私達はお昼を食べ終わり皆で後片付けをしているのだけれど八幡の姿が見えないわね。
「結衣、八幡はどこに行ったのかしら」
「...居ないね。お手洗いじゃない?」
そうね、ここから何処かに行くにしても車が必要だけれど、車は誰も動かしていないわね。
私達は後片付けを済ませて、話しているのだけれど八幡はまだ帰ってこないわ。せっかくなので皆でテニスでもしようと思ったのだけれど。
そう思いながら、周りを見渡していると、池の上にボートが浮いており、男女が乗っているのが見えたわ。
「..ねえ、あのボートに乗っているのは八幡と仲町さんではないかしら」
私がそう言うと、近くにいた結衣と優美子さん、折本さんが一斉に池の方に振り返ったわね。
「ヒ、ヒキオはなんで二人で乗ってんだし!!」
「な!?千佳は何してるの!!」
「ずるい!!千佳ちん抜け駆けしてる!!」
私達は駆け出して池の畔まで行くと、八幡は私達に背中を向けるよう座っていたので気づいていないようだけれど、仲町さんは私達の方を見た後、八幡ににじり寄っていったわ。
仲町さんは私達が見ている中、八幡に抱きつきキスまでしているようね。八幡は止めろ。って言っているようだけれど、ボートの上では逃げれないわ。仲町さんに押し倒され良いようにされているのだけれど。
「な、何してんだし!!」
「ヒキオもされるがままじゃん!!」
「許せないわね」
「千佳!!」
折本さんが名前を叫ぶと、仲町さんは体制を直して八幡も起き上がったのだけれど、仲町さんは八幡のお腹に抱きついているわ。
八幡は仲町さんに抱きつかれながら、ボートを漕ぎにくそうにしながらも何とか岸まで戻ってきたわね。
「千佳!!何してんのよ!?ウケないよ!!」
「かおり、私も八幡君が好きだよ。だから告白させてもらったの。..返事は貰ってないけど」
「で、でも千佳ちん。キスして抱きついてたじゃん!!」
「うん、私を選んでほしいから。最低でも皆と一緒のスタートラインに着きたいからね」
「うぅ、千佳に先越されたよぉ...ウケないよ」
「ヒキオ...早く誰かを決めるし。段々ライバルが増えて行くじゃん」
「そうね。今、八幡に告白した人は仲町さんを含めて、8人...」
「「は、8人!?」」
「ええ、私、結衣、優美子さん、南さん。今日は居ないけど姫菜さん、沙希さん、いろはさん。そして仲町さん。...早く私に決めて貰わないと落ち着かないわ」
「ゆきのんも何言ってんだし。ヒッキーはあたしを選んでくれるんだよ」
「学校が違っても私を選んでね、八幡君」
「雪乃も結衣も千佳も諦めるし、あーしが八幡の隣に立つんだし」
「...八幡。私...私も八幡のことが好き!!これが中学の時、告白してくれた時の返事!!だから私と付き合って!!」
私達がいるなか、折本さんがいきなり告白しだしたわ。そう思っていると八幡に抱きついてキスしてしまったわね。
「かおり//」
「な、何してるんだし!!かおりん!!だいたい中学の時はかおりんが振ったんだよね。今は関係ないじゃん!!」
「そうだね、かおりが今さら何を言っても八幡君が選ぶだけだから」
「..はぁ、また一人増えちゃったじゃん」
「..本当にどこまで増やすつもりなのかしら」
「かおりは所詮2番手だね。私が今日最初に告白したんだから」
「あら、それを言ったら八幡に初めて告白したのは私よ。部室で語り合って情熱的にキスしたわ」
「雪乃、一番とか関係ないし。ヒキオが誰かを選ぶのに順番なんて関係ないし」
「そうだよ、ゆきのん」
「八幡に告白されたのは私だよ、皆は告白してもらってないよね。姫菜ちゃんの時は嘘告白だって聞いたよ。唯一私だ!け!が!八幡に好きって言ってもらったんだから!!」
中学の時とはいえ確かに折本さんだけが告白されている、それについては認めるしかないわね。でも今は私達のほうが居る時間が長く、お互いのことを理解しているはずよ。
「...貴女達とも決着を付けないと行けないわね。そういう意味でも早く選んでほしいのだけれど...八幡」
「ヒキオ」
「ヒッキー」
「「八幡(君)」」
「い、いやそれはあれがあれだから、その、...じゃあ」
そう言って八幡は別荘の方に駆け出して行ってしまったわ。はぁ、どうしてあんなにもヘタレなのかしら。でも惚れた弱みね、一人を選ばないのは皆のことを大事に想って悲しませたくない、傷付けたくないと考えているのが分かるから。
その優しさでまた好きになってしまうのね、でもその優しさを私だけに注いで欲しい。そう考えてしまう私は我が儘なのかしら。
私達はその後、皆でテニスをしていたわ。ここの別荘は車を出さないと観光や買い物にも行けないけれど、今日は都築達の慰労を兼ねているということで、母さんがお昼からお酒を都築達に進めていたので、バスを運転できるのが誰もいなかったわ。
私達はダブルスで遊んでいると、優美子さんはどうしても以前の借りを返したいと、シングルでのテニスの勝負を挑んできたので、私は受けて立ったわ。
でも最初は私がリードしていたのだけれど、後半体力が尽きて優美子さんに逆転負けしてしまったわね..
