やはり材木座が書くラノベは間違っている   作:ターナ

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第26話

沙希のラノベの後、5人が俺に日替わりで弁当を作ってくれるので、最近はベストプレイスに全然行けていなかった。今日は南の予定だったのだが、風邪を引いて学校を休んでおり、みんなに連絡が遅れ誰も代わりに弁当を作れなかったらしい。

俺は、久しぶりの一人飯にウキウキしながら購買で惣菜パンを買い戸塚を愛でるため、ペストプレイスに向かった。

 

パンを手に持ち、ベストプレイスに向かう途中、葉山が走っていく姿が目に入った。どうしたんだあいつ?あんなに慌てて。ベストプレイスに着くと三浦が座り込んでおり、俺と目があった。

 

「なんだし」

「いや、ここに飯を食いに来ただけだ、邪魔なようだから他に行くわ」

「ヒキオ、ここで食べればいいし。あーしのことは放っておいて」

 

三浦は目が潤んでいて今にも泣きそうな顔をしていた。さっき葉山が走っていたことと関係あるんだろうな。まあ、俺は居ても居なくても一緒だからここで食べさせてもらうか、三浦のことも気になるし。俺は腰を掛け、パンを食べ出した。

 

「..ヒキオ、あんた何にも聞かないの」

「俺が聞いてもしょうがないだろ、俺の事は居ないと思ってくれ」

「そう、じゃあ、今から言うことは独り言だから」

「..」

「あーし、バレンタインのチョコ渡すつもりで、隼人をここに呼び出したんだけど、受け取れないって言われた。それだけなら良かった、ううん良くないけど。でも隼人から「俺にとっては優美子もみんなと同じぐらい大事だ」って言われて、ああ、あーしは隼人にとって特別じゃないんだ。って分かったんだ」

「....」

「ふん、本当に何も言わないんだね、まあヒキオだからしょうがないし」

「俺も今から、独り言を喋ろうかな」

「....」

「葉山にとって、グループの中に居る三浦が大事な存在なのは外から見ていて分かる。ただ、その仲間の中では特別視出来ないんだろうな、一人を特別視すればグループが壊れるかもしれない。グループ以外にも葉山には色々な繋がりがあるだろう。その大きな繋がりの中で一人に特別な感情を抱いてしまうと、決壊してしまうと考えているんだろうな。あいつはみんなの葉山隼人で誰か特別な人は作れないんだよ」

「で、でも、あーしは隼人の特別になりたかった!!あーしだけを見てほしかった!!そう思って伝えることが駄目なの!?想ってもいけないの!?ヒキオに隼人の何が分かるっていうの!!」

「....」

「なにか言えし!!....ねえ、何か言ってよ!!」

 

俺は制服の襟を捕まれていたが、三浦は泣き出して俺の胸に顔を埋めてきた。俺には葉山を肯定することも否定することも出来なかった。ただ、俺の胸で泣いている三浦のことを思うと不憫でならない。葉山に想いを寄せても叶わない。それが分かってしまったのだから。

次の授業を知らせる予鈴がなったが、三浦は泣き止まず、俺も動こうとしなかった。このまま授業はサボらせて貰おう。俺の手はいつの間にか泣いている三浦の背に左手を回し、右手は頭を抱えるようにしていた。三浦はビクッとしたが、受け入れそのまま泣きつづけた。

チャイムがなり6時間目になったようだ。そろそろ不味くない?三浦は泣き止んでいたが、俺の胸から顔を上げなかった。寝ているわけではないようだが、ずっと胸に顔を埋めている。

 

「三浦、6時間目が終わると部活の連中とかが来てしまうから、場所を移動しないか」

「...どこに行くし」

「奉仕部だ。荷物もあるから帰るわけにはいかないだろ。特別棟だったらあまり人は来ないし部活が始まったら、雪乃がすぐに来るから、部室に入れるしな」

「分かったし、ヒキオ..今、あーしの顔見ないで」

「ああ、じゃあ移動しようか」

 

