拝啓 突然ですが、聖女になりました。あと、地球で元魔王や悪魔神との同棲生活始めました。by勇者   作:有栖川結城

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魔王討伐と地球への帰還

 ニルカルアンサ王国より南南西に400キロほど進んだ。

 途中の道は苦難の連続で、実際は10000キロも歩いたかもしれない。

 

 僕達のパーティの歩いたあとには足跡が残っていた。

 永久凍土の土に、常に降り続く雪。

 どこまでも続く漆黒の闇。

 

 その先には禍々しさを漂わせる魔王城。

 魔王城の前には機関銃を持った魔法生物の警備員がいた。

 

「いよいよ来たか・・・。」

 

 風が吹き荒れるこの日、この世界が大きく変わろうとしていた。

 

 疾風の如く魔王しかいない部屋へやって来たのは勇者パーティ。

 

 人型最終兵器とも呼ばれた宮廷魔導師長をも越す実力を持つ聖女、アルテイシアル。

 旅の途中で仲間になった、時空神トルガフの祝福を受けた少年、ベル。

 これも旅の途中で仲間になった自称宇宙人の記憶喪失者、アスカ。

 

 ----そして勇者として異世界から召喚された勇者、タカト。

 

「お前が魔王だな。」

 

 僕が魔王に対してかけた第一声はそれだった。

 

「如何にも。」

 

 魔王が答える。

 

「魔王は人類の敵。よってここに魔王を討伐する。」

 

 僕、勇者タカトが魔王に宣言する。

 その言葉に対し、魔王は鼻で笑った。

 まるで嘲笑うように、また知識の無い者を哀れむように。

 

「なぜ笑う?」

 

 僕は魔王のその態度に気を悪くして、魔王にそう言った。あるいはその奇怪な行動に好奇心を持ったのかもしれない。

 

「いいか、少年よ。たとえ人類の敵であっても、世界----神の敵ではない、ということだってある。」

 

「魔王、お前は神の寵愛を受けてるとでも言うのか。」

 

「後でこの言葉も分かるさ。----生きていればな。」

 

 と言った瞬間、魔王の魔法が炸裂した。

 戦闘が始まった。

 

 魔王は魔法にも白兵戦にも長けている。

 

 そしてその一撃が重い。

 魔法も接近戦も。

 

 剣を振るうが結界を張られてしまう。

 この剣は普通の剣ではない。一撃で山が吹き飛ぶ剣だ。だが、使う人を選ぶ。

 魔力量が常人の2万倍ほどないと、使い物にならないのだ。

 さらに、普通よりも高レベルの剣術を取得してなければ、使えない。だいたいLV8は必要とする。

 その両方を満たしている人物など歴史上今までいない。

 

 そのような神剣を使う僕。しかし、その神剣の攻撃さえ通さない結界を張られており、攻撃が通じない。

 

 さらにに魔王が無詠唱で上級闇魔法を繰り出す。

 僕も同じ無詠唱のスキルがある。

 

 だが、無詠唱でも魔法の発動までの時間が僅かながらある。

 魔王の無詠唱はLV8で僕の無詠唱LV7だ。

 どちらが上か、言うまでもないだろう。

 

 でも、こちらには仲間がいる。

 時空神トルガフの祝福を受けたベルは時間停止の術で、魔王の魔力を霧散させ、魔法攻撃を許さない。

 それに時空魔法でダメージや魔力量を少し回復してくれる。

 それに誰かが危なくなった時は瞬時にその人を短距離転移をさせて、仲間に致命傷を負わせない。

 

 アスカの大矛は魔王の剣と撃ちあっても折れない。

 だが、魔王はタカトとアスカの後ろと前からの攻撃を受けてもなお、余裕がある。

 

 それもアルテイシアルの詠唱が終わると、形勢が逆転する。

 

 彼女自身、原爆並みの威力の魔法を使える、超高火力魔導師でもある。

 まあ、白兵戦では詠唱できる時間が短く、原爆並みの威力の魔法までしか使えないのだが。

 

 その超高火力魔法を魔王の一点に標的を定める。

 

 対して魔王はその魔法を喰らってもほんの少しよろめいただけだ。

 

 ----だが、それを僕は見逃さない。

 

 僕は自身の使える最大技、『雷神剣』を放つ。

 これは雷属性ダメージを剣に付与し、結界の貼ってない国なら一振りで焦土と化すレベルの威力。

 

 しかし、疑問に思う者もいるだろう。

 ----なぜ、最初からその技を使わないのか?と。

 答えは単純だ。

 この技は『魂』を消費するので、確実に魔王を仕留めることができると判断するまで使えない。

 なので、初めてこれだけの威力で『雷神剣』を放つ。『魂』を喰らう技なので練習ができない。威力を極限まで抑えて練習したことはある。しかし、この『雷神剣』は威力がその時よりも何千倍も高かった。

 

 しかし、タカトは『雷神剣』を制御し、魔王に斬りかかる。

 魔王はまだ倒れない。

 

 タカトは自身の魂を限界まで消費し、『雷神剣』を放つ。

 そして魔王は致命傷を負った。

 

「勇者よ、お前は絶対、我を倒したことを後悔するだろう!」

 

 魔王はそう叫びながら、死んだ。

 僕はその魔王の捨て台詞をただのつまらない世迷い言だと思った。

 

 魔王が完全に死んだ後、一際光るものを見つけた。

 ----それは魔力結晶だった。

 しかも、

「第零級の魔力結晶か・・・いや、マイナス一級の魔力結晶に見える。」

 

 第一級の魔力結晶よりも巨大な魔力結晶など神話の時代でもほとんど存在しない。

 僕が異世界から召喚されるときに使用された魔力結晶も第三級の魔力結晶だった。

 

 魔力結晶は階級が一変わるごとに、含有する魔力量が八倍変わる。

 即ち、この魔力結晶は勇者召喚された時の魔力の4000倍が溜まってる魔力結晶である、ということだ。

 

「この魔力量があったらタカト様を送り返すことができますね。」

 

 とベルが言った。

 異世界からこちらに何か召喚する時より、この世界から異世界へ何かを送り返す時の魔力量が何百倍も大きい。

 それ故、魔王を倒してもそれだけの魔力量が獲得できるか心配だった。

 その心配もなくなった。

 

「ベル、早く送還させてください。タカト様の魂が大きく摩滅していて、今にでも死にそうな状態です。」

 

 とアルテイシアルが言った。

 実際、僕は苦しかったし、周りからも苦しそうに見えた。

 

「僕はなるべくなら国に帰るまで一緒に行きたいんだけど・・・無理みたいだね。ベル、よろしく。」

 

 と僕は頼む。

 そしてベルとアルテイシアル、アスカが三人で詠唱をする。

 詠唱分担だ。効率は良くないが、できるだけ早く魔法を発動させたい時には詠唱分担を行う。

 3分ほど詠唱して、あのマイナス一級の魔力結晶が光り出した。

 

 僕は元の世界へ戻った。

 

 

 懐かしい景色。

 紛れもなく、それは東京湾だった。

 後ろには高層ビルの立ち並ぶ東京都があった。

 あの世界にいたからだろうか、視力が格段に良くなっている。10倍ぐらい・・・いや、それ以上視力が良くなってるはずだ。

 

 そこで、僕はは心の中で叫んだ。

 

(なんで僕の体がアルテイシアルになってるんだ・・・!)


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