「雪乃、もうちょっと体力付けなよ。1setも持たないなんて」
「..必要ないわ、体力何て」
「エッチの時どうするの?相手にだけさせるん」
「そ、そんなことないけれど」
「こっちも色々してあげないと、飽きられちゃうし」
「...ゆ、優美子さん。そ、そういうのはやはり、女性からもした方が良いのよね」
「あーし経験ないから知らないけど、こっちからも色々してあげたいじゃん」
そうよね、八幡が喜ぶなら私からしてあげたいわ。でもその為にも体力が必要なのね...
もし私が八幡に選んでもらえても、優美子さんが言う通り、飽きられたら捨てられるってことも考えられるのよね...
私達はその後も遊んでいたのだけれど、何時の間にか八幡が居なくなっているわ。今度は城廻先輩が八幡を誘ってどこかに行ってしまったようね。
私が別荘に戻ったとき二人が二人乗り用の自転車で帰ってきたのだけれど、自転車から降りると城廻先輩が八幡の腕に抱きついているわ。
「..もしかして城廻先輩も告白したのかしら」
「うん、私もハチ君が好きだから告白したよ。皆が告白したことは生徒会に遊びに行った時、一色さんに聞いてたからね」
また増えたのね。..これ以上増えないと良いのだけれど、先生も名乗り上げるかもしれないわね。姉さんはどうなのかしら、もし姉さんもなら二人とも強敵だわ。
この別荘にいる間に私を選んでくれないかしら。どうしてもライバルが増えていくと不安になってしまうわ。
私は八幡に選んでもらう有効な方法が思いつかず時間だけが過ぎてしまい、別荘に来て二日目の夕飯を頂いていた。
御飯を食べ終わって寛いでいると、材木座君がラノベを持ってきたようね。
今日は皆で都築にバスを出して貰って観光や買い物に行ったのだけれど、母さんと材木座君、田中は来なかったわ。もしかしてラノベを書いていたのかしら。
「何時もの確認は母上殿が行っていただけたので、不要かと」
「そうなのね、では皆で読みましょうか」
私達はラノベのコピーをそれぞれ受け取り読みだしたわ。
**************************
(ここから材木座の小説)
私はT大で院に進んでいて、八幡とは違う大学になったので交流が無くなっていた。私は大学に入ってから八幡に対する恋心に気づいたのだけれど、電話番号を変えたようで八幡とは疎遠になっていた。
小町さんも家の事情で九州に引っ越して、大学も九州の方に通っているようで会うことはなかった。彼女も携帯を変えたのか連絡が付かなくなっていた。
私は大学院を卒業し雪ノ下建設に就職して2年が経とうとしているけれど、いまだに八幡のことが忘れられない。どうしても会いたい。でもどこにいるのか分からないため、連絡が取れなかった。
「雪乃、そろそろ身を固めてはどう?」
「母さん、私は結婚するつもりはないわ」
「今、海外出張している社員がいて来年度に帰ってくるのよ。その方は幹部候補で貴女と同い年だから、お見合いをしてもらうわ」
「い、いやよ。結婚相手ぐらい自分で見つけるから」
「そう言って何年経つのよ、今までお付き合いした相手は居ないのでしょ。そのままでは行かず後家になってしまうわよ」
「...」
「今週、その方は海外から一時帰国されるので土曜日に会ってもらうわ。相手の方だけれど「そんなのどうでもいいわ」...そう、でも逃げることは許しませんよ」
「..分かったわよ」
私は部屋に戻ると八幡に貰ったパンさんを抱いてベッドに寝転んでいた。私が抱きすぎて薄汚れているパンさん。彼と会えなくなってから私はこのパンさんに毎日話しかけていた。
「ねぇ、八幡は何処にいるの」
「...」
「私を八幡と会わせて」
「...」
「あなたが寂しさを紛らわしてくれるのね」ギュッ
母さんは何時もそう、私のことを勝手に決めて。大学の時に研究に没頭し過ぎて就活もろくにしていなかったのだけれど、いつの間にか家で働くように手配してて私は何も決めさせてもらえなかった。
でも相手がどんな人でも関係ない、結婚相手ぐらいは自分で決めたい。今でも忘れられない彼に想いを伝えたい。今回の見合いを何とか破談させてから休暇を貰って小町さんに会いに行こう。連絡先は分からないけれど、高校や友達ならだれか知っているかもしれないから、連絡を取ってみよう、何も動かないよりはいいわ。
その為には今回の見合い相手に気に入られないようにしないといけないわね....私はそんなことを考えながらパンさんを抱き眠りについていた。
