拝啓 突然ですが、聖女になりました。あと、地球で元魔王や悪魔神との同棲生活始めました。by勇者   作:有栖川結城

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004 地球帰還初日はいろいろありました

「これが崇人兄さんなのか?

 すごい美少女になってるじゃん!」

 

 こちらが僕の甥である東條魁斗。

 中学一年生で市立第三中学校に通っている。

 火曜日の今日は部活がないのか、早く帰ってきた。

 そして・・・和也さんに似てイケメンだ。羨ましい。

 

 すでに僕は男でもないんだけどね。

 

「崇人、久しぶりー。

 事情は私も魁斗も全部聞いてるよ。それにしても、元勇者だったなんて思いもしなかった。」

 

 で、こちらがその魁斗の母親であり僕の姉でもある東條麗奈。

 

『こんにちは、シアルです。これから長い間よろしくお願いします。』

 

「お、よろしく。」

 

「うん、シアルちゃんよろしくね。」

 

 まあ、シアルや姉、魁斗の間に問題が起きなくてよかった。と、僕はほっと胸をなでおろす。

 

「それにしても、勇者に悪魔神に魔王に聖女か・・・。

 この家が普通じゃないのは知ってたけど、ますます普通じゃなくなるぜ。」

 

「まったく、その通りだ。」

 

 僕が願ったのは平穏な地球での生活だったのに。

 これじゃあ異世界並みに波乱万丈な生活になりそうだ。

 

「ね、それでさ、家の中だったらいいけど、家の外だと崇人のことを崇人って呼んだら変に思われるでしょ?

 崇人ってどう考えても男の名前だから。

 それで、新しい名前考えてきたんだけど、どうかな?」

 

 麗奈が言った。

 

「へえ、新しい名前って?」

 

「東條紫苑。シオンちゃんね。

 もし、魁斗が女の子だったらこの名前をつけるつもりだったの。」

 

「ま、別にいいんじゃないか?」

 

 ということで僕の新しい名前は簡単に決まった。

 

「改めてよろしくね、シアルに紫苑。」

 

『こちらこそ。』

 

 シアルがお辞儀したような気がする。

 

「ところでさ、紫苑、風呂入らない?」

 

「ええ、もう入るののか?面倒なんだけど。」

 

 そう言うと姉からダメ出しを喰らう。

 

「まず、口調を女の子口調に直さないとね。

 まずは少しずつでいいから、ね。」

 

 そこを指摘するのか。

 まあ、確かに外でボロが出ないように今から練習する必要はあるかも。

 

「それと、風呂にはもう半年以上入ってないでしょ?

 魔法で少しは綺麗になるとはいえ、お風呂で綺麗さっぱりになる必要はある。

 私が手取り足取り教えてあげるから。」

 

 うん。

 ----プライドというものを捨てる必要があるかもしれない。

 

「それにしても、姉と一緒に入るってのは・・・。」

 

「そうは言っても年齢差的には親子ぐらい離れてるし、女の子として入浴するのは初めてでしょ?」

 

 全くもってその通りだ。

 ・・・この羞恥心との戦い、勝てるであろうか。

 

 多分、姉にいくら拒否しても風呂に入らせれる。

 僕は、こういう時はいつまでも食らいつかれるということをよく知っている。

 

「わかった。」

 

 といつの間にか口に出してしまっていた。

 

『久しぶりの風呂・・・久しぶり風呂・・・。』

 

 シアルも余程入りたい様子。

 

「それじゃあ紫苑、ちょっと身長計らせて。」

 

 と麗奈は言い、黒魔法陣を僕の下に展開して、僕の身長その他の身体情報を暴かれた。

 それと同時に、悪魔の魔法の使い方がわかった。こうやって黒魔法陣を対象の周りに展開させるらしい。

 

「着替え用意しとくから、紫苑は先に入っててねー。」

 

 と姉が言い、三階の麗奈の部屋に消えていった。

 多分、姉が小さい頃に使った服を持ってくるのだろう。

 ともかく、それよりも。

 

 ----僕と羞恥心との戦いの第二ラウンドが始まった。

 

