「さ、寒い!!寒いよウサミミ!!」
「何でもかんでも泣きつくな!私は某シミュレータのシステム管理エージェントではないんだ」
気温を思い出したかのように、氷点下の猛吹雪でガクガクと体が震え始めた。
それもそのはず。
少年は学校の夏服姿で、ウサミミは白衣姿だ。防寒どころかウェルカム凍死な出で立ちであった。
よって、突然の雪原やら地平線の先にある巨大な物体やらに注目するよりも、
「あ、あっちで焚き火してる!行こう!」
「……あれは焚き火というか、建物が火事で燃えているだけじゃないか……?」
とりあえず暖を取るためにその場を移動する方が先決だった。
ズサズサと雪を踏みしめ、爪先の感覚がなくなっていくのが分かる。下手したら『気付いたら足の小指がなくなってたんすよアッハッハー』な登山家あるあるを体験する羽目になってしまう。
ヒイヒイ言いながら件の焚き火(もとい火事現場)に着いた二人は、そこで目の前の惨状にようやく思い至った。
「し、死んでる……!?」
ざっと見ても数百人はいるんじゃないかという人間が、あるいは半身がなく、あるいは焼け焦げ、あるいは倒壊した瓦礫に埋もれて圧死していた。
「こいつら軍人だな。ラッキーだ。服を奪うついでに装備も頂戴しておくぞ」
「え、そんな、だって……」
「何言ってる?死人からアイテム入手なんて今時のRPGじゃ基本だろう?」
「そういう問題じゃ……」
死人に対する冒涜だ、なんて言おうとしたけれど言い淀んでしまう。ウサミミに押し付けられた防寒着のコートや銃器を少年は受け取ってしまった。
我ながら意思が弱い、と自嘲気味に嘲る。
どこまでも状況に流されてしまう。
「……僕の正義って中途半端だなあ……」
「だからこそ
フォローされたのか罵倒されたのかいまいちよく分からないウサミミを踏まえ、改めて現状確認。
「ねえ。ここってどこなんだろう?そもそもいつなんだろう?」
「異世界に飛んだ癖に暢気な頭で今日もお花畑が満開だな、お前は。どうでもいい、大事なのは『誰が敵で誰が味方か』だ」
「ここにいる人達は、みんな『敵』に殺されたのかな?……あれ?」
そこで、瓦礫に埋もれる死人のすぐ傍に、光輝くカードが落ちている事に気づいた。
近づいて拾う。
金髪の中性的な容姿の少年と短い茶髪の少年の絵が描かれていた。傍にある二つの死体も、この絵と同じ人物である。
「この人達のスキルなのかな?…あ、あれ?カードに名前が記載されてない。不良品?」
「そんな訳あるか……と言いたいところだが、ここは異世界だしな。試しにブースターにセットしてみろ」
ウサミミに促されるままに、少年はブースターのリーダー枠にそのカードをセットした。
直後だった。
ベイビーマグナムと戦うウォーターストライダー。
不意打ちで主砲を受け大破したベイビーマグナム。
そして、こちらを向けられた下位安定式プラズマ砲。
逃げ惑う兵士。
そして、頭上から飛来する巨大な瓦礫に、俺は――――
ズキリ、という頭痛と共にフラッシュバックする誰かの記憶。
「ッ、痛っ……なんだ、これは!?」
「ウサミミも見たの?な、なにこれ!?」
咄嗟に説明を仰いだが、聞くまでもなく既に知っていた。
いや、違う。
『彼ら』の記憶が挿入され、この世界の全ての知識に自分自身が同期した。初めからこの『
記憶の上書き保存。
「つまり、これって、死んだこの人達の記憶……僕らは、死んでしまったこの人達の人生の続きをやれって事なのかな?」
「だろうな……ったく、呆気ない。無慈悲とも言えるな。主人公が失敗した『
「もしかしたらそういう世界なのかもね、この『
今更怖気づいてしまうが、少年に帰り道はない。
元より自分の『
「敵は多分、ウォーターストライダー。あれを倒すのが僕らの目標なんじゃないかと思う」
「氷雪地帯特化型第二世代……難しいな。こちらもそれ相応のオブジェクトを用意する必要がある」
「え、お金持ってるの!?五〇億ドルだよ!?日本円だと……五百万円?」
「馬鹿かお前は。算数が間違ってるし、そもそも奪うに決まっているだろ」
「ナチュラルに犯罪だぁ……」
「学園都市であれだけ暴れておいて今更何を言ってるんだ」
「だからこそウサミミの口車に乗るのは怖いの!で、でもほら、あの、えーと……そだ!手に入っても操縦できないじゃん!」
「そのためのお前の『
ポカンと首を捻る少年の足元で、金髪の少年の死体の傍に落ちていた携帯端末に信号マーカーが点灯した。
「ふん、都合が良い。答えが向こうからやって来た」
「どういう事?」
「移動しながら説明する。とりあえず何かスノーモービルみたいな乗り物を瓦礫の中から探し出して来い」
『正統王国』第37起動整備大隊に所属するその少女の名は、ミリンダ=ブランティーニといった。
彼女を囲う三人の男達は下卑た笑みを浮かべながら、アサルトライフルの銃口で彼女を小突きながら先を歩けと促していた。
