朝、俺が教室に入ると何時もの騒がしい一団が誰も居なかった。葉山グループ。昨日の件で話し合っているのだろうか。
暫くするとチャイムが鳴ったが、葉山達は1限目が始まっても誰も帰ってくることがなく、教師も気にはしていたが授業は滞りなく過ぎて行った。結衣は大丈夫なのか、授業をさぼって。
授業が終わり、俺はイヤホンを差して机に突っ伏していると誰かが俺の肩を叩いて声を掛けてきた。
「ヒキタニ君、起きるっしょ」
俺は顔を上げて、訝しげに声を掛けている戸部の方を向いた。するといきなり戸部は俺に頭を下げてきた。
「ヒキタニ君、..いや比企谷君。ごめん!!」
「な、なんだよ戸部、いきなり」
俺はイヤホンを外して戸部に向き直った。クラスメイトが居る中で謝罪してくるとは思っていなかったので、ちょっと驚いてしまった。
「本当にごめん。俺、全然知らなくて比企谷君のこと悪く言ってたっしょ」
「いや、俺はお前に許されないことをしたと思ってる。こちらこそ済まなかった」
俺は席から立ち上がり、戸部の正面に立つと頭を下げ謝った。こちらも謝罪するんだ。座ったままでなんて失礼なことは出来ない。
「比企谷君は悪くないっしょ。俺達のためにやってくれたんだから」
「戸部、そういってくれてありがとうな」
「うん、これからよろしくお願いするっしょ。本当にありがとう比企谷君」
戸部はそういって自分の席に向かっていった。周りは俺達を見ていたが、戸部が離れると目を逸らしそれぞれが話し始めていた。
辺りを見渡すと、結衣、優美子、姫菜が喋っていたが、三人とも俺のほうを見ながら穏やかな表情をしていた。
大和、大岡は二人で何か話しているが、戸部は自分の席に座ったまま、二人の方にも視線を向けることはなかった。葉山は来ていないのか席は空席となっていた。
何があったのか想像できるが、俺には関係ないことだ。ただ葉山が来ていないことが気になる。俺は話しかけてきた戸塚とその後ろにくっ付いて来た材木座とでいつも通りのやり取りをしていた。
「よーし、今日のLHRは席替えするぞ」
担任がそういうと、学級委員長が教壇に移動して、担任が持ってきたくじを用意しだした。担任は学級委員長に後を任せ、騒ぐなよ。と言って教室を出ていった。
良い職業だな、教師って。授業だけしてれば、後は生徒に丸投げでも良いんだな。でも平塚先生みたいに俺みたいなのにも世話を焼いてくれる教師もいる。そう考えると平塚先生って本当に良い
俺が平塚先生のことを考えていると、男子から順番にくじを引いて行き戸塚が引いたようで、俺に教室の前扉の方を指さしていた。廊下側前方付近を引いたのだろう。材木座も何かジェスチャーしていたが、俺は無視していた。
俺がくじを引き場所を確認すると項垂れてしまった。場所は教室の窓側列の一つ隣で、後ろより一つ前だった。
戸塚の正反対で近くに座れない。どうでもよくなったので机に突っ伏していると、結衣が話しかけてきた。
「ヒッキー、どこ?」
「..窓際後ろから一つ前」
一番窓に近いところは女子の列のため、これで通じるだろう。俺がそういうと結衣はふーんと言いながら離れて行った。
俺が突っ伏してボーと眺めていると、今度は女子がくじを引き出した。結衣、姫菜、南がなぜか引き終わった女子の位置を確認しているみたいで、中には何か頼みこんでいるようだった。
全員引き終わり、席の移動をするように言われると、結衣、優美子、姫菜、南、沙希が移動もせずにじゃんけんをしている。
俺はすぐに席を移動して眺めていると、沙希が喜んで顔を赤くしていた。顔の表情をみると今にもピョンピョン跳ねまわりそうだな。沙希のあんな表情は中々見れないが、何してるんだ、アイツら。
