BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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ハーレム展開になりますたぶん
誰が期待するのかわかりません


10

 

 

「ふーん、ヒビキくんがリサちゃんにねぇ……♪」

「あれでよかったのかなぁ、リサちーは」

 

 今朝の出来事をまりなに言ってから、からかわれっぱなしだ。練習しに来たハロハピの面子がどこかおかしいとヒビキの様子を察する。しかしそれをすぐに隠したヒビキは、予約されていたスタジオに彼女らを通した。

 

「ヒビキ?私達で良ければいつでも悩みに乗るわよ?」

「ありがとねこころちゃん。気持ちだけで十分だよ」

「そう?いつものあなたはもっと笑っているから。練習が終わった頃には笑顔になっていてね」

 

 気遣いが意外と出来る子なのか。そうだ、あれが第五のバンドだ、とまりなに言っておいた。出演の約束をちゃんと取ってあるし、これでメンツに困ることはないだろ、と念押ししといてからの、次の仕事の確認をする。何の因果があるのだろうか、結婚式でのピアノ演奏を頼まれていて、衣装と弾く曲をまだ決めていない。しかも、それは来週なのだ。リサのベーゼをもらった矢先のこの仕事。思わず想像してしまう。素敵な仕事じゃない、とまりなが言い、それに続いてからかいも入れてきた。

 

「リサちゃんに友希那ちゃん、両手に花ってやつだね」

「うわぁ、他人から見れば凄い贅沢な選択肢。しかもそれに一人追加されてるんだよなぁ」

「女ったらしだねぇ……」

 

 人聞きが悪い。ヒビキはそう反論した。自分の魅力にきちんと気づいてくれるのは嬉しいが、しかしそこまで惹かれる女の子達を悲しませたりしているわけでもない。健全に音楽で語って遊んでいるのが常なのだから。モカのあのイタズラはノーカウントにしておく。

 

 次々とスタジオ練とライブのリハにくるバンド。今日はそこそこ忙しい。こんな日にサポートが回ってこなければいいな、とヒビキは想いながら、今日という日を過ごした。

 

 

 日が変わり、リサがやたらとひっついてくるようになった事以外は大して変わりがなかった。友希那も前までよりは急接近してきて、そしてひまりも、何を聞いたか知らないがたえも距離が近い。しかし、たえは単なる天然だろう。うさぎの耳をしたカチューシャを持ってきて、ヒビキをおもちゃにしたがるようになってきた。そのままSPACEで仕事をしていたら、詩船にひっぺがされ、たえが残念そうな顔をしていた。こうなることは見えていたはずだろう、と言いながら。

 

 そうして一週間が過ぎ去ろうとした。パスパレのレッスンも終わった後、蝶をあしらった彩り鮮やかな橙色の和服のヒビキはタクシーを捕まえて、結婚式会場まで向かう。パスパレの皆がレッスン中ヒビキをいつもと違う眼で見ていたのは気付いていた。40分ほどで目的地につくと、そこはとても大きなホテル。相当な金持ちが結婚するんだろうな、と想像して中に入り、控室の方に案内されれば、ウェディングプランナーから挨拶された。ピアノの位置は確認して、曲の方も自作とカバーで用意してきたと言った。肩をわざと出し、髪を上にまとめ上げる。ウォーミングアップはスタジオでしてきたから必要ない。人生の第二のスタート地点を華やかに飾り付けるための脇役、だからこそ失敗をしたくない。

 

 新郎新婦が披露宴の舞台へ登場した。幸せそうな顔をする二人。喜ばしいことだ。赤いカーペットの上を、二人歩調を合わせ歩いていく。自分も誰かとああする時が来るのだろうか。用意されたお茶を飲みながら空想しだした。意匠の凝られた椅子は何も反応してくれない、鏡の向こうの自分はなにも語らない。虚像をただ移すだけ。ケーキ入刀まではCDか何かの音源を流している。そして、仲人による紹介や案内がされた後、特大ゲストとしてヒビキが呼ばれた。

 

 会場はすでに温まっている。そこから、ヒビキの軽快なトークが始まる。口は立つ方で、彼の話はとても22歳の大学生とは思えないほどであった。

 

「ご紹介頂きました、六角ヒビキでございます。特大ていうのは語弊を産んでしまいますが、まあ」

「えっ」

「そんなワタクシをご起用していただいた新郎新婦様。ご結婚おめでとうございます。特大な幸せというのは、こういう日に生まれるものなんですよねぇ。ええ、ワタクシまだ22でございますが、お二人とそのご両親、ご家族、そしてご来賓の方々が、皆々様とても笑顔でいらっしゃる。こんなことって、めったにないですよね」

 

 落ち着いた口調。穏やかな話し方。華やかな会場に暖かな華が咲き誇る。幸せの飾り付けは任せてほしい、とヒビキの気持ちが伝わってくるようだ。それをこれから、眼に入るように置かれたグランドピアノでやるのだから。そちらの方に移動して、落ち着いたように指を動かす。