 姉と一緒に風呂に入ったことはない。少なくとも、記憶上は。

 理由は年が離れすぎているからである。

 ちなみに和也さんとも入ったことはないが、魁斗とは入ったことがある。

 

 なんせ魁斗は僕の一歳年下だ。

 それに、僕のことを崇人兄さんって言っていたし。

 

 話を戻す。

 

 僕と一緒に風呂に入った女性は母と妹の真弓ぐらいである。

 

 そして、僕は今、----女子だ。それに、僕は女子と一緒に風呂に入る勇気はない。その相手が、シアルの姿をしている自分だとしても。

 

『頑張ってください、タカト----じゃなくて、シオン様!』

 

 アルテイシアル。

 これは開きなったとしても、かなり難しいよ。

 

 シアルだっていきなり男子になって風呂行けって言われたら躊躇うだろう。

 

 そんなことを考えてると、後ろのドアが開いた。

 もちろん姉だ。これで和也さんや魁斗だったら心底軽蔑するだろう。

 

 それはともかく。

 

 姉の手には僕のものと思われる着替えがあった。もちろん女子の私服の。

 

 当然ながら、着替えの中に下着もあった。

 姉が使ったことのないやつだと思いたい。

 あまり深くは考えないようにしよう。

 

 それともう一つ言いたいことが。

 

『可愛いです。』

 

 シアルの言う通り、はっきり言って可愛い。オシャレな服だ。

 こ、これを----女子歴数時間の僕に着ろと?

 

「ぼ・・私にこんな服着れないよ!」

 

 僕って間違って言いそうになった。

 多分、私って言わないと姉にまた怒られるしね。

 

「これはね、私には可愛すぎて似合わなかった服なの。だけど、捨てるのはもったいなくて取っておいたのね。

 でも、紫苑なら絶対似合うよ!」

 

 いやいや、似合うとかそう言う問題じゃない。

 僕のプライドが許さないのだ。

 僕のプライドは確かに削られてきたが、まだ完全になくなったわけではない。

 

「何ぼんやりしてるの?早く脱ぐ!」

 

 そう思ってたら、いきなり姉が後ろからアタックしてきた。

 即ち、服を脱がしてきた。

 

「ぎゃう!」

 

 僕は女の子らしからぬ叫び声を出した。それも可愛い声で。

 

 女の子らしい叫び声ができてもしょうがないけど。

 

 そして恥ずかしくてすかさず体を隠してしまう。

 

 その反応に姉はため息をついた。

 

「だめよ、そんなに恥ずかしがっちゃ。

 そんなことじゃ修学旅行とかで友達と一緒に風呂は入れないよ?

 それは随分先のことだけど、今のうちから女子に慣れたほうがいいよ?」

 

 正論を並べられて反駁のしようがない。

 

『そうですよ、昔は私の体だったかもしれませんが、今は紫苑様の体なんですから!』

 

 シアルにまで正論を言われた。

 

 チラッと姉の方を見ると既に全部脱いでいた。

 僕は慌てて目を逸らした。

 

「なにやってるの?」

 

「・・・姉さんは僕に見られても平気なの?」

 

「・・・呆れたねぇ。

 もう紫苑は女の子でしょ。

 恥ずかしいわけないじゃん?

 ほらほら、早く脱ぐよ。」

 

 そう言われて下着も脱がされた。

 

「あと、脱いだ服はちゃんとたたんで脱衣かごに入れといてね。

 紫苑は半年も風呂に入ってないから忘れてるかもしれないから言っとくよ。

 まあ、この服は聖女服のようだから今日はいいけど。」

 

 そして僕は姉に促されるまま風呂に入った。

 

 風呂は簡単に言えば天国だった。

 

『ふぇぇぇぇぇーー。気持ちいいですーー。』

 

 シアルも一緒に脱力している。

 こんなに、湯船が気持ちいところだったとは。

 

 異世界に行ってなかったら知らなかっただろう。

 

 これなら何分でも居られる。

 

 だが、姉がそれを許さない。

 

「こらー。

 いつまで湯船にいるの?

