BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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 モカの大きな胃袋に呆れつつもファーストフード店を後にし、さあ帰ろうという所で今度はモカに強引にショッピングに連れて行かれた。楽器屋へと連行されれば、リィがヒビキとモカに挨拶をしてくれる。そこでギターの方を観に行く最中でヒビキはカウベルに目を奪われた。拳で軽くコンと叩けば、可愛らしい音が鳴る。叩いていいかと聞いてOKが出たので、ヒビキはカンカンとそれを鳴らしだした。

 

 スティックで叩く音。4万ほどのそのカウベルに惚れこんでしまったものの、次はペダルで叩いてみよう、とアタッチメントに取り付けてペダルを踏んでみた。これだ、このアクセントが欲しかったのだ。恍惚とするヒビキの顔、このままレジに通してしまい、またモカのところに戻るとニヤニヤとされた。

 

「モカちゃんを待たせるなんていい度胸ですなぁ」

「ほう?じゃあ帰るよ俺」

「ちょっ、待ってよぉ。嘘ですって」

「あんまり調子乗ってると俺も怒るぞ?」

 

 ニコニコと笑顔でモカを脅迫するヒビキ。この人は優しいだけじゃなかったのを思い出した。怒らせたら一番怖い人NO.1であるのは、身を持って知っていた。しかし、なんだかんだで結局付き合ってくれる所、優しさを感じられる。わかればいいんだよ、と身長が高いのを良いことにモカの頭をポムポムと叩いた。

 

 それで何がほしいんだ、と聞かれる。今使っているESPのSNAPPER、あれに不満を抱いたわけではない。だが、少しアクセントが欲しいのだ。もう少しエッジの効いたパンチのある音が。ピックアップとかを変えてみるのも一つの手だろう。エフェクターやアンプの音作りを見直すのもいい。

 

「エッジを立たせたいんだったら、これじゃない?」

「Killer?メタルですな〜」

「パワーもあるし、ザクザク刻めるよ。リィちゃん、これ弾かせてもらうよん」

「はいよ〜。アンプ何使います?」

「このJVMでいいや」

 

 スワンプアッシュボディにフロイドローズがついている、ダブルカッタウェイ仕様のギター。モカが試しに手に取ってみてピッキングをすると、ダイナバイトというピックアップの特性により、JVMのクランチチャンネルで音を出してみたら、鋭く攻撃的なトーンが飛び出してきた。更に歪ませてコードを弾けば、音の分離感がとんでもなく良い。ザクザクと刻み出していくうちにこのギターが欲しくなってきて、しかしピックアップさえ変えてしまえばいいのでは、とリィとヒビキが思った。フロントのピックアップにもエッジの鋭さを求めるのならダンカンのSTK10nかDiMarzioのSDS-1がちょうどいい。ちょいと貸してみ、とヒビキにギターが渡されれば、高速ダウンリフを刻んでいく。確かに、鋭く音抜けがいい。ローもしっかり身体で感じ取れる。傍から見ているモカとリィはその右手の動きのスピードに驚嘆するばかりだ。

 

「モカ、今度ギター持ってきてよ」

「あ、はーい」

「リィちゃん、ありがとね。これネックの太さ最高やな」

 

 ギターを褒め称えて返そうとした時、サイン入れてください、とリィにお願いされた。杢目の綺麗なアッシュボディに、渡された白いペンでサラサラとサインを書く。これで希少価値が上がるかどうかはわからない。自分のネームバリューがどれほどなのか、全くわかっていないヒビキだが、レア物になりましたなとモカが言った。そんなことはない、誰からでも頼まれればヒビキはサインをする。

 

「あれ?左利きでしたっけ?」

「そうだよ。右利きでのバイオリンとかギターを弾いてたら両利きになっちゃったけど、元々は左利き」

「え、じゃあレフティでも弾けるってことなんですか?」

「いけるよ?」

 

 例えば、とレフティのレスポールを取って弾いてみても、スピードも音も変わらずに弾き倒してみせた。両手が使えるのは中々のアドバンテージだろう。そういえば、ヒビキが左利きのドラムセットを使っているところを見たことがある。あれは、SPACEでのピンチヒッターをしていたときであったか。ハイハットを左に置いて、堅実な叩き方をしていたような。リィの記憶が間違っていなければだが。

 

 

