BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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迷走しだしたゾ……

あ、ヒビキさんを小説で使いたければどうぞご自由に……


7

 

 

 暴れ尽くした後に待っていたのは、観衆の投げ銭であった。ステージ上に散らばる小銭やお札が次第に足の踏み場を奪っていく。ここでもヒビキは経営方針にヒントを掴んだ。お客様の一人ひとりにライブの価値を決めてもらい、お金を入れてもらうのだ。バンドごとでも、ギグごとでもいい。困惑しているのはヒビキ以外だ、しかし考え方を変えてみればそれだけ自分達のプレイには価値があるのだと胸を張って言える証拠なのだとでき、自信がつく。DoPのドラマーはスローンから腰を浮かせば、ヒビキの胸をポンポンと叩き、そのまま自前のスティックを手渡した。彼は頭に?を浮かべるが、次の瞬間にそれが消し飛ぶ。

 

「最高やったでビッキー!俺は少しだけセミリタイアしてまうねんけど、また一緒に暴れような」

「あ、そうなんすね。いつでも待ってますよ」

 

 夢半ばにして去っていくことは寂しいが、しかしヒビキは敢えてサヨナラを言わない。最後に一発弾けられたのがいい思い出であるといい。スティックを握り、ギターをスタンドに立て掛ければ、背中に抱き着くはリサと有咲。ぐえっとヒビキは声を上げた。それをふふふと見守る紗夜、しかし更に追加される抱きつきメンツ。ひまりとモカが横からヒビキにひっつく。

 

 動きづらい、とヒビキが言うも離してくれないのは目に見えており、更に正面には沙綾がニコニコしながら首に飛び掛かってきた。女の子を5人、一人軽めに見積もって40kgとすると、だいたい200kgくらいはその身体で持ち上げている計算となる。少ししてヒビキを解放してやれば、いぇーいとプレイヤーは大騒ぎしだす。

 

「楽しかったぁ!ヒビ兄、サイコーだったよ!」

「ふぃー、疲れた疲れた……。ま、控えめに言って本当最高だったよ」

「あんな有咲初めて見たよ。暴れっぷりは流石だね!」

 

 ワイワイキャッキャと年頃の女の子のように楽しむ。そこにパスパレもハロハピも加わり、更にはポピパまで乱入する。みんなライブが大好きなのだろう。ギターとスティックを持ってヒビキは一人倉庫に逃げ、それらを片付けてから喫煙所に入れば、着いてきたのは蘭だった。やるじゃん、とヒビキにいうと俺だからなと返されてはフッとすかしたように笑う。壁に二人並んで寄りかかり、ヒビキはハイライトを咥えて火をつけようとする。ライターを取り出すと蘭が静かにそれを取り、フリントを回して火をつけた。タバコを近づけ、かなりの弱火で葉を燃やすと、うっすらと一筋の煙が立ち上る。いつもこういう吸い方だから臭いなどがつかないのに、自宅では気を使って空気清浄機を回しているから心配性なのがよくわかる。

 

 蘭は少しだけ羨ましかった。最初のライブで演奏するのはウチらAfterglowだとそう決めていた。しかし、今日のあれを見ていれば、やはりヒビキがやって正解だったと思う。まだまだ成長途中な彼女たちなので、お手本をみればアーティストがライブでやるべきこと・あるべき姿を理解できた気がする。あれを、本番のファーストライブでやることだ。夏休みに新たな課題が一つできた。

 

「ごめんな、先にライブやっちまった」

「気にしないで。楽しかったし、無料のプレライブなんでしょ。なら、本番はまだだから」

「まあ、な。トップバッターはお前らだ。ちゃんとやれよ?」

「あれだけちゃんと濡らせれば、すんなり挿れられるしイけるよ」

「お前なぁ……」

 

 つり目がちな彼女の顔が少しだけいたずらっぽく笑った。ヒビキは呆れ、どうしたらこんなにやばいやつに育つのかを理解できなかった。苦笑いしながら口の中に溜まった、ラムの風味を纏った甘い煙を地に吐き出す。その左手を蘭は取り、フィルターに口を付けて、少しだけ煙を吸った。

 

 おい、とヒビキは叱る。喉の奥までいかないようにして、少しだけ煙を舌で転がして吹き出した。悪くない、そう彼女は呟くがヒビキにはデコピンを食らう。未成年の喫煙は違法だと口を酸っぱくして言ってきたはずなのに。

 

「少し雑味が……」

「そりゃハイライトだからな。ダメだぞ、吸っちゃ」

「成人になっても吸いたくないね、これ。吸うのはひまりの胸とアンタだけでいいや」

「なにいってだこいつ」

「アンタの唇、レモンみたいだね」

 

 暴走したのはライブ中の有咲たちだけではすまなかった。間接キスをあまり気にしない二人、しかし蘭は更に調子に乗ってきた。ふふふ、と眉間の厳しそうなシワがふっと取れている。タバコを咥え直せば、右手を蘭の頭に置いて、ぽむぽむと叩き出す。

 

「お前のは甘い。見かけに似合わず……」

「どんなだと思ってたの?」

「デスソース」

「よしわかったそこに直りな」

 

