久しぶりの投稿ですが良かったら読んでみてください。
「八幡さん、起きましたか」
「...」
ここはどこだ?周りは暗く遠くに星が輝いているのが判る。ただ俺が寝ていた所は床が見えない。
身体が宙に浮いているように感じるため、平衡感覚がおかしくなりそうだ。俺は声のした方を見ると、一人の女性が宙に浮いている椅子に座り微笑みかけている。俺は平衡感覚がおかしくならないよう女性と椅子を見つめるようにしていた。
ただこの女性、可笑しな格好をしているな。まるでラノベに出てくる女神のようだ。
「...ここはどこですか、貴女は」
「私は女神です。初めまして八幡さん。起きて早速ですが貴方は亡くなったのです。そしてこちらに送られてきたのですが、貴方には天国に行くか、元居た「天国で」世界...最後まで話を聞いてください」
「いや天国で良いので」
「天国は暇ですよ、日向ごっこしているしかないのですから」
「最高ですね、それこそ俺の望む世界ですよ」
「本当に良いのですか、貴方と一緒に亡くなった女性達は異世界を望んで既に旅立ったのですが」
俺と一緒に死んだ?誰のことを言っているんだ?
....いや雪乃と結衣といろは。大学の夏休みに俺が運転する車で彼女達とドライブに出かけていた時、タンクローリーが俺達の車に突っ込んできたんだった。どうして思い出さなかったんだ。俺のせいで三人が死んだ....取り返しの付かないことをしてしまったんだ。
俺は泣き崩れて三人のことを想っていた。どうして彼女達を車に乗せたんだよ。免許取り立てで嬉しくて彼女達が買い物したいから車を出してくれと言われ、親の車を借りたがそれが誤りだったんだ。
免許のことを言わずに誘われても家で過ごすって言ってればよかったのに、とんでもないことをしてしまった...
俺は泣き止むまで時間が掛かったが何とか平静を取り戻せていた。女神はその間、黙って俺のことを見守ってくれていた。
だがどうして3人は異世界を望んだんだ?元居た世界に行った方がよかっただろうに。
「..あいつらはどうして異世界に行ったんですか」
「天国では人数が多すぎて皆さんが会える可能性はほとんどないのです。そして元居た世界では記憶が消されます。異世界は記憶もそのままですし、一緒の所に行けると言ったら皆さん異世界を選ばれましたよ」
俺も彼女達と一緒に居たい。だが俺が運転している車で彼女達を殺してしまったんだ。俺が彼女達の元に行っても良いのか、だが謝りたい。彼女達の一生を台無しにしてしまったんだ、償えないだろうが俺に出来ることが有るのであれば、何でもやってあげたい。
「彼女達を放っておくとゴブリンやオークの慰み者になってしまいますよ」
「ど、どうして...」
「異世界に行った者は色々な特典を持って行きます。ですので現地の方々に頼りにされるのですが、その力も使い方を分かっていなければ意味がありません」
俺は彼女達に嫌われても会って貰えなくても良い、だが守りたい。だから...
「...俺を異世界に送ってくれ。皆の所に...今すぐ!!」
「分かりました。では行ってらっしゃーーい」
「え!?ちょっと待っ」どぴゅうぅぅん
お、おい!!何か武具とかくれるんじゃないのかよ!?な、何でこんな急に飛ばすんだ、心の準備とかあるだろ。大体どこに飛ばされるんだよ。
そう思っているといきなり周囲が明るくなり空に投げ出されて石造りの町並みが遠くに見えたかと思うと俺は地面に叩きつけられていた。
「いててて」
どうも町外れの草原に落とされたらしいな。地面に衝突する直前、ブレーキが掛かったようで倒れた時ぐらいの衝撃しかなかったが滅茶苦茶怖かった。もうちょっとゆっくり下ろしてくれよ。
俺が辺りを見渡すと数百メートルほど離れたところに町が見えている。またすぐ近くに鬱蒼と茂る森もある。しばらくきょろきょろしていると、空からノートが降ってきていた。何だこれ?
(渡すの忘れてたの、妹ちゃんがあなたと一緒に棺桶に入れたものを送るね)
何処からともなく女神の声が聞こえてきた。小町が俺と一緒に棺桶に入れたノート?そのノートを拾い上げ表紙を見ると一気に血の気が引いてきた。
Campusの表紙には『神界黙示録』と書いてある。
い、イやああああぁぁああ!!
な、何してくれてるの!?小町ちゃん!!何で俺と一緒に火葬してんだよ!!中学の時の黒歴史を何でこっちの世界に持ってこないといけないんだ!?
