BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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「パッとしないねぇ……。バンド舐めてんの?」

「お前らみたいなケツの青い学芸会グループなんざどこにだっているんだよ」

「それで金取ってメシ食うつもりか?馬鹿しか寄り付かねえぞ」

「死ねタコ!時間ムダにさせるつもりかワレェ!」

 

 ケチョンケチョンに参戦してきたバンドを潰す審査員とプロデューサーの隣で、ヒビキは可哀想にと思いながら各バンドへのアドバイスをしていった。確かに技術力は低いバンドが多いが、そこまで言うほど悪くはない。ここで叩きのめしてナニクソと這い上がってくるかどうかを見たいのか、もしくは単純に貶していたいのか、どちらかは分からないが、隣で聞いていてもあまり気持ちのいいものではなかった。スポットライトの当たるステージ上、チャイナドレスに綺麗な化粧をかましてきたヒビキはフォローを欠かす事なしに帰らずにはいられなかった。

 

「ドラムくん、そう君。走っちゃうのはどうしてだと思う?」

「ええっと……気持ちが先に出てきちゃうから?」

「そう。気持ちが前に出てくるのは、それはとっても大事なのね。でも、気持ちを表すためにテンポを崩しちゃあ、それはダメだよね。表現はドラム以外の技術でも出せなきゃダメ。テンポキープは、もっとも大事なところ」

 

 ただ貶すだけでは意味がない。少しのフォローと、少し隠した問題を自分たちで気づかせる能力をつけさせたい。ヒビキの気持ちは伝わるかどうか。大空へ羽ばたくのに鳥は親から教わらないはずだ。見て覚える。しかし、そこからすぐに覚えられるわけではない。だから、頭で考えているはずなのだ。人間には大きな脳があって、それは他の動物よりも突出した利点なのだから、それを使う生き方も学ばせたい。恐らく他の審査員にもこの気持ちがあるのだろう。

 

 心技すべてを兼ね備えたバンドは早々出てくるものでは無い。ここを踏み台にして成長してほしい。ヒビキは最初にそう言った。全部のバンドの審査を終えて結果発表まで終わらせたあと、審査員からヒビキに話しかける。

 

「君の手腕は買ってるけど、甘すぎるんだよね」

「は?」

「優しすぎるっちゅーかなんちゅーか。それで生きていけると思ってんのか?」

「え、この場でお説教ですか?勘弁してくださいよ」

「よく聞けよ。優しいから干されたんだろ。もうちょっとわがまま言ってもいいんでないかい」

「えー……」

 

 別に干されようがどうしようがヒビキの知ったことではないが、言っていることについては確かに一理ある。もう少し周りに頼ってみるのもありだと思う。とはいっても、祖父や蘭に友希那、リサなど、若干甘えている部分もあるとは思うが。自分からくじ運を無くしてついてこない人間は沢山いると思われるも、それでも本気で自分の音楽を理解、共感してくれる人ならヒビキを裏切ることはない。付け加えてプロデューサーがヒビキに話した。

 

「僕達ついつい若い子に言い過ぎるから、君がいてくれないと困るんだよね。一回ポキっと鼻っ柱圧し折りっぱなしだとさ、中々出て来てくれないし。だから六角くんの優しさが必要なの。でも、それも行き過ぎるから悪い奴らに利用されないか心配でね」

「あ、ありがとうございます」

 

 自分はそんなに危なげに見える存在なのか。心配してもらうほどのことか。ヒビキは疑問に思いながら会場をあとにした。

 

 

 ナイターのバッティングセンターで一人、バットをブンブン振り回してはホームランボールを量産していく。3ゲーム目が終わったところで止めにして、白いチャイナドレスのまま歩いて駅に、そして電車に乗り込んだ。甘えてみるのも確かにいいだろうな、と老人に席を譲りながら考えていれば、次の駅で制服姿のリサが乗ってきた。仄かに香る汗と制汗剤の匂い、反対に彼女はヒビキからバニラのトワレが感じられる。そんな格好で、といいながらも、空いた席に隣り合って座ると、リサがヒビキの肩に頭をもたれてきた。

 

「あれ、可愛い姉妹ね〜」

「あの大っきな子、美人さんね!」

「ままー、あのおねえちゃんきれい」

「……どうしたら女の子に見間違われるのさ」

「それだけ化粧が上手いってことでしょうよ」

「へえ。それじゃあ、ギャルメイクする?」

「別に構わんけど……」

 

