BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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 ヒビキが目覚めたのは深夜2時であった。家についたのが21時半は回っていたから、少なくとも4時間は、PC関連は立ち上げっぱなしで寝ていたのだ。

 

 慌てて、ギタースタンドからSAITOを取り、インターフェイスに突っ込んだ。セミオーダーのこのモデルは、24フレットにSSHの万能型。滑らかなアーミングと確かなトーンは存在感もバランスも抜群である。

 

 予め楽譜に書いてあった曲を、ドラムとベースは打ち込みながらも、その上にギターをいれていく。テクニカルなソロパートすら難なく弾き抜くそれは、練習の賜物なのだ。ど派手なバンドを組みたいといえば組みたいが、サポートメンバーとバイトで手一杯なので、ここでストックをしておく。

 

 取り敢えず一曲は録り終わった。オーバーダブは後日でいいや、として、電源を落として真っ暗な部屋の中のベッドに寝っ転がり、二度目の睡眠を取り出した。そして、4時間後には既に隣の声で起きており、眠気はないものの、大学の講義の準備をし、自転車の鍵を持ち、玄関から出た。

 

 少しだけ汗水垂らして働き、その給料で買ったママチャリは、晴天の下元気に走ってくれる。カゴもついて買い物にも便利。日常生活ではこれくらいで十分だ。その途中で香澄と有咲に出会う。気づいた有咲が挨拶してくれた。

 

「ヒビキさん、おはようございます」

「おはようございます!」

「おはよー。ガッコか?」

「はい。あー引っ付くなよ香澄!動きづらい!暑苦しい!」

「朝から惚気てるなぁ」

 

 茶化してから走り去る。少し近道をして大学の方に行き、お昼までの講義を受けて、ゆっくりとCiRClEへ向かった。

 

 

「はいらっしゃーい」

 

 ダメージ加工のジーンズと長袖のシャツの上からエプロンを付けて、フロントに立ってレジを担当していると、様々なバンドがやってくる。ガールズバンドが比率として圧倒的に多く、可愛い子も多いからか、この職場は恵まれている。ここのオーナーとしてはかなり若い、月島まりなもルックスはいい部類だ。

 

 ライブハウスではあるが、併設のリハスタを使う子達も多い。他にもリハスタはこの近辺にはたくさんあるが、ここのは広いし、機材もそれなりに揃っているから、リピーターは多い。その機材の中にあるVHTのヘッドアンプはヒビキの私物の一つで、月額30000円で、ここに貸しているのだ。

 

「こんにちは」

「ほーい。友希那ちゃんいらっしゃーい」

 

 物静かで雰囲気も落ち着いた女子高生がきた。彼女の名前は湊友希那。確固たる実力を兼ね備えたバンド、Roseliaのフロントウーマンだ。予約表をペラペラとめくれば、ロゼリアも友希那の名前も載っていない。ストイックな彼女だが、今日は息抜きで来たのだろうか。

 

「ゆっくりしてってー。お茶は出せないけど」

「ありがとうございます。それで」

 

 彼女との仲はとてもよく、ロゼリアの他にもヒビキと友希那でタッグを組んでライブに出演したりもしている。アコギだったりカホンだったり、場合によってはヒビキの友達を引き連れてメタルなどをやっている。

 

 友希那の父親の無念を晴らすためのロゼリア。見た当初は、テクと気持ちは十分だったが、いかんせん音を楽しむというココロが見えず、それについて少しだけお説教をした思い出もある。そんなことから友希那がヒビキとやってみたいと言ったのだ。

 

 それで、の続きは、今度はいつライブをやるか、だ。そうだなぁ、とボールペンのノック部分を口に持って行って、空きスケジュールを思い出す。暇な日は多いが、友希那の暇な日は土日、それもロゼリアが休みの日だ。くるくると椅子とともに回りながら悩んでいく。

 

「友希那ちゃん、暇な日は?」

「今週の土日と、来月の6日なら」

 

 ハコを抑えるのにも余裕がいる。なので、来月の6日にしておこう。手帳に書き込んでおいて、その後ひゅいっと口笛を鳴らした。物販の客だ。

 

