BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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ちょっとした息抜き回です。
楽器はあんまり関係ないかも……


Chapter.5 -熱演女子学生(セーラー服)-
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 オープニングライブを終えてからも、各バンドは練習を怠らなかった。そんな中でパスパレの事務所へヒビキはレッスンに行くと、そこの社長から話を持ちかけられる。

 

「え?私が映画に……ですか?」

 

 ヒビキの方に映画の出演の話が上がったそうで、事務所がここだと勘違いしたらしく、こちらに電話が来たとのこと。ヒビキは仕事用のメールアドレスを公表しているし、チェックもこまめにしているのだが、そんな話は一切来なかった。音楽は経験豊富なのだが、芝居については何も知らない。断るか受けるべきか迷うものの、得られるものはあるだろうと思ってヒビキは承諾した。

 

 パーカーを脱いでタンクトップ姿でスタジオに入れば、いつもの練習着で待ってくれていたパスパレが迎えてくれる。この前はありがとう、とオープニングライブのお礼を言ってからの練習に臨んだ。ライブの曲構成や、それに連なる作曲のネタ作りなどが最近の練習メニューで、このアイドル達は自ら作曲をやってみたいというハングリー精神さを持ち合わせている。才能豊かであり、自分の責任をしっかり果たすという点では今の子らしくない。ゆとり世代と言われた自分達のほうがもっと甘ったれていたかもしれないが、ヒビキはゆとりと言われることに反発し、なんでも自分でなるべく考え、積極的に行動し、使えるものはなんでも最大限使う生き方をしてきた。「若者はネットに頼る」と耳にタコができるくらい聞いた文句にさえ言い返してしまう彼は、「逆にネットを使えない世代は情報収集の最初の時点で遅れを取っている」と万人が一定の理解を示すであろう答えを提示した。情報は大量に集めてから吟味していくものだ。ネットを使って情報やそれが乗っている文献を探して、自分の言葉でまとめる。それまでやるなら誰も文句は言わない。問題なのは、調べて終わり、という行為なのだ。

 

 練習が終わってから上がる前、千聖に声をかける。もちろん、先程受けた映画の話だ。天才子役としてその名を有名にした彼女に演技のイロハを聞こう。そうして見るが、千聖からも意外な話が飛び出す。

 

「その映画、私も出る事になっていて」

「お、そうなの?つーことは、共演できちゃうのね」

「はい。それで、ヒビキさんと私は……主演なんです」

 

 隠されていた決定事項。ヒビキの口が開いたまま塞がらなかった。

 

 

「映画ねぇ。ってことは、恋愛モノならヒビキさんと千聖ちゃんがちゅーするの?」

「台本まだ貰ってないからわかんにゃい。絶対大根役者だ俺……」

「多分にんじんしりしりにはなるんじゃないかな。なんかその映画、るんって来そうだし」

 

 いつものファーストフード店で、彩のシフトついでに日菜とヒビキは向かい合って座っていた。この前唇を重ねた仲、しかしその後日菜はリサにもキスをしていた。恋愛対象は女の子も含まれるということだろうか、おそらくからかいのほうが強いと思う。チョコバナナシェイクを喉に通したあとに、ヒビキは先程買ったお芝居の指南書を開くが、そんなん当てにならないよと言われて、カバンに大人しくしまった。収録は5日後から始まるらしく、短編映画なのですぐに撮り終わるそうだ。

 

 悩ましい。頭を抱えていると、はぐみと紫色の髪をした長身の女性が入ってくる。あの娘演劇部だよ、と日菜が言い、あちらが気づいてくれれば、ヒビキは財布を持って脱兎のごとく近づいた。

 

「ミスター、ご機嫌麗しゅう。どうしたんだい?」

「薫ちゃん……お芝居教えて」

「え?」

「ヒビキさんが、お芝居?」

 

