材木座君が奉仕部に訪れた翌日、由比ヶ浜さんと比企谷君が部活に参加したわ。一色さんも部活開始直後からいるのだけれど、生徒会は大丈夫なのかしら。
「比企谷君、小町さんの風邪は大丈夫だったの?」
「ああ、鼻風邪だったんだが昨日は念ため、病院に連れて行っただけだ。薬のおかげか今日の朝には元気に学校にも行っているしな。まあ、しばらくは夜更かしはしないように注意しておいたが」
「そう、体調管理に気を使ってあげてね」
「小町ちゃん風邪だったんだ。ヒッキー今日はいいの?」
「今日は母親が早く帰ってこれるんで、問題ない」
「先輩、私まだ妹さんに会わせてもらってないですよ、いつ会わせてくれるんですか」
「なんで、会わすことになっているんだ。今は受験勉強で忙しいし、ここに入ればいやでも会うことになるだろ」
他愛のない会話をしていたのだけれど、一区切りついたところでお悩み相談室をみるため、パソコンを立ち上げたわ。
「比企谷君、あなた宛にメールが来ているから返信してもらえないかしら」
「どうせ材木座だろ、削除してくれれば良いのに」
「あ、私にも見せてください」
「良いから返信しておいてね、私はポットにお水を汲んでくるわ」
私は席を立つと、ポットを片手に水のみ場のほうに足を運んだ。材木座君は昨日遅くまで小説を書いていたのに他にも書いていたのかしら。昨日届いた小説は世間一般から見たらどうとでもない内容でしょうけど、私の中では本当にあってほしいことも書いてあったから彼からのお悩みメールについては無碍にはできないわ。水のみ場でポットに水を入れ部室に戻るとなぜか空気がおかしい気がするわね。比企谷君、由比ヶ浜さん、一色さんの目が淀んでいるように見えるわ。いいえ比企谷君はいつもどおりね。
「何かあったのかしら?」
私が声をかけてもみんなパソコンから目を離そうとしない。そう思っていたが比企谷君は教壇のほうを指差し声をかけてきたわ。
「雪ノ下、正座」
?彼はなんと言ったのだろう、いえ正座と聞こえたし理解もしているのだけれど、なぜ私が正座を強要されなければならないのかしら。
「比企谷君、どうして「ゆきのん、正座」私が....」
由比ヶ浜さんが声を重ねてまた正座を強要してきたわ。私が何かしたのかしら。どうすれば良いのかあたふたしていると
「雪ノ下先輩、黙って正座してください」
3人に正座を強要され、反論しないほうが良いと思い仕方なく比企谷君が指差したところに正座したわ。
「どうして、正座させられているのか、説明してもらえないかしら」
「....」
だれも返事をしてくれない。色々考えていたが私が正座させられてから、すぐ扉をノックする音が聞こえたわ。
「八幡、我を呼び出すとはなにごとか!!」
「材木座、正座」
材木座君が現れたと同時に私のときと同じように、今回は私の隣を指差し正座を強要していたわ。
「中二、正座」
「木材先輩、正座してください」
材木座君も空気に押され、ぶつぶつ何かを言っているのだけれど、素直に私の隣に正座したわ。そうすると一色さんが話し始めたわね。
「まず雪ノ下先輩。多分雪ノ下先輩のメールだと思うんですが、勝手に見てしまってごめんなさい」
「メール?お悩み相談室のこと?それは私のではなく部活のメールなので見ても問題ないわよ。一色さんは奉仕部ではないので余り好ましくないとは思うのだけれど」
「あー、そっちじゃなくて「
「えっ、あ、あのそれってもしかして」
「ええ、検索サイトのトップページにログイン状態になっていたので見てしまいました」
「そ、それは昨日、材木座君に作ってもらったアドレスよ、まだほとんど使っていないわ」
「でも昨日、木材先輩とメールのやり取りを9時半ぐらいからしてますよね」
「え、ええ、彼の小説を批評するためにアドレスを作ってもらって、そこでやり取りを始めたの。あくまでも小説の批評をするためよ」
「へぇ、じゃあ私たちが読んでも問題ありませんよね」
「あ、あのまさか読んだのかしら」
「えぇ、ワードが添付されていましたから3人で読ませていただきました。」
「....ゆきのん、これ面白いね....」
由比ヶ浜さんが目のハイライトを消しながら私に問いかけてくるわ。比企谷君については何を考えているのか分からない。ただパソコンの画面を見つめている。私は彼らと目を合わせられず下を向いていた、顔が赤面しているのが分かる。耳も真っ赤だろう。
