「ではこのラノベはどうだ?」
先ほどの一色さんのラノベをしまった後、材木座君は次のラノベを出してきたわ。
「これは誰で書いたんだ?」
「八幡と由比ヶ浜殿だが、内容は問題ないはずだぞ」
「一応、確認した方が良いんじゃ無いか?読んでから後悔しても遅いしな」
「では、私が読みましょう。登場人物で無い方がいいでしょ」
私は材木座君から受けとると、誰にも見えない位置で読み出したわ。読んでいくと私の顔が赤くなっていくのが自分でも判る。内容については問題ないのだけれど、私たち三人には黒歴史ではない、でも他の人には言えない大切な思い出の一部が書いてあるのだから。
「雪乃!?大丈夫か?」
「ゆきのん!!」
「え!?まずい内容で有ったか?」
「大丈夫よ、ちょっと思い出していただけだから。ふふ、この内容ならいいでしょ。みんなで読みましょう」
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(ここから材木座の小説)
今日は部活が終わってから、本を買いに行くため千葉駅に来ていた。俺は書店に向かい本を物色していたが、結衣が海浜総合の生徒と歩いているのが見えた。
「健ちゃん、今日は何買いに来たの?」
「うん?まあ、その辺で何か見ようと思って」
え!?結衣に付き合っているやつがいたのか。はは、何だよそれ。
俺は結衣のことが好きだった。彼女の明るい性格は俺にはまぶしく高嶺の花だと思っていたため、この気持ちは勘違いだと今まで自分に言い聞かせてきた。
ただ最近は材木座からの依頼で俺とのラノベを書かせたり、俺に名前呼びしてほしい。と要求して来たので、もしかしたら俺のことが好きなのかと思い、いつ告白しようか考えていた。くそ!!今度こそ俺が求めるものが手に入るかもしれないと思っていたのに、結局は勘違いだったわけだな。
俺は、手にとっていた本も買う気になれず、由比ヶ浜たちが向かった方とは逆の出口から店を出た。
次の日
「今日は部活には出ない」
雨が降っていたため教室で昼飯を食べていると、由比ヶ浜が俺に話しかけてきたが、まともに話をする気になれなかった。俺の勘違いだったのだから由比ヶ浜に当たるのは間違いだが、どうしても今まで通りには接することが出来ず、そっけなく答えていた。
「ヒッキー行こうよ、その明日入試でお休みだからさ。わ、渡したいものもあるし」
「出ないと行ってるだろ。由比ヶ浜、そのヒッキーって言うのも止めてくれ」
「え、ヒッキー何かあった?私、何かした?」
「うるせえよ」
それ以上の会話をすると、由比ヶ浜にキツく当たってしまうため、俺は席を立ちトイレへと向かい時間を潰した。由比ヶ浜が喋りかけてくるかも知れなかったので、昼休憩終了と同時に教室に入ると、由比ヶ浜は席には居らず、何故か三浦が俺のことを睨んでいた。
放課後、帰る準備をしていると、三浦が話しかけてきた。
「ヒキオ、ちょっと話しあるんだけど」
「俺からは何もない。それじゃあな」
「ちょっと、待つし!!」
三浦はそういうと俺の手首を握り、特別等屋上まで連れて行った。振り解こうと思えば出来たが、三浦にまで当たるのは筋違いのため、俺はおとなしくついて行った。天気は悪いが今は雨が降っていなかったので屋上まで出ると三浦が話し出した。
「ヒキオ、あんた結衣に何したし?」
「部活に行かないって言っただけだ」
「はぁ、そんなことで結衣が家に帰るわけないっしょ。お昼ヒキオと話した後、目を腫らして「今日は帰る」って言って帰って行ったじゃん!!」
「俺と話したぐらいで泣くことなんてないだろ」
「ヒキオ。あーしが言って良いのか判んないけど、結衣の気持ちに正面から向き合いな」
「お前こそ何言っているんだ?由比ヶ浜には付き合っているやついるだろ」