三浦は俺の手を握ってきた。ただ、俺の斜め後ろを歩いて、俺には顔を見せないようにしている。授業をやっている教室の前を極力避けて奉仕部前までやってきたが、三浦はこっちを見るなと言って、俺に顔を見せようとしなかった。

俺は自分の胸元を確認すると、涙で濡れたシャツは乾いてきていたが、ファンデーションとアイラインの色だろうか、肌色と黒色の汚れが付いていた。これって洗濯で落ちるのか?でも今はそんな野暮な事は三浦には聞けず、俺たちは雪乃が来るまで、無言で待っていた。

 

6時間目が終わり、雪乃が来たのだが、俺たちを見つけると凄い勢いで睨みつけてきた。

 

「あなたたちは授業をサボって何をしているのかしら」

「いや、これには事情があってだな」

「そう、手を繋ぎながらデートをしていたわけね」

 

すっかり忘れていたが、俺と三浦はずっと手を握り合っていた。俺が手を離すと三浦から「あっ」って声が聞こえてきた。ただ雪乃は三浦をみて何か感じたのか、それ以上何も言わず、部室の鍵を開け俺たちを入れてくれた。

三浦は椅子に座っていたが、俯いており俺からは表情が伺えなかった。

 

「色々聞きたいことがあるのだけれど、今は止めておいた方が良さそうね。三浦さん、紅茶を飲むかしら」

「うん」

 

三浦は顔を上げず答えた。雪乃はポットを持ち水を汲みにいくとすぐに帰ってきて紅茶の用意をしだした。

しばらくすると、結衣、沙希が部室に来た。皆、部室の雰囲気で挨拶だけ交わしただけだったが、結衣が喋りかけていた。

 

「...優美子、荷物持ってこようか」

「うん、お願い」

「ヒッキーも荷物どうする?持ってこようか」

「いや、俺も一緒に行くよ」

 

俺と結衣は一緒に部室を出て、教室に戻った。

 

「何があったかは聞かないほうがいいよね」

「まあ、結衣なら分かっているんだろ、察してやれ」

「..うん、でもヒッキーは偶然会ったの?」

「ああ、今日弁当がなかっただろ。購買でパンを買ってベストプレイスに行ったら三浦がいたんだよ」

「そうなんだ、ありがとうね。優美子のこと介抱してくれたんだよね」

「近くにいただけだ、お礼を言われる筋合いはないな」

「ううん、でもありがとう」

 

俺と結衣が部室に戻ると、人が増えていた。城廻先輩、いろは、材木座もいる。何?今日なにかあるの?ちょっと怖いんだけど。ただ、雰囲気を察して騒いではいないが。

 

「なあ、今日って何かあるのか」

「..雪ノ下さん。あーしの事は良いから」

「そ、そうね。まずは材木座君、いいかしら」

「は、はい」

「いつもお世話になっているから私たちから、お礼を受け取ってくれるかしら。あと、私は姉さんからも預かっているわ」

「え!?そ、その良いんですか」

「うん、いっつもラノベでお世話になっているからね、みんなで話して持ってきたんだ。さがみんは今日お休みなんで、今度持ってくるってメール来てたよ。あと、かおりんからも私が預かってきたし」

「私は先生から預かってきましたよ。今日、職員会議で来れないって言っていましたから」

「あ、ありがとうございます!!」

 

材木座は皆から包みを受け取った後、嬉しくて目が潤んでいた。渡されるとき「義理だけど」って言われていたが、それでも嬉しいよな。でも俺は貰えないのか、ちょっと悲しいんだけど。泣かないよ、ちょっと目が潤んでいるだけだし。

皆に貰った後、材木座は何度もお礼を言って部室から出て行った。廊下から雄叫びみたいなのが聞こえてきたが、もしかして材木座か?