土曜日になったので私は一人ホテルに向かい、母さんが先に待っている個室へと入っていった。
「ゆ、雪乃!?なんて格好をしているの!!」
「中世ヨーロッパの正装よ。今の時代に合わせたものを着てきたのだけれど似合っているかしら」
私は色々考えゴスロリの格好をしていた。恥ずかしいけれど、相手に嫌われるためならなんだってするわ。黒と白のスカートドレスで最初は恥ずかしいので膝丈のものにしようと思ったのだけれど、ミニのものを選んだわ。この歳になってこんなスカートを履くなんて思わなかったけれど、相手に嫌われるためなら何でもするわ。タイツも黒と白のストライプで揃えたけれど、着てみるとやっぱり恥ずかしいわね。
母さんは呆れかえって額を抑えていて溜息を吐いていた。
「はぁ..分かったわ、そんなに嫌であれば私からお断りします。今日は挨拶だけして解散しましょう。私が残って相手の方と食事を済ませていくわ」
「いいの!?」
「貴女がそんなに嫌がるとは思っていなかったから」
「あ、ありがとう母さん!!」
母さんが断っても良いなんて言うと思わなかった。でも良かったわ、これで八幡を探すのに障害が無くなったのだから。
「雪乃、出来れば顔を相手に見せないようにしてほしいわ、まさか化粧までそんなことをするなんて」
私は目の周りに黒いアイシャドーを塗っていて睫毛も凄く長い物を付けていた。口紅も今まで買ったことも無かったけれど、真っ黒なものを付けていたわ。
母さんは呆れかえってスマホを触りだしたわ。誰かにメールをしているようだけれど、ピロピロ音がうるさいわね、マナーがなってないわ。...今の私に言われたくないでしょうけど。
暫くすると終わったのか置いてある鞄にスマホを立てかけていたわ。
コンコンコン
「相手の方が来てしまったようね。一度入って貰って挨拶してからお断りするので貴女は顔を伏せてなさい」
そう言って母さんは相手の方を部屋に招き入れたわ。私が俯いているので相手の顔は見えないけれど一人のようね。家族は連れて来ていないようだわ。その方が良いわね、断らないといけないのだから。
「ママのん、お久しぶりです。...雪乃も久しぶり..」
ママのん!?私のことも名前で...今まで名前を呼び捨てで呼んでくれたのは彼しかいない。もしかして...
「ごめんなさい八幡さん。今回の事、雪乃が嫌がってしまって。来ていただいて申し訳ないけど今回は縁がなかったと言うことで」
八幡!?私は伏せていた顔を思わず上げて相手の顔を見ていた。そこには高校を卒業してから今まで忘れたことのない人が座っていた。
あのころから比べると顔は精悍になり大人びていて、目は鋭くでも瞳の奥には昔と変わらない優しさを秘めた眼で私のことを見ていた。髪の毛は整えられてて、でもアホ毛だけは未だに健在のようだけれど、私を見たとたん、項垂れてしまった。やはりあのアホ毛は気持ちを反映しているのかしら。
八幡は私の顔を見てびっくりしている。でも目が合った瞬間に視線を逸らして私に顔が見えないように後ろを向いて項垂れてしまったので表情がうかがえないわ。肩が震えているようだけれど断られて泣いているのかしら。
「..そ、そうですか、こういう場にそのような格好をするまで嫌われてたんですね」
「ち、ちが「申し訳ありません。私の育て方が間違ったようで八幡さんにも不快な思いをさせてしまったわ」..」
どうして母さんは私の発言に被せてくるのよ。喋れないじゃない。
「ママのんが頭を下げないでください」
「いいえ、私が悪いのよ」
「そんなことないです、俺が嫌われてるだけですから。..ただ会社に居づらくなりますね」
「話を「八幡さん。もしかして会社を辞めるつもり?」...」
ま、また...でもそうよ、そもそもなんで家の会社で働いてるのよ、全然気づかなかったわ。でも海外に行ってて今度帰ってくるのね。それであれば一緒に過ごせるわ。オフィスラブになるのね//皆が帰った後二人でイチャイチャ出来るし、給湯室や会議室で隠れながらチュッチュしたり出来るわね//
「..そうですね、俺は今の仕事が気に入ってます。海外勤務でも色々勉強させてもらえました。もし会社に居ても良いのであれば今回の帰国は無かったことにしてもらえないですか」
「色々手配が終わってるのよ。..でも残念だけどそうするしかなさそうね。せっかく雪乃と一緒の部署に配属されるようにしたのだけど」
そ、そんな。日本に帰ってくるなら八幡と一緒に過ごせるのに、私のせいで海外勤務が延びるなんて...
