映像の中の愛里寿が部屋の扉を開ける。
扉の向こうから登場したのは、見覚えのある少女だった。
西住みほ。
そう、あのカラオケ店の受付のアルバイト少女だ。
僕は舌打ちをした。
またこの女か。
顔立ちは悪くはないが、どうにも気に入らない。
今は愛里寿を見ることが目的だというのに、どうして部屋に入ってくるんだ!
くそっ。
そういうと、先日も部屋にやってきて誕生会をしたと愛里寿が言っていたな。
頻繁に遊びに来るようになっていたのか?
「み、みほさん……どうしたの?」
愛里寿が頬を火照らせたままの表情で問いかける。
先ほどまでしていた自慰行為の余韻がまだ、体の奥底に残っているのだろう。
僕は、その表情を僕に向けてほしいと思う。
画面の中の西住みほが、愛里寿にこたえる。
「どうって? 遊びに来ただけだよ?」
「そ、そうだよね」
西住みほが、にっこりと笑った。
「この間、言ってくれたよね? 『みほさん、お友達になってくれてありがとう。いつでも遊びに来てね』って。私、あの言葉忘れてないよ?」
「あ……う、うん」
愛里寿がばつが悪そうに曖昧にほほ笑んだ。
僕には愛里寿の心の中が目に見えるようだった。
愛里寿は友達を欲しがっていた。
西住みほは、大切な友人だ。
そんな彼女の気分を害したくないし、遊びに来てほしい、そのことは事実なのだろう。
だが、タイミングが悪い。
だって愛里寿は、ついさっきまで自慰をしていたところなんだぞ?
「ふふふ」
西住みほが唇の中で完結するような笑い方をした。
「ね、アルバイトが終わってすぐに来たんだよ? ちょっと走ったから疲れちゃった。座ってもいい?」
「う、うん」
愛里寿がうなづくと同時に、西住みほは部屋の中ほどに移動し、そこから右手へ折れる。
「え?」
愛里寿が小さく声を上げた。
椅子とは反対方向へ歩いたからだ。
「えいっ」
かわいい掛け声とともに、西住みほはベッドに腰かけた。
「あっ」
愛里寿が目を見張る。
「えへへ、ふかふか。いいベッドだね」
「あ、その……ありがとう」
何か言いたげな愛里寿の瞳を、彼女のベッドに腰かけた西住みほが見つめる。
「どうしたの? もしかして、嫌だった?」
「そんなことは……」
ずるい問いかけだ。
この問いかけはずるい。
行為を成し遂げてから是非を問うなんて、断らないことを強制しているのと同じだ。
案の定、愛里寿はうつむき、思案し、しかし、ベッドに座った西住みほを拒否することもできず、唇をかむ。
言えるわけがない。
そのベッドはさっきまで私が自慰をしていたベッドなの。恥ずかしいから座らないでとでも言えばいいのか。
愛里寿がそんなこと、言えるわけがないじゃないか。
僕は、画面にくぎ付けになる。
画面の中の二人に、静かな緊張感が走っている。
西住みほが、手に持っていたトートバッグを床に置き、空いた手でベッドのシーツを撫でた。
愛里寿の羞恥心が強くなっているのがわかる。
愛里寿は明らかに先ほどよりも頬を赤らめている。
何かを探るように西住みほは右手でシーツを撫で続ける。
一か所ではなく、少しづつ範囲を移動させていく。
「あ、あっ……」
愛里寿が声にならない声を上げるが、西住みほは動じない。
右掌が、ある一点にたどり着いた時、けげんな表情を作った。
「んん? ここ、湿ってる?」
「ふゃ!」
ぼんっと、音を立てて蒸気せんばかりに、愛里寿が沸騰した。
真っ赤になってとうとう言葉を紡ぐ。
「み、みほさん、ダメ!」
西住みほが顔を上げた。
「すごい声」
「ご、ごめんなさい」
「びっくりしたよ。何がダメなの?」
「え、えと、それは?」
「この湿ってるのと何か関係があるのかな?」
「そ、その……」
西住みほが立ち上がった。
シーツの湿った部分に触れた手のひらを匂い、それを舐める。
その動作が妙になまめかしい。
その動作を続けながら、愛里寿へと近づく。
「みほさん……?」
「隠さなくてもいいよ」
「ふぇ?」
ふぁさっと柔らかい衣擦れの音を立てて、愛里寿のスカートが捲り上げられた。
もちろん、西住みほの手によってだ。
スポーティーな水玉模様の、子供パンツが露わになる。
「み、みみみ、みほさん、な、ななにを!?」
「やぁっぱり、ここの匂いだ」
「ふぇぇぇぇ?」
西住みほが、にこやかに笑いながら、愛里寿の股間に鼻をくっつけた。
すんすんと音が聞こえそうなぐらいに、下着越しに股間の匂いを嗅ぐ。
「愛里寿さんの割れ目の匂い、シーツの匂いとおなんなじだね♪」
気が狂いそうなぐらいに無邪気な笑顔で、そんな言葉を吐く。
「あ、あぁぁぁ……」
すべてを見透かされたことを悟ったのだろう。
愛里寿は、もはや言葉をなくしていた。
呆然とも絶望ともいえる表情に、ありったけの羞恥をちりばめ、涙目になって、口をパクパクとさせる。
そんな愛里寿を見上げ、西住みほがつぶやいた。
「ふふふ、可愛い」