真白き夢   作:こうちゃ.com

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注意書きです。
おおざっぱには2点ほどになりますが、飛ばしてもらっても構いません。

・この小説は移動中の暇つぶしがてら執筆したものです。
各所に矛盾やおかしな日本語が含まれていることと思います。

・「戦記もの」とタグはついていますが戦記ものがどういうものか理解してません、階級や上下関係も大分テキトーです。

駄文ではありますが、どうぞよろしくお願いします。





邂逅と再会と
魔女の憂鬱


 頭上に広がる満点の青空、耳を澄ませば鳥の鳴き声が聞こえてくるだろうかというぐらいの沈黙。

風の音は安らかで、あたかもそれはこの場にいる全生命を生暖かい空気で包み込むが如し、と言ったところだ。

人一人居なければ、そこは完全なる静寂の空間と呼ぶことも出来るだろう。

ただ広い平野、敵軍を待ち構える女の姿はそこにあった。

夜の闇にすら鮮明に浮かび上がる白の髪、月のごとく白い布に、世の赤を一点に拾い集めたかのような輝く紅の瞳。

か細いその腕はとても戦へ赴く者の姿を連想させるものではなく、そんな可憐な外見からはむしろ、何処か裕福な家の末っ子とでも言ったほうが差し支えがないように思える。

浮かない顔で下を見下ろすそんな彼女はきっと戦いなど望んでいないのだろう、と容易に想像がつくはずだ。

 

「あらアイリス、もしかしてずっと立ってたの?」

 

虚空見つめていた彼女はそう呼ばれて、ピクリと肩を僅かに震わせた。

声の主は彼女の後ろである、振り返って見てみれば肩や胸に鎧を身にまとう女の姿が彼女・・・・・・アイリスの目に入ってくる。

 

「あぁ、ごめんなさい。ちょっと緊張してまして」

 

背丈は微妙にアイリスの方が低いのだろう、軽く鎧の女を見上げながら、親しい友人に話しかける時のそれと同じく、穏やかな軽い笑顔でそう答える。

 

「もう・・・・・・、ベルキア軍の連中がいつ来るかもわかんないんだし休める時にちゃんと休まないとだめじゃないの」

「私は魔女、ですから・・・・・・」

 

飲まず食わず、寝なかったとしても大丈夫。

アイリスは正面へ視線を移しながらそう付け加えた。

 

ーーーー魔女、名の通りに魔力を扱うことのできる人間の総称だ。

生命維持や天候操作、天変地異ですら本人の体内の魔力次第では行使でき、その特異性から強大な戦力として扱われることが多い。

 

「うるさい、座れよぅ」

「はは、ちょっと、痛いですって」

 

対して鎧の女はグリグリと冗談半分にアイリスの頭に腕を押し付けている。

先述の通り、魔女は偉い。魔女「様」なのだ。

本来恐れ多くともこのように魔女に接する人物は稀だ。

鎧の女の、この立場を知らぬ言動はこの二人の友情の賜物だろうか。

この瞬間を写真にでも納めれば・・・・・・平和なものだ、と思うかもしれない。

 

「ならいっそ、このまま昼寝しちゃいますか?」

 

どこか悪戯めいた作り笑いでアイリスはそう言う。

 

「死ぬ死ぬ、普通に死んじゃうって」

「ふふふ、本気で言ってます?」

「あんたの言葉が本気かどうかがアタシは心配よ」

「冗談です」

 

それを聞いた鎧の女は、さもそれが長年行われてきた儀式であるかのように、「そう」と重みのある声色で返した。

それをアイリスも「はい、そうです」と返すのだ。

 

とても冗談を言い合って笑いあう空気ではないのは明白だ、会話を始めれば次の言葉に詰まるのはもはや必然である。

自分が数時間後生きているかは、神ですら知る由はないのだから。

 

「いつまで私たちはこんなことをしなければいけないんでしょうか」

 

そんな時に愚痴から漏れるのはそんな他愛のない話題だった。

戦争を望まぬ兵士はほぼ例外なく口にするだろう。

皆が知っている、そんなことは誰にもわからないと。

だからこそこの話題は尽きないのだろう。

 

「さあ、王が止めるって言ったらじゃあないかしら?」

「人を殺すのはやっぱり、嫌です」

 

そういって瞳を閉じたアイリスの表情は依然として暗いままだった。

そうしてやがて会話が止まり、静けさはその色を取り戻す。

戦の気配は、確かに這い寄って来ている。

 

 ーーーー否、もうすぐそこに来ているのだ。

 

「敵軍勢確認!! 来ます!」

 

沈黙を破り戦の狂乱を告げる、監視砦からの耳を貫くような声が平野に響き渡る。

 

「来ましたか・・・・・・」

 

だが・・・・・・いや、だからこそ気を引き締め戦いを始めようとするには、アイリスの表情は浮かないものだった。

鎧の女はそんなアイリスを不安そうに一瞥して、その場に立ち上がった。

 

