何時もどおり奉仕部で読書をしていると、材木座君が入ってきたわ。
「八幡、またラノベを書き上げたので、読ませて進ぜよう」
「はあ、誰で書いたんだ」
「今日は居らぬ様だが生徒会長殿とお主でだ」
「平塚先生が一色さんと会議に出席すると言っていたので、今日は多分来ないわよ。まあ、批評であれば私たちで出来るでしょう」
「じゃあ、中二読ませて」
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(ここから材木座の小説)
2年に進級し生徒会長としての役職を何とかこなしながら文化際、体育祭が終わり、次期生徒会長選が始まった。
1年のころ生徒会長になった時は2年連続生徒会長をやるつもりは無かったが、私の中である目標が出来、今度は自分から立候補した。書記ちゃんも「副会長に立候補する」って言っていたので、私たち二人が当選すれば、新生徒会も楽になるだろう。
結果から言えば二人共圧勝での当選。さすがにいつまでも書記ちゃんとは呼べないので今では、沙和子ちゃんと呼んでいる。私の事もいろはちゃんって呼んでくれているし。
新しい書記には小町ちゃんが入ってくれた。彼女も先輩と一緒で色々言いながらも仕事は出来るので頼りになる。
私は2年の夏休み前までは奉仕部によく顔を出していたが、先輩達が部活と言う名の受験勉強会をしだしたので、あまり顔を出さなくしていた。今でも部室に集まって3人で勉強会をしているのは聞いているけど、私は入っていけなかった。
本当は、行きたかったけど、邪魔しちゃいけないと思い本当に用事が有るときだけお邪魔するようにしている。
12月初めにまた去年と一緒で、クリスマスイベントの合同開催の依頼が来ていた。今回違うのは前回の海浜総合との合同ではなく、どこから聞きつけたのか他2校の参加依頼があったため、合計4校での開催となった。
初打ち合わせで4校の代表が集まり、代表を誰にするかと言うことになったので、私は自ら立候補した。去年も参加していた実績からか誰からも反対意見も出ず、私が選ばれた。
会議は去年のようなことはなく、すべて順調に進んでいる。私は何だか肩透かしを喰らった気分になっていた。さすがに去年みたいなのは困るけど、ほとんど問題になるようなこともなく、残り数日となっていた。
「いろはさん、凄いですね。今日でほぼクリスマスイベントの準備片付けちゃったじゃないですか」
「そんなことないよ、小町ちゃん。今年は他校の人たちが優秀だったから、まったく問題になるようなこと無かったしね」
「そんなことないよ、いろはちゃん。問題になる前に全部片付けちゃったんだから」
「そうだったっけ?沙和子ちゃん」
「うん、問題が起こりそうになると、いろはちゃんの発言でさ、すぐ解決しちゃうもん」
「うーん、よく覚えていないや....二人共、この後、ちょっとだけ付き合って貰えない?」
「小町は良いですよ」
「私もいいよ」
「うん、ごめんね。じゃあサイゼにいこっか」
「いろはさん。サイゼが直ぐ出てくるなんて、何だかお兄ちゃんみたいですね」
「でもいろはちゃん、サイゼで良いの?真剣なお話ならカラオケボックス見たいな所のほうがよくない?」
沙和子ちゃんは、私をよく見てくれていると思う。私のちょっとした表情から真面目な話と感じ取ってくれたのだろう。
「ごめんね、時間を作ってもらって」
「いいんですよ、いろはさん」
「ううん、それでいろはちゃん。どうしたの?」
「私が今回も生徒会長に立候補したのは、ある目標があったんだ」
「「目標?」」
「目的って言ってもいいかな、だから今回の代表にも自分からなりたいって言ったのもそう。ただ今回みたいにすんなり終わっちゃうと肩透かしを喰らったみたいになっちゃってね」
「....」
「いろはちゃんの目標?目的ってなんだったの?」