どうするんだよ、こんなの!?何で女神も特典を渡さずにこんなもの送ってくるんだよ。..燃やしてしまおう、誰にも見つからないうちに。ただ今は火を起こすことも出来ない、後で絶対燃やしてやる。
..はぁ、どこに行けば良いかも分からんな、とりあえずは町に入ってから情報収集でもするか。俺はノートをペラペラ捲りながら独り言をつぶやいていた。
「...ふ、
ゲームの名前を使うなよ、俺が過去の自分を下げ荒みながらそう呟いたとき、いきなり右手に重みを感じて見てみると何かを握りしめていた。
「これって...なんでノートに書いてある剣を俺が握ってるの!?」
何だか眩暈がしてきた。なんだよ、剣聖神喰剣って。もうちょっとカッコいい名前にしろよ。そもそも剣聖って剣の達人ってことだろ、何でそれを名前に入れてんだよ、しかも神を喰らう剣って。
いや、そんなことより転生の特典ってこのノートかよ!?もしかして書いてある魔法も使えるのか?
「...我、失われし名も無き神の力、黒き獄炎、今一度解き放て。
俺が呟くと、左手から黒い炎が飛び出して草原を焼き尽くしながら消えて行った。
いやあああああぁぁあぁぁ!!
もしかしてこのノートに書いてある装備や魔法が俺のものになるのか!?そうなると無闇に燃やせないじゃん!!
はっきりいってチートだよ、こんなの。でも何で異世界まで来て、黒歴史を身に纏って晒しながら生きて行かないといけないんだよ!!
剣を地面に置くと粒子のようになって消えていく。もう一度呟くと同じ剣を右手に握っていた。
うう、死にたい、死にたい、死にたい。
アイツらを守りたいためにこちらに来たが、守る為には俺の黒歴史を晒していかないといけないのかよ!!
俺が一人草原で蹲っていると誰かが近づいてきて話しかけてきた。
「大丈夫ですかぁ」
何か甘ったるい聞き覚えのある声が聞こえてきて俺が顔を上げると見覚えのある3人が踞っていた俺の事を見下ろしていた。
「え!?...あ、貴方八幡なの!?いきなり黒い炎が飛んでいったと思って気になったから来てみたのだけれど、貴方だったのね!!」
「ひ、ヒッキー!?会いたかったよ!!こっちに来たんだね!!嬉しいよヒッキー!!でも何かすんごい魔法貰ったんだね!!」
「先輩!!先輩もこっちに来てくれたんですね!!嬉しいです!!先輩も凄い特典ですね!!」
え!?いきなり皆の前かよ、ハードル高すぎだろ。皆が魔法の事とか言っているが俺はそれどころではなかった。雪乃、結衣、いろはが俺の事を見下ろしている。俺は立ち上がりもせず土下座して頭を地面に擦り付けた。
「スマン!!俺のせいで皆を殺してしまった。許してくれなくてもいい嫌われてもいい。だがお前たちを守りたい!!だから三人の傍にずっといることを許してくれ!!」
「「「...」」」
誰も言葉を発してくれない。時間にしたらほんの少しだったのだろうが、俺には永遠のような時間が過ぎて行った。
「...八幡、顔を上げなさい」
雪乃がそう言ってくれたが俺は顔を上げれなかった。すると雪乃は俺の顔に手を当て上げさせてきた。そして雪乃は俺の前に跪いて顔に付いた土汚れを落としてくれ、溢れ出ている涙を拭きとってくれていた。
「あの事故は貴方のせいではないわ、だから気に病むことはないの。
でもね八幡、私は今貴方が来てくれて凄く嬉しいのよ。貴方が居て結衣が居て、いろはが居てくれる。
ここは日本ではないけれど、住むところなんてどこでも良いの。私は貴方達が居てくれればそれだけで満足なのだから」
「そうだよ。ヒッキーはただ車運転してただけだから誰も恨んでなんていないし。
今度はこっちで皆と一緒に過ごそうね」
「そうですよ先輩。私は車の中で寝てたので全く覚えてないんですけどね。
...でも先輩。さっきのってプロポーズですよね//」
「え!?」
何言ってんの、この子。俺プロポーズどころか告白なんてしてないだろ。何を聞き間違えたんだよ。
「そ、そうね。先ほどの言葉は私達三人へのプロポーズね//」
雪乃も何言ってんの、三人にプロポーズっておかしいだろ。
「う、うん。告白だったよね//あ、あたしをヒッキーの近くにずっと置てください//」
「ゆ、結衣!?ずるいわよ。八幡、私もお受けするわ//」
「結衣先輩も雪乃先輩もずるいですよ!!せ、先輩。私もずっと先輩の傍にいますから//」