 ちゃんと体も洗いなさーい。」

 

「ふぇーい。」

 

 恥ずかしさなんてどうでもいい。

 だって、ここは天国だから。

 

「いい、これがシャンプー、これがコンディショナー、これがトリートメント。

 ちゃんと使い方を覚えとこうね。

 女の子の会話で、使ってるシャンプーはどこの製品だとかいう話になることもあるんだから。」

 

「ふーん。」

 

 そして、完全に脱力しながら女子のイロハを教えてもらった。

 

 ドライヤーかけてる間もずっと気持ちよかった。

 

「魁斗に和也さん、風呂入ってきたよー。」

 

「お、帰ってきたか。」

 

 リビングには勉強をしている魁斗がいた。

 魁斗は昔から自分の部屋じゃなく、リビングで勉強をしている。

 

 一年ほど経った今日もその習慣は変わってないらしい。

 

「あれ?和也さんは?」

 

 そして、親子似たりと言うべきか、和也さんもリビングで仕事をしていることが多い。

 

 ノートアイパッドとにらめっこしていたらそれは仕事中だ。

 

 

 尚、こういう仕事を選んだ理由はわからない。

 

 元魔王だったのなら魔法を活用できる仕事にでも就けばいいのに。

 

 それはともかく。

 和也さんはどこだ?

 

「お父さんなら車を出しに行ったぜ。月極駐車場から。」

 

『車ですか!?』

 

 シアルが魁斗の車という言葉に大きく反応した。

 

「そういえばシアル、僕・・・じゃなくて私があの世界で車の話ししていた時、目を輝かせて聞いていたからね。」

 

『はい!

 すごい乗りたいです!』

 

 シアルの声が少し楽しそうだ。

 ----それほど車が楽しみか?

 

 まあ、あの世界では物を動かすには魔力を使うのが主流である。

 だが、水素自動車は『水素』を燃料にして走る。

 魔力も使わずに1トンの鋼鉄が動くのだ。

 そんなこと、あの世界の住人であるシアルには想像もつかないだろう。

 

 僕も、魔法を初めて見たときはすごい興奮したからね。

 それと同じような感覚なのだろうか。

 

「・・・そういえば車を出しに行ってるってことはどこかに行くのかな?」

 

 そう言った時、ふと思い出した。

 そういえば服と日用品を買うとかいう話をしていたな。

 

 そして、僕に姉から声がかかった。

 

「紫苑ー。

 買い物行くから、玄関来てー。」

 

 案の定、買い物だった。

 ----この可愛い服で外を歩くとか死刑宣告だろ。

 

 だが、躊躇ってもいつか姉さんがやってくる。

 しょうがない。

 

「はーい、今行くー。」

 

 渋々ながら玄関に向かった。

 そして玄関には僕用と思われる靴が置いてあった。

 これを履いていけ、という意味なのだろう。

 

 外に出ると車に乗った姉と和也さんがいた。

 

『これが車ですか。

 魔力のかけらも感じません。

 なのに、こんな大きい鉄の塊がどうして動くんですか?』

 

 シアルが興奮気味に言った。

 

『ああ。原理はよくわからないが。』

 

「紫苑。」

 

「はい。姉さんごめんなさい、女の子口調で話します。」

 

「よろしい。」

 

 シアルとの念話の会話とはいえ、また男の子口調に戻ってしまった。

 ボロが出ないように頑張らないとな。

 

 シアルみたいな美少女が男の子口調だったら悪い意味で注目を集めるだろう。

 

 ただでさえ金髪翠眼の容姿から注目を集めているのに。

 

『ところで紫苑様、この車の後ろのあのパイプはなんで濡れてるんですか?』

 

 シアルは車のマフラーのことを言ってるのだろう。

 

『水素自動車は走ると水ができるらしいからね。

 その水があのパイプから出るんだよ。』

 

 これも原理はわからないけど。

 

『へぇ、そうなんですか。』

 

 まあ、それはいいとして、僕は車に乗り込む。

 前が見えるように助手席だ。

 

 シートベルトをつける感覚が違ってちょっとだけ戸惑った。

 シアルの身長は140センチぐらいで、元の体より15センチも低い。

 

 そして、和也さんが目的地を指定して車を発進させる。

 

 ちなみにこの車は全自動なので運転する必要がない。

 

『わあ、すごいです、本当に動きました。

 しかも、あとは待つだけで目的地に着いちゃうんですよね。

 凄いです!』

 

「ああ。生まれて初めて全自動車に乗った時はビックリした。」

 

「うん、魔界にもこんなに便利なものはなかった。」

 

 姉と和也さんがシアルの言葉に頷く。

 

「そういえば、日用品とか服とかを買うんだよね?」

 

「うん、そうだね。

 女子人生を歩むために必要なものを一式揃えに行くよ。

 ブラとかの下着もね。」

 

「え?」

 

 な、なんだと!?