 訳は後で話す、と言って、前金として彼女たちのものを奢り出す。そんなことしなくても、と薫は制していたが、すぐ後に来た蘭とモカがヒビキの樋口一葉を誘拐していき、ハンバーガージェンガが組めるほどの量を袋に入れて店の邪魔にならないようにヒビキ宅に移動していった。作り置きしていたようである程度はすぐに出てきたのだが、残りを3分程待って受け取る。ごめんなさいとヒビキはかなり申し訳なさそうにして、彩に蘭と一緒に頭を下げた。

 

 薫と日菜がこのマンションに足を踏み入れるのは初めてで、特に日菜は道を覚えてしまったためにいつでも来てやろうという顔をしている。一人暮らしにはかなり大きい一室、くじ運だけは良いんだというヒビキの言葉で経緯を理解した。膨大な理系の書籍ははぐみにはいつ見ても頭痛を引き起こしそうになる。そんな中から一冊抜き取ったのは『天衣無縫!エレキギター精錬のすゝめ』。蘭はペラペラとそれを捲り出してすぐにモカに渡し、モカがおお〜と言って日菜に回して、中身を見ずに薫に手渡した。新しい教則本らしく、これは出版社から送られてきたロットナンバー0のものらしい。ほとんど初心者の薫には喉が出るほど欲しいはずで、あげるよとヒビキが言うと彼女はありがとうと礼をした。そして本題、と言って、リビングで飲み物を出してから、まるで執事のような格好の薫に事を話しだした。

 

 ふむふむ、と真剣に聞いている薫の隣で蘭とモカはえっと驚いた。そして蘭は指を指して笑い出す。お前が役者をやるのかと。

 

「演劇部だって聞いたからさ、なにか教えてくれないかなぁって」

「なるほど。ちなみに、その映画のジャンルは?」

「何も聞かされてない。メール送ってって言ったから、来てるとは思うけど。――あ、恋愛かよ……」

「ほう……。主役がミスターと千聖……となると、接吻までもあるはず」

「かねぇ……」

 

 むっとしたのはモカで、蘭ははぐみと一緒にヒビキをネタにする。日菜はぽけーっとその部屋の本を読み漁っていた。マクスウェル方程式やらなにやらを暗記しながら。

 

 ぴろりん、と千聖からJINE(ジャイン)にメッセージが入った。今からこちらに来るとのことで、お客様を迎えるための準備を改めてしてから5分後、薫に怪訝そうな眼をしながらも彼女が礼節正しく上がる。そういえば彼女もはじめてこの部屋に入ることになるのだった。壁に掛かっているギターやベースの数に圧倒され、無造作に置かれたゴールドディスクの扱いに少しだけヒビキらしさを感じながら、今回のお芝居について語る。

 

「ヒビキさんの役柄なんですが」

「うん。千聖ちゃんのお相手でしょう?」

「はい。それで……性別が女の子に」

「は?……は?」

「それで、私が男性役なんです」

「なんということだ、華と剣が入れ替わっているとは……!」

「ヒビキ、アンタの日頃のコスプレがこれを招いたんだよ」

 

 蘭の言うことが的確に現実を示していた。メールをもう一通見てみれば台本と役柄の説明もあって、髪の毛がピンクに染まっている。ウイッグでどうにかならないかな、と思ったが、今の長さからすると染めるしかあるまい。せっかく毛先染めをしたのに、全部ピンクにしなければと思うと勿体無いが、やるしかない。対する千聖はこの髪型、髪色でいいとのこと。また、千聖はブレザーでヒビキはセーラー服だそうだ。

 

 クッションに顔を埋めるヒビキ、モカは先程の釣り上げた眉を一気に下げて笑い、ヒビキのクッションを取って自分の太腿の間に顔を置かせた。なにをしてるんだと蘭から突っ込まれるものの、あたしだけの特権と言って離さない。日菜はそれに悪乗りして、ソファの背もたれを倒してヒビキに寄り添うように寝転がった。

 

「コスプレイヤーだったとは初耳だが……面白くなりそうだ」

「薫もしてみたら?ヒビキさんの衣装はたくさんあるって言ってたし」

「騎士のような服を着てみたい。ミスター、借りていいですか?」

「待て待て待て!まずはセーラー服を探せ!」

「ヒビキさん、壊れちゃったの!?」


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