あ...そういうことか、三人を守るためにずっと傍に居るといった事をプロポーズと捉えたんだな。だが3人同時に結婚できるわけないだろ。
「八幡、こちらでは重婚出来るのよ。でもいきなり私達三人を娶ってくれるなんて//」
なんで俺の考えていることが分かるんだよ。サトラレなの?俺。
「う、うん//でもあたしは嬉しいな。皆でずっと一緒に居れるんだね」
「そうですね。先輩、不束者ですがよろしくお願いします。でも初夜がいきなり4人なんですね//」
い、いろはも何言っちゃってんの!?しょ、初夜って//いや、結婚したらそうなるかもしれないけど、不味い何とか誤解を解かないと。3人のことは正直、好きだが今はそんな話をしていたわけではない。
大体重婚できるからって、いきなり三人はないだろ。このままだと皆を傷つけかねない。
「な、なあ、聞いてくれないか...」
「こちらに来てよかったわね、皆で八幡のお嫁さんにしてもらえたのだから」
「お、おい。俺はそんな」
「結衣やいろはが自暴自棄にならなくて済むわ」
「ゆきのんやいろはちゃんに申し訳ないからね」
「雪乃先輩と結衣先輩が泣く姿が見れなくて残念ですけど」
「「「はぁっ!?」」」
何で三人同時に話し出したのにそれぞれの言ったことを聞いてんだよ。怖いよ、三人の顔は笑ったままで目だけが変わっていく。
「結衣といろはは喧嘩を売っているのかしら」
「ゆきのんといろはちゃんにちょっと痛い目を見てもらおうかな」
「雪乃先輩、結衣先輩。私の力を見くびらないでくださいね」
おいおい、何か三竦みで喧嘩始めたぞ。
雪乃は持っていた杖を前にかざすと、身体から氷の結晶が溢れだして固まっていき何十本もの氷柱になって、雪乃の後ろの空間に浮かび出していた。
結衣は自分の腰に着けている革のポシェットから何かを取り出すと口に含んでいた。すると頭から犬耳が生え爪が長くなり、お尻からは尻尾が出てきている、犬か狼かを憑依させているのか。
いろはも何か魔法を詠唱すると腕に付けているブレスレットから光が放たれ空中に魔方陣ができ、その中から得体の知れない悪魔の様なものが出てこようとしていた。
これ止めないと周りに被害が出てしまう、俺が何とか止めないと。
「..いい加減にしておけ、止めないなら俺はお前達の前から消えるからな」
そういうと三人はあっという間に自分の出した物をどこかに閉まって俺の元に駆け寄ってきた。
「ご免なさい、あなた。私は夫の言うことに従うわ」
「うん、旦那さんの言うことは聞かないとね」
「そうですね、家の大黒柱ですからね。主人の言うことに反対しませんよ」
なんか三人からの呼び方がおかしくなっている。そう思っていると雪乃に右腕を絡め取られ、左腕は結衣が絡めてくる。いろはは俺の背中に抱きついてきて、三人は俺を何処かに連れて行こうとしていた。
「な、なあ、何処に連れて行くんだよ」
「私達の家よ、こちらの世界で買ったのよ」
「うん、三人で買ったんだよ。小さいけれどあたし達には十分だよ」
「中古ですけど良い家ですよ、先輩」
俺は引きずられるように町に入り三人が買った家に連れられて行った。そういえば三人とも魔法とかを使えるんだよな、それも結構威力が有りそうだったが、ゴブリンなんかに負けるのか。
「...三人の強さはどれぐらいなんだ」
「そうね、今日はサイクロプスの討伐に出かけていたのよ」
「うん、ちょっと苦労したけど、勝てたよね」
「私達は三か月ぐらい前に飛ばされたんです。そこから三人で色々な魔物を倒しましたよ」
あの女神、嘘つきやがったな。サイクロプスを倒せる奴がゴブリンに負けるわけないだろ。..いや幾らこの三人でも寝込みを襲われたらどうしようもないのか。そうならないようにこれからは俺が守っていけばいいんだ。
ただ、この三人と比べて俺の強さはどれぐらいなんだろうか。俺一人ではこのノートがないとゴブリンにすら勝てることは無いだろう。
これから三人に鍛えてもらえば良いのか、俺がそんなことを考えていると何時の間にか庭があるレンガで出来た家の前まで連れられてきていた。ここが皆で買った家なのか、大きくはないが3人で暮らすのなら十分な大きさだな。
俺達が玄関に入ろうとすると、何か変な声が聞こえてきていた。
ぷぎゃあああ!!
