いつまでもボコだと思うなよ   作:忍者小僧

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30 もうすべて成し遂げられたこと

「怒ってなんていないよ」

 

この上もないほどに優しい声が聞こえる。

その声は、西住みほの声だ。

彼女は今、愛里寿のスカートを捲り上げ、下着に鼻先をつけながらつぶやいている。

 

「ふぇ……」

 

怯えた声を上げる愛里寿を諭すように、西住みほが言葉をつなぐ。

 

「いい子だね……怖がらないで。お姉ちゃんはね、ちっとも怒ってないんていないよ? 愛里寿さんがオナニーしていたことを咎めたいんじゃないんだよ?」

 

西住みほの手が、愛里寿の細い太ももに触れる。

ゆっくりと、いとおしげにそのすべすべの肌を撫でる。

 

「ねっ。お姉ちゃん、愛里寿さんと、もっと仲良くなりたいな。愛里寿ちゃんって呼んでもいい?」

「う、うん」

「ふふ。きれいな足だね。愛里寿ちゃんのすべてがきれいだよ。こんなにきれいでかわいくて、まだ小さいのに、オナニーしちゃったんだね」

「み、みほさん」

「大丈夫、大丈夫。ちっとも怒ってないかね。怖がらないでね」

 

小さい子供をあやすように呟きながら、西住みほの指が、愛里寿の股間に触れた。

 

「んぅ」

 

愛里寿が吐息を漏らす。

そして、下着越しにそっと大切な部分を撫でていく。

愛里寿が、くすぐったいような、せつないような声を上げる。

 

「まだ、よくわかってないんだよね? オナニーのこととか。それで、自分が悪いことをしてるんじゃないかって戸惑ってるんだよね? 大丈夫だよ。お姉ちゃんが、ゆっくり教えてあげるから」

「あ……み、みほさん……」

「ほら、ここ。もうぐしゅぐしゅだよ?」

 

西住みほが、下着をいじっていた指を離す。

するとかすかに糸を引いたように見えた。

 

「ね。お姉ちゃんが、もっといろんなことを、ちゃんと教えてあげる。だから、ベッドに行こ?」

 

西住みほが、愛里寿を見つめる。

あのつぶらな瞳を、じっと見つめる。

……僕は、画面のこちら側で歯ぎしりした。

やめろ。

やめろ。

やめろ。

このっ。

僕の愛里寿に、おかしなことを吹き込むな。

西住みほ!

くそっ。

僕は画面の枠を強く揺さぶる。

そしてやっと、それがノートパソコンの画面であることに気が付く。

なんてことだ。

なんて遠いんだ。

僕と、彼女らの世界は離れている。

こんなにも隔てられている。

これは、画面の向こうで起きていることだ。

僕は、画面の向こうへと手を伸ばすことができない。

いや、待てよ。

それどころか。

これは、この画像は、この動画は。

一週間前に録画されたものだ。

それはすでに、起こったことなのだ。

この出来事はすでに完結し。

もうすべて成し遂げられた出来事なのだ。

その事実に思い至った時、僕は愕然とした。

あまりの恐怖に、足が震えた。

これから、画面の中で起こる事実に、僕はもう干渉できない。

僕は、愛里寿と西住みほに。

もう干渉できないのだ。

僕は。

血走った眼で、画面をにらんだ。

画面の中では、西住みほが、愛里寿の肩を抱き、耳元で何かをささやいでいた。

僕の耳が、そのつぶやきのような吐息のような声をとらえた。

 

「ね? 怖がらないで? お姉ちゃんと、しよ?」

 

くそっ。

くそっ。

愛里寿は、西住みほに耳元でささやかれ、頬を赤く染め、戸惑うようなそぶりを見せている。

けれども、肩に触れられた手、西住みほのいやらしい手つきを、拒まないでいる。

どうしてなんだ。

どうして拒まないんだ、愛里寿!

その女はおかしい。

異常性愛者だ。

君を犯そうとしている。

ペドフィリアの変態レズビアンだ。

拒め。

拒んでくれ、愛里寿。

頼む。

頼むから。

そんな女の言いなりにならないでくれ。

君には僕がいるだろう?

君を愛している僕が。

僕の愛里寿になってくれ。

なって……くれ……よぉ……。

 

「うっ、く。うぅぅ」

 

気が付くと、とめどもなく涙がこぼれていた。

なぜならば、画面の中ではすでにもう、愛里寿が西住みほの行為を受け入れていたからだ。

はじめは照れ臭そうに、怯えながら。

だが徐々に、快楽におぼれ。

西住みほという、美しい年上の少女の、柔らかい体に抱きしめられ。

愛里寿の華奢な幼いからだが、初めて知る女の悦びに震えていた。

二人の汗がとめどなくベッドに染み込み、二人の喘ぎ声が、アパートの部屋に響き渡る。

その様子を改造ボコのレンズは冷徹に見つめていた。

僕の設置した改造ボコのレンズを通して、僕の愛しい少女が奪われ乱れ喜ぶさまが、今この僕の部屋に再現されている。

それはあまりにも皮肉でゆがんだ状況だった。

これは一体、何なんだ。

これは現実なのか?

そうか、これが、現実なのか。

これがすべて、もう。

成し遂げられて終わった出来事なのか。

 

僕は、へなへなとしゃがみ込み、天を仰いだ。

 

「うぁぁぁぁぁ……」

 

うめきとも、叫びともわからぬ声が、歯ぎしりの間から漏れた。

今、画面の中では、事を終え汗だくになった二人の少女が、ぐったりと抱き合いながらベッドで息をついていた。

西住みほが、いたずらをする子供のように、愛里寿の頬を撫でる。

くすぐったそうに微笑んだ愛里寿がつぶやいた。

 

みほさん……大好き……

 

愛里寿のその、幸せそうな言葉を聞いた時、僕の中の何かがひび割れた。

僕は、体の奥底から沸き起こる、かつて感じたことのないほどの悔しさを覚えた。

僕は立ち上がり、歌っていた。

なにを?

わかるだろ。

あの、ボコの歌だ……。

僕は立ち上がり、もぞもぞと着替え始めた。

体の動作が鈍い。

ジョギングに使っているジャージと野球帽をかぶるのだけに21分を浪費してしまった。

時間がのっぺりとしている。

のっぺりと引き延ばされ、息も絶え絶えと嘲笑っている。

 


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