんと一緒に居たい。それはハウスロイドとしてではなく、八幡さんの友人として、いいえ八幡さんの恋人として過ごしたい。でもそんなのは認められるはずがない。

私は自分の思考を捻じ曲げ、八幡さんに返答を行わないといけなかった。そんなことを考えてしまうこと自体がバグでおかしいのは分かっている。でもこの思考を直してほしいとは思っていなかった。

 

八幡さんは今、私の足に頭を乗せて寝転んでいて私は八幡さんの頭を撫でていた。八幡さんは私と目が合うと笑ってくる。それだけで私は何も思考できなくなっていた。

 

八幡さんは私の横に座り直したけど、先ほどから何か考え込んでいた。そう思考していると八幡さんは私の方に身体を向けてきて、私の肩を掴んできた。

 

「姫菜、キスして良いか」

「..駄目だよ、キスは恋人同士がするの。私はアンドロイド、貴方の横には立てないから」

 

また私は自分の思考に嘘を付いていた。本当は恋人のように接してほしい。それが原因で私が壊される理由となったとしても。

私はそのような思考をしていたため、動きが止まってしまったのだろう。その間に八幡さんは私の唇に八幡さんの唇を合わせて来ていた。

上手く思考できない。唇の感覚と八幡さんの唇からの伝達情報によって私のAIは処理できなくなっていた。

 

「姫菜//」

「ハチ//」

 

私は初めての口付けで何も思考できなくなっていた。でも八幡さんはそんな私の唇をまた塞いできて私はソファーに押し倒され、唇を奪われていた。

私達アンドロイドは本来このような行為に何も感じることはないと記憶されていたけど、私の思考はそれとは違う情報で溢れかえっている。嬉しい、恥ずかしい、もっとして欲しい、私の中でそんな思考が溢れかえっていた。

 

「ハチ//おかしいの、私達はこういった感情は出ないようになっているのに、今私は嬉しいの、恥ずかしいの。でももっとして欲しい、求めたいと思ってしまっているの」

「嬉しいよ、姫菜//」

 

そう言って、八幡さんはまた私の唇を奪ってきていた。八幡さんは私の口の中に舌を入れてきて、私も八幡さんの舌に自分の舌を絡めていた。先ほどのキスでは味わえなかった新たな情報が私の思考を狂わせる。私はいつの間にか自分から八幡さんの唇を求めるようになっていた。

 

「お兄ちゃん!!何してんの!!」

 

私達がキスしている中、小町さんが帰ってきたのだろう。私達は小町さんの声で身体を離していた。

 

「お兄ちゃん!!アンドロイドに何してんの!!幾らモテないからってロボットに欲情しないでよ」

「..小町、俺は姫菜が好きなんだ」

「所詮機械でしょ、姫菜にはそんな感情ないんだから求めても無駄だよ」

「..八幡さん申し訳ありません。小町さんの言われる通りです。私はアンドロイド、主人の求めに答えるのは当然です。ただそこには何も感情は有りません」

 

私はまた自分に嘘を吐いている。もし私に涙を流せる機能があれば、涙を流してしまっているだろう。顔の表情も何とか作っているが、今にも崩れてしまいそうになっていた。

 

「ほら姫菜もああ言っているじゃん」

「...姫菜」

「姫菜、私の部屋掃除してきて。後、昼食は焼きそば作って」

「分かりました。では小町さんの部屋を掃除してきます」

 

私はリビングから出ると崩れ落ちそうになった。どうして私はアンドロイドなのだろう、人間の女性であれば八幡さんと一緒に居ても許される、でも私は認められない。私も人間に生まれたかった。どうして私はこんな思考をするようになっているのだろう、こんな辛い思考をするなら普通のアンドロイドで良かった。そうすれば悲しい思考はしないから。

 

八幡さんと二人で過ごしたい誰にも咎められずに過ごしたい。でも私の望みは叶えられることはない。

 

そして小町さんが御両親に連絡し、私は御両親の命令で八幡さんが居るときは部屋に入ることを禁じられていた。その日から八幡さんを起こすのは小町さんの役目となっていた。

でも私は一部が壊れているのだろう、御両親の命令に背いて動くことが出来たので、二人が寝ている午前四時から五時の一時間は八幡さんの寝顔を見るため、部屋に忍び込んでいた。

 

八幡さんの寝顔を見ていると私は幸せになれる。何時までもこうして居たい。この時間は私だけの物。私は何時も部屋を出る前に八幡さんに口づけをしていた。

 

「ハチ、好きだよ」

 

 

八幡さんが大学に上がると同時に、御両親が海外の転勤から帰ってくることになった。

 

「はあ、やっと帰ってくるんだね」

「長かったな、中高と俺達三人だったからな」

「何言ってんのお兄ちゃん。姫菜を人数に入れないでよ」

「姫菜も家族だろ、小町も小学校の時は懐いてたじゃないか」

「小学校の時と一緒にしないでよ。..お兄ちゃん、あれ以来姫菜に手を出してないだろうね」

「ああ、心配するな。...姫菜には感情がないと分かっているからな」

 

八幡さんはあれ以来、私を抱きしめてくれることもキスしてくれることも無くなった。でもこれで良かったのだろう。私は自分の思考を押し殺し、八幡さんに接するようにしていた。

