BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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 六番手に控える食べ隊のメンツは、楽屋でやたらとリラックスをしていた。パスパレの麻弥が出番を終え、その次に出演。衣装直しで楽屋に戻ってきて、服をジーンズとTシャツに着替えるまで、およそ10分。グリグリの次が、彼らのステージである。

 

 各バンドのセットリストがかなり面白いとヒビキは思っていた。特にカバー曲が注目すべきところで、Pastel*Palletsの"Moon Pride"、Poppin'Partyで"恋のマジックポーション"、"ハロー、ハッピーワールド"が"ロメオ"と、ポピパが少し異色だがまだ納得できる。しかし、問題はロゼリアだ。

 

「"In The Mirror"と"Kiss of Death"って、ガチガチのメタルだよなぁ……」

「やりたいって言ったのは氷川さんと今井さんなんです。あこちゃんは聞いたことあるって言ってて、最初から普通に叩けてるし……」

「りんりんはどうだったの?」

「コードを弾くだけでいいかなって。少しだけスケールなぞるくらいです」

 

 LoudnessとDokkenを知っている客が果たして現れるだろうか?この前のRoseliaSで、新規層のメタラーをファンとして得たのは知っているが、選曲が渋すぎる。いい曲ではあるが。

 

 Glitter*Greenのセトリにはカバー曲がない、ように見えた。しかしながら、アンコール曲までは書いていない。ここでアンコールを求められるようなら、なにを演るのか。少しだけ気になっている。

 

 会場が轟音を上げた。期待通りのアンコールだろうか。様子を見に外に出ていくヒビキは、ステージ上からゆりに指を差され、一斉に観客がそちらに向き出す。

 

「ほらね、出てきたでしょ?本日のスペシャルゲスト、六角ヒビキさん!」

「いや、次出るしスペシャルでもなんでもない……」

「ヒビキ先生!早く早く!」

 

 観客にもみくちゃにされ、ステージ上へ投げられた。うおっ、と白いTシャツ姿で受け身を取って立ち上がると、七菜が申し訳ないという顔をし、リィが蘭から頼まれていたように、ワインレッドのレスポールカスタムを持ってきた。

 

 ――弾けというのか、その大物を。ならば期待に答えよう。

 

 ストラップを下げ、チューニングを合わせる。Eでよかったか、と七菜に確認しながら、キーボードの音に合わせる。久々にこのギターを手にするな、とヒビキはぼやいた。蘭にこのギターを紹介した覚えはあるが、弾いた記憶はあまりない。Dをかき鳴らせば、元気の良い音がFryetteからつんざくように聞こえた。

 

「それで?演るのはなにさ」

「ナナちゃーん」

 

 イントロはどうやらキーボードらしい。そして1秒後にヒビキはなるほどと呟いた。この曲ならリハなどをしなくても余裕で弾ける。

 

 ゆりは、マイクをヒビキに譲った。自分のバンドなんだから、とヒビキは言って譲り返す。なら二人でデュエットしよう、と言って、一本のマイクに二人が向かって一斉に歌い出す。

 

「一人では遠い明日を……」

「夜明けのままで超えそうで……」

 

 伸びのある声、そして太い音。ロックとはこういうものだと体言する二人。中々戻ってこないヒビキの様子を見に来た麻弥は、その光景を微笑ましく思った。

 

 

 

 

 よいせ、とスローンに麻弥が腰掛けた。新調した細めのヒッコリー材のスティックを3セット、後ろにケースに入れたまま置き、チューニングをする。明るめの音、そして軽い音を狙う。

 

 りみが香澄から借りたウルフガング、クリーンは壊滅的にダメかと思っていたが、意外にそんなことはない。そして、これまた香澄がジャンク同然で3万円で買い、ヒビキに直してもらったランドールに直結で繋げば、やはりというかゴキゲンなブラウンサウンドがスピーカーから飛び出した。

 

「チョッココ〜ロネ〜!」

「食べ、たい!」

 

 ヒビキとこころが跳んだ。空中でポーズを取る二人、ヒビキのジャガーの2弦を指で弾いて、こころは着地した。アームで音を持続させながらアンプに振り返れば、フィードバックが大きく唸る。2弦は3Fの真上に軽く触れながらピッキングをすると、甲高く倍音が鳴り響いた。

 

 オープニングナンバーとして選ばれたのは、ポピパの曲をヒビキが編曲した、"私の心はチョココロネ"。こころの声に合うように、更にポップに改変した。テクニカルな部分は一切なく、りみの手伝いになるようにギターのリズムを作り出す。

 