俺の周りには女子が誰も座っていない。えっ!?もしかしてこれって「あんな奴の近く行きたくない」とか思われて誰も来ないの?中学でもここまで酷くなかったよ、両隣ぐらいだったし。俺は中学の時のことを思い出して、涙が溢れそうになってきた。
俺がそんなことを考えていると、沙希が顔を赤くしながら俺の左隣りに移動してきた。
「よ、よろしく。八幡//」
「..ああ、よろしくな」
俺は沙希の方を見ていたが、顔が赤いまま頬杖をついており、目元が垂れ下がって口元がむにょむにょしていた。何だか面白いな。俺が見ているのに気づくとバカ!!って言ってきたが、より顔が赤くなっていくのが分かる。それでも沙希を見ていると、後ろから声を掛けられた。
「ヒキオ、よろしくするっしょ」
「優美子はそっちなのか」
優美子は俺の右隣りのようで、周りを見渡してみると沙希の前に結衣、後ろに姫菜、優美子の後ろに南が座りだした。
「なあ。これってくじで決まったのか」
「そ、そうだよ。ヒッキー、こんな偶然あるんだね~」
結衣はそう言いながら俺から視線を外していた。上位カーストの権力を行使したな。教室の後ろ、窓際は上位カーストの溜まり場だしな。それでじゃんけんをして席を決めていたのだろう。そこに俺が偶然、この席を引いてしまったため、周りを囲まれた形になっているのか。
「ま、細かいことは良いっしょ。これから1学期はずっとこの席なんだし」
俺は良い、この5人に囲まれても。ただ俺の後ろに座っている名も知らぬモブ男君のことを思うと不憫でならなかった。
前にはボッチの俺、両サイドは上位カースト。ゴメンな、モブ男君。俺が前に居なければちょっとは楽しい一学期を送れたかもしれないのに。
5限目のLHRが終わり、休憩時間に俺は席を立とうとしたが、優美子に話しかけられていた。
「ヒキオ、どこに行くし」
「...いや、ちょっと材木座の所へな」
材木座の席は戸塚と前後に並んでいて俺は文句を言いたかった。いや、アイツのせいじゃないって分かってるよ、でも心情的にな。
「材木、こっち来るし!!」
優美子がそういうと戸塚と談笑しながら材木座が近寄ってきて、戸部もこちらに向かってきた。
「どうしたのですか、三浦殿」
「材木、名前で呼べって言ったっしょ。敬語も止めるし」
「ゆ、優美子殿//」
「八幡、良い席だね、皆がいて楽しそうだし」
「俺は戸塚の近くが良かったのだが」
「ヒキタニ君、凄いっしょ羨ましいわ。っべーわ」
「良い席ではないか、皆で集っていて」
「なら俺と変われ、材木座」
「はぁ!?ヒキオ、なに言ってんだし」
「そうだよ、ヒッキー」
「うち達と一緒じゃ駄目なの」
「ハチ、酷いよ。私達を捨てるんだね」
「ごめん。私みたいな無愛想な女が隣じゃイヤだよね...」
沙希はそういうと目元に涙を溜めてきて、俺の顔を見つめていた。え!?俺、泣かせるほどのこと言ったか。沙希の目からは今にも涙が溢れそうになっている。俺は何時の間にか手を沙希の頭に持って行っていた。
「そ、そんなことないぞ、ちょっと言ってみただけだ。どうせ変われないからな、悪かったな沙希」ナデナデ
沙希は顔を赤くしだしたが、この対応で合っていたようで顔には笑みを浮かべてきた。
ただ周りに居る4人の視線が怖い。戸塚、材木座、戸部は俺の方を呆けた顔で見ている。耐えれず手を引くと沙希からは笑みが消え、また泣きそうな顔で俺の方をみてきた。
「...八幡、もっと撫でてほしい//」
「あ、ああ」
俺が撫でだすと沙希は穏やかな表情になって俺を見てきた。俺は沙希と見つめ合いながら頭を撫でていたが、周りからの視線の鋭さがより一層強くなってきた。しょ、しょうがないだろ!!沙希を泣かしてしまいそうだったんだから。