 

「では八幡。あなたにも用意して来たので受け取ってもらえるかしら」

「え、俺にもあったの」

「当たり前ですよ、先輩。いつもお世話になっていますから」

「比企谷君、私も持ってきたよ」

「いや、材木座は分かるんだが、俺何もしてないよね」

「八幡、つべこべ言わず受け取りな」

「あ、ああ、その分かった」

 

俺にも皆用意してくれていたようだ。俺は一人一人受け取ったが、さっきの材木座の包みと比べると大きさがちがう、どう見ても俺の方が大きい。勘違いしちゃいそうだけど、これで告白して振られるのが俺の場合は、デフォルトだからな。

俺も嬉しくて何度もお礼を言っていた。バレンタインなんて家族以外貰ったことないし。陽乃さんと折本と先生までも用意してくれてたんだな。

 

「ねえ、雪ノ下さん。ちょっと聞いて良い?」

「どうしたのかしら、三浦さん」

「ヒキオは分かるんだけど、さっきのざ、材木って奴にも渡してたじゃん。結衣はラノベって言っていたし、あんたら何しているの?」

「彼からの依頼でラノベを批評しているのだけれど、色々事情があって私たちが登場人物としてラノベを書いてもらっているの、そのお礼を用意しただけよ」

「ふーん、そのラノベ読ませてもらえない?」

「プライベートなことも書いてあるから、それは出来ないわね」

「ゆきのん、私の分なら良いよ。優美子に読ませてあげて」

「..分かったわ。では三浦さん、ちょっと待ってね」

 

そういうと、雪乃はラノベを用意しだした。以前のラノベを全てとってあるらしい。ねえ、何で俺には聞かないの?俺も出ているんだけど。でも、抗議の声を上げても無駄だろうし、今は三浦が他事に意識を持っていった方が良いだろうしな。

三浦は雪乃からラノベを受けとり読み出した。化粧が崩れていることは忘れてしまったのだろうか、顔を上げて読んでいるんだが。

 

「これってここに居る皆が書いてもらったの?全部、ヒキオとのラブコメで」

「後、さがみんとゆきのんのお姉さん、海浜総合のかおりん、顧問の平塚先生がいるけどね。奉仕部への依頼だからヒッキーが出ているんだよ」

「このヒキオが勘違いして結衣を泣かせるラノベ、あーしも出てるけど、なんで「愛しているぜ三浦」って、あーしが言われているの?」

「「「あっ」」」

「な、なんで私が言われたこと、ラノベに使ってるのさ!!」

「ど、どういうことですか先輩!!私、知らないですよ!!」

「比企谷君、どういうこと?私も知らないよ」

「あ、あの川崎さん。みんなに説明して良いかしら..」

「..うぅ、しょうがないね。良いよ//」

 

雪乃は材木座から聞いた経緯を皆に説明していた。沙希は顔を赤くしているが、雪乃と結衣も赤くなっている。これ以上、余計な事を言わないで貰いたいのだが。

 

「ふーん、先輩ってお礼で愛してるって言ってくれるんですね。私は言われたことないですけど。後、雪ノ下先輩と結衣先輩も顔を赤くしているってことは一緒の事、言われたんですね」

「へえー、比企谷君。私にも言ってほしいな」

「八幡、私にももう一回言いな、今度は名前で」

「ま、まて城廻先輩も沙希もいろはも落ち着けって」

「そういえば、何でヒキオは皆のこと名前で呼んでいるんだし。あーしの事も名前で呼ぶし」

「比企谷君、私も名前で呼んでよ。私は八君って呼ぶから」

「..優美子//」

「うん」

「めぐり先輩//「めぐり」...めぐりさん//「めぐり」...その、良いんですか?」

「うん、めぐりって呼んで」

「..め、めぐり//」

「はい!!八君!!」

「..じゃあ、今日は帰らさせてもらうんで」

「ま、まてーーー!!」

「まちな、八幡!!」

「八君、逃げるのは駄目だよ!!」

「あーしも言ってもらわないと//」

 

俺は捕まり一人一人、向かい合って言わされた。いろは、沙希、めぐり、なぜか一緒に並んでいた雪乃、結衣までは良かったのだが。いや、恥ずかしいので良くはないな。最後に回った優美子の時は俺が言う前に、先に喋りだした。

 

「ヒキオ、今日はありがと。あーしのせいで授業サボらせてごめん。これ他の奴に持ってきた物で悪いんだけど、今はこれしか用意出来ないし。でも良かったら受けって欲しい」

 

