死を視る王   作:水天宮

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これでアニメ何話分ですかね。





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如何にしてマスターの手からランサーとアーチボルトを逃れさせるか。

 

 

 

 

 

窮地を救った彼らに報いるには、我がマスターの策謀を阻止すべきだと思う。

幸いにも、キャスターを討伐した現在における次の標的は間桐雁夜とバーサーカーである。

当分、マスターが彼らを狙うことはないとしても、早いうちに彼らの安全を確保しておきたい。

 

 

加えて、二十年後の大聖杯解体をより迅速に行う強力な人材にもなるだろう。

ウェイバー・ベルベット共々冬木の聖杯戦争を終結に導いてほしい。

 

 

 

 

 

 

……聖杯の汚染を伝えるか?

この戦いが異常をきたしていることを示すにはどうすればいいだろうか。

大聖杯そのものを見れば、疑う余地もないのだが。

 

 

 

 

 

「ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは不在。ランサーは二槍を保持。どうしたものか」

 

 

 

そういえば、言峰璃正が殺されることはないのか。

この先何らかのアクシデントで監督役が死ぬこともあり得るが、少なくともアーチボルトが殺すことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ明けやらぬ早朝。

晩秋の冷えた空気が鼻腔を通り、脳と心を静かに研ぎ澄ませていくのが実に爽快感溢れる。

 

 

 

ランサーたちの仮拠点、廃工場の屋根に立つ。

間桐雁夜とランスロットを探すついでに交渉が出来ないものかと単独で来てみたはいいものの。

 

 

 

 

「……不在、か?」

 

 

 

結界はあるものの、人の気配はしない。

彼らは彼らで戦っているのだろう、と推測を立て、静かに立ち去ろうと踵を返して地に降り立つ。

 

 

 

 

 

 

「────まさか、お前がここに来るとは」

「! ランサー」

 

 

 

 

真っ先に視界に入ったのは見慣れた麗しの青年槍兵だった。

物陰に隠れるようにしてアーチボルトの姿があるのも確認できる。

 

 

 

 

「それで、何のようだ? まさか世間話をしに来たわけではあるまい? キャスターを屠る際にあの大技を繰り出したのだ。宝石剣を作り出しもした。呪詛に苦しみもした。多大な消耗があってもおかしくなかろう? それでもここで剣を交えると?」

「そうだな。実際、世間話というのも当たらずも遠からず、といったところだ」

 

 

 

怪訝そうに眉を顰めるランサー。

 

 

 

 

 

「まずは感謝を。フィオナ騎士団の麗しき騎士、ディルムッド・オディナ。私は貴方に命を救われた。それ以外にも、貴方の存在があったからこそ助かったことが幾度となくある。……本当に、ありがとうございます」

「……本当に律儀な後輩だ。用件はそれだけか?」

「いいや。──私はこの恩を忘れない。故に、この聖杯戦争の間、貴方たちの命は、何があっても私が守ると誓おう」

 

 

 

 

まず、これは譲れない。

 

 

 

「なるほど。自分は命を救われた、だから相手の命を守る。これだけならば等価交換としては成り立っているようだな」

「……俺は納得いかない。戦場において忠義を果たす、これこそが我が望み。それを邪魔するようにも聞こえるが? 加えて、決着をつける約束もあっただろう?」

「それでも、だ。自分の命を救った相手に素知らぬ顔で剣を向ける非常識人は、私のマスターだけで十分だ。ある意味、マスターへの裏切りでもあるが、構うものか」

「だが、私をその範疇に入れる意図が不明だ。あくまで貴様の命を救ったのはランサーであり、決して私ではない。何故私も入るのだ?」

 

 

 

アーチボルトにはそう映るのか。

彼にも恩があるのだが、彼がそう考えるのなら、こちらも理由を作ればいい。

 

 

 

 

「少し話が長くなるが……構わないか?」

「私の命を保障する理由ならば、いくらでも話せばよい」

「ありがたい。────話は、今から六十年前の第三次聖杯戦争にまでさかのぼる」

 

 

 

 

 

多くの情報を伝えた。

 

 