彼女の敵対勢力『信心組織』の軍人であり、彼女は拘束されているのだ。
絶賛捕虜、と言えば聞こえはいいが、戦時協定を無視した野蛮な男達の頭の中を鑑みれば、むしろ奴隷と表現した方が適切かもしれない。
つまり、そういう類の話で盛り上がり、彼女をレイプするためにはナニが凍えないような暖の取れる近くの洞窟に移動するべきだろうという考えに至った次第である。
チンパンジーみたいね、と軽口を呟いたら、銃床で後頭部を思い切り殴りつけられた。衝撃で舌を少し噛んでしまい、口内に鉄錆臭い味が未だに残っている。
このまま自分は男達の玩具になるのか。溢れそうになる涙を必死に堪える。
後悔が募る。味方なんて助けなければ良かった。
自分を戦場に追い出し頼るだけ頼っておきながら、いざとなればトカゲの尻尾切りのように自分を捨て置く連中だ。あれを味方だと思っている自分も歪んでいるなぁと今更ながら悲しくなった。
いや、だからこそエリートの『エレメント』に適合したのか。
「おい、あそこ、女が倒れてるぞ!」
その時、男の一人が声を上げながら前方に駆けていった。
見やれば、奇妙な恰好の少女が雪原のど真ん中で倒れていた。
ピンク色の大きなウサギ耳のヘアバンドを着用し、紫の髪に白のメッシュを入れ、右目が青く左目が赤い。
防寒コートは『正統王国』軍の支給品ではあるが、そんな恰好の人間を自分は見たことがない。
「動かねえけど息はしてるぞ。どうするよ?」
「え、そいつも混ぜてヤるってこと?」
「えー、ガキじゃん。大丈夫かよ」
「エリートと歳は変わんねえだろ」
「バッカ、このぐらいのガキは一、二年で全然違うんだよ」
(……さいていなやつら……)
思わず目を伏せた、その瞬間だった。
「敵を前に余裕だな。それでも本当に軍人か?平和ボケ共!!」
ウサギのヘアバンドを付けた少女が突如目を開け、懐から取り出したハンドガンで近寄る男の頭を打ち抜いた。
ズガン、という乾いた銃声に、遅れて男達は構え出す。
こちらは残り三人、対して相手は少女一人。弾幕を張れば勝てる戦力差だと算段をつけたのだろう。
事実、戦況を見ればその通りでその分析に間違いはない。
しかし、ミリンダの足元の雪がボコリと盛り上がった。
それは人型のシルエットしていて、よく見れば東洋人の少年だった。
なんと、自分の体の上に雪を被せて、ミリンダ達一行がこの場所を通るのを待ち伏せしているのだろう。
男達は遅れて少年に気づく。
「、あぶない!?」
少年は丸腰で、武器らしい武器を持っていない。
唯一とも入れる右手に嵌めた手甲を、あろう事か『信心組織』の男達ではなくミリンダへと伸ばしてきた。
男達は少年にアサルトライフルの銃口を向け、引き金を引く。
その直前に、少年がぼそりと呟いた。
「――――ちょっと
ミリンダの肩に触れた手甲が、いつの間にか光輝く一枚のカードを手にしていた。
一瞬見えたカード名は、『エリート』。
少年は慣れた手つきでそれを手甲にセットする。
同時、銃弾が煌いた。
三方向から同時に迫りくる銃弾を、少年は
「――――は?」
人間離れしたその動きに、男達はギクリと硬直する。
その一瞬を見逃さない。
少年は不敵に笑いながら、
「すごいな、このスキル。人間どころか銃口の動きまで
2本しか手のないノロマな人間の挙動など、普段100門以上の砲門を同時に相手取り予測回避を行っているエリートにとっては朝飯前にすらなってない。スマホでソシャゲをやりながら片手間で躱せるレベルの雑事に過ぎない。
まるで銃口から伸びる射線が目に見えているかのように頭を下げながら男の一人の懐に飛び込み、股間へ渾身の正拳突きを放つ。
呻く男からアサルトライフルを奪い、B級映画の中でしか実現できないような横構え射撃で残った男達を横凪ぎに撃ち殺す。
「ヒ、あ、ぁ……!?」
股間を押さえて悲鳴を上げる背後の男へ向けて、少年は振り返り様にアサルトライフルを殴りつけた。
野球バットみたいに握り締め、ゴギン!と頭蓋骨を凹ませるレベルのフルスイングを受けて男が昏倒する。
「終わったよ、ウサミミ」
「作戦通りだな。どうだ私の采配は。完璧だったろう?」
「……雪の中で寝そべってるの、寒くて寒くて死ぬかと思ったんだけど……」
「生きてるからいいだろうが」
陽気に談笑する二人を前に、ミリンダは茫然と語りかけた。
「あなたたちは、だれ……?」
二人は顔を見合わせると、ウサミミバンドの少女は真顔でこんな事を言ってきた。
「貴様ら腑抜けた『
「……よく分かんないと思うけど、多分味方です。あなたを助けに来ました」
今ふと気づいたんですが、仮面ライダーディケイドにめっちゃ似てますね。
各シリーズの世界に飛んで歪みを解決。
しかもカードをセットしてコピーしたスキルを使用するとこまで似てる……
もうこれはファイナルベントするしか……(使命感)