「は、はち「奥様にはお手数を掛けて申し訳ありません」...」
なんで八幡も私に被せてくるのよ、喋らせてよ!!
「八幡さん、私のことは今まで通りママのんって呼んでほしいわ」
「いいえ、さすがにそれは失礼でした。これで奥様と家族になることも無くなりましたから、今まで甘えていてすみません。非礼をお許しください」
「私は雪乃と結婚して頂きたかったけど、八幡さんのことをこんな格好してまで拒絶するとは思わなかったのよ」
違うわよ!!八幡が相手って分かってたらこんな格好するわけないでしょ!!大体母さんも教えてくれなかったじゃない...違う、私が話を遮ったんだった...でも今はそんなことより話を聞いて貰わないと。
「はな「俺達が高校生の時に雪乃御嬢様には沢山迷惑を掛けましたからね..嫌われてもしょうがないですよ」...」
「そうなのですか、その辺り私は何も伺ってなかったわ。雪乃は貴方のことが忘れられずに今まで恋人を作らないと思っていたのだけど違ったようね」
その通りよ。どうして分かってるのに言ってくれないのよ!!
「でも今日は会えてよかったです。高校の時から好きだった雪乃御嬢様にここまで拒絶されたら諦められますからね」
私も好き!!だから話を聞いてよ!!大体御嬢様ってなんで他人行儀になってるの!?どうして二人で話を進めてるのよ!!諦めるって何よ、私のことが好きならここから私を連れ去りなさい!!
「わ、私も「雪乃御嬢様に認めてもらうため、会社で頑張れば良いと思ったんですが無理でしたね」...」
「そういえば面接のときに言っていましたね。雪乃に肩を並べれる男になるって。その時は何を言っているのかと思いましたが今では私達は認めてますよ。ただ当の本人が嫌がってはね。雪乃を会社に入れたのも他の男性がちょっかいを出さないようにと思って、でも間違っていたようね」
「そうですね、雪乃御嬢様の可能性を俺のせいで潰してしまいました。雪乃御嬢様、申し訳ありません。自分の事で頭が一杯でした」
だから私を会社に..でもそれなら教えてよ、一言言ってくれれば良いでしょ。
八幡もなんで今まで連絡をよこさないのよ。一緒の会社なら海外でも事務席の電話番号ぐらい分かったでしょ!!
「でも八幡さん、貴方も良い年齢だわ。宜しければ私がお相手を紹介しますよ」
「さすがに失恋のすぐあとは厳しいですが、雪乃御嬢様のことで踏ん切りがついたら紹介してください」
な、なんで次の見合いの相談してるの!?諦めずに私を口説きなさいよ!!でもこのままでは不味いわ、今のままでは本当に破談になりかねないわね。
「私が「そうね、私のせいで失恋させてしまったのよね。私の手伝いをしてもらっているということで今回のお休みを延ばさせるわ。ゆっくり羽を伸ばしてね」...」
「良いのですか。では傷心旅行に出ますよ」
どうして傷心旅行なのよ!?私と婚前旅行に行けばいいでしょ!!
「ねぇ「もしよろしかったら愚痴相手に私も同行させて貰うわ」...」
「だから「では今から一緒に温泉宿でも行きましょうか」...」
「いいから「いいですね、主人には内緒にしておいてくださいね」..」
「ちょっと「奥様と一緒であれば、すぐに癒えそうですね」...」
「本当に「ええ、私が癒してあげるわ」..」
「..二人とも、いい加減に私の話を聞きなさい!!」
私がそう言うと、二人はニヤけた顔を私に向けてきた。も、もしかして揶揄われてた...
