BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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 熱気溢れるリハから1週間が経って、Gear of Genesisにガールズバンドが一斉に集まった。ガルパの前のお披露目といってもいい。丹念にライブ前のリハをして、ヒビキノートにセッティングを書き込んていく。SPACE時代からのスタッフがPAをできるように仕込んでから、このノートは一層効力を増している。一度タバコを吸いに行った時にゆりが入ってきて、最近はタバコを嫌がる風潮があることに疑いを持つヒビキは胸元にタバコをしまった。ライブハウスのロゴが書かれたTシャツ、その胸の部分がヤケに強調されている。普通の男子ならそれに欲情してもおかしくない。スタイルは抜群な彼女に眼を奪われても普通なのだが、ヒビキはそれよりも彼女の顔つきに注目していた。今日はありがとね、とヒビキが言うと、とんでもないと畏れる。

 

「いつものヒビキさんへの恩返しですよ。少し前だって、グリグリで私の代役やってくれたし」

「あー……。そういえば、あの時キラキラ星歌ってたの香澄ちゃん達だったっけか。その後にバァ様にドヤされてさ、ギター持ってりみりんと何かやってた覚えがあるわ」

「実はその音源持ってるんですよ。YYZやってたやつですね」

 

 ドラムは他のバンドが叩いてくれていた。ヒビキ、行けと言われてCaparisonを片手に場を繋いだのを覚えている。ヒビキがステージに上がるのは稀なことだったのでレアケースだと言われ、スマホでのムービーだったり写真だったりと色々拡散されまくっていて、更には勝手に詩船がマイクをRECに入れていたことから、音質の良いブートレグが出来上がっていたのだった。ゆりがそれを欲しいといってAAC形式でデータをコピーしたらしく、以来通学途中などに聞いているらしい。遊ぶ準備が出来たら遊ぶ、その遊びの種類はヒビキだと少し危ない遊びであって。完コピごときでヒビキが満足する訳はなく、スクウィールとチキンピッキングで暴れ回った動画のワンシーンにバク宙を決めているものがあった。運動神経は良い方であり、自分の子供を他の親の目の前でバカ褒めしたいからと父親に器械運動などを仕込まれてからずっとこのパフォーマンスをしている。授業参観日の体育でこれを父親と並列してやった時、担任が授業を父親に任せてしまって少しだけ騒ぎになった。

 

 それは今喫煙所に飛び込んできた有咲と香澄もしっかりと覚えている。どしたの、とヒビキが聞けばいいからと腕を引っ張られた。ゆりが笑顔でついていけば、ハロハピがど派手な飾り付けをエントランスにしてくれていた。ふふふ、とこころがいつもの笑顔を見せれば、思わずヒビキもデジカメを取りに行って写真を撮る。最高のオープニングライブになること間違いなし、そしてヒビキが新たにボランティアで雇った大学の友人がカメラシステムをばっちり決めてくれた。

 

Is this your'think one(こんなんでいい)?」

Oh,that's great!I'd like it!!Thanks,sir(最高だよ、ありがとう)!!」

「You're welcome!ガンバッテ!」

 

 聞けばアメリカから留学している、親がテレビの撮影スタッフの男らしい。歳はもう30を過ぎ、黒の肌でヒビキはラミちゃんと呼んでいる。お礼は大好物の納豆巻だそうで、可愛いおじさんだなと皆が思った。

 

 そろそろリハが終わる。トップバッターのAfterglowが何故かドリルを使っていた。先にはピックを重ねており、お前らとヒビキが見ては笑う。ひまりにモカに蘭はそれをヒビキに向けてはぎゅいんぎゅいんと回し出した。つぐみの提案で、それを聞いた巴は大爆笑しながらノリノリであったらしい。13時頃には昼食でデリバリーのピザと、応援に駆けつけた六角夫婦が手料理を振る舞い、軽い騒ぎになった。詩船も気になっていたようで杖をついて入り口までくれば、この前まで自分の城だったところが、面影を残しつつもヒビキの色になっている。新設した厨房から漏れ出す上等な肉の匂いを嗅げば、ヒビキの両親と久々に会って会話しだした。

 

「アンタの息子は……。アンタらも親バカというか」

「親バカ?何を言う、夢を追うバカをあたしらは応援したいんですよ、叔母さん」

「ヒビキの性格はアンタ譲りか。いい育て方したね」

「オフクロ、カシスオレンジ追加!」

「はいよー。叔母さんも飲みます?全部ノンアルですけど」

「……本当、SPACE畳んで正解だったね」

 

 

 開場してから満員札止めになってしまい、トップバッターのAfterglowはいつになく緊張しだした。あんな沢山の人だかりを見たことがない。巴でさえも少し萎縮してしまった。そこで頼りになるのが蘭、黒のレザージャケットに身を包み、赤いパンツにロングブーツの出で立ちの彼女はこの数を気に留めてすらいない。それもそうだ、ヒビキと一緒に区民相手に平然とぶちかましているのだから。察した彼女はドリルを手にして、ぎゅいんぎゅいん回し出す。

 

「聞こえる?これは私達の歯車が回る音。ここでビビってたら、ギア変えらんないよ」

「蘭ちゃん……そうだよね!ここで縮こまってちゃ!」

「アタシ達らしくないよな!そうだ、一発やらなきゃな!」

「うん!ヒビキさんの顔に泥を塗るわけにはいかないもん!」

「愛のパワーでやりきろう〜!」

 

 幼馴染五人の決意、手を重ねて上に持っていき、太陽のように輝くその腕を自分に引き寄せ握りしめた。定位置についてから幕が上がり、モカがイントロを弾き出せば大歓声が上がる。皆、この瞬間を待ちわびていたのだ。

 

 全力でぶつかれ。それしか今できることはない。ピッキングの一つ一つが意味を持ち、ホットパンツ姿のモカの右手からは熱を帯びた音符が放たれる。そして、パンキッシュに決めてきたひまりがファーの付いたジャケットを着る巴と黒と黄色のコントラストが眼に残るつぐみとアイコンタクトを取り、今その曲が爆ぜた。

 

 ――これが、あたし達のやり方!

