やはり材木座が書くラノベは間違っている   作:ターナ

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第13話

「ひゃっはろー」

 

私が「どうぞ」と言うと、姉さんが入ってきたわ。また八幡を連れて行くつもりなのかしら。

 

「今日はどうしたのかしら。姉さん、八幡を連れて行くのは駄目よ」

「あっれー、何時から名前で呼ぶようになったの?」

「せ、先週からよ。そんなことどうでも良いでしょ」

「ちょっと待ってください!!もしかして結衣先輩もですか?」

「うん、私は言い慣れなくてヒッキーから今までどおりでいいって言われたんだけど、ヒッキーからは名前で呼んで貰っているよ」

「先輩!!私の事も名前で呼んでください!!」

「やだよ、恥ずかしい」

「比企谷君、呼んであげたら。私も陽乃って呼んで貰っているし」

「...解りましたよ..いろは、これで良いだろ」

「いいんですけど、どうしてハルさん先輩の言うこと聞くんです?」

「まあ、陽乃さんと雪乃と結衣のことも名前で呼んでいるしな。まあ、いいだろ」

「..ありがとうございます」

「それで姉さんは何しに来たのかしら」

「今日は比企谷君じゃないよ、材木座君が来るはずなんだけど」

「もしかしてラノベをお願いしているのかしら」

「うん、この間のはちょっといただけなかったんで、もう一回書いてもらったんだ」

 

私たちが会話していると材木座君が扉をノックして入ってきて、姉さんにラノベを渡したわ。

 

「こ、これが今回書いたラノベです」

「うん、ありがとう。じゃあ、ちょっと読ませてもらうね」

「姉さん、みんなで批評しないのかしら?」

「読んでどういうやり方が良いか確認してからね」

 

そういうと姉さんは一人でラノベを読み出したわ、私は姉さんと材木座君の紅茶を入れて渡していると、姉さんの目が潤んでいて、見ていると涙が零れるのが見えたわ。

 

「ね、姉さん、どうしたの?大丈夫?」

「うん、ごめん。ちょっと入り込んじゃった。材木座君、ありがとう。今回、私には批評出来ないな」

「駄目でござったか」

「ううん、違うの。凄く良かった。でも今回のは私の感情が強く出ていて泣いてしまうわ。批評はいつも通り、みんなでやってあげて。ごめん、今日は帰らせてもらうね」

「...」

 

そういうと姉さんは帰っていったわ、私たちは何が有ったのか判らず、材木座君のラノベのコピーをそれぞれ読み出した。

 

**************************

(ここから材木座の小説)

 

「陽乃さん、俺と付き合ってください」

「うん、いいよ」

 

比企谷君と一緒に喫茶店でお茶を飲んでいると、いきなり彼は私にそう言った。多分彼のことだから、買い物とかそういったものだろう。私は軽い気持ちで返事していた。

 

「じゃあ、今からデートしましょう。陽乃さんはどこに行きたいですか」

 

あれ?買い物ではなかったのかな。でも私も彼の事を気に入っているし、まあいいか。軽い気持ちで付き合うつもりはないけど、自分でも彼の事をどう思っているか判断つかないのでまあ、お試し期間ってところかな。

 

こうして私たちの付き合いは始まった。でも八幡は私とのデートを何回繰り返しても私の手も握ってこない。私たちが手を繋ぎ始めたのは1月半も過ぎたころだった。そのころには私の中で八幡の存在が大きくなっていた。でも私の気持ちが大きくなればなるほど雪ノ下家の名が大きく立ちふさがる。私はお母さんにお付き合いをしている人がいることを報告したくない。でもいつかは言わないといけないので、認めて貰えるようお母さんの元に向かった。

 

「お母さん、話したいことが有るんだけど」

「なにかしら、陽乃さん」

「私、その、お付き合いしている人がいるの」

「それは何時ぐらいから?」

「今、ちょうど2ヶ月ぐらいかな」

「そう、陽乃さん清いお付き合いをしてね」

「!?いいの?」

「駄目って言ってほしかったの?貴方2ヶ月ぐらい前から良い笑顔で笑うようになったのよ、その人の影響でしょ?」

「..自分では気付いてないんだけど。でも家とかそういうのはいいの?」

「陽乃さん。私は家のために貴方達に結婚させようとか思っていないわ。良い縁談があれば紹介はするでしょうけど、あくまでも貴方達の意志を尊重するつもりよ。まあ出来れば婿養子をとって貰えればと思うけどね」

