BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!! 作:パン粉
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大暴れをしてから、今度はまた"KNOT KNOCK"というSlipknotのコピーバンドでの出演を狙うヒビキ、しかしその前にガルパの練習をまりなと一緒にする。シフトが終わってからスタジオでまりなとウォームアップをしだした。彼女のエピフォンのエクスプローラーのベースはかなりボロボロになっていて、ピックの傷が特に目立つ。深めにかつ強めにピッキングをするものだから、ゴリゴリした音が目立つ。この音のまま速いパッセージも弾きこなすのだから大した物だ。
そんなにうまかったのか、とヒビキは舌を巻く。ウォーキングのベースラインの上でAホールトーンを弾く。このスケールアウトした感覚はジャズっぽく聞こえて、手癖と知ってはいるもののその使い所をうまく見つけて入れていく彼が羨ましい。展開してBのオルタード7thをハネたテンポで爪弾いて見せて、GmM7-13thなる複雑怪奇なコードを弾くとますますジャズ要素が増してきた。いい感じになってきたときに、りみや麻弥が来て、ポップな曲でこのバンドをやろうということになった。
「曲作る?」
「私、イタズラダイスやりたいな~」
「あれ難しいですよ?ジブンもややこしいって思ってますし」
しかしながらも、麻弥は練習していたようである。さすがはスタジオミュージシャンといったところか、土台はしっかりしている。そしてそこにビートを乗せるまりなも素晴らしい。コードをりみと燐子は弾いていて、メインメロディはヒビキが、そしてこころがヒビキ謹製の歌メロを歌い出す。
難易度のことなど心配する必要はなかったみたいだ。そして、やはりりみはギターは無難に弾けている。ヒビキが昔使っていたスクワイアの改造したジャガーを使ってもらっていて、ウィルキンソンのトレモロとHSSHという異色なピックアップ構成に戸惑っていたが、馴れてきてはピックアップをチャカチャカとイジり倒していて、テクニカルな奏法が売りのように見えてくる。
使い方を教えて下さい、とりみに頼み込まれてそれを取る。久々に握った、色あせたメイプルのネックとローズウッドの指板。かなり無茶をした改造で、スキャロップされたネックにもりみは戸惑っていたが力を抜くということをすれば軽いタッチで弾けることに途中で気付き、それの手本としてヒビキは華麗に速弾きをしてみせる。
「玄人向きのギターだよねぇ」
「はい……」
「わざと渡したの。りみりんはどういうふうに弾けるかなって」
「素敵な演奏だったわ。テンポがあっちこっちに変わっていくけど、ハネて歌えて楽しいの!」
今度はギターを変えてみよう、とヒビキのKG-FACISTを渡されたりみは、まずはアンプをクランチにしてジャキジャキとコードをカッティングしてみせた。そしてボリュームノブをいじると、何か違和感を感じて、試しにノブを引っ張ってみる。にょきっと上に伸びて、そしてそこで弾いてみれば、シングルコイルピックアップのような高域が鳴る音に変わった。
タップスイッチを兼ねていたのか。なら、と変拍子に対応するリズム感を備えているりみは、もう一回通してみていいか、と進言するとみんな賛同した。
そうしてもう一度、すると世界はがらっと変わる。チャカチャカっとハネた音に、更なるチャーミングなトーンが加わった。このギターにもダイナバイトが載せてあって、モダンピックアップに比べるとローパワーである分ニュアンスが作りやすい。くいっとピックを傾けて順アングルでカッティングしてみれば、尚更エッジが立って聞きやすくなった。それに呼応するかのように、ヒビキのギターはゴキゲンに歌い、こころの笑顔も大きくなる。
ロゼリアよりもかなり明るい印象、こんなバンドを燐子はやってみたかったので、今回のこの誘いはかなり嬉しいものがあった。もちろん真聖飢も楽しかったが、ほとんどロゼリアと変わらないメンツであったし、やっているジャンルがHR/HMであることもまた近親感を感じていた。それも悪くないが、今はどうだろう?ファンクやプログレッシブの味はありつつも、ポップな感覚の曲を演奏している。それがまた新鮮で、この経験を燐子は消火していった。
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「燐子」
「はい。どうかしましたか?」
「そのフレーズ、もう一回やってくれないかしら」