 

 結婚式の定番とは、木村カエラであるらしい。それは一昔前では、と想いながらも世代的にはこの若い夫婦にぴったりなのだろう。ヒビキの口元にスタンドマイクが置かれ、弾き語りの準備は出来た。このくらい朝飯前、しかし、この幸せを表現する方法は、ヒビキにしか出来ない。弱く演奏しだすイントロ、そして細く歌い出すヒビキ。優しい声音から、サビに鳴ればダイナミックな演奏へと変わる。そこで嬉しさ余って新婦の頬を一筋の涙が伝う。このままクライマックスに行くわけではあるが、あともう一曲演奏するのだ。それこそ、ヒビキのとっておきの曲。

 

「ご清聴ありがとうございます。木村カエラさんで、"Butterfly"でした。ああ拍手どうも有難うございます、恐れ多いです」

 

 はははっと、笑いながら、次の曲へ。その曲を紹介するヒビキの声も、変わらず穏やかである。幸せを第三者が願う、そんな気持ちがあってもいいのではなかろうか。そんな気持ちでヒビキは紹介した。

 

「さて。これからの新しい人生という旅、お二人はかけがえのないパートナーと相成りました。そこには、沢山の人の笑顔があって、沢山の雨が降り続いたりもします。でもね?それでも生きていく、お二人で手を取り合って、この幸せの旅を続けていく。そんなときにぴったりな曲であると思います。――1/6の夢旅人2002」

 

 アコギで弾く曲ではある。しかし、ピアノでも十分だ。ここにどれだけのどうでしょう藩士がいるのかどうかわからないが、目的は二人の門出のお祝いである。歌詞の意味もぴったりである。この新婚に、幸せの御見舞を。

 

 

 仕事が終わり、報酬をもらってからホテルの外に出た。もう真っ暗な外でタクシーを捕まえて近くの駅に移動した。自宅の最寄りの駅まで行くと、偶然中の偶然、リサに遭遇する。よっと声をかければ、どうしたのその格好と当然のツッコミを入れられた。

 

「結婚式の帰り。お仕事です」

「結婚式?あ、ピアノ弾くって言ってたね」

「まーね。あれ、ユキちゃんは?」

「部活の帰りだから、友希那はいないよ?って、なんで私といるときに友希那の話するかな」

「リサちーとはまだ付き合ってないぞよ?ファーストキス奪われたけど」

「セカンドキスもいっとく?私は全然構わないよ」

 

 なんだこの小悪魔は。こんな娘に育てた覚えはない、といってもヒビキの子供ではない。そんなことを考えながらもナチュラルに手を繋いでくるリサはどうしたものか。振りほどきはしないし、子供の手を引くと考えておけばいい。そういえば、部活の帰りといったか。そしたら、もしかしたら。

 

「ヒビ兄ー!リサ姉も、遅れてごめん!」

「あこの前でもこれつなぐの?」

「え?ダメ?」

 

 あこの元気一杯タックルがヒビキのバラに突き刺さる。どしたどした、と片方の手でなでなでと頭を撫でる。そのまま彼女もナチュラルにヒビキの手を掴んだ。もはや子供連れのお母さんになってしまう。これでは、リサといい感じにはならない。別に構いはしないし、あっちゃーとリサはそんな顔をするが、特段妬いた様な素振りもないので気にしなかった。

 

「本屋?またイタい本見てたか?」

「イタいって何?」

「カッコイイってことだよ」

 

 ナチュラルにバカにするのはなぜだろう。しかし誤魔化すのもうまい。和服のヒビキには最早突っ込まない。艶やかなこの格好、あこの美しさの感性はこれから育てられたようなものだ。そのまま二人を家まで送ればいいのか。このまえの行動がリフレインする。それは別にいい、しかしあこの家について巴が出向いてくれば、二人を見たあとに変な眼とからかいを受けた。

 

「なんだよその眼は」

「なんでも?お幸せに、おふたりさん」

 

 こうなることは見えていたはずだ。なんだろう、ヒビキの周りには皮肉屋が多いのか、それともお節介が多いのか。このままリサの家に行くのが更に恥ずかしくなってくる。友希那の家の隣だ、見られたら友希那が妬くに違いない。しばらく歩いてから、リサが口を開いた。

 

「ヒビ兄」

「なにさリサちー」

「私も、ヒビ兄と結婚できたらな~、なんて」

「はいはい。俺的にはユキちゃんとリサが結婚すればいいと思うのよね」

「それは……え?今呼び捨て?」

「それがどうかしたの、リサ」

 

 これは一歩前進と見ていいのか。いや、そうであると断定して良い。友希那に一歩先のリードを付けた。リサの自信は増して、それをまた偶然にも出掛けていた友希那に見られたヒビキは、また二人と手を繋いで帰る他なかった。


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