「木材先輩、小説の批評であれば私たちも参加して良いですよね。よかったら音読してみましょうか。声に出したほうがより誤りとか探しやすいと思いますし」
「一色、それはやめてくれ、この内容だと俺にもダメージが来る」
「どうしてですか、どうせならみんなで批評してあけたほうが良いじゃないですか」
「いやいや、これって雪ノ下もだが俺にもかなりなダメージがくるぞ、書いた材木座じゃなくて俺と雪ノ下の黒歴史になっちゃうよ」
「先輩の黒歴史が増えるのは問題ないですね」
「いや、問題だらけだよ、今日帰ったら枕濡らしちゃうよ」
「ヒッキー、中二からは小説を読んでほしいって依頼なんだから声に出して読んであげようよ」
「材木座、いやだろ声に出して読まれるのは」
「.........確かに」
「今、何を考えた?」
「いや、素人でも我のラノベに声優を付けてもらえるのはちょっと嬉しいと思っただけ....」
「中二の許可も取れたし今から音読をしようよ」
「待ってくれ。せめて俺のいないところでやってもらえないか」
「ヒッキーも奉仕部なんだから少しぐらい協力してよ」
「絶対やだ」
「じゃあ、結衣先輩が雪ノ下先輩で、私が先輩と地の文等を担当しましょうか」
「聞いてた?ねえ、俺の話、聞いてくれてた?」
そのとき、部室の扉がいきなり開かれたわ。
「邪魔するぞ」
「先生、本当に今は邪魔なんで帰ってください」
「比企谷、そう邪険にするな。ん?、何で雪ノ下と材木座が正座しているんだ?」
「先生、今から結衣先輩と私で小説の音読するんでその間は静かにしててください」
「由比ヶ浜さん、一色さんごめんなさい。もう許して」
私はなんとか声に出して彼女たちに許してもらおうと思ったのだけれど、彼女たちは容赦なかったわ。
「じゃあ、皆さん黙って聞いててくださいね」
**************************
(ここから材木座の小説)
戸塚を眺めながら昼飯をベストプライスで食べる時間が至福であり、このままここで午後も過ごしていたいと考えているとき、俺の思考を邪魔する校内放送が聞こえてきた。
「2年F組比企谷八幡、今すぐ職員室まで来なさい」
「平塚先生か、なにかしたっけかな、作文とか提出はなかったし。まあ、仕方ないか三十路に後で怒られるのも面倒だし」
*****
「まてまて、何で私が三十路とか言われないといけないんだ。まだ三十路ではないぞ」
「先生、さっき静かにしててくださいってお願いしましたよね。批評はあとでお願いします。では続きを読みますね」
*****
「きゃ!!」
「うわっ!」
学校の校舎の中を早足に歩いていると、曲がり角でいきなり女子生徒とぶつかってしまった。彼女が後ろ向きに倒れ掛かっていたので、俺は彼女の後頭部に右手を回し何とか頭だけは守ろうとしたが、お互いもつれていたため、彼女を下に押したおす形で倒れてしまった。
倒れた瞬間、俺の唇になんともいえない柔らかいものに触れた気がしたが、一瞬のことだったので、何処に触れたかは分からなかった。ただ彼女(雪ノ下だったのだが)の鼻が俺の鼻とくっつくぐらいの位置にあったため、慌てて顔を離すため、左腕に力を込めた。
ふにゃ。
「あんっ」
「えっ!!」
左手を確認すると何故か雪ノ下の胸に手があり、先ほど力を込めた際、揉んでしまったようだ。体制を建て直し、すぐに雪ノ下から離れたが今度は彼女のスカートがまくれ上がっており、純白にリボンのワンポイントがあしらってある可愛いパンティが目に飛び込んできた。彼女は即座にスカートを直し何も言わず顔を真っ赤にし、こっちを睨んでいる。
「大丈夫だったか、すまん雪ノ下。職員室に行くため急いでいたんだ」
「ええ、大丈夫よ。廊下は走らないで、今回はなんともなかったけれど、怪我したら大変だから」
「すまなかった。じゃあ、また放課後」
「....ええ、待っているわ」
俺は恥ずかしさから、すぐにその場を離れたかったため、謝罪し雪ノ下と別れた。
職員室に向かう途中、先ほどのことを考えていた。
揉んでしまった胸、思わず左手を確認してしまった。見た目より結構あったな。いつも部活で一緒にいるが、あんなに顔を近づけたことは今まで一度もない。
透き通る肌、潤んだ瞳、長いまつげ、ほとんど化粧もしていないのに、全てがとても綺麗だった。
そして俺の唇に触れたもの。顔の位置から考えるともしかして唇か?