上空から変な声が上から聞こえてきたので、見上げると男が降ってくるのが見えた。
べちゃ!!!!
空から降ってきた男は庭に落ちてきたが、俺の時と一緒でどこも怪我をしている様子はなく、すぐに立ち上がるとキョロキョロ辺りを見渡し始めた。
「うぅ、ここは何処なのだ?」
「お前、材木座か!?」
「お、お主は八幡か!?会いたかったぞ相棒!!お主が死んだあと、異世界でまた会えるとは。
やはり我とお主は八幡大菩薩の導きにより...あ、...お、お三方もお久しぶりです」
材木座もこっちに来やがった。3人がいることを確認すると素に戻ってしまったが。
話を聞くと俺の葬儀の後、車の運転中にボーとしてて川に転落したらしい。そして気づいたら死んでいて女神に会っていたそうだ。
今は材木座も加わり雪乃といろはが夕食を用意してくれている。
「八幡は特典に何を貰ったのだ。特に何も持っていないようだが」
「..俺は色々な魔法がつかえるようにしてもらった。だから何も持ってないんだよ」
俺はノートを腹にいれて見えないようにしていた。さすがに読ませられないからな。このノートは部屋に仕舞っておいても良いのだろうか。それとも持ち歩かないと能力がつかえないのだろうか、一度検証する必要があるな。
「材木座は何を腕に付けてんだよ」
「ハハッ、見よ!我はこのパイルバンカーだ!!どのような装甲でも打ち破ることが出来るのだぞ、魔王にも効果があると女神様のお墨付きだ」
「..それってどうやって懐まで入っていくんだよ」
「..しょ、しょれはパーティーの皆に頑張って貰ってだな」
「それまでお前は何をするんだ」
「...応援とか」
材木座は何を考えてそんなの貰ってんだよ、パイルバンカーって憧れるのは分かるよ。ほぼ一撃必殺だよね、ただ相手だって突っ立っているわけではない。攻撃をしてくる、その攻撃をどうやって掻い潜るかも考えないと駄目だろ。
「大丈夫よ、こちらで剣やそのほかの武具の扱いを覚えれば良いのよ」
「盾役が欲しかったので、木材先輩にはちょうど良かったです」
「うん、前衛があたししか居なかったから、中二が前衛してくれると助かるかも」
俺と材木座は3人からこちらの世界のことを聞いていた。とりあえず強くならないと話にならないので冒険者登録し、クエストを受けるところから始めるらしいが、よくあるステイタスが見えたりレベル、職業という概念は特にないらしい。ただ討伐などの貢献度によって、ギルドでの扱いが代わってくるそうだ。
武具についても使いこなせれば、魔法使いが大剣を持ったりしていることもあるらしい。
「ええ、だから私は魔法使いだけれど、レイピアと薙刀を持っているわ」
「あたしは前衛ばっかりだけど、回復とかも出来るしね」
「私は召喚士ですけど、何時も投影用ナイフと弓を使ってますよ」
その後も話を聞いていたが、こちらでは身体的な限界が異常なほど高く、雪乃は既にフルマラソンぐらいであれば完走できるほどの体力をつけ、結衣は足が異常に早く、垂直とびでも5メートルは行けるらしい。いろはは弓を使うので見た目は何も変わりないが、筋力が男勝りということだった。
「で、では我も相手の懐に飛び込めるぐらい素早くなれるのでは」
「訓練すれば出来るでしょうね」
「先輩も頑張ってくださいね」
「戦い方はあたしたちが色々教えてあげるよ」
積もる話で夜遅くまで話し込んでいたが、そろそろ寝ようかとなり準備をしだしていた。
「では寝室に行きましょうか//」
「うん、ヒッキーあたし達を可愛がってね//」
「先輩、初めて何で優しくしてくださいよ//」
「あ、あのう..わ、我はどこで寝れば良いのでしょうか」
「は、恥ずかしいので、材木座君は家の中で寝ないでほしいのだけれど」
「う、うん。中二は馬小屋でいいよね」
「そうですね、ちゃんと寂しくないようにしておきますから」
そう言うと、いろはは材木座を家に隣接している馬小屋へ連れて行った。
エっ!?マッテ。イロハドノ?オイテ イカナイデ...アァ、ヤ、ヤメテ、ラメェ!!