「何かしら雪乃。貴女が断りたいというから八幡さんを慰めようとしているのに」
「そうですよね、雪乃には帰って貰ってママのんに癒して貰わないと」
「違うでしょ!!八幡の相手は私でしょ!!」
「..その格好で凄まれると怖いんだが」
「大体何よ!!高校卒業してから連絡も寄こさないで!!私がどんな気持ちでいたのか知らないで。携帯を換えたなら教えなさいよ!!」
「それは本当に済まなかった。家族で出かけてた時、小町とふざけてて二人で海に落ちて携帯を壊したんだよ」
「でも幾らでも連絡の取る方法はあったでしょ!!」
「家族が九州に行ったり色々あってだな。ただ雪乃のことが忘れられなくてママのんに相談したら会社に誘われて入れてもらったんだよ。それで雪乃に似合う男になれって言われて認められるまで連絡を取らなかったんだ」
「では母さんはずっと知っていたの」
「ええ、八幡さんのことは知っていたし、雪乃も八幡さんに貰った人形を何時も抱いて寝てたでしょ。だから安心して面白いから言わなかったのよ」
「..なにが面白いのよ」
「八幡さん。雪乃が寝る前にね、貴方に貰った人形に語り掛「う、うるさーーーい!!」...貴女がうるさいわよ」
「...雪乃、今日はすまなかった。..ただ俺は雪乃のことを忘れたことは一日もない。...雪乃、俺と結婚して貰えないか」
「..今日のことはずっと許さないわ、一生隣にいて甘やかせてもらうから...だから私を貰ってください。私を貴方のもとに連れて行ってください」
「ああ、幾らでも甘えさせてやる。じゃあ今すぐ行こうか」
「え!?ちょ、ちょっと待って!!何処に行くの?せめて着替えに帰らせて」
「ママのん、これから雪乃を預かりますから」
「八幡さん、雪乃をよろしくお願いします」
私はそのまま手を引かれてホテルを出ていた。都築が車で待っていて私の格好を見て驚いた顔をして横を向いたのだけれど、今にも吹き出しそうになっているわ。
私達が車に乗り込むと行先も行っていないのに車は走り出していた。
「今日は最初から温泉宿に行く予定だったんだよ」
「..それは私と二人で?」
「もし雪乃に断られたら一人だったけどな。トランクに俺と雪乃の荷物も入れてくれてるんだ」
「..もしかして母さんがやってくれたの」
「ああ、ママのんが雪乃を連れてってくれって言ってな」
八幡と私はずっと話していた。今までのこと、母さんとのこと、そしてこれから日本に帰ってきたら二人で暮らしていくことを約束してくれた。
私達は温泉宿に入って行って部屋に案内されていた。女将は私の格好を見ると怪訝な顔をしたけれどすぐに取り繕っていたわ。
私は部屋に入ると服を脱ぎ捨てていた。思わず八幡の前で脱いでしまったけれど、何時までもこんな格好していられないわ。八幡は見ないようにしてくれてるのだけれど、たまにチラチラ見ているわね//
でも今日の夜、その、は、肌を合わせるのね//後で私の全てを見せてあげるから今はお預けよ//
私は恥ずかしさもあって、すぐ浴衣に着替えると替えの下着を出す為にトランクを開け、母さんが用意してくれた物を確認したのだけれどやられたわ。そこには下着も用意してくれてたのだけれど広げてみると、これってOバックじゃない//こんなの下着の意味がないわ。他には胸もパンティもシースルーのベビードールとか大事なところが真珠だけになってるTバックしかないわ。こ、こんなの履けるわけないじゃない//
でも八幡は喜んでくれるかしら//替えがこれしかないのだからしょうがないわね//私は八幡に見られないようにOバックを隠して二人で温泉に向かったわ。
二人別れて温泉に入ったのだけど寂しいわね。恥ずかしくても部屋の露天風呂に入るべきだったかしら。私は身体を洗い、余り浸からずにお風呂を出ると既に八幡が待っていてくれたわ。八幡も私と一緒で二人でいたかったのかしら。
「早いのね」
「雪乃を待つのが嬉しくてな。でも雪乃も早くないか」
「..察しなさいよ//」
「俺と一緒でよかったよ//」
「「..//」」
温泉を上がった後、私はずっと八幡にくっ付いていた。高校の頃の私では考えられなかったけれど、今は八幡にくっ付いていると凄く落ち着けるわね、このまま二人でずっとこうして居たいわ。
でもお尻の感覚に慣れないわね、早く脱がせてくれないかしら。たまに浴衣がはだけてしまうけれど、ラッキースケベでは見せれないわ。
私達はその後、夕飯を頂き部屋に戻ると布団が既に敷いてあり、私は布団の上で八幡に甘えさせてもらったわ。八幡はずっと私の頭を撫でてくれている、私は八幡に抱きつきながら話をしていた。今までの寂しさを少しでも補いたかったから。
まだ寝る時間にはかなり早いのだけれど、私は早く抱いて欲しくて、でもそう言えなかったので、早く布団に入りたいと、お願いして二人で用意をしていると、スマホからメールを知らせる音が鳴りだしたわ。遅れて八幡にも何か届いたようね。
「何なのかしら...こ、これは」
そのメールは母さんからで動画へのURLが貼ってあり、それをタップすると私と八幡の見合いの席が映し出されていた。
メールには父さんと姉さんが大爆笑していると書いてあり、その写真も添付されているわ。父さんはソファーで仰け反ってお腹を抱えていて、姉さんは四つん這いになって床を叩いていた。この動画を結婚式にも使用するとも書いてある...