また赤面してしまう前に職員室前に着いたため、気持ちを落ちつかせ、職員室の扉をノックした。
放課後
今日は由比ヶ浜が遊びに行ったため、雪ノ下と2人の部活となった。気まずい、ただもう一度謝っておいたほうが良いと思い2度目の謝罪を行った。
「昼は本当に申し訳なかった」
「良いのよ本当に、お互い怪我がなかったのだから。平塚先生の呼び出しは問題なかったの?」
「ああ、ただクラスに配るプリントを運ばさせられただけだ」
「平塚先生もそれぐらいなら学級委員にでもお願いすれば良いのに」
「まあ、そうなんだがな。「比企谷は暇そうだからお願いした」とか言っていたし」
「1人でご飯を食べているのだから、そう思われたのかしらね」
「さあ、どうなんだろうな」
雪ノ下はぶつかった時のことは、なんとも思っていないのだろうか。俺はどうしても唇が触れたところを確認したい。でも彼女にしてみたら何とも思っていない男に事故であっても唇を奪われたとしたら、無かったことにした方がよほど良いのだろう。
「ねえ、気がついてる?あなた私の唇をずっと見ているわよ」
「....すまん。どうしても気になって」
このまま悶々とさせられるぐらいなら、嫌われても良いので確認しよう。
「何が気になるの?」
「倒れたとき、俺の唇がどこかに触れたと思うんだ。それが何処だったのかずっと気になって」
「では確かめてみる?」
そういうと雪ノ下は立ち上がった。俺もつられて立ち上がり雪ノ下に近づいた。
「あなたの唇が何処に触れたか、だったわね。そう私の唇も何処かに触れたの。お互い触れたところをまた合わせて確認してみましょ」
そして雪ノ下は目を閉じ、顔を少し上げた。
俺は、雪ノ下の肩を抱いて顔を近づけ、
「雪乃、好きだ。」
そして二つの影は一つになった。
(ここまでが材木座の小説)
**************************
私は放心していたわ、多分比企谷君も一緒だろう。
放心している私の隣で材木座君がやっぱり声優はこうとかどうとか言っているわ。
「ゆきのんずるい!!こんな毒を吐かないゆきのんはゆきのんじゃない!!」
「何が『二つの影が一つになった。』ですか!!どこのパクリですか!!」
「あと胸が結構有ったとか、全てが綺麗だったとか、ゆきのんが書かせてるよね!!」
「なあ、この小説は材木座が書いたものなのか」
「ええ、先生。それを雪ノ下先輩が批評をしていたらしいです」
「でも中二って以前はまったく違うものを書いていたよね」
「材木座、どうしていきなりラブコメを書こうと思ったんだ?しかも雪ノ下や比企谷を使って」
「それは雪ノ下殿にファンタジーだと設定とか色々説明するのが大変なので学園物で登場人物も知っている人であれば簡単に情景が分かりやすいと」
「まあ、確かにそうだな。色々説明不足があっても知り合いが登場人物であれば脳内補完が簡単に行えるからな。内容についての批評は色々あるが知り合いからしてみれば分かりやすいしな。情景も簡単に補えるし。まあ面白かったのではないか。」
「は、八幡!!我の小説が面白い!!と初めて言ってもらえたぞ!!」
何故か材木座君が私の隣でうれし泣きをしているわ。どうして私がこんな辱めを受けて彼は褒められているのかしら。
「ねえ一色さん。パソコンのMyドキュメントにある、昨日材木座君が書いた小説があるの。そっちについても批評していただけるかしら」
「え、え、雪ノ下殿?それ見ちゃらめーーーーー!!!」
**************************
みな昨日、材木座君が書いた総武道高校の物語を読んでいて、肩を震わせているわね。
比企谷君だけがニヤけているわ。隠そうとしているのだろうけど隠せておらず、でも声に出してしまうと隣で目が死んでいる3人にどんな目に合わされるか分かったものではないから必死に笑いを堪えているようね。胸のことで私と平塚先生が辱めを受ける内容だけれども、それ以外の内容がもっと酷いのでよしとしましょう。