 友希那が散々地獄だなんだと言っていたギャルメイクを施すのか。ウキウキしだすリサを見てまだまだ子供だなと思う。やがて降りる駅になれば、ヒビキとリサは一緒に改札を通った。駐輪場までいくと、ヒビキがリサの荷物をカゴに入れてやってこのまま家に帰るか、と聞くとヒビキの家に泊まりたいという。どうしたものか、ここでも押しが弱まることはない。友希那に負けたくないのだろう。そのまますうっとマンションへ向かえば、エントランスには友希那が居て、考えていることは一緒か、と思いながら二人を家に上げた。

 

 メイクを落とし、スウェットに着替えた。この三人で一夜過ごすことになるとは、思いもしなかった。リサも友希那も許可は貰ってきているとのこと、友希那に関しては前に言った通りにいつでも泊めると言ったのであるから、その約束は違えない。台所に入るのはリサと友希那であったが、友希那が危なっかしいのでヒビキが急遽参戦しだした。

 

「意外だなぁ。ユキちゃん、お料理できないって」

「歌しか出来ないんです。でも、きっと出来るように」

「うんうん。いつでも教えてあげるからね」

 

 エビの綿を取って十分に熱したフライパンににんにくとごま油を引き、甘めのエビチリを作る。ヒビキの得意料理を一品作り、そしてリサの得意料理も出来上がる。食卓は異文化交流の場と化して、可愛い猫のお茶碗に友希那のごはんをよそって、皆で箸を進ませた。

 

 食後になんで泊まりに来たのか、と聞くとやはり一緒にいたかったからだと答える。そっか、そう一言答えると、友希那がヒビキの隣にやってきてもたれた。

 

「何か言われましたよね、多分」

「今日のイベントで?ああ、もっと周りに甘えれば?だってさ」

「その通りだと思いますよ。最近は特に頑張りすぎです」

 

 二人でいい雰囲気になろうとしているのをずるいとリサは止めて、そこに混ざる。両手に花、というやつか。その頑張りの理由がライブハウスの新設ということもわかって、二人は尚更応援したくなるし、手伝いたくもあった。いつも甘えてばかりの女の子ではいたくない、尽くす存在でもありたいと。そう願った。

 

 そして、いつの間にか彼女達は眠りに落ちていた。ソファで隣り合って仲良く寝る幼馴染みコンビ。頑張りすぎているのはこの二人もそうなのだ。誰もが夢を見、それを実現するために努力をする。それにひたむきであり続ける。それがどれほど難しいことなのか。

 

「おやすみ、リサ、友希那」

 

 甘えるのは今度にしよう。今は二人を寝かせて、ゆっくり休ませてやろう。仕事の続きをするために、二人にタオルケットをかけてからスタジオに缶詰になった。

 

 

「ん……あれ。ヒビ兄?」

 

 翌朝、眼が覚めてからヒビキの姿を見るべく、スタジオに入る。仄かな紫煙の香り、三本の吸い殻、そしてあどけないヒビキの寝顔。立ち上がりっぱなしのPCにはライブハウスの機材の注文リストが広がっていた。余程頑張ったんだね、とヒビキを労いたくなって、この部屋で二人きりの状況にもドキドキしてきて、ヒビキの唇を奪ってしまう。ぷるぷるした唇の感触、暖かい頬の温度。今だけはすべてがリサのものである。しかし、起きてきた友希那にそれはバッチリ見られていて、軽く引かれさえしていた。

 

「リサ、あなたなにを」

「え、えへへへ……」

 

 友希那のキスはお預けだ。付き合うまでそういうことはしないと心に決めた。それにしても、この部屋の書物の量は半端じゃない。ギターの量もさることながら、本棚には音楽関連だけでなく、数学や物理、化学の専門書などが本棚に夥しく並べられている。そこにはヒビキの大学受験中のノートなどもあり、勝手に見ては友希那の頭に叩き込まれた。勉強の不得手な彼女にとって、わかりやすく纏められた情報というのはありがたいものだ。興味がないと言い張り隠し続けている彼女の成績を見れば明らかに為になる。

 

 こんな状況でもヒビキは起きない。よほど疲れているのだろう。もう少しだけ寝かせてあげよう、そう思ってリサはもう一度キスをした。


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