いつまでもボコだと思うなよ   作:忍者小僧

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29 画面の向こう

映像の中の愛里寿が部屋の扉を開ける。

扉の向こうから登場したのは、見覚えのある少女だった。

西住みほ。

そう、あのカラオケ店の受付のアルバイト少女だ。

僕は舌打ちをした。

またこの女か。

顔立ちは悪くはないが、どうにも気に入らない。

今は愛里寿を見ることが目的だというのに、どうして部屋に入ってくるんだ!

くそっ。

そういうと、先日も部屋にやってきて誕生会をしたと愛里寿が言っていたな。

頻繁に遊びに来るようになっていたのか?

 

「み、みほさん……どうしたの?」

 

愛里寿が頬を火照らせたままの表情で問いかける。

先ほどまでしていた自慰行為の余韻がまだ、体の奥底に残っているのだろう。

僕は、その表情を僕に向けてほしいと思う。

画面の中の西住みほが、愛里寿にこたえる。

 

「どうって? 遊びに来ただけだよ?」

「そ、そうだよね」

 

西住みほが、にっこりと笑った。

 

「この間、言ってくれたよね? 『みほさん、お友達になってくれてありがとう。いつでも遊びに来てね』って。私、あの言葉忘れてないよ?」

「あ……う、うん」

 

愛里寿がばつが悪そうに曖昧にほほ笑んだ。

僕には愛里寿の心の中が目に見えるようだった。

愛里寿は友達を欲しがっていた。

西住みほは、大切な友人だ。

そんな彼女の気分を害したくないし、遊びに来てほしい、そのことは事実なのだろう。

だが、タイミングが悪い。

だって愛里寿は、ついさっきまで自慰をしていたところなんだぞ?

 

「ふふふ」

 

西住みほが唇の中で完結するような笑い方をした。

 

「ね、アルバイトが終わってすぐに来たんだよ? ちょっと走ったから疲れちゃった。座ってもいい?」

「う、うん」

 

愛里寿がうなづくと同時に、西住みほは部屋の中ほどに移動し、そこから右手へ折れる。

 

「え?」

 

愛里寿が小さく声を上げた。

椅子とは反対方向へ歩いたからだ。

 

「えいっ」

 

かわいい掛け声とともに、西住みほはベッドに腰かけた。

 

「あっ」

 

愛里寿が目を見張る。

 

「えへへ、ふかふか。いいベッドだね」

「あ、その……ありがとう」

 

何か言いたげな愛里寿の瞳を、彼女のベッドに腰かけた西住みほが見つめる。

 

「どうしたの? もしかして、嫌だった?」

「そんなことは……」

 

ずるい問いかけだ。

この問いかけはずるい。

行為を成し遂げてから是非を問うなんて、断らないことを強制しているのと同じだ。

案の定、愛里寿はうつむき、思案し、しかし、ベッドに座った西住みほを拒否することもできず、唇をかむ。

言えるわけがない。

そのベッドはさっきまで私が自慰をしていたベッドなの。恥ずかしいから座らないでとでも言えばいいのか。

愛里寿がそんなこと、言えるわけがないじゃないか。

僕は、画面にくぎ付けになる。

画面の中の二人に、静かな緊張感が走っている。

西住みほが、手に持っていたトートバッグを床に置き、空いた手でベッドのシーツを撫でた。

愛里寿の羞恥心が強くなっているのがわかる。

愛里寿は明らかに先ほどよりも頬を赤らめている。

何かを探るように西住みほは右手でシーツを撫で続ける。

一か所ではなく、少しづつ範囲を移動させていく。

 

「あ、あっ……」

 

愛里寿が声にならない声を上げるが、西住みほは動じない。

右掌が、ある一点にたどり着いた時、けげんな表情を作った。

 

「んん? ここ、湿ってる?」

「ふゃ!」

 

ぼんっと、音を立てて蒸気せんばかりに、愛里寿が沸騰した。

真っ赤になってとうとう言葉を紡ぐ。

 

「み、みほさん、ダメ!」

 

西住みほが顔を上げた。

 

「すごい声」

「ご、ごめんなさい」

「びっくりしたよ。何がダメなの?」

「え、えと、それは?」

「この湿ってるのと何か関係があるのかな?」

「そ、その……」

 

西住みほが立ち上がった。

シーツの湿った部分に触れた手のひらを匂い、それを舐める。

その動作が妙になまめかしい。

その動作を続けながら、愛里寿へと近づく。

 

「みほさん……?」

「隠さなくてもいいよ」

「ふぇ?」

 

ふぁさっと柔らかい衣擦れの音を立てて、愛里寿のスカートが捲り上げられた。

もちろん、西住みほの手によってだ。

スポーティーな水玉模様の、子供パンツが露わになる。

 

「み、みみみ、みほさん、な、ななにを!?」

「やぁっぱり、ここの匂いだ」

「ふぇぇぇぇ?」

 

西住みほが、にこやかに笑いながら、愛里寿の股間に鼻をくっつけた。

すんすんと音が聞こえそうなぐらいに、下着越しに股間の匂いを嗅ぐ。

 

「愛里寿さんの割れ目の匂い、シーツの匂いとおなんなじだね♪」

 

気が狂いそうなぐらいに無邪気な笑顔で、そんな言葉を吐く。

 

「あ、あぁぁぁ……」

 

すべてを見透かされたことを悟ったのだろう。

愛里寿は、もはや言葉をなくしていた。

呆然とも絶望ともいえる表情に、ありったけの羞恥をちりばめ、涙目になって、口をパクパクとさせる。

そんな愛里寿を見上げ、西住みほがつぶやいた。

 

「ふふふ、可愛い」

 


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