なにか材木座の悲鳴のようなものが聞こえてきたが、いろはは何事も無かったかのように家に入ってきた。
「ほ、本当にいいのか」
「今さら何を言っているのかしら。私達の気持ちに気付いていながら、あなたは私達の事を想って選ばなかったでしょ」
「そうだよヒッキー。でもこっちの世界なら選ぶ必要ないんだし」
「私達、3人一緒が良いんです、皆で居られるなら文句は言いませんよ」
ここは決めるしかないのか、確かに俺は3人から選ぶことなんて出来なかった。ただ選ばず3人と一緒になれるのなら俺にとって一番いい選択になる。
俺は気持ちを高ぶらせ3人に返事をするため、グラスに入った酒を一気に飲みほしていた。
.....
....
...
..
.
うん?眩しい、朝になったのか。俺の右隣に雪乃が寝ていて、その横に結衣が。俺の左にはいろはがくっ付いていた...
...あれ?そう言えば昨日は何があったんだ。俺は上半身を起こし昨日のことを思い出そうとしていると、雪乃が起きたようで、俺に挨拶をしてきた。
「おはよう、八幡」
「お、おはよう。な、なあどうして一緒に寝ているんだ」
俺が雪乃の方に身体を向けると、雪乃も起き上がってきた。
「昨日の夜、何があったか教えてほしいんだが」
俺がそう言うと、雪乃は不満げな顔をしながらも答えてくれていた。
「痛いところとか無い?」
「ああ」
雪乃はそう言いながら俺の頭を撫で出したが、何かが出来ているのか触られると少しだが痛みを覚えた。
「たん瘤が出来ているわね。あなたは昨日いきなりお酒を一気に飲み干し立ち上がったかと思ったら、倒れてしまったのよ。そして頭をテーブルの角にぶつけて気を失ってしまったの」
「じゃあ昨日の夜は何も..」
「ええ、新妻3人をほったらかしにして爆睡していたわね。でも何事も無かったようで良かったわ、凄く心配したのだから」
「すまん、心配かけて」
「良いのよ、で、では目覚めのキスをして貰えるかしら//」
雪乃はそういうと、俺の顔を撫でるように手を這わせてきて、顔を近づけて来ていた。
雪乃が目を閉じてきたので、俺は顔を近づけていき、口づけを交わしていた。
俺は初めてのキスに戸惑いながらも雪乃と唇を合わせられたことが嬉しく長い時間、雪乃を求めながら身体を抱きしめて行き手を這わせていった。
「あぁぁ//」
「..何で二人だけで朝から盛り上がっているんですか」
「..ゆきのん、何してんの」
何時の間にか起きていた結衣といろはにジト目で見られ、俺と雪乃は顔を真っ赤にしていた。
「こ、これは違うのよ//朝の挨拶をしていただけだから//」
「へぇ、朝の挨拶が喘ぎ声って雪乃先輩ってエロエロですね」
「うん、これからはエロのんって呼んだ方が良いね」
「お、俺が盛っただけだ。雪乃は悪くないぞ」
「..いいえ、私も八幡が欲しかったもの//」
雪乃がそんなことを言ってくれるなんて思わなかった。俺が雪乃の方を見ると顔を赤くしながらも俺の方に向けている眼差しを逸らすことは無かった。そんな雪乃が愛おしくなりまた抱きしめてキスしていた。
「また雪乃先輩だけして貰ってる!!私にもしてくださいよ、先輩!!」
「エロのんばっかりずるい!!あたしにもしてよ、ヒッキー」
3人に対してキスをしていたが、流石に今からエッチするのは躊躇われたのでそこまでにしておいた。
俺達が居間に移動しテーブルに座ると、雪乃といろはは食事の用意をしだして、結衣はクッキーを焼いているようだ。
そういえば材木座はどうしたんだ?まだ馬小屋で寝ているのだろうか。
「馬小屋って隣だよな、材木座を呼んでくる」
俺が馬小屋に近づいて行くと、何か呻き声のような声が聞こえて来た。
「た、助けて...」
材木座の呻き声が聞こえ、俺が馬小屋に入っていくと材木座の上に女の魔物が跨っていた。あれってサキュバスか!?滅茶苦茶色っぽいお姉さんだな、扇情的で腰を振りながら俺を流し目で見て手で招いて誘ってきている。俺も相手してほしいな。ちょっと、いやかなり材木座が羨ましいぞ。
ただサキュバスと目が合ってから何故か身体が言うことを聞かなくなり、自分の意思に関係なくサキュバスの方に足が自然と動き出していた。
サキュバスは近づいた俺の頭に手を回すと顔を近づけてきた。
俺とサキュバスがもう少しでキスしようとしたとき、3人が馬小屋に入ってきた。
「ヒッキー、だめえぇぇ!!」
「いろはさん、八幡が魅了されてるわ!!」
「あ、しまった」
いろははそう言うと何か魔法を唱えていたが、俺ともう少しでキスするところだったサキュバスが消えて行った。
材木座は精気を吸われ痩せこけていたが何とか生きてはいるようだな。俺は材木座の上に脱ぎ散らかしている服を掛けた。
「私たちの邪魔されたくなかったんで、木材先輩にはサキュバスを召喚して当てがったの忘れてました。てへっ」