八幡の方は小町さんから来たらしく、御両親がびっくりしてて私の格好にドン引きしていると書いてあった...
「は、八幡。これはどういうことかしら」
「ママのんが撮っていたんだろ、そういえばスマホを鞄に立てかけてたな」
「..私は結婚式しないわ。八幡も海外から帰ってこなくていいの、私が付いて行くから」
「ママのんが許してくれないだろ。今更海外勤務延ばせないだろうし」
「いいのよ、だいたい母さんは何でこんなことしてるのよ」
「だが俺と雪乃の仲を取り持ってくれたのはママのんだぞ」
「そ、それはそうだけれど...」
「この件は帰った時に話そう。でも可愛いかったな、ゴスロリゆきのん...これからはいろんな格好をしてくれないか//」
「は、恥ずかしいわ//」
「俺だけなら良いだろ」
「..貴方が望むならどんな格好でも//...私の全てを貰ってね//」
「ああ、俺はこれからずっと一緒に居るから...愛してる、雪乃//」
「私も愛してるわ、八幡//」
その日、お互いの8年間の空白を埋めるかのように私達は何時までも愛し合い続けた。
(ここまで材木座の小説)
**************************
「..母さんがこんなことしてくれるわけないわ」
「雪乃殿...母上殿のこと勘違いされてないか」
「良いのよ材木座さん。私が雪乃に言わないといけないことよ」
「母さん...」
「陽乃とは最近、話すことが多いので分かったのだけど、...いいえ、分かっていたけれど貴女が聞かないからそのままにしていた私が悪かったのね。
雪乃は私が言った言葉を少し聞くだけで理解してしまうでしょ。でもね、最後まで聞かないと分からないことも有るのよ。雪乃は私が話している最中でも遮ってきて部屋に籠ってしまうでしょ。だから今日は最後まで聞きなさい」
「一人暮らしをあんなに反対して、私が高校を卒業したら見合いをさせるって」
「一人暮らしは当たり前です。女性一人で何があるか分からないわ、子供を心配しない親なんていないのよ。
後、お見合いについては雪乃には友達がいなかったでしょ。女性でも男性でも良いので雪乃を支えてくれる人がいて欲しかったの。
小学校までは隼人君が居るので良いと思っていたけど、あんなことが有ったから。でも貴女はそれ以降一人だったわ、貴女を支えてくれる、何でも言い合えるお友達が居てくれれば違ったでしょうけど、早く打ち解けれる相手を見つけて上げたかったの。それで相手を紹介しやすいお見合いをさせようとしたのが私の誤りね」
「....」
「でも高校二年生になってから由比ヶ浜さんがお友達になってくれて、今ではこんなに沢山のお友達が周りに居てくれて、私も嬉しくて皆さんと話したかったから今回の旅行を計画したのよ。
だからもう無理にお見合いをさせるつもりはないわ。もちろん仕事柄、陽乃と雪乃にお見合いの話が来る事はあるの。でも貴女達が嫌なら強制するつもりはありません」
「母さん..うぅ」
「...雪乃には好きな人が出来たのでしょ。これからは私にも彼とのこと教えてね。..でもそうね、一つだけ命令させてもらおうかしら」
「な、何を...」
「雪乃。八幡さんを必ず手に入れなさい。陽乃やお友達が相手だからって遠慮しては駄目よ」
「あ、ありがとう母さん!!」
「母さん。私は別に八幡君のことは...」
