BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

41 / 63
11

 

 愛弟子のパスパレがその出番を終えて、グリグリの不思議な空間に誘われ、ポピパがキラキラドキドキさせてくれた会場。香澄は観衆の中にヒビキが混ざっていたことに気付いていて、手を彼に向けて振りつつ、左手のフィンガリングだけで音を鳴らしてボーカルを止めない。女の子の様な顔の彼だからかなり目立つし、サイリウムを軽やかに振り回していたからすぐにわかった。指の間に五人のイメージカラーのサイリウムを挟んでいて、カラフルなウェーブを作り出してくれた。あの衣装でこのオタ芸のようなことを打つギャップはお祭り好きのヒビキだからなのだろう。その近くではこころや薫もサイリウムをブンブン振りまくっている。それで機嫌を良くした香澄は、ギターソロのときにたえにアイコンタクトを送ると自分がこのソロを弾くことにした。

 

 師匠の教えに忠実に。ステージワークは何も教わっていないが、ヒビキの真似をしてしまえば良い。長めのシールドを使っていることを応用して、ステージ際の柵まで前に出てそれに足を乗せ、ランダムスターのボディエンド側を太ももに載せて、ネックを立てて弾き始める。中級者への階段を登りつつある彼女が覚えたスケールは、フリジアンスケール。ポピパ謹製のティアドロップス、そのギターソロをアレンジして、Fフリジアンをボックスの形を崩さずに速弾きしていく。そのパフォーマンスが観衆を大喜びさせるには充分なものではあった。相方のたえさえ驚きを隠せない。繰り返して短めなフレーズを弾くRUN奏法で繋いでからたえに譲れば、ギターソロの時間を延長してくれるバッキング。泣きのギターを見せつけながら、段々ジェイク・E・リー化してきた彼女は3弦10Fから17Fまでのワイドストレッチをその小さな手でこなしていく。どうだ、とドヤ顔をして見せれば、同年代の女子から轟音と形容するに相応しい歓声を受けた。

 

 それをウインクでヒビキは褒めてから、楽屋へと入る。Roseliaメンバーは既に準備万端のようだ。他の子達とは違い、ヒビキは前を少しだけはだけさせ、へそを出している。その着こなしを燐子は狙っていたようで、先程イメージを話した時にこういう格好にしてくれたのだ。割れた腹筋、鰐革のストラップをつけたSkervesenを手に握る。幕間の時間に自作のギター"クロちゃん"と、Diezel Hagen、そして3Uのラックシステムをセッティングしてもらう手筈になっている。ステージから降りたポピパが楽屋にやってきては、Roseliaの皆が出迎えた。

 

「貴方達、急成長したわね。特に戸山さん、あなたのパフォーマンスが一番光っていたわ」

「ありがとうございます、でも友希那先輩にはまだまだ敵わないですよ!」

「皆うまいよねー。うかうかしてられないなぁ、ウチら」

「そうですね。どのパートもクオリティは高くて……」

「えへへ……♪練習たくさんしましたから!」

「そうそう、りみりんずっとスリーフィンガー練習してたし。一番やりこんでたのは香澄で、その次は……?」

「有咲だね。めんどくさがりとか言っときながら、ヒビキさんの教則本何周もしてたし」

「効率いいからな、あれ。白金さんもそう思いません?」

「はい。あれはとっても……」

「あこも見たけど、凄くわかりやすかったです!流石ヒビ兄!」

 

 女の子が語り合うところを、ソファに座ってニコニコと笑い見守る。食べ終わったキシリトールガムのボトルから、デルリンのピックを手に取りチューニングをもう一度確かめれば、Shureのワイヤレスシステムを突き刺した。専用のホルダーをストラップに着け、そこに送信機を入れてギターを下げる。いつもより高めのギター、位置は腰辺りで、そこがベストなポジションらしい。ゴキゴキと指を鳴らせば、ヒビキは立ち上がってから邪魔にならないようにギターを持ち、ポピパの皆に声をかけた。

 

「さんきゅ。オープニングライブ、最高に面白くなってるぜ。頑張ってくれてありがとな、皆」

「そんな、勿体無い言葉です!それに、最高なのは今から始まるんでしょ?」

「香澄の言うとおり。期待してますからね、ヒビキさん」

「任せなさいな、おたえちゃん」

 