「あ、ありがとう!!お母さん!!」

 

私は嬉しくなってすぐ総武高校に向かった。校門前の歩道で信号が変わるのを待っていると信号の向こうに八幡がいるのが見えた。彼も私に気付いたようで手を挙げて答えてくれる。嬉しくて信号が変わった瞬間、私は駆け出していた。信号無視した車が来ているのも気付かずに。

 

「っ陽乃さん!!」

 

私の身体を八幡が突き飛ばすと同時に彼の身体が宙を舞っていた。私は八幡に駆け寄ることも出来ず、その場にへたり込み、顔を手で覆うことも出来ず大声で泣いていた。

 

「あ、あ、あ、あーーー、八幡!!八幡!!いやあーーーーー!!」

 

何時のまにか、由比ヶ浜ちゃんが八幡に駆け寄り、雪乃ちゃんは私に駆け寄ってきてくれていたが、私はなりふり構わず、泣き叫んでいた。

私がちゃんと確認しないからだ!!私が注意していれば!!私が!!私が....

 

今、私は八幡の病室にいる。私自身は軽い擦り傷程度で済んだため、八幡の看病をしていた。彼は左足の骨折と昏睡状態。すでに一月ほど立っており私はずっと病室で看病を行っていた。事故前の私を知っている人であれば、今の私を見ても気づかないかもしれない。目の下には隈が出来ておりご飯もあまり喉を通らない。お風呂にも数日前に無理矢理入れられたけど、髪の毛もボサボサになっている。でも一秒でも八幡の近くにいたくて、自分の身だしなみなんてどうでも良かった。

 

最近思考が自分でもネガティブになっているのが分かる。もしこのまま八幡が目覚めなかったら、もし後遺症が残ったら、もし、もし..

駄目だ。このままでは思考がもっと悪い方に行ってしまう。私は八幡との付き合い出したころからを思い出していた。

他の人からはたった3ヶ月と思われるだろうけど、私にとっては小学校、中学校、高校や大学で過ごした時間よりよほど楽しかった。そういった思い出は全て八幡との思い出の前では、色褪せてしまっている。

八幡と居ると私は彼の言う強化外骨格を付けなくていい。八幡も照れながら「素顔の方が綺麗で好き」と言ってくれた。八幡は話が特にうまいわけでは無い、面白い事が出来るわけでもない。でも私が普通に居られる場所を与えてくれてる。私にはそれで十分だった。でも、今は私のせいで...

 

「八幡、私このまま壊れちゃうのかな..」

 

また、思考が悪い方に行ってしまっている、カレンダーを確認すると今日は8月8日、八幡の誕生日だった。二人でお祝いしたかったな。でもプレゼントは挙げないとね。

 

「八幡、お誕生日おめでとう!!誕生日プレゼントは私のファーストキスだよ!!」

 

私は彼と始めてキスをした。彼の顔に私の涙が零れ落ちたが彼からは一定の呼吸音が聞こえてくるだけだった。また、私の中で負の感情が湧き上がり八幡の胸に顔を埋め泣いていた。

私が八幡の胸に顔を埋め泣いていると私の頭をいきなり何かが触れぎこちなく撫でてくれた。

 

「陽乃さん。俺、キスするの初めてだったんですよ、せめて起きてる時にしてくださいよ」

「っ八幡?八幡!八幡!!」

「髪の毛ボサボサですよ、陽乃さん」

「八幡!!八幡!!八幡!!」

「はいはい」

 

そういって彼は手を動かすのも大変というのに私の頭を撫で続けてくれた。私はまた彼の胸で泣きつづけた、でも今度は嬉し泣きで彼の胸を濡らした。

 

私はナースコールを押すと先生がすぐ来てくれ診断してくれた。詳しい診察は後日だが特に後遺症が残ることは、今のところは見当たらないと言う事だった。

心配してくれている人たちに電話すると、私のお母さんが一番に駆けつけてくれた。

 