「後悔するわよ、陽乃。あなた八幡さん以外に素を見せれる男性って居ないのでしょ。今後一生そういった方は現れないかもしれないわよ。大体、大学三年生にもなって未だに男性とお付き合いしたことないとはどういうことですか、雪乃はすでに告白してキスもしているというのに遠慮していては置いて行かれるわよ」
「え!?雪乃ちゃん...そうなの」
「ええ、いくら姉さんでも八幡だけは譲らないわ...でもどうして告白のこととか母さんが知っているのかしら」
「ごめんなさい雪乃さん。小町が喋っちゃいました」
「..逆に良かったわ、これで母さんの前でも遠慮しなくていいのね」
「そうよ、遠慮していると出し抜かれるわよ。バスの中で雪乃が寝ている間に横でキスしているのだから」
「「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」
「は、八幡//うちらのこと、お母さんに見られてたみたいだね//」
「..俺、そろそろ寝させてもらいますね」
そう言って八幡はソファーから立ち上がろうとしたのだけれど、隣に座っていた姉さんに腕を固められていて動けないようね。
「八幡君、...私、君の前だと段々取り繕うことが出来なくなっているの。でも嬉しいんだ、八幡君には本当の私を見て欲しいから。...私は八幡君が好きだよ」
「..陽乃//」
そう言うと姉さんはソファーに座っている八幡の上に乗り対面座位の形になるように腰掛けていたわ。
「八幡君、私を選んでくれるんだよね」
「陽乃、八幡から離れろ」
「静ちゃん。これだけは、いくら恩師でも従えないよ」
「先生、私はPTA役員ですよ」
「..分かってます」
母さんがそういっている間に姉さんが八幡にキスしていたわ。八幡も無防備すぎるわね。
「後、八幡さんには釘を刺しておきます。告白して頂いた方からお相手を選んでください。もし他に好きな人がいるならその方でも構いません。ただもし誰も選ばずに逃げるようなら、..小町さんを....」
「お兄ちゃん助けて!!小町が売られちゃう!!」
母さんと小町さんが三文芝居を始めたわ、八幡も呆れているわね。多分、小町さんが母さんに言わせたのね。
「ではそろそろ私達は部屋に帰らせてもらいます。先生、私は自分が見たことしか咎めません。羽目を外しすぎないように先生が見てあげてください」
「ありがとうございます!!」
「ママのん!?」
「...義輝くん、部屋にお話ししに行こっか」
「真奈殿//」
「比企谷君達みたいなことしないでね」
「材木座!?真鶴!?」
「真奈さん、材木座さん。小町も行って良いですか」
「小町!?頼むから居てくれ!!」
「ごめん、お兄ちゃん。小町お兄ちゃんが好きだよ。でもあくまでも家族だから..」
小町さんがそう言い母さん達が全員リビングから出ていくと異常なほどの緊張感が漂いだしたけど、そんな空気の中、姉さんを押し退けて先生が話し出したわ。
「八幡、クリスマス前にドライブ行ったときから、その..駄目だと分かっていながら八幡を一人の男性として見てしまっていたんだ。そして部室で私を甘えさせてくれて、呼び捨てで呼んでくれてから八幡の事が頭から離れないんだ。私の事を教師でなく一人の女性として見て欲しい。八幡、私は貴方が好きです」
そういって先生は八幡にキスしていたわ。...でも長いわね..
「八幡!!静ちゃん!!何でディープキスしてるの!?」
私は後ろから見ていたので、よく分からなかったけれど、そんなことしてたのね..