優美子はそう言うと俺に包みを差し出してきた。葉山を想い持ってきたのだろう。目から涙が零れている。だが涙を拭うこともせず、じっと見つめてくれている優美子に俺は見惚れていた。

いつの間にか俺は優美子の腰に手を回して抱き寄せていた。優美子からは嗚咽が聞こえていたが、俺は構わず耳元に口を近付けていた。

 

「優美子がくれる物なら有り難く貰うよ。ありがとうな、優美子。愛している」

 

俺がそう言うと優美子は泣きながら俺の背に手を回してきて、二人で抱き合った。

俺は優美子の顎に手をかけ、顔を俺の方に向かせた。

潤んだ瞳で俺の事を見つめていた目が閉じられ、俺も目を閉じ顔を近付けて行き...

 

ぱこーーーん!!

 

俺の頭を衝撃が走り、叩いた音が部室に鳴り響いた。

雪乃がスリッパを手に持ちワナワナ震えながら俺たちを睨んでいる。他の女性達も俺たちを睨んでいた。

 

「あ、あなた達!!何をしようとしているのかしら!!三浦さんに何があったのか知らないけれど、それ以上は看過できないわよ!!」

「ヒッキーも優美子もなにやってるし!!しかも何でヒッキーが顎クイしてるし!!」

「先輩!!なんで私達が居るのに二人の世界を作っているんですか!!」

「八幡、幾らなんでもこれは許せないよ!!」

「そうだね、ハルさんにも報告しないと!!」

「あなた達。ここまで言われて、まだ抱き合っているのはどういう事かしら!!」

 

俺と優美子は慌てて離れたが、お互い顔が真っ赤になっていた。ヤバかった、何をしようとしていたんだ、俺は。今までなら絶対しないようなことをやっていたし。

 

「いや、正直助かった。止めてくれてありがとう、雪乃」

「...ヒキオ、あーしは遊びなの?」

「ま、まってくれ。さっきは優美子に見惚れてしまったんだ」

「ヒキオ//」

「「「「「へぇ」」」」」

「あ、た、多分ラノベの頭が俺のラノベ脳になっているんだ?ラノベの行動の中をしてしまっているんだよ」

「八幡。あなた、かなり混乱しているわよ。何を言っているのか意味が分からないわ。あなたの行動はラノベに影響を受けていて、先ほどの振る舞いを行った。って事で良いのかしら」

「そ、そうです...」

「ヒッキー、じゃあ私達とも出来るんだよね」

「お、俺も意識せずにとった行動なんで普段はとても出来ないぞ。何で優美子にあんな大胆なことが出来たのか、自分でも分からない」

「..そう、分かったわ。無理にやらせようにも出来ないのね」

「ああ」

 

なぜか皆黙りこんで何か考えているがそれ以上、追及されることはなかったので助かった。

その後、何とか落ち着きを取り戻し、優美子は化粧を直しに行き部室に戻ってきた。

 

「雪ノ下さん、あーしにもラノベ書いて欲しいんだけど」

「そうね、私たちが知っている三浦さんのことを材木座君に伝えないといけないのだけれど、問題無いかしら」

「うん、いいよ。ヒキオとのラブコメ書いてもらえるんでしょ」

「ええ、ただ内容については材木座君任せになってしまうわね。後、あくまでも批評の依頼なので私たちも読むことになるわ」

「うん、それで良いし。結衣のラノベ読んでいるとき、あーしもこうやって想いたい想われたいって思って。作り話でも良いからお願いしたいし」

「ええ、では材木座君にお願いして出来たら、由比ヶ浜さんに伝えるわ」

「お願いするし」

 

最終下校時刻を知らせるチャイムがなり、俺たちは後片付けをした後、部室を後にした。今日は色々ありすぎて大変な一日だったな。小町の総武での受験が明日のため、早く帰るつもりだったが、まあ母さんが早く帰るって言っていたので問題ないか。

俺は、今日起こったことを思い返しながら、家路についた。まじで今日の俺はどうかしていた。普段なら絶対しないような事を何の抵抗もなく行っていたし。これは本当にラノベ脳になっているかも知れないな、気を付けないと。

 

 


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