 楽屋から6人が出る。皆の胸元には黒い羽根、そしてヒビキが配ったGoGのリストバンド。6人が腕を組み合って、結束を違う。友希那が音頭を取るのか、と思ったがヒビキにそれを譲った。言葉に甘えて、彼がそれを務める。

 

「そんじゃ……。Roselia、準備はいいか?」

「違うよヒビ兄?」

「Roselia"S"です。ヒビキさんも一員なんですから。一緒に天井を壊しましょうか」

 

 信頼の眼差しを友希那とリサがヒビキに向けた。それに続いたあこ、燐子、紗夜。ヒビキはそれを受け、そうだったととぼける。そして少しだけ眼を瞑り、カッと見開く。昨日の魔神の眼が現れた。

 

 轟々と燃え盛る黒い炎。行くぞ、とヒビキが合図をすれば、おうと合わせて答えてくれた。先にヒビキが袖からステージに向かい、メモの紙切れを見ながらアンプを弄っていく。万事準備が整うと、各人定位置についてから幕が上がりだす。それまでざわめいていた会場が一気に静まり、あこのハイハットの合図から燐子が"BLACK:SHOUT"のイントロを弾き出す。クラシカルな雰囲気、バロック調のアレンジを入れて、友希那のボーカルが情熱を持って入り出した。

 

「暗い夜も――」

「Fightin'!」

「怯えずに今――」

「Smilin'!」

 

 皆のコーラスが静寂の中に通る。フードを被ったヒビキも、声のボリュームを抑えて歌っている。友希那のすぐ後ろでギターを構え俯きながら。ちらっと友希那が後ろを向けば、眼を合わせて口角を上げた。それに彼女も微笑みで答える。孤高の歌姫とはもう遥かに遠くなってしまった。

 

 ――私達はここに今生きている。

 

 渇望を現実にして。楽器隊が入りを壮大に彩った。弾きながらヒビキは友希那の隣へ立ち、頭を三度、思い切り振った。

 

 ドロップDとした6弦を刻む紗夜。打って変わって大声援が巻き起こる。ネックを揺らして音程を上げれば、あことリサが曲を燃やし出す。激しく揺らすビート、ハンマーのような重さのドラムに負けないベースが完全に世界のはじまりを告げ、そこに秩序を作り出すのは燐子のキーボード。新たなる知恵を紗夜が産み出しては、ヒビキがそれを洗練させて、友希那の声で形を魅せる。"蒼き薔薇"の本性は、鋭く刺さる棘と対比して、妖しく彩られて輝く花弁にある。

 

「六角ヒビキだ……」

「あの眼差し、ガチだ!あの頃の鋭さが戻ってきた‼」

 

 観客の中にはヒビキのファンもいる。男子禁制を無くしたので、男性と女性が1対1で存在しているのだ。サビのコードを紗夜が弾いていて、その進行に合うようにメロディを紡ぎ出す。その芸当はベテランと言っても差し支えないような、そんな貫禄を見せる。その中で、友希那はヒビキにマイクを近付けて、顔を隣り合わせにしてサビをハモった。

 

 

 ――これが、魂の叫び。

 

 観客として改めてRoseliaSの演奏を聞いて、それまでのバンドが愕然とした。演奏の腕も確か、しかしそれ以上の"情熱"が、人々を揺り動かす。バンドの音を掻き消すがごとく曲に影響されるリスナー、しかしそれを許さない6人の存在感。誰一人として埋没せず、互いを引き出し合って魅了する腕。個々人が出しゃばることはない。自己主張だけで目立つならソロプロジェクトだけでよい。曲のメリハリは非常に精密に、しかし機械っぽさは全く感じられない。いままでのバンドとは違って笑顔はあまりないが、雰囲気はとても良くて真剣さが更に際立った。

 

 この人達の感情がとても伝わってくる。こういうバンドをヒビキはやりたかったのかもしれない。強く強く、想いが乗ってくれるバンドを。Damnation of Phyrosophyが逆だったことは決してないが、ビジネスを持ち込んできて楽しくなくなることはよくある。それが友希那の父親のバンドであったから。その当人が今、会場に来ていた。愛娘の成長を喜ぶあまりに顔に出て、微笑みを浮かべてそれを聞いている。存在に気づいた友希那は、もっと自分たちの音楽を聞いてもらおうとして、尚一層張り切った。それに呼応して楽器隊も気張る。ニコッとヒビキは彼に挨拶代わりの笑顔を振りまいた。

 