アインツベルンがルール違反を犯してアヴェンジャー「この世全ての悪」を召喚したこと。

 

聖杯に収められた結果、聖杯が悪性情報に汚染されたこと。

 

無色の願望機は人類を駆逐する装置となったこと。

 

私が召喚されたのは「この世全ての悪」が顕現するのを阻止したい抑止力の導きであること。

 

当のアインツベルンは第三魔法の再現さえすれば構わないスタンスであること。

 

 

 

 

 

 

「証拠は、あるのかね?」

「深山町の柳洞寺。そこの地下に大聖杯が敷設されている。この街の魔術的観点における心臓部だな。あと……間桐家の当主、間桐臓硯も知っているはずだ」

「貴様が私に託すのは何だ?」

「大聖杯の解体、及び聖杯戦争の完全な終結。無論、一朝一夕に終わるようなことではない」

 

 

 

 

それまでにもう一度聖杯戦争が発生するだろう、と付け加えた。

アーチボルトは視線を地面に向けて口元を引き締めながら沈黙している。

 

 

 

「理由としてはこんなところだ。もし承諾しなくても、私が勝手に貴方を守る。それだけだ」

「私が単独で聖杯を解体できるとでも?」

「……ウェイバー・ベルベット。それと、遠坂時臣の娘。この二人は確実に使える」

「後者がどのような人物か知らないが……凡庸、かつ若輩である彼が私の役に立つと?」

「彼の鑑識眼と思考は紛れもない宝石だ。魔術の才はなくとも、魔術師を育てる才は間違いなく随一といえる。時計塔の勢力図を書き換えることすら可能だろう。……そも、あの征服王が目にかけている時点で、その辺りは愚問ではないか?」

 

 

 

もっとも、あの構いたがりのことだから、才能の有無は関係ないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

風が沈黙に吹きぬける。

徐々に空が白み始めていた。

 

 

 

 

 

「今回の聖杯戦争で現れる小聖杯はどうするのだ?」

「私が破壊する。切嗣が令呪で止めようと、確実に」

「……そうか。では、ランサー。この聖杯戦争最後の命だ。セイバーと共に、小聖杯を破壊せよ」

「! マスター、それは……」

「セイバー。このケイネス・エルメロイ・アーチボルト、わが命の保障と引き換えに貴殿より託された使命、これを遂行してみせることを誓おう」

 

 

 

 

真っ直ぐな眼差しでこちらを見据えるアーチボルト。

 

 

 

 

「──ありがとう」

「何、等価交換は魔術の基本だ。衛宮切嗣に見つからないうちに帰っておきたまえ」

「一応ランスロットを探していたところだ。それなりに冬木を回ってから帰るさ」

 

 

 

それでは、と廃工場から立ち去った。

 

 

 

 

 

────彼らのことだから、ある程度の危害はどうにでもできると思う。

少なくとも、切嗣の攻撃対象にならなければいいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、これはおぞましい」

 

 

 

 

セイバーが示した大聖杯の在り処。

試しに二人で訪れてみたが、騎士王の説明は真実であった。

 

 

 

 

「これは生半な手腕ではどうにもならん……解体までにもう一度聖杯戦争が起こるという見立ては間違いないだろう」

「いつになるでしょうか?」

「さて……聖杯を破壊しても、魔力が満ちたままだというのなら、十年といったところか」

 

 

 

この世全ての悪を満たした願望機。

現れた瞬間、どうなることか。

 

 

 

 

「交わした以上、約定は果たす。……確認はできた。戻るぞ、ランサー」

「御意」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠坂からの同盟の申し立て。

ランサー、ライダー、そしてバーサーカーを相手取るにあたって与しやすいと考えたのだろう。

アイリスフィールは舐められていると言っていたが、その通りだと思う。

どうにか生きながらえているとはいえ、先のキャスター討伐で私は多大な消耗をしたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

冬木教会。

出入り口に久宇。通路に私とアイリスフィール。

正面には遠坂、言峰。壁にもたれているアーチャー。

 

 

 

 

 

 

……言峰とアーチャーが密約を交わしたのはいつだったか。

遠坂の「うっかり」も真面目に考えてみれば全く笑えない。

 

