BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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Chapter.1 -猛烈六弦烈奏(裸エプロン)-
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「ぽぴぱ、ねぇ……」

 

 ライブハウス、SPACE。受付で店長代理を任されていた、毛先を染めた青年は、バイトの少女の話を聞いていた。楽しそうに話す彼女に、愛想よく相槌や返事を返す。

 

 都内にある、ガールズバンドの為のこのライブハウス。近い内にオーナーの意向でここを閉めると知っている彼は、彼女達が最後に認められるバンドになるのかもなぁ、と内心思った。オーナーと彼は親戚で、一人暮らしを始めてからは、年齢の事もあって、店を任されることが多かった。

 

「俺の意向だと、すぐにでも出してやって、ステージに馴れさせてやりたいけど」

「ヒビキさんの気持ちもありがたいですけどね。力を積んでからじゃないと」

「特にあの猫みたいなお嬢ちゃんが危なっかしいよなぁ。周り見ないで突っ走りだす気がする。あのツインテの娘とかはかなり優秀そうだけど」

「おたえーっ!」

 

 ヒビキ、そう呼ばれた青年は、甲高い声がする入り口に顔を向けた。噂をすればなんとやら。バイトの花園たえに抱きつく、猫耳みたいな髪型をした女子高生は、戸山香澄。そして、その後を追ってくる仲間たち。仲の良い事で、とニコニコ笑いながら迎えてやった。

 

 

 いつもの白髪のオーナーが居ない。詩船のバア様は休みだ、と彼女らに告げ、店長代理を務める六角ヒビキが彼女らに挨拶した。

 

「Poppin' Party。若さハジける女子高生バンドかぁ。いいねぇ、青春してるねぇ」

「おっさんくさいな、アンタ……」

「20はもうおっさんだろうなぁ。でも、有咲ちゃんもりみちゃんも沙綾ちゃんも、すぐに20になるんだで」

 

 変に訛が入る。クセではあるが、彼は都内出身だ。方言は好きで覚えているらしい。

 

 スタッフの人手を今更募ったところで、仕事が楽になるわけでもない。実を言うならば、すぐに帰りたい。そして、家でギターを宅録したい。しかし、それももう無理だ。出番を控えているバンドが待ち構えている。

 

 リハはもう済ませた。後はガツンとぶちかますだけだ。ヒビキは気持ちよくなれるまで存分にやれ、とだけ言う。PA調整の腕は、詩船よりも上手い。それも当然だ、彼はこういう場数を幾度となく踏み、理論による知識武装もしてきているからだ。

 

 ステージの方に行って、キャパがそこまで大きくないこの箱にパンパンに人が押し寄せている。人気のバンドもいれば、知名度はないが度胸でやり抜くバンドもいる。どちらも兼ね備えたGlitter*Greenがトリを努め、オーディエンスもバンドも湧かすこの腕は流石だなと認めていた。

 

 

「今日は出なかったんですか、ヒビキさん」

「あいにく、皆人手は足りててね。俺の出る幕はないよ。いいことだ」

 

 出番が終わり、冗談でヒビキに話しかけたのは、グリグリの牛込ゆり。さきほどの、牛込りみの姉である。観衆がはけてから、会場の掃除をしている所に声をかけられる。

 

 エプロンをジーンズとTシャツの上から着ているが、何故かどこかちぐはぐしている。髪型か。長めのシャギーで、毛先をカラフルに染めたこの髪がいけないのかもしれない。

 

 使い終わったあとの、マーシャルとケトナー、そしてアンペグ。ん、と違和感を感じたヒビキは、マーシャルはJVM210Hのバッグパネルを開けた。

 

「やっぱヘタってきてるか。パワー管変えなきゃな」

 

 テスターを持ってきては、バイアス電圧を計り、予め用意してあったチューブの電圧と合わせる。そうしてテストの為に、サウンドチェックをしてみたいがために、誰かにギターを貸してもらおうと試みた。

 

「はいっ!私のでいいなら!」

 

 真っ先に食いついたのは香澄。自前のギグバッグから、愛着の湧いたギターを渡す。受け取った時に、ヒビキはクスリと笑った。

 

「ランダムスター……。高崎晃かな」

 

 照明全開のステージの上。真っ赤なランダムスターを、椅子に腰掛けて構えた。その構えがとても独特、とはいっても、これはクラシックギターなら普通の構え方だ。左足にギターを載せ、Uシェイプの薄く幅が広いネックを握った。逆反り気味だ、とつぶやき、借りたピックで開放弦を鳴らしてチューニングを合わせる。

 

「オクターブは?合わせた?」

「な、なんですかそれ」

「12Fの実音とナチュラルハーモニクスの音程を合わせる事。言ってる意味わかる、香澄ちゃん?」

 

 チューナーも借りれば、案の定だ。ドライバーでブリッジをいじり、オクターブ調整も済ませてから、ハイフレットに手を動かした。

 

 1弦15F。高いソの音。そこからプリングで12Fを鳴らし、C△を一音ずつ、アップピッキングのみで弾いてみせる。音の切れ方はごく自然で、粒立ちが今まで舞台に出ていたバンドとは遥かに際立っていた。

 

「まだちょっとハリがないかな。まあ使っていくうちに落ち着くでしょ」

 

 スウィープは高等技術だ。C△パターンのスウィープ自体はその中でも簡単な方なのだが、派手さは際立つ。

まるで新しいお友達を見つけたかのごとく、そのテクを魅入っていたのは香澄とたえだ。しかし、グリグリにもポピパにも、こんな技術はいらない。

 

 アンプのスタンバイを落とし、チューブを冷やしているうちに、レンチで香澄のランダムスターのネックを調整していく。そして、弦とボディをクロスで拭いてやり、ギグケースに納めて香澄に返した。

 

 

 ギターからモップに持ち替えれば、床を拭くマシーンになるヒビキ。手伝いに来たポピパのメンバー達のこともあり、仕事はすぐに終わって、後はハコの鍵を閉めて、五人にお礼を言う。

 

「ありがとな、おかげで早く片付いたよ」

「いえ!私達がライブするとこですから、自分達も関わっていたくて!」

 

 純粋にライブをしたいのか、ただの突っ走りなのか。他の面子の状況を見ると、そうでもなさそうだ。

周りを引っ張る影響力は褒めてやってもいい。だが、周りを纏め上げる力があるかは別だろう。

 

 街頭が付いていても、もう辺りは暗い。女の子五人でこの夜道を歩くのは、安全ではあるが、最後に残った一人は危なかろう。見送ってやるか、と思ったが、皆有咲の家に行くらしい。それなら大丈夫だ。

 

 気をつけてな、と声をかければ、詩船の家に鍵を渡しに行き、自宅のマンション――宝くじでぶち当てた譲り受けた2LDKだ――に徒歩で帰る。男にしてはやたらと片付いた部屋で、PCを立ち上げ、インターフェイスの電源を入れたところで、彼の意識は眠りの世界へ飛んでいた。

 


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