「はぁ!?どういうことだし!?」
俺は昨日の出来事を三浦に話した。つい感情的になり、自分の由比ヶ浜に対する気持ちも喋ってしまったが、三浦は何も言わず最後まで聞いてくれた。
「なにおもいっきり勘違いしてんだし」
「どういう事だ?」
「そいつって本当に彼氏なの?中学の知り合いかも知れないし、親戚ってこともあるし」
「いや、でも」
「じゃあ、ヒキオはちゃんと結衣に確認したの?自分の勝手な思い込みで結衣を傷つけるな!!」
「あぁ」
「今すぐ結衣に会って、確認してこい!!ヒキオの気持ちを洗いざらい伝えに行け!!」
「分かった、サンキュー!愛してるぜ三浦!!」
後ろから三浦が何か叫んでいたが、振り返らず走った。馬鹿じゃないのか、勝手に思いこんで結衣のこと悲しませて。一言昨日のことを聞けば良かっただけじゃないか。
結衣に電話したが、出ないので近くの公園で会いたい。とメールを送って自転車で向かった。
いつのまに寝ちゃったんだろう。ベッドで泣いていたらいつの間にか寝ちゃってた。窓の外を見るとすでに暗くなって雨が降っている。私、なにかしたのかな。ヒッキーに渡そうと一週間前からママに教えてもらって、部活の帰りに渡して告白しようと思ってたんだけど無断になっちゃった。私、何したか分かんないよ、ヒッキー。
ん?携帯に通知がきている?確認するとヒッキーから二時間前に電話が来てたみたい。メールを確認すると「公園で会いたい」って書いてある。
「もしかして雨の中待ってるの!?」
大急ぎで用意しママに出掛けることを伝えると私は家を飛び出していた。
公園で待っていると雨が降りだした。学校を出たときは降っていなかったので、傘を学校に忘れてきていたが、いつ結衣が来てくれるかも分からなかったので俺はその場を動かなかった。手を見ると震えている、でも結衣を悲しませたのは俺が悪いんだ。せめて話を聞くまではここを動きたくなかった。
「ヒッk、比企谷君!!」
「..結衣」
「比企谷君!!ずぶぬれだよ、家にいこ!!」
「....一つ教えてもらえないか、昨日一緒に歩いてた男は彼氏か?」
「え、昨日?健ちゃんのこと?従兄弟の子だよ」
「ぁぁ、すまん、結衣。ごめん!!ごめん!!」
「..あ!でも今はそんなことより身体を温めないと」
「そんなことじゃない!!俺は結衣に酷いことをした。本当にすまない!!」
「ううん、誰でも勘違いはあるよ!!それよりも早く家に!!」
結衣に手を引かれ、家まで連れて行かれた。俺の格好を見た母親に風呂に叩き込まれ、シャワーを借りて身体を温めた。
「すみません。お風呂を借りて、服まで借りてしまって」
「いいのよ、あなたがヒッキー君ね、結衣からよく聞いているわ」
「ママ!!黙っててよ!!ヒッキー私の部屋にいこ!!」
「..その、良いのか」
「うん、ちゃんとヒッキーと話したいから」
「結衣、私も行って良い?」
「ママは良いから!!」
「その今回のことは本当にすまん!!俺が勝手に勘違いして結衣を傷つけてしまった」
「ううん、私と健ちゃんのことで、焼もち焼いてくれたんだよね」
「ああ、俺は結衣のことが前から好きだった。でも勘違いだと今までは言い聞かせてきた。ただ最近の結衣の行動で俺のことを好きなんじゃないかと思い込んでいたんだ。何時告白しようか悩んでいたとき、二人で歩いているのを見て、勝手に嫉妬してた」
「...思い込みじゃないよ、ハイこれ受け取って」
そういうと結衣は俺に包みを渡してきた。
「一日早いんだけどさ、明日入試でお休みでしょ。だからチョコレート。私もヒッキーに今日、告白しようと思ってたんだ」
「...え、あ、そ、そのありがと」
「だからさ、これからはお互い思ったことをちゃんと伝えようよ。言葉にしないと分かんないよ」