後日、ロゼリアでの練習中。バラードのような曲調の『陽だまりロードナイト』で、アドリブでキーボードのフレーズを変えてみた燐子に気づいた友希那は、楽器隊だけで間奏をもう一度演奏してもらった。ニコニコしながら燐子は黒鍵と白鍵を織り交ぜていく。アドリブであるから、細々と先ほどとは違う音使いをするものの、クラシックにポップ要素を取り入れたようなフレーズがやけに四人の耳に残る。あこが聞きながら楽しめているのがその証拠だ。ドラムの音はそれに合わせるように軽くなり、この曲がさらに洗練されていく様子を目の当たりにした紗夜は、このバンドの全力はやはり頂点を作ることなのだと再実感する。
「すごいよりんりーん!やっぱりヒビ兄のおかげ?」
「それもあると思うけど、最近いろいろな人達と色んな曲をやっていたから、それのおかげだと思うな」
「それは確実にあるね!燐子はそれに加えて頑張り屋さんだからなぁ」
「でも、ヒビキさんの影がこのバンドから消えないのはどうしてでしょう」
「消さなくて良いんじゃないかしら、紗夜。あの人だって、ロゼリアの一員なのだから」
誰かの影響を受け、それを全面に出す。それはオリジナリティが無いのでは、と紗夜は危惧した。しかし、彼女自身がヒビキのプレイを少しパクっているし、彼のよくやるステージアクションも時々取り入れている。要するに、オリジナリティとはどうやって自分の色を他人のやることに混ぜていくかということなのだろう。現代では特にそれが顕著だ。勿論、ゼロから自分で作り上げるということが一番なのであるが。
「っちゅん!」
「ヒビキさん、風邪ですか?」
「うーん、これは恐らく噂だね」
その注目の人間は羽沢珈琲店でエスプレッソとパウンドケーキを食べていた。カウンターでの出来事で、店の手伝いをしているつぐみが、病気知らずの彼を不思議に思ったが、その理由はかなり納得できるものであった。やまぶきベーカリーでの手伝いが終わってから、いつもの風景を眺めつつここで美味しいコーヒーを飲み一息つく、というのが習慣であったのだが、あまり最近は来れていなかった。幼馴染の溜まり場になっていたその店、もちろんひまりやモカたちは今日も集結している。
これでいいかな、とひまりはヒビキにノートを見せた。勉強中であったようで、物理の課題をしていてはヒビキに見てもらっている。その羅列した文字や数式を見ては、ここまでやる必要はあるのかな、と内心疑問に思いつつも、高校の教育課程ではやらない偏微分や行列などを使って教えてやっていたので、やたらと文字数が多い。おそらく学校の先生は困るだろうなと思いながら、花丸を指で描いてやった。
ちりりん、とドアが開く。いらっしゃいませ、と言った相手は沙綾で、モカの隣に彼女は座った。花柄のスカートをゆらゆらと振りながら。お疲れ様とヒビキと声を交わしてからココアを一杯頼んだ。
「いつもありがとうございます、ヒビキさん」
「ええんやで、頼れ頼れー」
「へへへ、そういうこと言うから女の子が惚れちゃうんですよ?」
「じゃあツグに言ったら惚れるのかな?」
「モカちゃん、どうして恋敵を増やすのかなぁ?」
「増えそうにないんだけどねー」
ふざけた会話だ。じゃあ試しに、とつぐみにヒビキが言うも、笑顔でありがとうございますと返されただけ。惚れるまでにはいかないのは安心する。ゆっくりとココアを注いで沙綾に出せば、律儀な彼女はしっかりお礼をした。
そうだ、と彼女は紙袋を出す。少しだけ照りの強いパンが中にあり、お店で出せない所謂廃棄のものらしい。味は変わらないから食べて、と言われて、4人はニコニコしながらティータイムを楽しむ。そこにまた二人、巴と蘭が来て、カウンター席を占領した。巴たちにもパンを上げて、一層優雅になる。
「そういや再来週だな、ガルパ」
「だね。楽しみだな、Afterglowのステージ」
「ポピパにも期待してるよ。あたしらとはまた違うロックをやってくれるって」
「任せといて!」
楽しそうだな、とヒビキは笑った。こんなにも楽しみにしてくれる人が居るのは嬉しい。ヒビキ、と蘭が声をかけると彼はそちらに振り向いた。
「アンタも演るんでしょ?」
「演るよ。外行く前の気合入れライブだ」
「え?外?」
「来月の頭から二週間くらい、アメリカでレコとライブやるんだよ」
「マジか……スケールが違うなやっぱ」
「Gravity Masterにも出るし」
映像媒体が出回る規模のライブ、どちらかというとフェスに近い。Roseliaが目指しているFuture World Fes.より遥かに大きなライブだ。新たに導入する機材などもあるらしく、それ自体を少し確認したくなる。
そろそろ帰るか、とヒビキは行って、またなとみんなに声を掛けた。彼の姿が見えなくなった時に、6人は喋りだす。
「どんどん遠い人になっちゃってるなぁ」
「そうか?確かに立場的には、ヒビ兄は私達より遥か彼方にいるけど」
「ヒビキはいつもアタシたちの隣にいるよ。ひまり、惚れたんならそういうこと言っちゃだめでしょ」