俺は撫でやすいように席を立ち沙希の後ろにまわりこんだ。目を閉じて周りの視線が気にならないようにしていたが、声だけは聞こえてくる。部活で問い詰める。うちもしてもらう。教室でイチャコラしだした。あーしもしてもらう。だの聞きたくない言葉が聞こえてきたが、敢えて俺は無視して沙希の頭を撫で続けていた。戸塚は八幡凄いね。って言っているし、戸部はずっとベーベー言っていたな。
6限目が始まるチャイムが鳴ったため撫でるのをやめ、目を開けると四人の怒っている顔が最初に見えた。
俺が目を閉じている間に男子三人は席に戻って行ったようで女子四人はずっと俺と沙希を取り囲んでいたようだ。沙希はまだ撫でてほしそうにしていたが、今度は平塚先生の授業だからね。こんなとこ見られたら、俺の命がヤバいから。
俺達が席に着き、授業の用意をしていると沙希が何か慌てていた。
「あ、あれ、ない...」
「どうしたんだ、沙希」
「...現国の教科書、忘れた。今からじゃ借りにも行けない..」
数学だったら貸しても良かったが、いや今は貸せないか。陽乃と雪乃に怒られるからな。今では二人に教えて貰ってそれなりに理解できるようになってきているし。俺がそんなこと考えていると、沙希が俺に話しかけてきた。
「な、なあ、八幡。あんたの教科書見せて」
「え、俺も授業受けないといけないんだけど」
「う、うん、だからさ」
そういって沙希は席を立つと俺の机の方に自分の机を移動してくっ付けてきた。
「こうすれば二人で見れるだろ//」
沙希はそう言っていたが、前の席から結衣が振り返ってきて、隣の席からは頬杖を突きながら優美子がこちらを見、後ろからは姫菜と南が何か言いたそうな顔をしながら俺を睨んでいた。
後ろのモブ男君はブツブツ何かを言っていたが、沙希が「はぁ!?」と言って振り返ると、何も言わなくなってしまった。
いや聞こえてたよ。難聴系主人公じゃないから。でも俺のことをハーレム野郎とかスケコマシとか可笑しいよね。教科書を忘れたから一緒に見ているだけだから。
「サキサキしょっぱなからイチャイチャイベント連発してるし。グループで一番おいしいことしてる...」
姫菜がなにか言ってるな、グループと教科書を忘れたのは何か関係あるのか。
教室に入ってきた平塚先生はこちらを見ると、俺を睨みつけてきた。授業は平塚先生の熱い視線を感じながら俺たちは授業を受けていた。
結衣がたまに振り返っては目のハイライトが仕事をしていない目で睨んでくるし、優美子は隣からイライラしているのか机を爪でトントン音を立てているし、後ろの席に居る姫菜と南は何か唸っているのが聞こえてくる。
俺の左手と沙希の右手が触れあうと最初のうちはすぐ退けて、ごめんって言いながらもじもじしていたのだが、教科書が見えにくいと言って段々席を近寄せてきて、そのうち肩が触れあうところまで近寄ってきていた。
う、腕が動かせない//机の上に置いている左腕を後ろに引くと沙希の胸に当たってしまう//手が触れあうと沙希は俺の方に顔を近づけて、ごめんって言ってくれるのだが、耳に息が掛かってきて授業どころじゃない//
平塚先生については、何本チョークを折っているんだろうか。何か呟いてるようだが流石にこの席までは聞こえてこない。
ようやく授業が終わり、部活に行こうとすると、姫菜が連行すると言って腕を絡めてきて、反対の腕は優美子に絡められていた。
「ヒッキー...部活...」
「お、おい。部活に行くから離してくれ」
「ハチ、私も行くから」
「あーしも今日、お邪魔するし」
「うちも行く!!」
「私も行くよ、八幡は何も悪くないからな」
生徒がたくさん残っている廊下を腕を取られながら、連行されるように部室まで連れていかれた。途中でもヒソヒソ話している会話が聞こえてくる。そんなことよりこのまま部室に入る方が俺には怖かった。
