いつまでもボコだと思うなよ   作:忍者小僧

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8 キャバ嬢という仕事

「き、君は……」

 

僕は、みほちゃんを見てうわずった声を上げた。

すると少女もこちらに気がついた様子だった。

 

「あ! ボコのおじさん!」

 

言ってから、「あっ、しまった」というように舌を出す。

僕は、いいよ、という風に小さく頷いた。

すると少女は笑顔になった。

花が咲いたような微笑みだ。

華やかさと幼さ、純粋さが同居している。

 

「うわ~! こんなところで合えるなんて奇遇ですね!」

 

少女がにこにこと微笑む。

 

「えへへ。実は私、おじさんのことがあの後もずっと頭に残っていたんですよ。だから、こうしてもう一度会えるなんて、なんだかうれしいです」

 

僕は、頬が火照るのを感じた。

違う。

こんな少女にときめくはずがない。

僕はもう、いい歳をした大人なんだ。

これはきっと、酒を飲みすぎたせいだ。

 

「横、良いですよね?」

 

みほちゃんが問いかけながら、すでに僕の隣に腰掛けていた。

 

「お酒、お強いんですか?」

 

僕の飲みかけのウィスキーグラスを手に取り、濡れたグラスのふちを指で撫でる。

その指が、妙に艶めかしい。

 

「そ、そこそこ、だよ」

 

僕の声はまた上ずっていた。

これじゃまるで喜劇役者だ。

僕は額を押さえる。

 

「でも、ここに来る前にもう飲んでらしたんですよね?」

「あ、あぁ」

「すごいなぁ。私、お酒って強くないから、憧れちゃいます」

「き、君だってすぐに慣れるさ。こういうお店で働いているんだから」

「だと良いな……。まだ、日が浅いから、慣れなくって。今日は、おじさんが相手で良かった」

 

うるんだ瞳が、僕を見つめる。

僕がその瞳に吸い込まれそうになっていると、湯浅が会話に侵入してきた。

 

「お嬢ちゃん。みほちゃんって言うんやな」

「あ、は、はい」

「可愛い名前やなぁ。顔も可愛いわ。すぐに人気出るぞ」

「そ、そんな……」

「カマトトぶらんでええがな。そんだけ可愛いんや。男喰ってきたんやろ? ん?」

「…………」

「この社長さんはオボコイから。あんまりネンネのふりしてかどかわし過ぎんといたってや?」

「…………」

「だぁんまりかいな。やわこいほっぺやなぁ」

 

湯浅が、みほちゃんの頬に触れた。

柔らかい頬の肉に、指が食い込む。

 

「んん~。モチモチやなぁ」

「あはは。湯浅のおじ様、やりすぎだよ~」

 

沙織ちゃんが湯浅の隣で笑う。

 

「みぽりん。このおじ様、こういう人だから。ちょっと我慢して触らせてあげて~」

「う、うん」

 

みほちゃんはぎこちなく微笑んだ。

 

「女の子のお友達ごっこはおもろいなぁ。みほちゃんは経験豊富やでなぁ? 男の子にいぃっぱい触られてきたもんなぁ? これぐらい平気やでなぁ~?」

 

湯浅がにこにこと微笑む。

 

「へ、平気です」

 

みほちゃんも微笑んだ。

そんな様子を黙って見ていると、今度は僕に矛先が向いた。

 

「んぉ、社長さん、ジェラシーかいな? ジィッと見よってからに。 ん?」

「嫉妬なんて、そんな」

 

僕の言葉に、湯浅の目が細められた。

低い声で湯浅が言った。

 

「よぉ、ワレ。今、なんで言い直したんや?」

 

僕は驚いて口をあんぐりと開けた。

 

「え?」

「俺が今、ジェラシー言うたのに、お前、わざわざ嫉妬と言い直したやろ」

「そんなの、無意識で」

「ふざけんなや。俺がジェラシー言うのをダサいと思ってほくそえんどったんやろ」

「違う、そんなつもりは……」

「まぁ、ええわ」

 

また不意に湯浅の表情が変わる。

 

「ここは楽しい場や。許しといたろ。おら、酒飲めや」

 

なぜ貴様に許してもらわねばならない。

そう怒鳴りたい気持ちを抑えて穏便に答える。

 

「それぐらいにしといた方が……」

 

だがその言葉も湯浅には火に油らしい。

湯浅が声を荒げた。

 

「なんやとぉ!?」

 

そこに、沙織ちゃんが割って入った。

 

「まぁまぁ、湯浅のおじ様。お酒飲んで、お酒。ほら、おじ様のだぁい好きなウィスキー。さおりんがソーダ割りにしてあげたよ」

「ほな、口移しで飲ませてぇな」

「うぇ?」

「嫌なんかい?」

「しょ、しょうがないなぁ。もー。湯浅のおじ様だけだよ?」

 

へらっと笑いつつも、眼が笑っていない表情で、沙織ちゃんがハイボールを口に含む。

 

「んふふ~。ちゃんと口ゆすぐみたいにくちゅくちゅしてや?」

 

嬉しそうに湯浅がそう命令すると、沙織ちゃんは、ハイボールで口の中をくちゅくちゅとさせ、それから唇を湯浅につきだした。

 

「よっしゃよっしゃ。沙織ちゃんの口の中で混ぜ混ぜされたハイボール、おっちゃんが飲んだるぞ」

 

ぶちゅっと、湯浅が沙織ちゃんに口づけし、口と口を結合させる。

 

「んぐ、んく、んくっ」

 

そのまま、口移しというよりも、吸い取るかのように沙織ちゃんの口の中のハイボールを飲み干していく。

僕はその様子を見ていて、吐き気がしてきた。

と、みほちゃんを見ると、彼女は無表情に二人の様子を見ていた。

 


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