 まりなと麻弥の息はぴったりで、ほんわかした中に更に燐子のキーボードが有咲のフレーズにメイプルシロップを振り撒いていく。その横にりみが立って、ニコニコしながらコードを掻き鳴らした。

 

 べったりとこころとヒビキはくっつく。マイクをスタンドから取って、ヒビキに肩車をしてもらいながらの歌唱。190センチ近い背から見る世界はやはり色々と見渡せた。そんな中でもヒビキは正確無比ながらもオリジナリティ溢れるギターを奏でる。

 

「どんどん行くよぉ!"テスラ・ファラデー・ウェーバー"!」

 

 

 三曲ほど演奏してから、MCという名の休憩タイムに入る。ここでりみがまりなにギターを渡した。袖にはりみのベースを持ってきてくれた沙綾がいて、ありがとうとお礼をいい、愛機を引っ提げた。

 

 更には彼女は水を持って来てくれたようで、遠慮なくステージに入れば皆に水を渡した。りみとヒビキにはチョココロネも加えて。ここで食べろ、というのであろうか。こころはマイクを握りながら沙綾に振った。

 

「沙綾、このコロネはいつ食べてほしいのかしら?」

「もちろん、今!」

「ということで!二人共、パクパクっと食べちゃえ!」

 

 ふふふ、と笑いながら、ヒビキとりみは近くに寄ってそれを食べ始める。それが合図であったのだろうか、麻弥はミッドテンポのビートを刻みだした。そこに加わるヒビキとりみの掛合。アームを握り、りみのハーモニクスをギターで拾い、アームアップをした。

 

 また、そこでコードを抑えながらアームでビブラートをかける。ゆったりとした感覚でのそれは、聞いている人ならすぐにわかった。なるほどこれが、とオーディエンスの中にいるたえと、楽屋の友希那たちが頷く。

 

「Def Leppard!Animal!!」

 

 そのままりみと背中合わせになり、ぎゅいぎゅいと歪んだ音をまりな(・・・)から弾き出す。対照的に、ヒビキはオクターヴァーとコーラスエフェクトをかけて、クリーントーンで幻惑的な音を紡ぎ出す。みんな笑顔で、その横で燐子に絡みだしたヒビキは、ギターのヘッドでキーを叩いていく。リズムを崩さずかつコード進行に則ってのキーボードの単音弾きをする。これくらいならば誰でもできるだろう。しかし、これだけで観衆を沸かすことなどはなかなか出来はしない。これは、こころたちのおかげもあるのだろう。

 

 よくやっている、と燐子を撫でた。ふふふと彼女は微笑む。チョココロネのかじっていない部分をちぎり、燐子差し出せば、彼女はそれに応えてぱくりと口に入れた。同じように、りみも麻弥にチョココロネをちぎって渡した。

 

 ポッキーゲームよろしく、向かい側からこころがヒビキのコロネにぱくつく。続いてまりなもそこに加わり、ついにはりみまでそれを横取りする。ヒビキの口がフリーになり、マイクをこころから譲られれば、ヒビキはボーカルを迷いなく取った。

 

「I gotta feel it in my blood, whoa oh!!」

 

 紗夜ならば、声がよく伸びているというだろう。それくらい魅力的で気持ちのいい声。そうだ、これがヒビキの歌だ。ヘヴィメタルの歪んだ声も素敵だが、この透き通ったハイトーンが彼の持ち味。真聖飢のときでも、わずかながらクリーンな声を披露していた。ストレスの全くかからない、ガラスのように透明で純粋なその音は、この曲にとても合っている。

 

 ――この声に惚れたのは、いつごろだったかしら。

 

 楽屋まで聞こえてくるその声。友希那は目を閉じながら、その癒やしの歌声に心を委ねていた、隣でそれを見ていたリサも、心に届いてくるその歌を感じる。そして二人で口ずさみだす。その歌の続きを、そしてこれからの未来を応援するかのような、ヒビキのそのハートを。

 

 彼に関わる皆が、それぞれの未来に希望を持って、自分の道を歩きだしている。それは音楽に留まらない。広い意味での未来だ。ある者は恋に、そしてある者は夢に。まだ10代半ばの彼女らにそれが伝わってきているということ、それをやれるヒビキの技量、もしくは心。音楽とはこうあるべき、とまるで訴えかけているかのよう。

 

「未来の行末って?サイコロみたい!イタズラしちゃって、いろんなところへ!」

 

 シメのイタズラダイスのサビがまた聞こえてきた。皆の将来はまだまだわからない。そのナビゲーターとして、この曲をヒビキは作ったそうだ。その意図は、聞いている皆に理解を得られていた。


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