 

 

 

 

 

 

御三家ではなく、外様の魔術師に聖杯が渡ることを危惧している遠坂。

それ故に同盟を結ぶことを持ちかけたようだ。

しかしアイリスフィールは強気な態度で突っぱねた。

ただ、倒す順番をつけることに異論はないらしい。

────遠坂を敵とするのは他のすべてのマスターを倒した後。言わば条件付き休戦協定。

 

 

 

 

アイリスフィールが要求したのは二つ。

ライダーとそのマスターの情報開示。言峰綺礼の聖杯戦争から排除。

後者の理由に、アインツベルンとの遺恨を上げた。

彼を擁護するなら信用することはできない、と。

 

……まぁ、こっそり手を組んでいるなど、確かに信用できないだろう。

内心で自分のことを棚に上げてそんなことを考えた。

 

 

 

 

 

それにしても……この男、さすがに節穴過ぎるのではないだろうか。

全くの赤の他人であるにも関わらず、無意味に不安と呆れを覚えてしまうのは何故だろうか。

 

 

 

思わずため息をついた。

弟子と使い魔が裏で手を組み、自分を葬ろうとしていることに感づかない遠坂時臣。

 

 

 

 

 

 

 

それはそれとして盟約。

 

最後に相争うのは私とアーチャー。

……生存を約束したランサーをどう誤魔化せばいいだろうか。

征服王は英雄王が屠るだろう。

ランスロットは、上手く処理できればいいのだが、やはり間桐桜の魔力供給がネックだ。

 

 

 

 

 

 

 

「焼くか、間桐家」

 

 

 

 

これが一番、手っ取り早い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうあれ、あの五百年熟成された妖怪は早いうちに潰しておいても問題ないと思う。

 

 

 

「陰鬱だな……魔術師の家はこういうものか?」

 

 

 

一度拠点に戻った後、切嗣と改めて話し合った。

バーサーカーを潰すには、彼を現界させる要因を断つべきだろう、と。

 

 

 

間桐桜は魔力を供給するラインを断ち切れば殺す必要はなくなる。

間桐雁夜は、まぁ放っておけばいいだろう。

明け方には遠坂時臣も背後からアゾット剣で刺されている頃合いだと思う。

 

 

 

 

腰元の宝剣に手をかけ、魔眼を起動する。

結界に絡みつく様に縦横無尽に張り巡らされた死線めがけて居合切りの要領で剣戟を叩き込んだ。

それだけでピシリと罅が入った結界はたちどころに砕け消えた。

 

 

 

 

 

「さて、いくか」

 

 

 

 

無防備になった間桐の敷地内に侵入する。

魔力放出で一気に玄関の扉まで跳躍し、その勢いのまま蹴破った。

 

 

 

 

 

「では、存分に破壊させてもらおう」

 

 

 

 

そう呟いて、魔術の炎で玄関一帯を燃やす。

この家における最も重要な施設は地下の蟲に満ちた蔵。欠片一つ残さず、まるごと燃やし尽くせば間桐はほぼ再起不能に陥るはずだ。

 

 

 

 

……間桐の人間は大体揃っているらしい。

ならとっとと燃やして殺虫したのち、魔力供給ラインを断ち切っておくとしよう。

 

 

 

 

 

室内を駆け巡り、炎を撒き散らしながら探索する。

 

 

 

 

 

 

「地下、か……なら普通に蹴り抜けるか」

 

 

 

 

 

 

その場で跳躍し、脚に魔力を集めて床に大穴をあけて一気に降下する。

仄暗く、生臭い空間に蠢くおびただしい蟲どもに掌を向ける。

 

Flame,blade rain(焔よ、刃の雨となれ)──────!」

 

 

 

 

小さくも燃え滾る炎の剣が降り注ぎ、蟲に着弾した瞬間に爆発して周辺を一斉に焼いていく。

ひらりと身をひるがえして軽やかに着地。振り向くと、二人の姿が視界におさまった。

 

 

 

 

 

 