 

 投げ銭を回収し終えて事務所のコインカウンターにそれを投入する。集計を自動でやってくれる便利なスグレモノで、ヒビキがSPACE時代に自腹で購入してきたものである。詩船もこれをかなり頼っていて、尚且つ全然壊れないのでありがたい存在であった。10万は行かないくらいの収入、後ろで見ていた子達はそれでも眼を丸くした。

 

 これでスイーツパーティだ!とヒビキは言った。元々ノーギャラだったのだから使ってしまっても問題ない。機材費はヒビキの私物なのだから全くかかりはしないし、電気代もうまいことやってかなり浮かせている。しかし、ここには素晴らしいお嬢様がいることを忘れていた。金髪で小柄なあの子が。

 

「それじゃ、今から用意するわね!」

「こっ、こころちゃん!?」

「あー……。そうだ、あの子カネモッチーだったんだ」

「ヒビキさん!外に大きなトラックが!」

 

 続々と運び込まれるスイーツ。ハコに並べられたテーブルにそれが置かれていく。スイーツなのに皿に盛られたフライドポテトを見た瞬間に紗夜の血が騒ぎ、素早いステップでそれに近づく。リサはそれを見てあははと笑った。

 

 甘いものに夢中になる女の子達。ビター系のものを蘭が食べる横で、クリームいっぱいのケーキにかじりつくひまりとモカ。そんな中でヒビキはまた倉庫に戻っては機材チェックとともにギターのハードケースを一本持ち出す。傍目に見たたえがバースツールを出し、飲み物をヒビキのために用意した。ハードケースを開ければ、とても色褪せたアコースティックギターがお披露目される。ヘッドにはアストリアスの文字。いつものデルリン素材のピックでEメジャーコードをストロークしてみると、かなり通る音量の鳴りが響いた。そこからチキンピッキングを駆使しては、速弾きでカントリー風に弾いてみる。このパーティには持ってこいのBGM、そして最近のお気に入りのハロハピを爪弾き出した。

 

「うちの曲だ!かのちゃん先輩!うちの!」

「わぁ、本当だ……。優しい曲になってる」

「なんと……!流石ミスターヒビキ、素晴らしい……!」

 

 ときめきめき、と口ずさむように唄えば、こころがニコニコしながら隣に座った。きれいにハモりながら、ボディを叩いてビートを取る。柔らかい音色に乗せる"えがおのオーケストラ!"、それが幸せを振り撒いていく。

 

「ヒビ兄、やっぱりカッコイイなぁ……」

「今井さん、やっぱりぞっこんですね。湊さんとの勝負はいつになったらつくのやら……」

「紗夜は惚れてないの?」

「腕には。異性としては恋心というものがよくわかっていないので。でも、人として尊敬しています」

「それね、私達も同じなの。そこに惚れちゃったから……紗夜も時間の問題じゃない?」

「ふふっ。そうかもしれないですね。でも、敵はまだまだ増えるんでしょう?すでに日菜も今井さんのライバルですし」

「えっ」

「ヒビキさ―ん!」

 

 アイドルを惚れさせる男、最早彼がアイドルだと言っていいくらいだ。日菜もアコギを弾きたいといわれて今持っているアストリアスを渡した。倉庫に向かえばたえと香澄がくっついていく。そうして三本ギターを持ってきて、たえにはMartinを、香澄にはGibsonを、そしてヒビキ自身はK.Yairiを握った。

 

 賑やかなパーティだ。先程あんな曲をやっていた男と同じとは到底思えない。胸元に光るマリファナのペンダントが女の子達からの想いを集約させた。それが輝き、更に彼を魅力的に感じさせる。妖しいオーラを身に纏いながら、今は兄のように近親感を感じさせる。

 

「ああ!いっつもいっつも、おたえと香澄ばっかり!ずるいっ!!」

「有咲だってさっき一緒にやってたじゃん」

「そうだよ有咲ちゃん、そんなこというなら私まだ何もやってないんだから……」

「よーしよし、じゃありみりん、ここへどうぞ」

 

 りみりんとヒビキが呼ぶ。バースツールまできた彼女を抱きかかえ、膝に座らせた。そのまま彼女にアコギを持たせる。りみの頬が赤く染まりつつも笑顔になっていく。沙綾と有咲がそれを見て、父親と娘?と思ってしまった。

 

 隣の香澄とたえがヒビキの肩に手をやり頬を彼にくっつけた。いい機会だから、と千聖は有咲と沙綾を彼らの前に行くように促して、自身のスマホを取り出す。シャッターを切るのはむしろ好きな方な彼女、笑顔にするアプローチは今はもういらないみたいだ。なぜなら、すでに笑顔にされていたから。

 

 合図を出してシャッターを切る。一枚目は皆がピースをしている。そして二枚目だ。ニコニコしながらもう一度、シャッターボタンに手をかけた。その時に、両隣の香澄とたえがヒビキの方に顔を向けた。眼を閉じて、頬に唇をくっつけると同時にぱしゃりと効果音がなる。あらまぁ、と千聖はニコニコを崩さないが、他の女の子が大騒ぎし出した。


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