「・・・・・・」

 

彼女が戦いを好まないのを、鎧の女は知っているのだ。

このままいってしまっては、そんなアイリスが心配なのである。

そう思っているのか、彼女はしばらく動かずにいた。

 

「大丈夫ですから」

 

アイリスからの一声。

泣きそうな幼子をなだめ、落ち着かせようとするそれに似ていた。

 

「・・・・・・行くわ、気をつけてねアイリス」

「はい」

 

納得はしたのだろう、結局彼女は生還を祈るほかないのだ。

やがて、付け足すように言い残して、鎧の女は戦場へと向かうのだった。

 

 

 

 戦場は続く、地の上に屍の橋を築いてゆきながら。

 

「・・・・・・てやあああああっ!!」

 

一閃、彼女の魔力が兵士たちの肉壁を粉々にしながら活路を抉り取る。

道は開かれた、となれば続く行動は突撃の他はあるまい。

 

「今です!」

 

凛とした号令が全軍に響く。

うおおおおッ、と地響きの如き進軍が始まった。

アイリスはその最前線へと切り込んでゆく。

彼女は前線の兵を後続に任せ、右へ左へ縦横無尽に駆け回る。

 

まず左から迫ってきたのは剣。

素早く動くアイリスの軌道を正確に捉えた鋭い斬撃である。

それを手で白刃の軌道を逸らし兵士の腕を掴んで折った。

そのまま左奥の弓兵を薙ぎ払う。

鎧を付けた兵士とはとても思えない勢いで周りの兵士が吹き飛ぶ。

 

だが兵士は怯むことなくアイリスへ向かって突撃した。

このままでは囲まれて身動きが取れなくなるだろう。

そう思ってか彼女は一歩引いて様子を見る。

そこに兵士がなだれ込む・・・・・・間違いなくこれは悪手だった。

前からも後ろからも囲まれもはや身動きは取れない。

 

「うわぁぁぁッ!?」

 

ーーーーもっとも、そこに魔女がいたらの話だが。

囲まれる寸前に、兵士の股下を抜けて兵士たちの隊列の穴に飛び出していったのだ。

抜けると同時に放たれる蹴撃に兵士達は断末魔の悲鳴を上げる。

 

「・・・・・・!」

 

殺気、明確に彼女へ向けられたそれをアイリスは感じたはずだ。

見れば左から突如として矢が放たれていた。

近接距離故にそれは弧を描かず、真っ直ぐ飛んでくるのが見える。

それに素早く反応し、アイリスは咄嗟にしゃがむことで回避。

その次の瞬間には直角に方向転換した後に矢を放った弓兵へ急速接近した。

一切の防具を纏わないが故に、戦場で彼女に追いつける者はそうはいない。

 

そのまま動けずにいる兵士の顎を蹴り砕く。

堅いものが粉砕される時の、嫌な反動が彼女の足へと響き渡った。

さらに蹴りの後に腕に魔力を込めておくアイリス。

彼女は、弓兵の後ろに隠れて首を狙うアサシンの存在に気づいていたのだ。

 

「なにっ!」

 

魔女は既に攻撃の寸前だ。

驚く兵士に対して魔女の目は冷徹であった。

 

「ごめんなさい・・・・・・」

 

だがそれは彼女の苦悩の結果の表情であると知ることなく。

次の瞬間、兵士の腹を魔女の拳が貫通した。

 

続けざまに両手の方向から兵士が斬りかかってきた。

片方は足を、もう片方は首を、上下をカバーする攻撃だ。

 

「せぁッ!」

 

アイリスは腹を貫かれたばかりの兵士を盾に右からの斬撃を止めた。

殺しきれなかった衝撃がアイリスの左頬を掠める。

さらに盾を押し込み右からの兵士を奥へと押し込み、今度は左から接近する刃を右足で瞬時に蹴り上げた。

剣が鋭い金属音とともに兵士の手元を離れていった。

ヒュンヒュンと刃が虚しく空気を割くこの音は、その剣の持ち主にとって死刑宣告も同然であった。

 

「ぐ、ぐぅ! ・・・・・・あ、あ、悪魔めッ!!」

 

男の顔が恐怖に染まる。

アイリスの目の前の兵士は死に直面していることを今はっきりと自覚したのだ。

腰につけた短剣を哀しいほどに激しく振り回す、その姿。

まるでそれは、溺死寸前の、空気を求め必死にもがく子供のようで・・・・・・。

 

「・・・・・・悪魔・・・・・・ですか」

 

たしかにそうかもしれない、と。

アイリスは拳を振り下ろしてそう思った。

 

 

 

 戦闘終了。

ーーーー北方より接近したベルキアの大隊を撃退。

日の沈みかけたその戦場で、淡々と状況報告をする通信兵の声だけが木霊していた。

 

 


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