「八幡さん、陽乃を助けてくれてありがとうございます」

「いいえ、俺はこの世で一番大切なものを守りたかっただけです」

「ありがとう、八幡さん。それで今日は一つ早急なお願いが有って来たのよ」

 

また私の中で負の思考が駆け巡った。もしかして別れろと言うの?何で目覚めたばかりなのに言うの?この時、私の中で家なんて捨ててでも八幡のそばを離れない意思が芽生えていた。

でも八幡が私の手を弱々しくだけど握ってくれたので少しは冷静でいられた。

 

「八幡さん、私も娘がここまで衰弱している姿を見てしまうと思うところがあるの」

「お母さん、止めてよ!」

「陽乃さん、最後まで聞きなさい。だからね、八幡さん。陽乃の事を一生支えてあげてもらえないかしら」

 

そういうとお母さんは鞄から二枚の紙を広げて私達に見せてきた。婚姻届と養子縁組届を。そこにはすでに八幡の名前やご両親の名前が書いてあった、彼が未成年だからだろう。

後は捺印するだけだった。

 

「もし養子縁組が嫌であれば婚姻届だけでも雪ノ下姓でお願いしたいけど、八幡さんの意思を尊重させてもらうわ」

 

「...」

「陽乃さん、身体を起こすの手伝って貰って良いですか」

「うん」

 

私は彼の身体を起こし、また手を握った。すると八幡は私に身体を向けて話し出した。

 

「陽乃さん、いきなりで何て言えば良いのか、何も考え付かなくて有り体なことしか言えないんですが..俺は貴女を愛してます。俺と結婚してください」

「はい、お受けします、私も貴女を愛してます」

 

私は八幡を支えるようにしがみつき、長い長いキスをした。

 

「ん、んん、あなたたち長いわよ。1分以上口付けしているわ」

「お、お母さん、何で時間図っているの!?」

「しょうがないでしよ、余り見ない方が良いと思って目をそらしたら時計が置いてあるもの」

 

「お母さん、養子縁組の方も喜んで受けさせて貰います」

「本当に良いのですか?ご両親にはお話しして有りますが相談とかよろしかったのですか」

「俺は陽乃さんの負担を少しでも肩代わり出来たらと思っています、俺にも雪ノ下家を名乗らせてください」

「分かりました、でもしばらくは身体を治すことに専念してね。後、陽乃さん。旦那様の前だから少しは身だしなみに気を付けたら?」

 

急に私は今の格好が恥ずかしくなり慌てて席を外そうとしたが、八幡が手を離してくれなかった。

 

「俺は陽乃さんの笑顔が見れれば満足なんです、だから離れないでください」

「..八幡」

 

すると廊下の方から騒がしい音が聞こえてきた。

 

「比企谷君!!良かった!!ようやく起きたのね!!」

「ヒッキー!!どんなけ心配かけるんだし!!」

「先輩!!良かった!!良かったぁ」

「雪乃さん、あなたたちここを何処だと思っているの?少しは静かにしなさい。後、雪乃さん。八幡さんは比企谷君では無いわ、今日から雪ノ下家の長男で貴方のお兄様よ」

 

「ええーーーーー!!」

 

彼女たちはこの日一番の叫び声をあげていて、看護師さんが飛んできて怒られていた。

 

「はっきり言って今の姉さんは凄い不細工だわ。でもね、私が見たことのない笑顔で今までで一番素敵よ。そして義兄さん、姉さんのことよろしくお願いします。結婚おめでとう!後、義兄さん、私のことも今後ともよろしくね」

「ヒッキー、ううんユッキーってこれから呼ぶね。ユッキー、陽乃さん。結婚おめでとう!!」

「先輩、私にとっては名字が変わっても先輩です。先輩、ハルさん先輩。ご結婚おめでとうございます!」

「ありがとう(な)!!」

 

「じゃあ、八幡さん。ここに印鑑を押して貰える?」

「はい...手に力が入らなくて」

 

八幡が机まで手を挙げようとしても力が入らないのか腕が震えていたので、私は八幡の後ろに回り込んで左手と身体で八幡の身体を支え、右手を八幡の手に添えた。

 