予想通り、俺達の方を見た雪乃からは身体が凍り付きそうな視線を受け続けて、奉仕部に来た平塚先生も交えて今日のことを報告させられていた。その間、沙希以外のクラスメイト四人と雪乃の頭を順番に撫でさせられた。平塚先生は下唇をかみ続けていて、いいな。って呟いていたが先生でも撫でて欲しいものなのか。
ようやく説明が終わり、皆は納得はしていないようだがこれ以上は説明も出来ないでいると、雪乃が紅茶を用意し出してくれていた。
今は落ち着いて雪乃の淹れた紅茶を飲んでいるが、前に座っている平塚先生のことを俺は考えていた。
先生は生徒のことを何時も考えてくれている。生徒を見ながら何かあれば対応させられて、生徒のせいで悪くなくても頭を下げることもあるのだろう。先生も一人の女性で時には我儘言ったり甘えたりもしたいだろうが先生にはそんな相手はいないだろうし、立場上、生徒に我儘なんて言えない。だが時には生徒が先生の慰労を行っても良いのではないだろうか。
一息ついたところで俺は席を立つと平塚先生の後ろに回り込んで頭に手を乗せていた。
「ひゃう!?な、なんだ比企谷//」
「先生も大変ですね、何時もありがとうございます。俺みたいな生徒にまで気を掛けてくれて。先生みたいな良い
そう言いながら、先生の頭を撫で始めると平塚先生の耳は真っ赤になっていた。顔は見えないが俺が頭を撫でるのを受け入れてくれていた。
「俺で良かったらこのまま甘えてください」
「比企谷ぁ//」
先生は座り直し横向きになって俺の胸に頭を置いてきた。俯いていて表情は見えず怒っているのか泣いているのか肩を震わせていたが手を振り払われる事は無かったため、俺は撫でながら先生の頭を抱えこむように抱いていた。
その間、雪乃たちは何も言わず俺たちを見守ってくれていた。
「あ、ありがとう。もういいから//」
「こちらこそありがとうございます、俺なんかで良かったら何時でも言ってください。撫でるのは得意ですから」
「うn、..ああ//たまにお願いしようかな//」
「ええ良いですよ。さすがに部室以外では出来ませんけど」
「そ、その時は名前で呼んでほしぃ..な//」
「学校外だったら良いですよ。..今日は特別です。静//」
「!?..八幡//」
先生は顔を赤くしながら俺達にお礼を言って部室を出て行った。いやこっちがお礼を言うべきだと思うんだが。
皆の方を見るとなぜか呆れた顔をしている、どうしたんだ。
「ハチ、またフラグ立てて」
「先生も落ちちゃったね」
「先生って生徒に労われることってないだろ、有っても卒業式ぐらいか。だから俺で出来ることであればって思ったんだよ」
「労うのは良いことよ。でもあなた一人ではなく、私達も居るのだから一緒にするべきだったわね」
「そうだな、すまん」
「良いじゃん、あーし達皆で機会があればやってあげれば良いっしょ」
最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴り、俺たちは部活を終えていた。
本当は一日教室に顔を出さなかった葉山のことを聞きたかったが、今日はそれどころではなく、一日が過ぎて行った。
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土曜日の9時40分、俺は駅前に着いていた。いろはへの誕生日プレゼントを買うために皆で10時に集まってららぽに行くことになっていたから。小町は一年生の友達と買いに行くらしく今日は参加していない。また材木座も誘ったが、ゲーセンに行くということで今日は不参加だ。
俺が、駅前を見渡すと視線の先には雪乃が既に待っていた。近づいて行こうとすると俺の前に入って声を掛けてくる男女がいた。