 

「当然じゃない。」

 

 いや、そうだけど。

 ----しまった。

 風呂よりも精神をすり減らしそうだ。

 

「で、別に私が直接下着とかそういうもの買いに行かなくてもいいよね?」

 

 だが、その提案は即座に却下される。

 

「ダメ。

 だって紫苑はもう女の子でしょ。

 それにこれから友達と買い物に行ったりすることもあるでしょう?

 それがなくても、一人で買いに行かなくちゃいけないこともあるでしょ?」

 

 姉の正論がまた並べられる。

 

「あと、スカートの履き方とかスカートを履いた時の座り方とかも指導しないとね。

 やることはいっぱいあるねー。」

 

 ああ、もはや僕のハートは消えかけている。

 

「帰りたい・・・。」

 

「だめ。」

 

 帰りたいって言えばすぐ姉がダメって言う。

 しかし、僕の尊厳がやはり許さない。

 その時、名案が思いついた。

 

「そうだ!自分に精神魔法をかければいいんだ!」

 

 自分が完全に開き直る魔法。

 それをかければいい。

 

 そうすれば、恥ずかしさもない。

 

 

 

 

 気づいた時には夜だった。

 

 そして、僕は超巨大ショッピングモールで両手に大量の荷物を抱えていた。

 

『あ、紫苑様、洗脳魔法が解けたようですね。』

 

『シ、シアル、これまで何が起こっていた?』

 

 しかも、服を見ればスカートだった。

 それなりにロングだったが、下がスースーして誰かからパンツを見られているような気がする。

 それに、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 上着もそれなりにオシャレなやつだ。

 

『すっごい楽しそうに買い物をしていましたよ。

 それと、待つことのできない和也さんは途中で本屋行っちゃいましたね。』

 

 僕が、すっごい楽しそうに買い物をしていた、だと!?・・・誰か、通り魔でもテロリストでもいいから殺してくれ。

 恥ずかしすぎる。

 

「まあ、頑張ってくれたから16式スマウォ買ってあげてもいいけど?」

 

 だが、そんな愚かな考えはすぐに丸めてゴミ箱に捨てた。

 17式の・・・スマウォだと?

 

 スマウォ。

 スマウォ自体は昔からあった。

 だが、僕が持っていたのは9式。

 10年ほど昔に発売が始まった旧式モデルである。

 

 それに対し、最新型の17式。

 僕が異世界召喚される前は開発中だった最新型だ。

 

 16式までの機能である、インターネット接続やテレビ接続、何十万ものアプリは勿論のこと。

 

 所持者の声を登録すれば喋るだけでいろんなことをしてくれる。

 しかも、友達のように会話もできるらしい。

 

 それも、聞き間違いはほぼ皆無で、ほぼどんな会話であろうと、ちゃんとした会話が成立するのだとか。

 

「嬉しいけど・・・高くない?」

 

 最新式のスマウォである。当然高いだろう。

 

「いやいや、崇人が他人の姿になってでも帰ってきてくれたことに比べちゃ、こんなの安い!」

 

 その姉の言葉は、僕が家に帰ってきたのだと実感させる。

 

「ま、これからまた面倒事が降りかかってくるんだけどね。」

 

 姉が言った。

 

「面倒事って?」

 

 これ以上、面倒な事は御免だ。

 

「警察に紫苑のこと届けないといけない。

 あと、戸籍も獲得しないと。」

 

 そうだった。

 ----確か、家庭裁判所だっけ。

 裁判所に行くのか。

 

 ああ、面倒だ。

 ま、戸籍を獲得するにはしょうがないか。


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