「バーサーカーのマスター、間桐雁夜だな? それと……間桐家当主、間桐臓硯──否。マキリ・ゾォルゲンと呼ぶべきか?」

「な────お前は、セイバー……!? 何故、ここに?!」

「何故だと? 敵の本拠がガラ空きならば、そこを叩くのは戦争の基本だろう。何せ、当のバーサーカーが見当たらないんでな」

 

 

 

ならこうするしかあるまい? と、剣を向ける。

あからさまに怯えの表情を見せる間桐雁夜と苦々しい表情の間桐臓硯。

 

 

 

 

 

 

「さて、質問だ。間桐桜はどこにいる?」

「っ、桜ちゃんに何をする気だ!?」

「貴様たちの態度による。あぁ……無論、こちらも情報を開示する。遠坂時臣はそろそろ死ぬぞ」

「は? と、きおみが……?」

「何でも裏切られるらしい。もっとも、だからと言って、何かが変わるわけでもないがな。間桐桜は永遠に間桐桜のままだ。彼女を間桐から出すことが望みらしいが……徒労だったな、間桐雁夜」

「それで? セイバーよ。桜をどうするつもりじゃ?」

「回答しないなら、こちらで探すまでだ」

 

 

 

 

 

知覚魔術を屋敷内全体に広げる。

すぐに見つかった。どうも地上の屋敷にある一室にいるらしい。

ならばここに用はない。

跳躍で上に戻り、最高速度で部屋に辿り着く。扉は斬り破った。

 

 

 

 

少女を視認。

すぐさま、魔眼を起動する。

 

 

 

 

「直死──────」

 

 

 

 

 

 

少女の肉体に青い死線と死点。

……違う。これではない。

もっと、もっと目を凝らして、よく見て──

 

 

 

 

 

脳が過熱するのを無視する。

一本の、赤黒い線が彼女の肉体に繋がっているのが見えた。

それを確認した刹那、宝剣を振るった。

 

 

 

「はぁ────!」

「っ────……」

 

 

 

 

 

赤黒い線の先を見据える。

……近い。ランスロットは間桐邸にいたらしい。

 

 

 

 

 

 

確認した次の瞬間、例の黒い影が乱入してきた。

 

 

 

 

「AAAAAAAAAAAAAArrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!」

「ハン、意外と元気だな? まぁいい、適当に遊んでやるさ」

 

 

 

 

宝具になった何かの棒切れをこちらに向けて振りかぶるランスロット。

剣で捌き、がら空きになった脇を突くが防がれる。

部屋から追い出すように腹を蹴り飛ばした。

 

 

 

 

「A…………thur…………!」

「あぁ、私だ。何か言いたいことでもあるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

狭い廊下で剣戟は非常にやりづらい。

それでもランスロットは一周まわって笑えるほどの技量でこちらを攻めてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと……いい加減、顔を見せて欲しいところなんだがな!」

 

 

 

強く斬りつけて怯んだその瞬間、兜を蹴り上げて弾き飛ばす。

ガン、と鈍い音を立てて転がるのが耳に入る。

それでも視線は正面に立つ長い付き合いだった騎士に向けていた。

 

 

 

 

「AAArrr……!」

「ハッ────随分と印象が変わったな。見違えたぞランスロット」

 

 

 

 

犬歯をむき出しにして唸り、あの憂いを帯びた瞳は狂気に取りつかれている。

 

 

 

 

 

 

「では続きだ。まだ夜は長いぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、散々なぐり合った後、バーサーカーの霊体化を合図に戦闘を終えた。

間桐臓硯は私を逃すつもりはないようだが、適当に屋敷と蔵を火にかけて逃げた。

 

 

 

 

今日中に、彼と決着をつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----

 

 

 

 

 

多分原作より一日はやく終わりそう。

 

 

 

というわけで今回のハイライトはランサー陣営との密約ですね。

あと間桐家大炎上。十年後にどこまで持ち直しているやら。

 

 

 

第三次までは反英雄は召喚不可能、汚染されたために四次五次で召喚可能になった。

このことを遠坂氏は知っているのでしょうか。……知らないだろうなぁ。

 

 

 

あと三話以内に終わりますかね。

ちょっとした蛇足も書きたいのですが。

 

 


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