「どうだ八幡。私を選んでくれたら、もっと楽しいことすぐに教えてあげれるぞ」
「し、静//」
「私だってそれぐらい!!」
「や、やめっ!?」ブチュッ
そういって姉さんが八幡の顔を自分の方を向かせディープキスしだしたわ。
「あ、あーしもそれぐらい出来るし!!」
「じゃあ、うちは八幡の体にキスマーク付ける!!」
「い、いい加減n」ブッチュー
「わ、私も八君の体に」
「それある!!早く服を脱がせようよ!!」
「うん!!八幡君にいっぱいキスしてあげるから」
「ま、まて!?」レロレロ
みんなが八幡にキスしだしたのだけれど、なぜか私は一歩引いてその光景を唖然と眺めていたわ。
「ね、ねぇゆきのんは行かないの...」
「私もしたいわ、でも八幡が望まないことはしたくないのよ。..結衣はいいの?」
「うん。あたしもしたい...初めてのキスは勢いでしっちゃったけど、でもこれからはヒッキーとちゃんとしたいし」
「そうね、私もキスマークを付けたときは周りの空気と勢いでしてしまったけれど、八幡が嫌がることはしたくないわ」
「お、お前ら、いい加減にしろ!!」
私と結衣が話していると八幡が今まで聞いたことないような大声を出していたので私も結衣も驚いてしまったわ。
「な、何やってんだよ、こんなこと勢いでやることじゃないだろ!!..どけよ!!」
そういって八幡はみんなを退かせると乱れた服を直して立ち上がり、私と結衣の方に歩いてきたわ。
「..二人は良かったのか」
「八幡が嫌がることはしたくないのよ」
「うん。..あたしもしたかったよ、でも無理矢理はヤダから」
「でもごめんなさい、見ていただけで止めることが出来なくて..」
「あたしもごめん。見てるだけなんてやってる皆と一緒だよね..」
「雪乃、結衣。ありがとうな。...良かったら俺とキスしてくれないか」
「「はい(うん)//」」
私達はみんなが呆然と見守るなか、八幡が私と結衣の頭に手を回し二人同時にキスしてくれたわ//八幡の唇は私と結衣を、結衣の唇は八幡と私を、私の唇は八幡と結衣を、それぞれがお互いを感じながらの八幡からのキスで、私は今、これまでにない高揚感を覚えている。
私は三人で抱き合うように腕を二人の背に回していくと結衣も同じようで私達の背に手を回して来たわ。
どれぐらいキスしているのだろう、私は感覚が麻痺するぐらい夢中になっていた。
八幡が離れると私達三人は顔を真っ赤にしながらお互い見つめあっていたわ。
「ありがとうな//」
「ううん、あたしもありがと。ヒッキー、ゆきのん。..へへ、ゆきのんともしちゃったね//」
「私こそありがとう//八幡、結衣。凄く嬉しいわ//三人が一つになれた気がしたのよ//今、私を離さないで。浮遊感が凄くて自分一人じゃ立てないの//」
「あたしも嬉しいよ//なんだか今、凄く満たされてるの//初めてのキスの時より嬉しい気持ちが溢れ出て来て止まらないの//」
「俺もここまで満たされるとは思わなかった//」
私達三人は抱き合いながらお互いを見つめ続けていると姉さん達が私達の方に来たわ。
「「「「「「「ごめんなさい」」」」」」」
「....俺の方こそ怒鳴ってすみません、でもこういう事はちゃんとしたいんです」
「そうだよね、八幡君。本当にごめんなさい...もしかして私達はもう駄目なの...」
「...雪乃と結衣に俺からキスしておいて申し訳ないが、まだ決めれてません」
「良いのよ、私は貴方の答えが出るまで待っているわ」
「うん、あたしも待ってるから」
「そう言ってくれてありがとうな」
「なあ八幡。いつまで抱き合ってるんだ」
私と結衣は先生にそう言われて腰に回していた腕の力を緩めて離れようとすると八幡が私と結衣の手を握ってくれたわ。
「今は二人と居たい。駄目か」
八幡は聞いてきた先生ではなく私と結衣に話しかけて軽く握ってくれた手をしっかりと握り直してくれた。
「私で良ければこのまま一緒にいましょ」
「あたしも良いよ。一緒に居たいし」
「ありがとうな。雪乃、紅茶を入れてくれないか」
「はい!!」
「じゃあ、あたしはお菓子用意するね」
「頼む、結衣」
「うん!!」
私達が用意をしている間、八幡は私達を凄く優しい顔で眺めてくれていて、私はいつも以上に丁寧に紅茶を用意していたわ。
「今日は諦めよ、私達がやっちゃったんだから。ごめんね八幡君」
「そうだな、すまなかった」
「八君、ごめんなさい」
「あーしもごめん」
「うちもやり過ぎた、ごめんなさい」
「八幡、ごめん」
「八幡君、私もごめんなさい」
「皆、気にしないでくれ。今は雪乃と結衣の二人と過ごしたいだけだから」
姉さん達はそれぞれ謝ってリビングを出ていったわね。
私と結衣が用意をし終えると八幡から手を繋いでくれて三人でソファーに腰かけていたわ。
今はリビングに私達三人しかいないので、私は最近部室でも過ごすことがなかった三人での時間を懐かしく感じ、でも進んだ関係になれたことを嬉しく感じながら遅くまで過ごしていたわ。