「やっぱり比企谷じゃん!!レアキャラ、はっけーーーーん!!」
「すっごい、生きてたんだ!!」
「あんたら凄いな。私、顔覚えてなかったよ」
「....」
嫌な奴らと出会ったな、こいつらは中学の同級生で確か男が佐藤で目立たないやつだったはず、女は鈴木、高橋だったか。そんなに可愛くもないし、はっきり言って太いし、かおりとも接点はなかったはずだ。調子に乗って俺を弄るのが好きで、色々噂話の尾びれを大きくして盛り上がっていたのを覚えている。
「比企谷、俺二人とデートなんだよ。お前女に縁ないだろ。俺達が遊んであげようか、お金出してくれればだけど」
そう言って二人の間に入り肩に両腕を回していた。悪いんだが全く羨ましいとは思えない。こちらが恥ずかしくなってしまうんだが。
「ひどいって虐めてあげんなよ。比企谷もこんなとこ居るんだから誰かと待ち合わせでしょ」
「ええ!?こんなのと遊ぶ奴いんの。あ、オタク仲間か」
「..ま、まあそんなところだ」
「きっもー、オタクなら仲間と家に居ろよ」
「あら、私はオタク仲間なのかしら。八幡」
「お、おす」
「「「..え!?」」」
雪乃は3人の後ろから声を掛けたかと思うと、3人を追い越して俺の方に来た。髪の毛を手で払い俺の右に並ぶと冷めた目で3人を見ていた。
いきなり現れた雪乃に3人は驚いているな、二人と比べたら雲泥の差、月とすっぽんだからな。
「..あ、お、お前荷物持ちか何かか、財布にされているんだろ」
「あら、八幡と私は深い関係よ」
そう言って雪乃は俺の右腕に自分の腕を絡めてきた。あ、あの雪乃さん。柔らかいものが当たってんですけど//雪乃が屈むように言うので姿勢を低くすると、三人に見せつけるように俺の耳元に口を近づけ耳たぶを甘噛みしてきて口を離すとき耳を引っ張ってんですけど。そして微笑みながら囁いてきた。
「ふふ、おはよう。八幡//」
だが3人には聞こえなかったのだろう。雪乃に笑われたように見えたのか、佐藤は悔しそうな顔をし二人の女は口を大きく開けて呆けていた。
俺達が3人に向き合っていると、俺の左腕に滅茶苦茶柔らかい何かが絡みついてきて頬にキスしてきた。
「やっはろー...なんでゆきのん、こんなとこで腕組んでるし」
「結衣、あんたいきなり走ってったと思ったら何してるし!!」
「ハチ、私とイチャつくなら良いけど、駄目だよ。浮気は」
結衣が俺の腕に絡みついてきたかと思うと、優美子と姫菜も歩いてきた。そして沙希と南も来たようだ。
「あ、あんたら白昼堂々何してるんだよ」
「沙希ちゃんに言われたくないと思うよ、教室の皆いるとこでイチャイチャしてるんだから」
「は!?はぁ//み、南。あれはイチャイチャじゃなくて、教科書見せてもらってただけだから//」
「サキサキ、私後ろから見てたよ。段々ハチの方に椅子を寄せて行って肩くっ付けてたよね」
「あ、あれは、教科書が見えにくかったから//」
「お待たせ、なにこれ。ウケないんだけど!!」
「か、かおり、いきなり走らないでよ...って、どうゆう状況?」
「「「お、折本!?」」」
右腕は雪乃、左腕は結衣に取られ動けないでいる俺を見ていた三人が、一人一人の容姿を見ては驚いていて、かおりと千佳が現れたことでより困惑していた。
「お、折本って比企谷を振ったんじゃ...」
「それって中学の話じゃん!!今は友達以上の関係だし...そもそもあんたらって誰だっけ?」
友達以上ってなんだよ。俺には友達は戸塚しかいないぞ。材木座?あれは、そう。なんだろうか。そもそも友達以上ってなんだよ。何もしてないだろ。...いや、撮影では確かに友達ではやらないようなことをしてしまった気がするが....