 ちょうど演奏していた父親の曲。終わりのフレーズを軽々とやりきれば、友希那のMCが入った。

 

「皆、聞いてくれてありがとう。大切な人が作った今の曲、これを親愛なる父に捧げます。……そこにいる、ね」

「友希那……。こちらこそ、ありがとう」

 

 父親を手で指し示した。皆がそちらを振り向けば、親娘二人で短くも愛の溢れた会話を躱す。その間に、弦楽器を持ち替えた。紗夜のIbanez、リサのSpectorは既に準備完了。一音下げにセットしている。そしてヒビキは、クロちゃんとSkervesenを持って消えていた。どこへ行ったの、と探す観客、そこでふふっと友希那は笑う。すると、キャビネットから分厚い音が突き抜けてきた。

 

 観客席の後ろから、ジャケットを脱いで現れたヒビキは、筋肉質な身体を見せつけ、白と黒のサークルペイントを施したレスポールカスタムを股間あたりに下げていた。軽く助走をつけて、空中へひねりながら飛んでステージに戻る。EMGの85と81を載せたそのギターはザック・ワイルドというギタリストのモデルと瓜二つだ。これから暴れだすつもりの曲は少しだけ古めかしく、しかしヒビキがどうしてもやりたいとワガママを言って練習した曲。難易度的に大したことはないが、耳に残るパワフルなチューン。Roseliaのメンバーはこれをやることには全く異議を唱えなかった。

 

「私達は奇跡に頼らない。実力で、この手でホンモノを掴む、だからこそ私達は"奇跡"を産み出してみせる!Ozzy Osbourne‼"Miracle Man"!!」

 

 曲紹介は一瞬。とある伝道師が他の宗教やら何やらをこてんぱんに貶し続けた結果、その本人が逮捕されるというスキャンダルを皮肉った曲だ。先程の流麗な動きとは打って変わって、柵に乗って仁王立ちでギターを構える。特徴的なリフを弾き出し、2回目のそれが終わると同時に他の楽器隊が勢い良く暴れ出した。紗夜は思い切りネックを握る腕を振り下ろし、リサが回りながら飛び、あこは今日一番の爆音を出し、燐子の身体がキーボードを揺らす。友希那はマイクスタンドを横に持ってぐるりと回し、前傾してモニタースピーカーを足蹴にして歌いだした。

 

I'm lookin' for the "Miracle Man"(奇跡の男を探しているの)!!」

That no tell me a lie(真実のみを教えてくれる)!」

 

 ヒビキファンはメタラーが多い。ロゼリアファンは置いてけぼりになるかと思いきや、サイリウムを力いっぱい振って彩っている。そして、メタラーは合いの手を振られれば思い切り大合唱しだした。観客とバンドが一体化した瞬間である。

 

 ゆりの身体がその音に誘惑されて熱くなっている。蘭と巴にイヴは隣のメタラーと肩まで組んで大合唱に参加し、彩と日菜が先頭でサイリウムを振り回した。こころとはぐみはモッシュピットにハマり、薫と千聖はキャラに似合わず拳を突き上げて盛り上がっている。香澄と有咲は異様な熱気に呑まれ、りみと沙綾は花音や麻弥につぐみと一緒に笑顔を浮かべてステージを見つめ、モカとひまりに美咲はその勢いに乗っていた。

 

 二番に行くとヒビキが観客席にダイブする。それを受け止める観衆、既にダイブして担ぎ上げられていたたえと一緒に一周するが、しかしながらも奏法は崩さない。ギターソロに行く前に曲の構成を分かっているファンがステージに投げ入れれば、友希那はヒビキにセンターを譲って、そこで口を大きく開けて吼えながらヒビキはソロを採った。

 

 エコノミーピッキングからの高速ペンタトニック、いつもここからフレーズを拝借していることに紗夜は気づく。単純な構成だからこそパワーがより強く感じられた。タッピングスライドからの半音チョーキングをして、そこから必殺の3音半変化するビッグヴィブラートが炸裂する。弦を引き千切らんばかりの勢い、スピードも普通のギタリストがやるよりはるかに早く、その激音だけが空間を支配して7秒後、既に耳に残ったリフをまた弾いて、ブレイクを入れた時に皆が跳ねて会場が揺れた。

 

 踊れ。叫べ。歌え。轟け。全てを本当に出し切ったそのステージ上で、RoseliaSは終わった瞬間に大喝采を受け取った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。