「いや、言葉にしても判らないこともあるだろ」
「うん、だからこれからはヒッキーと、もっともっといっぱいお話しするの。それでも分かんないかも知れないけど、今回みたいに勘違いして欲しくないし、擦れ違いたくないもん」
「..そうだな、これからは結衣と何でも話し合えるようになりたいな」
「うん、だからこれからよろしくお願いします」
「..こちらこそ、よろしく」
「へへ」
「ふひ」
「..ヒッキー、その笑い方はやめたほうが良いよ。キモイし」
「酷いな、キモイとか言われないといけないの?」
「うん、これからは思ったことをちゃんと伝えないとね」
「そうだな、結衣..かわいいよ」
「な!?なんで、いきなしそんなこと言うんだし!!」
「照れた結衣はもっとかわいいな」
「うぅ、ヒッキーもかっこいいよ」
「....」
「..まあ、お互い自分のペースで話せるようになろうぜ」
「うん、そうだね」
「はーーーーい、もう良いかな」
「ママ!!」
「そろそろパパが帰ってきちゃいそうなんだけど、ヒッキー君挨拶してく?」
「あ、いやそれは」
「じゃあ、まだ雨が降っているんで車で送っていくよ。制服とか洗濯しちゃったから明日取りに来てね」
「いえ、そこまでしてもらうのは申し訳ないです」
「良いのよ、自転車だと濡れちゃうでしょ、でも明日はママも一緒にお話させてね」
「ママは良いから!!」
車の後部座席で俺と結衣は隣り合って座っていた。母親が居るのでお互い喋れなかったが、恋人つなぎした手に力を入れたりして結衣の表情を楽しんでいると、ルームミラーで母親と目があい、ニヤニヤされていた。これバレてるの?恥ずかしい!!
「ヒッキー君。手を繋いでいても、思っていることは言葉で伝えないと駄目だよ」
そう言われ、俺と結衣は二人で赤面していた。
(ここまでが材木座の小説)
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八幡と由比ヶ浜さんはかなり赤面しているわね。まあ、私と一緒でクリスマスイベント前の出来事を思い出しているのでしょうけど。
「八幡?まずい内容であったか?」
「..いや材木座、まあ、そうだな。言葉で伝えないと判らないよな」
「ああ、今回はお互い想っているだけでは駄目だ。という事を書きたかったのだ」
「..うん、いいんじゃないかな。でも中二、でもさヒッキーが優美子に『愛してるぜ三浦!!』って言っているのはどうして?」
「川崎殿に聞いたのだがな。文化祭の時、八幡からのお礼で言われたそうなのだ」
「「はぁ!?」」
「ヒッキー!!どういうことだし!!」
「八幡、あなたお礼で『愛してるぜ』っていうの?」
「...覚えが無いんだが。大体そんなこと川崎がお前に喋るか」
「文化祭の時、川崎殿が外に座って、独り言で「比企谷に愛してるぜって言われた」って顔を真っ赤にして言っていてな。それをラノベの取材の時、聞いてしまったのだ」
「「....」」
「材木座君、今日はこれで終わりにしましょう。帰ってもらえるかしら」
「え、まだ批評してもらってないんですが」
「...材木座君」ニコッ
「は、はい。今日はこれで失礼しましゅ」
「..おれもそろそろ帰らせてもらうわ」
「八幡「ヒッキー」」
「..はい」
「八幡、では私と由比ヶ浜さんにも一緒の言葉を聞かせてもらっていいかしら」
「そうだね、ヒッキー。私たちにも言ってよ」
この後、八幡から日々の感謝の言葉として、照れながらも私たちの要望に答えてくれたわ。川崎さんのように名字ではなく、名前で呼ばれたから私たちもかなり照れてしまったのだけれど。今度は八幡から私一人に言ってもらえるようにしないといけないわね。