かおりがそういうと3人は唇を噛みしめていた。いや、かおりに覚えて貰ってないだけで悔しがることないだろ。
佐藤は皆の容姿を見て段々顔が困惑していき、二人の肩にかけていた腕をどかしていた。
「では八幡。買い物に行きましょうか」
「雪乃、結衣。いい加減、腕離すし」
「あら優美子さん。ここは私の指定席よ、どうして離さないといけないのかしら」
「そうだよ優美子。あたしもここが指定席だし」
「は、八幡と腕を組んで買い物//」
「ハチ。私も腕組んで買い物したいよ」
「うちも腕組みたいなぁ」
「それある!!私もイチャイチャしたい!!」
「わ、私も八幡君と腕組んで二人で買い物したいな//」
「みんな揃ったから行くか。..じゃあな」
「「「....」」」
俺は声を掛けたが返事が返ってくることはなかった。俺たちは唖然とする三人を置いて、ららぽに向かって歩き出した。
「ありがとうな、雪乃。もう離して貰って良いぞ」
「今日はこのままでいましょう//また出会うかもしれないわよ」
「雪乃が良ければ良いんだが//」
「うん、あたしも良いよ//」
「ダメっしょ!!じゃんけんで決めるし!!」
「そうだよ、ハチを独占するのは駄目だよ」
「離れたら、そこの場所無くなるよ。..うちも組みたいし」
「...そうね、では勝負しましょうか」
「しょうがないか、あたしも良いよ」
「それある!!どうせなら組めるの一人だけにしようよ。時間決めてさ」
かおりがそういうと、いきなり道端でじゃんけんしだした。その間も雪乃と結衣は俺の腕を離すことなく、道行く人たちが何事かと見てきて、羨望と嫉妬の目を向けられていた。
「あーしが最初だし!!」
「ハチ、一人三十分ね」
皆で移動していたが、店に入ったら腕を組んでいない女子とは別行動するらしい。買い物中は二人だけで色々見て回れるという事か。
今日一日大変そうだな、俺は腕を組まれながら色々な店を回って、いろはの誕生日プレゼントを買っていた。
全員プレゼントを購入したので帰っても良かったのだが、腕組みが終わっていなかったため、まだ帰らせてもらえなかった。
南がじゃんけんに負け最後だったのだが俺と腕を組むまでイライラしていて、その鬱憤を晴らす為か俺を下着屋へ連れ込んで選ばせてきた。材木座のラノベに書いてあったようなスケスケのベビードールに目を奪われたが、そんなの選べないし。ただ南は俺がエッチな下着に目を奪われていたのに気づいて顔を赤く染めて、良いよ。って言ってくれたが、そんなの選べないからな。
俺が選んだのはピンクと黒の下着でヒラヒラのレースが付いており、リボンがあしらってあった。その時はそんなにじっくり見ずに選んでいたのだが。
「Tバックなんだ//八幡可愛いね//」
「っ!!み、南。Tバックって知らなかったんだ。他のにした方がよくないか」
「いいよ、八幡が選んでくれたんだし」
南は俺が選んだ下着を購入し店から出る時、俺の耳元に口を近づけてきた。
「月曜日、着けて行くから見ても良いよ//」
「み、見れるわけないだろ//」
「..教室で八幡が後ろ振り返ったら、足開いちゃってるかも//」
「...//」
俺と南が店を出ると、他の女子が俺を睨みつけていた。それを挑発するかのように南は俺の腕を取り、自分の肩に回させて腰に抱きついてきた。
「うちの為に下着選んでありがと、八幡//」
「「「「「「「ッじゃ位wヴぃ!!!!」」」」」」」
皆が一斉に喋りだしたので、何を言っているのかさっぱり分からなかったが、俺の体力はかなり奪われていった。
何度か佐藤達を見かけたが、アイツらもららぽに来ていたのか。だが一緒の店に入った時はアイツらがすぐに店を出て行ったので、絡んでくることはなくその日の買い物を終えていた。