「....」
「材木座、私と1時間ほど話合わないか。肉体言語で。」
「中二、この『ぼよよーん』とかどういうことなの?」
「私こんな喋りかたじゃないですね、どうして全部語尾を延ばしているんですか?」
「い、いや、それは皆さんではなく、二色さん、四浦さん、由比浜さん、雪ノ上さん、塚塚さんでありまして....」
「○△××!!」
私は正座から解放されたが材木座君は今、女性3人に囲まれている。さすがに先生も手は出してはいないようだけれど。
「比企谷君、勝手に小説に出してしまって申し訳なかったわ。ごめんなさい」
「いや、まあそっちについては良いんだが...いや良くないか。まあ、今後はやめてくれって事で」
「ええ、分かったわ」
彼は赤面しながら会話をしてくれるわ。私の顔もかなり赤くなっているのだろうけど。彼からしてみればどうして自分と私とのラブコメを書かせたのか等、気になっていると思うわ。ただ私からそれを切り出すことはできず、また彼からも聞いてくることはなかったわ。
「なあ、雪ノ下どうしてこんなバトル物なんて書かせたんだ?」
「これについては、材木座君に学園物で登場人物を知り合いにすれば分かりやすいのでは、と助言しただけよ。内容については私も読むまではまったく知らなかったわ。でもあなた、ちょっと面白いと思っていたでしょ。笑いを堪える姿が滑稽だったわ。」
「設定はともかく登場人物の特徴が出ていたからな。ちょっと続きが気になったし」
「これの続きは絶対書かせないわ」
「....まあ、今色々言われているから、さすがに書けないだろ。ちょっと残念だけど」
**************************
「じゃあ、明日までに私たちをヒロインにした物語を1部づつお願いします。もちろん先輩との恋愛もので」
「待て待て、何で俺なんだ。葉山で書いて貰えば良いだろ」
「こんなことに葉山先輩は巻き込めませんよ」
「ヒッキー。これは奉仕部の仕事だから私たちで登場人物が賄えるならわざわざ頼まなくてもいいでしょ」
「いやでも三浦とか勝手に出されていたぞ。あとよく賄えるって言葉知っていたな」
「ヒッキーバカにしすぎ。でも優美子のこと言ったら私もヒッキーもいろはちゃんも先生だって勝手にだされてたじゃん。やっぱり自分の知らないところで勝手に使われるのってあんまり気分よくないよ」
「俺は知っていても出されるの嫌なんだけれど」
「あのーーー。今日こそはゲーセンに行きたいので明日まではとても無理なんでしゅが」
「「はぁ?」」
「じゃあ、今から副会長召喚して校舎内では手袋とコートの着用禁止にしますね」
「私は
「いや、まっ、まってくれ。判りました。二人分書いてくれば良いんですね」
「私が含まれて居ないようだが?」
「「「「「先生も!?」」」」」
「ちょっと憧れるだろ、ヒロインとか」
「「「「はぁ」」」」
「先生の歳でヒロインっておかしいんじゃ」
今、平塚先生からパンチが繰り出されたようだけど見えなかったわ。比企谷君の右頬を掠めたようで髪の毛が揺れており比企谷君が動揺しているわね。やはり平塚先生は肉体言語を使えるのかしら。
「比企谷、女性に年齢のことを言ってはいけないと教えなかったか」
「は、はいぃ」
「じゃあ材木座、明日楽しみにしているぞ」
「木材先輩、よろしくですぅ」
そういうと先生と一色さんは部室から出て行ったわね。多分職員室と生徒会室に戻ったのね。
「材木座、俺を出すなよ」
「待ってくれ八幡。それだと我が殺される」
「殺されはしないだろ、半殺し程度だ」
「良いじゃんヒッキー。奉仕部内だけなんだから」
「やだよ、俺の黒歴史が増えちゃうだろ」
「その黒歴史も共有できれば良いじゃない。私は今日の夜、眠れないと思うわ」
「いや、それは俺も同じだぞ」
「頼む八幡、今回だけ出させてくれ、今後はもう書かないから」
「....判った。まあ、今回はしょうがないしな」
「中二、よろしくね」
こうして材木座君のラノベ騒動は二日目を終了したわ。