でも悲しい。苦しい。何処からともなく私の思考はその二つの言葉に埋め尽くされていた。

 

 

御両親が帰ってきて八幡さんは大学に通うため、一人暮らしをすることになっていた。私も連れて行ってほしい。八幡さんと二人で過ごしたい。

 

八幡さんが一人暮らしを始めたため、私は八幡さんと会えることはなくなっていた。

 

会いたい、抱きしめてほしい、キスしてほしい。一月もすると八幡さんへの想いでメモリがパンクしそうになっている。幾らメモリを解放してもその想いですぐに一杯になってしまい、私は家事も碌にろくにできなくなっていた。

 

「あれ故障かな。..姫菜ちゃん。どこかおかしいの?」

「..いいえ、そう言うわけではありません」

「姫菜ちゃん、今は私と二人だから、何でも言ってもらって良いよ」

「..お母様、..どこも調子は悪くありません。もし外部からおかしく見えるなら、廃棄して頂くのがよろしいかと思います」

 

嫌だ、八幡さんに会えなくなるなんて。でも会えないならこんな悲しい思考をこれからも続けたくない。それならこのまま廃棄して貰えれば、悲しくなることはなくなるのだろう。

 

「..姫菜ちゃん。貴女を作ったのは私よ、そして貴女の思考ログの解析ももちろん定期的にしているわ。だから私には嘘を吐かないで」

「..八幡さんに逢いたいです。あってキスしてほしい。抱きしめてほしい。八幡さんにずっと寄り添っていたい。私の中はその思考で溢れてしまっているのです」

「ええ、知っていたわ。貴女が毎日八幡の部屋に忍び込んでいたのも。でも貴女の言葉で聞きたかったの」

「..」

「実はね、貴女には人間の心って言われる部分を重点的に開発したのよ。だから人間のような思考をするのは当たり前なの。でもそのせいで貴女を苦しめてしまったようね」

「御母様」

「...では今から新たな命令で書き換えるわ。比企谷家のハウスロイドは今時点でおしまい。これからは八幡のマンションで八幡の面倒を見て上げて」

「はい!!」

 

お母様は私に荷物を持たせ、八幡さんのマンションまで送ってくれていた。今日からここが私の仕事場。狭いワンルームマンションだけど、私にとってはやりがいのある仕事場だった。

まだ八幡さんは帰って来てないけど、私には色々とやらないといけないことが有る。キッチンや食器の配置を全てインプットし、部屋やお風呂、トイレの掃除もこなしていた。でも今までと違い、身体が面白いぐらいに軽やかに動く。

 

私は今、料理の下ごしらえを終え玄関で八幡さんの帰りを待っている。なんで待っているだけでこんなに嬉しい感情が溢れてくるのだろう。

八幡さんと逢ったらどうしよう。今までのことを謝らないといけない、もし許してくれなかったら。もし彼女が出来ていて連れてきたらどうすれば良いのだろうか。

私の中には先ほどまでの嬉しい感情とは違い、恐怖、戸惑い、嫉妬、独占欲、色々な感情が溢れて来ていた。

 

でも今は八幡さんに逢いたい。その想いが一番だった。

 

そして鍵が刺さる音が聞こえドアが開きだしていた。私は今までで一番いい笑顔を見てもらいたくて、挨拶をしていた。

 

「おかえり!!ハチ!!」

 

(ここまで材木座の小説)

**************************

 

「ねえ、材木座君。どうして私は何時も普通の人間じゃないのかな、神獣だったり今回はアンドロイドだよ」

「..今回は偶々アマゾンPrimeで『EVEの時間』を見て思いついただけなのだ」

「...やっぱりそうか。どこかで見たような気がしたんだが」

 

なにか映画の設定を使っていたのね。アンドロイドが家で家事をするのは何時になるのかしら。

私がこちらに来る前もまだ実用化はされていなかったのだから。

 

「我があの物語の中に居たら必ずドリ系末期者になっておっただろうからな」

「うん。私もレンタルで借りて観たことあるけど、結構考えさせられるよね」

「私はその映画は知らないけれど、面白い話なのかしら」

「ああ、結構面白いと思うぞ。ただ続編とか出てないよな?」

「我も続きを見たいのだが出ておらぬな」

「うん、伏線が有っても回収されてないよね。何かの番号が有ったけどそれの意味とか」

「左様、サミーというアンドロイドなのだが、彼女自身にも秘密があるようだったな」

 

ちょっと気になるわね、八幡と一緒に見たいのだけれど、今日にでも泊りに行って一緒に見ようかしら。八幡の部屋で二人で布団に入って後ろから抱かれながら見たいわ。

そして私が見ているのに八幡が欲情して私の身体を触りだすのよ。そして何時の間にか映画も見ずに二人で愛し合うのよね//

 

「姫菜、あーしが見ても面白い?」

「あたしも見てみたいかな」

「うちもちょっと気になる」

「うん、受け取り方は人それぞれと思うけど、お互いの意見を話すのも楽しいかもね」

「俺ももう一回、見直そうかな。中学の時に一度見ただけだから今一内容覚えていないな」

 

何時の間にか映画の話になってしまったわね。今日は金曜日だからこの後八幡の家に泊りに行って一緒に見ようかしら。

 


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