「は、はちまん...わ、我はもう駄目だ」
「大丈夫だよ、中二にこれ食べさせて」
結衣がポシェットから何かを取り出して、俺に渡してきたので材木座に食べさせた。暫くすると痩せこけた材木座の顔が見る見るうちに元に戻って行く。
「何を食べさせたんだ」
「クッキーだよ、あたしの作ったクッキーをこのポシェットに入れると、いろんな物が出来るの。さっきのはハイポーションと一緒くらい回復できるんだよ」
「は、八幡。我の貞操が...」
「お前、相手がいないから貞操っておかしいだろ。良かったじゃないか、あんな大人の色気を放っている女性に相手してもらって、羨ましい」
「八幡、もしかしてあなたもサキュバスと寝たいのかしら」
「そ、そんなことないでしゅ...」
やば..肝心なところで噛んでしまった。だがサキュバスにはかなり興味あるよな。材木座が一晩中相手されて生きてるなら、俺もちょっとぐらいって考えてもしょうがないだろ。サキュバスの煽情的な表情が忘れられない、童貞には堪らなくそそられる表情だった。
「..八幡、私達3人を娶った後、あんな胸だけが取り柄の駄肉なサキュバスと不貞を働くつもりかしら」
「先輩はあんなビッチが良いんですか!?胸しか取り柄がないじゃないですか。結衣先輩のおっぱいで満足してください」
「ふーん...ヒッキー、二人には無理だけど、あたしなら変化のクッキーでサキュバスになってあげれるよ」
結衣はそう言うと、胸の下で組んでいた腕を上にあげ胸を強調しだした。
ゴクッ
思わず生唾を飲み込んでしまったが、そんな俺の反応をみて雪乃といろはの目が見たことが無いほど、腐り出していた。
「フフフ、結衣は自分だけが良ければ良いのね」
「...へぇ結衣先輩、私達を裏切るんですね」
二人はそう言うと、二人の背後から禍々しいほどの負の感情が溢れだして馬小屋が揺れ出していた。
「お、おい。落ち着けって!!結衣も抱きつくな!!」
「ヒッキー楽しみだね、あたしは今からでもいいよ//」
結衣がそう言うと周囲は凍りつきだし、家の回りには俺たちが逃げられないようにいろはが召喚したのだろう、触手が家を取り囲んでいた。
「だって二人より、あたしが似合うよ。貧相なサキュバスって可哀想だよね。ぷぷぷっ」
ミシッ
い、家が悲鳴をあげてるぞ。何で結衣は二人を煽ってんだよ。
「お、おい。雪乃もいろはも落ち着けって。俺は胸の大きさなんて気にしてないぞ。結衣もいい加減にしておけって」
「でもヒッキー、あたしのおっぱいいっつも見てたじゃん!!今もチラチラ見てるし!!」
「そ、それはその谷間は二人にはないからな。何時かは顔を埋めたいと考えて...あ」
「「へぇ...」」
俺の言葉で二人の目からはハイライトが消え、顔の表情も今まで見たことがないほどになっている。
ミシッミシッミシミシミシッ..バキバキバキッ!!
「い、家が崩れるぞ!!」
「あたしに任せて!!」
結衣はそう言うとポシェットからクッキーを取り出し食べ出した。
見る見るうちに昨日見た獣の容姿に変わったかと思うと触手を切り刻んでいき、出口を作っていく。
「出れたっ!!早くここから逃げて!!」
俺たちは結衣の作ってくれた出口から出て振り返ると、馬小屋と家に絡みついている触手と氷の重みの為だろう、家が崩れていった。
「は、八幡これからどうするのだ」
「...壊れたもんはどうしようもないだろ」
「あーあ、ゆきのんといろはちゃんが壊しちゃったぁ」
「「...」」
雪乃もいろはも呆然と立ち尽くしていたが、暫くすると涙を流し出していた。
「うぅ、ご免なさい。私達の家を潰してしまって」
「...私もご免なさい、でも結衣先輩がいけないんですからね!!」
「ふーん、いろはちゃん達が壊したのにあたしのせいにするんだ」
「誰が悪いって無いだろ、俺も含めてみんなが悪いんだ」
「..そうね、八幡と材木座君は悪くないと思うけれど。...結衣、いろは。ご免なさい」
「私もすみませんでした」
「あたしもごめん。でもこれからどうしよっか?」
家を直すとなるとそれなりの時間と費用が掛かるのだろう...仕方がない。俺の黒歴史の一つを出すしかないが、皆には見せたくないな。
「みんな、ちょっと離れててくれないか」
「どうするんですか、先輩」
「俺の魔法を使うから50メートルぐらい離れてくれ」
「そんなに離れないといけないのかしら」
「ああ、何があるか分からないからな」
「先輩は大丈夫なんですか」
「ああ、俺は大丈夫だ。ただ何かが起きた時、皆を守れるか自信がないんだ」
「うん、わかった。ヒッキーの言う通りにしよ」
皆が家から離れたことを確認し、俺は外からは家の塀で死角になるところに移動していった。
ふぅ、今からあのセリフを言わないといけないのか...