 家に帰ってPCのメールをチェックすれば、バンドコンテストの審査員の仕事の依頼が来ていた。日時を確認してその日を空けておき、衣装はなにを着ようかなと迷う。確か、前にこの手の仕事の時はスーツを着ていた覚えがある。しかし、今度はチャイナドレスでも着ていくか、と思ってクローゼットの中からそれを出した。衣装が大量に入るこのクローゼット、高校の時に着ていた学ランなどがあって懐かしい。胸元に羽根付きブローチのある騎士のような服をちらりと見て、中2臭いな、と感じたが未だにこの服は着ている。

 

 さて、と夕飯の買い出しをするためにもう一回ヒビキは外に出た。19時頃でやっと日が沈みかけている夏の空模様、スーパーまでママチャリを飛ばして食料品を選別していく。値段の前にまず生産地、特に国産の物のみを厳選し、そこから値段に移るのだ。タマゴ1パック108円(税込)、お一人様一点限り。一人ならこれで十分と思っていたら沙綾も買い物に来ていた。しかも、兄妹と一緒に。

 

「あれ、ヒビキさん」

「うっす」

 

 タマゴをカゴに入れて、純と沙南にも挨拶をした。テンガロンハットを見て、かっこいいという純の男の子の心をくすぐる。その後もカゴに物を詰めて会計を済まし、沙綾の買ったものも手早くビニール袋に入れる。その後に、あこと巴の話をされた。

 

「巴のスネアもヒビキさんが?」

「ああ、俺……っていうか爺様があげちゃったんだよ。LB417、名器中の名器だろ?」

「今なら新品で8万くらいでしたっけ?良い物貰ったなぁ……」

「沙綾ちゃんもドラム見に行くかい?」

「じゃあ、今度お願いしていいですか?」

「おっけ〜い」

 

 やはり彼女もドラムバカなのだろう。機材に関しての勉強も怠らず、吸収してやろうという欲が見えている。そういう真面目な子が最近は多いのをヒビキは嬉しく思っていた。真剣に向き合う結果真面目になっていける、音楽は意外と人を更生させたりも出来る力があるのではないか。いや、あると彼は信じ切っていた。沙綾はもともと真面目なのであるし不良でもないのだが。

 

 ママチャリのカゴに買ったものを入れてはささっとマンションへ戻る。一人暮らしを始めて、来月辺りで二年経つ。最初に部屋に入れたのは蘭だったか。そのお客様が今日もマンションへ訪ねてきて、ギターを練習しに来た、との名目でスタジオに上がる。

 

「たまにはギター教えてよ」

「もう教え切っただろ」

「まだスキッピングのコツとか聞いてないんだけど」

「テクニカル路線に走るのは好きじゃない、って言ったのお前だでな」

「たまに興味湧くんだから仕方ないじゃん」

「自分で教則本買えよ……」

 

 とは言いつつも結局教えてやるのがヒビキだ。食料品をしまって冷蔵庫から冷たいジュースを取り出して蘭に出してからマンツーマンでレッスンを始める。SAITOを握ってピックを持ってピッキングの手ほどきをする。それを真似している間に、新生SPACEに導入するドラムの機材をPCで確認しだした。自分が持っているドラムキットは玄人向けで、祖父にもライブハウスの件については話を付けている。なるべくなら、ドラムのサイズを選べるようにしたいし、セッティングも5分以内で全て済ませられるようにしたい。その為にDoPのメンバーに声をかけておいた。途中で気づいた蘭に声を掛けられてその全貌を話せば、最初のライブは必ずウチにやらせろ、と言われる。少し嬉しそうにしていたのはなぜなのか、よくわからない。

 

「幼馴染の好で、OPイベント絶対出るから」

「ノルマ5千円だぞ。儲けはねえよ?」

「いい。金儲けのためにやってない。ヒビキだってそうでしょ、稼ぐためだったらライブハウスなんてやる必要ないし」

「まあな。ノルマなしでもいいくらいだけど」

「それに、RoseliaもPastel*Palettesも来るでしょ。顔に泥は塗られないで済むじゃん」

「他のバカバンドと相殺できるかねぇ……」

 

 祖父から来たメールの添付ファイルを開いた。リストを印刷し、コストと消耗品の交換・供給ペースを確認して意見を付け加え返信する。バンドの想いをしっかりと出し切れる場所を作りたいのか、そんな気持ちが伝わるようである。しっかりやんなよ、と釈迦に説法を説くように蘭は応援した。


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