 

 いつもより低くギターを構えている蘭は、モニタースピーカーに足を掛けてマイクに向かう。観客の一人ひとりの熱意に応えるべく、声を上げた。情熱をぶん投げる声を。良い子ちゃんは、とっくに卒業している。

 

 

「Cry,Cry Out!!」

 

 

 Daddy,brother,lover〜と聞こえる中で、ヒビキは更衣室にいた。燐子から受け取った衣装に着替えているのだ。サイズは若干大き目なところを見ては燐子の気遣いが伺える。このサイズが一番動きやすい、そう彼が言ったからだ。

 

 全身真っ黒な衣装。胸元に黒い羽根を突き刺し、フードをかぶる。染め直したグラデーションの毛先は頬までの長さ、光の角度で色が変わって見える。七色の輝きを持つ男が六角ヒビキ、そしてその輝きの色を無限大にしてくれるのが音楽。

 

 気持ちよくぶっ放してるじゃねぇか、と蘭たちの評価を下す。倉庫に向かって自分のギターのネックをしっかりと握り締めた。黒色の24F、フロイドローズを載せた第二の自作ギター。形はオーソドックスなストラトシェイプで、キルトメイプルの杢目が美しい。鰐革のストラップを身体に通し、チューニングを合わせると、それとは別にもう一本、リハで使ったSkervesenを持っていく。事務所に置いておき、外の空気を吸いに行けばまたもやゆりがいた。良いバンドの曲を聞いて、少しだけビビったらしい。そんな心のうちを吐露してはヒビキはふふふと笑う。やはりあいつらは良いグループなのだ。

 

 二番手のハロハピ、そして三番手にはパスパレが来るのだ。野球ならエースバッターの四番にはGlitter*Green。そして、ポピパにRoseliaS。流れは十分面白い。まずは音を楽しめ、それは何度も言われてきた。その初心に返ってみよ、とゆりが思い出しては、また心が高揚してきたらしい。

 

「最高の仲間、最高の音楽。どんなバンドも自分達をそう思ってるだろ?」

「はい。私、最高に楽しめる仲間とやれてます!」

「そうだ、その意気だ。ゆりちゃん、ハートぶつけてくれな!」

「はい!それじゃ……まずはヒビキさんにハートぶつけちゃいます!」

 

 悪戯が好きだった。ゆりはヒビキに抱きついては、唇をナチュラルに奪っていく。レモンの風味、それからイチゴのような甘み。ヒビキの唇はそんなフレーバー、キスのお相手はこれで3人目。彼女も、自分が知らずに毒牙にかけていた。

 

「大好きです、ヒビキさん!」

「あ、あはははははは……」

「あっ、お姉ちゃん!」

 

 タイミングのいいところで見ていたらしい、りみは笑いながら姉のところに駆け寄っていった。ヒビキの唇という覚醒剤を注入してもらった以上、今のゆりは無敵だ。壁に頭をつけてうなだれるヒビキ、そんな体勢ではと今度はりみにチョココロネを口の中に突っ込まれた。最近の女子高生はこんなに押しが強いのか。段々と女性が怖くなってきそうな気がして。ヒビキはもう諦めてしまった。

 

「ゆり、楽屋入るよ!」

「はーい!じゃ、また!」

「うん……りみりん、キミはそんな大胆な子じゃないと思ってたんだよぉ、ぼかぁ」

「えへへ……♪女の子って、意外とこういうの好きなんですよ」

「まるで俺が女ったらしみたいじゃないかぁ……」

「そりゃ、ハーレム形成してるから女たらしだろ」

「有咲ちゃんまで!?」

「ただな、身体まで行くんならあたしが先だ!」

「ヤメロォ!」

 

 狂人五人組、ポピパが集結する。最早ヒビキに逃れられるスキはない。どこまでも好かれる彼の人徳、端から見れば面白いが、冷静になって聞いてみれば確かに女の子のほうが怖い。有咲はついに自分の身体という最高の武器の存在を自認して、色仕掛け戦術を仕掛けようとまで考えていた。しかし、そこに自分の出番を終えて涼みに来た蘭がきては、有咲の豊満な双子山を見るとにたぁと笑う。瞬間移動よろしく近寄ってきては、有咲のそれをがしっと鷲掴みにした。

 

「きゃあああああっ!」

「やめろ蘭!今ので誤解されたら俺が社会的に殺される!」

「あ、いいハリ」

「有咲ちゃん……って私のも触らないでぇ!」

「人の話聞け、ド変態!」

「変態は褒め言葉だよ。それより、会場加熱しといたから」

「いいから胸から手を離せスケベ‼」

 

 蘭への熱いげんこつが駆けつけた巴から放たれた。それと同時、ヒビキはふぇぇと花音よろしく逃げ出すのであった。


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