俺は目を瞑り意識を集中して言葉を発していた。
「キュアップ・ラパパ!ブラックダイヤ!ミラクル・マジカル・ジュエリーレ
一人の奇跡、キュアボッチ!私はプリキュア!!」
俺が台詞を唱えると、俺の身体が輝きだし、ゴスロリのような衣装を身に纏っていた。
うぅ、死にたい、死にたい、死にたい。..ただ今は誰も見ていないんだ、早く終わらせないと。
俺は両手を前に出して親指と人差し指を使ってハート型にし崩れた家をハートの中に納まるようにした。
「プリキュア MAXコーヒー エクスプロージョン!!」
ねえ、MAXコーヒー関係ないよね。中学の時の俺をぶん殴りたい。深夜のテンション高い時に書いてたはずだが、何で神界黙示録にプリキュアのこと書いてんの!?
しかもゴスロリの衣装まで書くなよ、何で俺が着てんだよ。スカートヒラヒラさせて、ニーハイも履いてるし、しかも手でハートの形を作んないといけないなんて。
俺が魔法を唱えると、崩れた家が何事も無かったかのように戻って行く。俺が願ったことが叶う魔法っておかしいだろ。そんなこと関係なく、家は元通りに戻って行った。
よし、アイツらが戻ってくる前に変身を解かないと。魔法を解除して服が元に戻ったころ、皆が駆け寄ってきていた。もう少しで見られるところだったな、何とか間に合ってよかった。
「す、すごいわ。八幡!!」
「先輩、凄いです!!凄いですぅ!!」
「やるな八幡。さすが我が相棒ぞ」
「..ヒッキー、凄いね」
雪乃といろはと材木座は直った家に驚きの声を上げていたが、結衣はなぜか俺の後ろで俯いていた。3人が家に入っていくのを確認すると、結衣は俺の肩に手を掛け顔を近づけて話しかけて来た。
「..ヒッキーってプリキュアだったんだね//」
はっ!?な、何言ってんの!?この子。
結衣には見えていなかったはずだ。声も離れていたから聞こえなかったはず...
「あたしが変化している時、聴力も視力も凄く上がるの。割れた鏡が有ったけど、反射して見えてたんだ..可愛いかったよ、キュアボッチさん//」
いっ、いやぁぁぁあぁぁ!!お、俺がスカート履いて魔法唱えてたのバレてたのか!?死にたい、死にたい、死にたい...
「た、頼む。何でも言うこと聞くから黙っててくれ」
「いいよ。じゃあ今日の夜、あたしだけ抱いてね//」
「い、いやそれはさすがに」
「へぇ、何でも言うこと聞くって言ったのに...」
「わ、分かった。二人は何とかするから」
「約束だよ、ヒッキー//」
どうすれば良いんだ。あの二人を説得何て出来るのか、いざとなればプリキュアに変身して魔法を使えば雪乃といろはを簡単に寝させられると思うが、バレない様に出来るだろうか。
結局異世界に来たのにそれらしいことは全く何もできていないな。さきほどの騒動で今は昼を過ぎてしまっている。
こちらの世界でも結局は3人に振り回されているだけだ。だがそんな生活でも俺はこれから起こるであろう、材木座を含めた5人での異世界生活が楽しみになっていた。
...そういえば材木座は童貞卒業したんだよな、俺は今日、結衣相手に捨てられるだろうか。
...フヒッ
(ここまで材木座の小説)
**************************
はぁ、また材木座君はこの設定で書いてきたのね。春休み前に書いたものとは異なるけれど結衣はクッキー、いろはさんは召喚士、私は氷系の魔法使いなのね。
「流行りの転生ものを書いてみたいと思って書いてみたのだ」
「また変なの書いたな材木座。何だよ、中二病で書いた設定が使用できるっておかしいだろ」
「異世界物でも色々あるではないか、チートの能力だったり異世界にない技術を持ち込んだり。それであればこの設定でもおかしくなかろう」
「おかしいよ、何で俺が黒歴史を披露しないといけないんだよ!!」
「そうよ、材木座君。八幡は名も無き神なのよ」
「ゆ、雪乃!?何を言っているんだ!!」
「あら、あなたが自分で言っていたのよ。材木座君、神であればそれこそノート何て要らないでしょ」