 ベースの弦を2つ。会計を手早く済ませてやった。そして、初心者だからと言われて、弦の張り方までを教えることにした。ワインダーを掴んで、ブリッジからペグまで弦を通し、感覚でペグよりの弦を切る。手慣れたものだ、なんせマルチプレイヤーな彼だから、弦交換どころかピックアップさえも素早く交換してみせるだろう。

 

「今度こそ、蝋人形の館をですね……」

「やりません。こだわりますね、それに」

「だって面白そうやん。好きやし蝋人形」

「やるなら……赤い玉の伝説かしら」

「あの音域のシャウトを持続できるなら。後はウチの曲で固める感じかな」

 

 聖飢魔IIの曲をレパートリーに入れる時点で、ジャパメタに傾倒していた遍歴が伺える。貸出品のストラトで軽く爪弾いてみせた。

 

 チキンピッキングなどを使うところはないが、落ち着きのないヒビキは五本の指を両手フルに使うのが癖だ。ちゃんとヴォイシングを考えてスケールアウトしない程度のアドリブをやってくれる。ロゼリアのリードギターの氷川紗夜は不動たる基礎力を積み上げた堅実な上手さがある。それを上回る安定性とアイデア、実力を兼ね備えるのが六角ヒビキなのである。紗夜の妹の日菜に比肩する、それどころか日菜でさえギターでは敵わないだろう。

 

「貸出品で遊んでいいんですか?」

「遊んでないの。練習」

「モノは言いようだね、全く」

「まりなちゃん、おつかれさーん」

 

 馴れ馴れしくオーナーを呼ぶヒビキ。板張りの床に立ち、ギターを拭いて片付けた。やほやほ、とまりなが友希那に挨拶して、軽く彼女は会釈した。

 

 そして、いつの間にかロゼリアのメンバーが集まっていた。ちょうどいいから練習していけば、とヒビキは勧める。予約もこのあとスカスカだし、俺が奢ってやんよ、と言った瞬間、五人がすぐさまスタジオに入った。

 

「持ち合わせは?」

「7万4千円」

「3千円でいいわよ」

「やーりぃ」

 

 

 ロゼリアが上がり、リサがペコリと礼をして、帰っていく五人を見送ったあと、ヒビキはスタジオを片付けに行った。綺麗にちゃんとケーブル類をまとめてある辺りしっかりしてるなと関心しながら、ホコリを録り、金物類を磨き、最後に床をモップで拭く。仕事はしっかりやるから愛着が持たれるのだ。

 

 JCM2000のスクエアスイッチを拭いているうちに、JVMとか新しいのに変えればいいのに、と思う。マーシャルなら古い、それこそ1959あたりが一番好きなのだが、使いやすさを考えるなら現行のJVMシリーズやDSLあたりがいいだろう。もちろん、JCM2000もいいアンプではある。

 

 掃除終わり、と言って、レジにお金を入れてから予約表を確認した。まだまだ空きはある。急いだつもりはないが、掃除が手早く終わってしまったので、一見閑古鳥が鳴いているように見える。

 

「経営難になったりとかしないんすか?」

「まー、ちょっと厳しいカナ〜。なんかいいイベントが作れればいいんだけれども」

「ガールズバンドでお祭りみたいな?」

「あ、それいいかも。参加してくれるバンドいるかなー?」

「当ては……あるなぁ。3つくらい」

 

 ポピパに声をかけたらすぐに参加表明をするだろう。Glitter Greenも検討してくれはする。今のロゼリアも友希那がうんといえばすぐだ。

 

 他にも気になるバンドがいるなら声をかけるぞ、とヒビキが言った。逞しいことこの上ない。ならば、と3つ、バンドを上げてくるまりなに、ほいほいと返事してアポを取る計画を立てだした。

 

「余裕があるなら、幕間で友希那ちゃんとかとやってもいいよ?ヒビキくんのバンドでもいいし」

「ガールズバンドだっつってんでしょ、なんでダムネイション出すんスカ」


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