「ひぃやぁー!!夫婦になるための共同作業ですね!!これは写真に納めないと!!」

「そうだね!!私は動画を担当するよ!!」

「では私は真正面からのアングルで動画を録るわ!!」

 

「..陽乃さん、俺の代わりに押して貰えますか?」

「駄目ですよ、八幡さん。後で「自分は押していない」って言われると私が困るもの」

 

私達は顔を真っ赤にしながら印鑑を押した。彼女たちの要望は留まるところを知らず、その後も私が八幡を横に寝かせるところや飲み物を飲ませているところも動画で撮っていた。でも心から笑ったのはいつ以来だろう。今日は嬉しいこと、楽しいことが多すぎて、記念日って事もあるけど私たちにとって忘れられない日になった。

 

「今日は楽しかったね」

「あぁ、あいつらには感謝の言葉しかでないですよ、いい記念日になりましたね」

「うん、そうだね。忘れられない日をくれたんだよね」

 

私と八幡は病室でベッドをくっつけ、お互いの手を繋ぎながら布団に入っていた。

 

「なんだか疲れちゃったね」

「そうですね、そろそろ寝ましょうか」

「うん、お休みなさい。八幡」チュッ

「お休みなさい、陽乃さん」

 

手を握り合って隣に居られるということが、こんなに嬉しく思えるとは思っていなかった。私は手の感覚を感じながら、病院で初めて深い眠りについた。

 

(ここまでが材木座の小説)

**************************

 

「うぅ」

「う、うぁ」

「ご、ごめんなさい、材木座君。このラノベは私達には余り批評出来ないわ」

 

由比ヶ浜さん、一色さんは涙を流していて、私も泣いているわ。どうしても自分が姉さんの立場だったら。と考えてしまい、入り込んでしまうわね。

 

「そんなに駄目であったか、申し訳なかった。そんなもの読ませてしまって」

「違うんですよ、木材先輩。私、今までのラノベで一番これが好きです」

「ああ、材木座。俺もこのラノベ好きだぞ、ただ感情移入してしまうと涙腺が緩くなってしまう」

「そうだよ、中二。私もこのラノベが良いよ。でも今までと全然違うんでビックリしたかな」

「そうだな、今までシリアスなラノベは無かっただろ。どうして書いたんだ?」

「いや、ただ魔王殿のご機嫌を損なわぬよう、考えて書いていたらこうなったのだ」

「魔王殿って姉さんのこと?」

「あ、いや、そうではなくて...」

「まあ、良いわ。今回のラノベで私が気になったのは2ヶ所だけね」

「それはどこでしゅか」

「まず、八幡の最初の告白だけれど、どうしてしたのかって所ね。後、姉さんが「お試し期間」って言っているところが気になったわ」

「ハルさんの所、私は良いのかなって思いましたけど。確かに好きでも無い人と付き合うのはどうかと思いますけど、このラノベの中では「気になっている」って書いてありましたし」

「私はどっちかって言うと、ゆきのんと同意見かな、ちょっと気持ちが弱いと思う「どう思っているのか判断付かない」とも書いてあったから。あとヒッキーの告白の時の気持ちを途中で良いんで陽乃さんが聞いていて、思い出しているっていうのも入れれば良いと思うよ」

「あ、それいいですよね。それでまた泣いてしまうんでしょうけど。でも私たちが出てきて雰囲気がガラッと変わりましたよね」

「良いんじゃ無いかな、最後ちゃんとハッピーエンドだったし」

「そうね、今回のラノベは私たちの中では、高い評価を与えれると思うわ」

「ありがとうございましゅ。...あの一つ聞いてよろしいですか?」

「なにかしら」

「なぜ八幡の事、名前で呼ばれているんでしゅか」

「材木座君、貴方のラノベのおかげで、八幡と由比ヶ浜さん、一色さん、姉さん、そして私は名前で呼びあうようになったのよ」

「....八幡!!この一級フラグ建築士が!!!」

 

そう言いながら材木座君は部室を出て走って行ったわ。

何なのかしら「一級フラグ建築士」って。

 


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