「いや、ノートがあれば神の力が使えるという設定で八幡自体が名もなき神という訳では」
「ヒッキーが名もなき神様ならプリキュアの設定は要らないんじゃないかな」
「そうですね、先輩が魔法使いプリキュアに変身してキュアボッチになるって...ちょっと見たいです」
「...頼む、もうそれ以上言わないでください」
顔を赤くした八幡がへこんでしまったわ、余り黒歴史については言わない方が良さそうね。少し話題を変えましょうか。
「材木座君、どうして私と結衣、いろはさんは言い争ったりしているのかしら。重婚できるのであれば仲良く過ごしても良いと思うのだけれど」
「そうですよね、私は仲良くしたいです」
「でもさ、あたしはラノベに書いてあるみたいに一番最初が良いかな。どうせならそこも書いてほしかったな//」
結衣は何を言い出すのかしら。それなら私との濃厚な描写の物を書いてほしいわ。でもそんなこと材木座君に書いて貰うなんて恥ずかしくてお願い出来ないけれど。
「..続きは書いてないのだが、八幡はずっと経験出来ないで行かせようかと」
「..なんで、俺は卒業できないんだよ」
「その方が面白いではないか。何時も皆に求められながらも何らかが起こって最後まで経験出来ないという設定でだな」
「それなら中二病の能力を使えるのは未経験者でないと駄目って書いてある方が良いな、それで魔法がいらない世界にするため、皆と協力して魔王を討伐するとか」
「確かにその方が良いな。我も最初は皆さんに鍛えて貰うが、いろは殿が毎日召喚してくれるサキュバスと肌を合わせる内にお互い情にほだされ、それ以外にも我が助けた奴隷のダークエルフ、森の探索時に出会い我に惚れたドライアド、滅ぼされた亜人の王国の姫ぎみを仲間にし冒険しながらイチャコラ
「このラノベの続編はお前がメインか!?しかもハーレムかよ!!」
...わ、我が主役ではないぞ、あくまでも八幡や皆さんがメインで我はサブキャラクターだ。スピンオフの扱いだ」
「スピンオフの方が執筆が早そうだな」
「しょ、しょれはないと思うじょ...」
私達が材木座君を見ていて、目が合うといきなり口調がおかしくなったわ、彼の中では自分の冒険を書きたいのね。でも私達に伝えるとまた調教されると思っているのでしょうけど。
「喉乾いたから、コーヒー買ってくるわ」
「八幡、もう遅いからそのまま帰って貰っても良いわよ」
「そうか、じゃあ今日はこのまま帰るな」
「では我も帰らせてもらいます」
八幡が出て行ったあと、材木座君が後片付けを済ませて、帰ろうとしたところで私達は彼を引き留めていた。
「材木座君。ラノベの批評はまだ終わっていないわ」
「そうですよね。私と雪乃先輩の扱いが酷かったことについて弁明を聞きますよ」
「いいじゃんラノベの中の事なんだから、そんなに怒らなくても」
「結衣。貴女はサキュバスにされていたのよ」
「ヒッキーだけのサキュバスなら良いよ//」
そう言ったかと思うと、結衣は腕を組み胸を強調しだしたわ。
「貧相なサキュバスって可哀想だよね。ぷぷぷっ」
「「!!」」
私といろはさんは唇を噛みしめて結衣を睨んでいるなか結衣は材木座君に言葉を続けていた。
「中二、サキュバスのコスプレ衣装って高いのかな」
「も、物にもよると思いましゅが、高ければエッチな下着に角と羽、尻尾を付ければ良いと思いましゅ」
材木座君は顔を真っ赤にして、結衣の質問に答えているけれど、結衣の方を直視できないのか視線があさっての方を向いているわね。
「じゃあ今度、ヒッキーにはコスプレで撮影して貰おうかな。あたしも帰るね、バイバイ」
「「....」」
「..それでは我も帰らせてもらいましゅ」
ガシッ
「あ、あのお二方。どうなされたのでしゅか」
私といろはさんは材木座君を捕まえ、下校時刻まで彼の指導を行っていた。あくまでもラノベの指導であって決して彼に八つ当たりをしていたわけではないけれど、材木座君は最後、泣いて帰っていったわね。