「私、奉仕部の先輩達みたいになりたいんだ。雪ノ下先輩の合理的に相手の詭弁を論破するところ。結衣先輩の雰囲気を読み取ってまとめ上げるところ。先輩の相手の内面を読み取るところ」
「....」
「今回のイベント、色々な学校関係者が来るからさ。まあ、ちょっとしたトラブルが起こったりして、それを私が解決してさ。ステップアップにしたかったの。二人共知っているから言うけど、私は先輩の事が好き。でも今のままじゃとても隣に並べないと思ってる」
「....」
「いろはちゃん、今から言うことはお世辞じゃないからね」
「うん?」
「私からみたら、いろはちゃんは3人を越えていると思うよ。確かに一つ一つをみるとまだ敵わない部分もあるかもしれない。でも3人にも欠点が無いわけじゃないでしょ。いろはちゃんは3人の良い所を吸収してて、去年のクリスマスイベントの時とは比べものにならないぐらいになってるもん」
「いろはさん。小町からも言わせてもらうと、普通だったらあんな短期間で4校を纏めるなんて出来ないですよ」
「...そうかな」
「例えばお兄ちゃんだったら捻くれたやり方で自分を犠牲にして自分以外の人たちを纏めることは出来ると思うんですけど、自分が悪者になっちゃうんですよね」
「雪ノ下先輩だってそう、正論過ぎて多分反感もたれて纏めるのが大変だと思う。由比ヶ浜先輩はそんなこと無いんだろうけど、自分から率先して代表になったりしないだろうし、正論を言ったり内面を読み取ること出来ないでしょ?」
「多分、いろはさんの中でお兄ちゃんたちが大きくなっているだけだと思います。誰も欠点のない人なんていません。いろはさんも有ると思います。でも3人より劣っている何て事、絶対有りませんから」
「いろはちゃんの凄い所は問題になる前に感づいて片付けたり纏め上げちゃうところなんだよ、だから3人と比べても全然劣ってるってことないよ」
「うん、ありがとう。私ね、先輩が卒業するのが不安なんだ。先輩に何時も助けてもらって、私何も出来てないって。だから今回のイベントを通してちょっとでも先輩に認められたい。学校を任せられたい。って思ったの」
「いろはちゃん(さん)」
「ごめんね、弱音はいて。先輩にはもう頼れないと思うとどうしても、今のままじゃ駄目だ。もっとがんばらないと。って思っちゃって。思えば思うほどあの人たちが凄く感じられて」ウゥ
「いろはさん、がんばりすぎです」
「そうだよ、いろはちゃん。あの3人も今のいろはちゃんを見たらきっと認めてくれるよ」
「なんだったら、明日お兄ちゃんを連れ出して遊びに行きましょうよ」
「小町ちゃん!!それは絶対駄目!!先輩の邪魔だけはしたくない!!」
「..いろはさん、でも最近会ってないんですよね。良いんですか」
「会いたい、会って話したい。でも先輩の邪魔だけはしたくないの」ウゥ
「いろはちゃん(さん)」
センパイ ウゥ
「ごめんね、泣いちゃって」
「そんなことないよ、いろはちゃんの本音を聞けて嬉しかった」
「やめてよ、恥ずかしくなるから」
「全然恥ずかしいことないですよ。小町、いろはさんのことが羨ましいです。相手のことをそんなに思えるなんて。まあ小町からしてみたら、ごみいちゃんですけど」
「小町ちゃん、先輩のこと悪く言うのはこの口か!!」グリグリ
「いひゃいでしゅ、いろひゃしゃん」
「でも、今日は付き合ってくれて本当にありがとう。じゃあ、帰ろっか」
クリスマスイベント当日
やはり4校合同で開催すると色々弊害が出てくる。でも何とか纏め上げ、クリスマスイベントは無事終了した。
「よかったね、いろはちゃん。大成功だよ」
「うん、大きな問題も起きなかったからね」
「いろはさん、がんばってましたもんね。でも全然楽しめなかったんじゃないですか」
「まあ、自分から代表になったんだから良いんだよ。じゃあ後片付けやっちゃいますか」
「じゃあ帰ろうか。佐和子ちゃんはこれから本牧先輩とデート?」
「はい、この後待ち合わせしてますんで、これで失礼しますね」
「あーあ、羨ましい。先輩も推薦もらえればよかったのに」
「いろはさん、それは無理ですよ。ごみいちゃんですよ、ごみいちゃん」
「また先輩の悪口をいうか!!このこの!!」
「..いろは、お疲れ」
「え!?先輩?」
「じゃあ、いろはさん。小町はこれで失礼しますね。お兄ちゃんは小町からのクリスマスプレゼントです」
「先輩、どうして」
「俺も後ろの席で見させてもらっていた、凄くよかったぞ。がんばったな、いろは」
「先輩!!先輩!!会いたかったです!!」ウゥ
「ああ、俺もだ」クシクシ
「先輩!!」ウワー
そういうと、先輩は私の頭を撫でてくれた。今までも何回かやって貰ったけど、今日は特別気持ちよく感じる。私は感情が高ぶり先輩に抱きついて泣いてしまっていた。
「いろは、この後時間あるか?」
「はい、でも先輩は良いんですか?」
「まあ、少しならな」
私たちは近くの公園に行き、ベンチに腰掛けた。先輩は自動販売機で何時ものコーヒーと私の紅茶を買ってきてくれた。
「この何ヶ月かいろはに会わなくて、ようやく自分が誰を好きなのか気付かせてもらった。..いろは、今は自分の受験のことが一杯で付き合ってくれとは言えない。後2ヶ月待ってくれないか。俺から告白させて欲しい」
「判りました。その日まで待ってます。だから先輩もがんばってください」
「ああ、後これを貰ってくれ」
そういうと、先輩は手に持っていた紙袋を渡してきた。
「何ですか、これ」
「まあ、そのクリスマスプレゼントだ」
「..ありがとうございます。見てもいいですか」
「ああ」
「マフラーですか!!ありがとうございます!!」
先輩は私の手からマフラーを取り、私の首に巻いてくれた。
「ありがとうござます!!でも私先輩へのプレゼント用意できてないです」
「今日、いろはの顔を見れただけで十分だ」
「な、なんなんですか、口説いているんですか。私はすでに先輩のことが好きなのでいつでもOKですが、後2ヶ月待ってますんで、それまでに私に対する熱い思いを言葉にしておいてください。お願いします」
「早くてわかんねえよ、振られたわけじゃないみたいだが、もうちょっと待っててくれな」
そう言うと先輩はまた頭を撫でてくれた。私も先輩の胸に頭を預け、ひと時の幸せを味わった。
(ここまでが材木座の小説)
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「材木座、このラノベのこと、いろはは知っているのか」
「まだ見せてないので知らぬぞ、書くとも言っておらぬし」
「じゃあ、悪いが見せないでくれ」
「どうしてだ八幡、何時ものように批評してくれるのではないのか」
「俺たちで批評は出来るが、いろはにはさせたくない」
「どうしてだ」
「材木座君。このラノベの内容を一色さんが読んだら、自分に置き換えてしまうわ。彼女が今度の生徒会選挙に出るかも、自分で問題意識を持って生徒会長をやっているかも判らない。もし読んでしまうと自問自答してしまうでしょうね」
「そう、それで良い方向に行くこともあるだろうが、悪い方向に行くこともあるからな」
「そういうことか、確かに考えがたらなんだ」
「いや、材木座が悪いわけじゃない。俺たちがそういうこともあることを考えずに書かせていたからな」
「そうだね、中二にラノベを書いてもらうのも注意が必要だね」
「批評してていろはが来ると不味いから、これについては、批評もやめたいんだが良いか」
「分かった、ではしまっておくぞ」
「すまん、材木座」
「材木座君、申し訳ないわ」
「中二、ごめんね」
「今後はそういうことにも気をつけると言う事で良いではないか」
なんだか今回は後味の悪いことになったわね。まだラノベを書いてもらうのであれば、今回のことをしっかり考えるべきね。