いつまでもボコだと思うなよ   作:忍者小僧

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20 愛里寿とカラオケデート①

カラオケ店は、雑居ビルの5階と6階だった。

受付が5階ということで、エレベーターでそこまで上がる。

愛里寿は緊張した面持ちだった。

僕も始めてカラオケに行った子供の頃はドキドキしたな。

そんなことを思い出すと自然と頬が緩んだ。

5階に着き、受付でアルバイト店員の少女に声をかける。

 

「2名、1時間で」

 

とりあえず、それぐらいの時間でいいだろう。

僕はともかく、愛里寿はボコのテーマソング以外、歌える歌がないかもしれないし。

受付の少女が僕たちに問いかける。

 

「承知いたしました。機種のご希望はございますか?」

 

少女は、ボブぐらいの髪形にした可愛い少女で、名札には西住と書いてあった。

僕は、少し思案した。

カラオケは何度か来ているが、ボコの歌なんて歌ったことはない。

まぁ、アニメ化されている作品なわけだから、そこそこの知名度はあるはずだ。

しかし、もしもその歌が入っていない機種を選んでしまったら、愛里寿をがっかりさせてしまうだろう。

一応確認しておいた方がいいのかもしれない。

 

「あの、こういうこと聞いて、調べてもらえるかどうかわからないのですが。ボコられグマのボコのテーマソングを歌いたくて。それが入っている機種ってわかりますか?」

「え!? ボコですか?」

 

受付の少女の目の色が変わる。

ぐぐぃっ、と、こちらに身を乗り出してきた。

ふわりと、少女の髪から、シャンプーのいい匂いがする。

 

「お客様、ボコがお好きなんですか!!?」

「あ、いや。その。ぼ、僕というよりは、この子がね」

 

愛里寿を指さすと、西住という名札の少女が、愛里寿に目をやる。

そして、愛里寿が抱いているぬいぐるみを見てうれしそうな声を上げた。

 

「あ~! ボコだ!!」

 

愛里寿の背が低くて、カウンター越しでは、彼女のぬいぐるみが見えなかったのだろう。

受付の少女は興奮した様子で、愛里寿に微笑む。

 

「ボコが好きなの?」

「うん」

 

愛里寿がうなづくと、

 

「うわぁ~」

 

受付の少女が楽しそうに嘆息する。

 

「いいなぁ。ボコのぬいぐるみ。可愛いなぁ」

「あの、あなたも、ボコが好きなの?」

「うん。大好きだよ」

 

二人、見つめあう。

お互いに心と心が通じ合ったような表情。

 

「あ、あの……」

 

僕がおずおずと声をかけると、受付の少女がはっと我に返った。

 

「ご、ごめんなさい。つい。あの、ボコの歌なら、どの機種にも入っています。でも、こちらの機種の方がお勧めです!」

 

自信満々に、機種名を言う。

 

「こちらの機種なら、ボコの動画に合わせて歌うこともできるし、劇中のアレンジヴァージョンとか、レアなのも入ってるんです!」

 

えっへんと胸を張る。

 

「私、その機種にする!」

 

愛里寿が目をキラキラさせる。

 

「わかった。そうしよう」

 

僕は頷いて、

 

「それでお願いします」

 

と受付の少女に告げた。

 

「はいっ!」

 

受付の少女がうれしそうにほほ笑んだ。

 

「ねぇ。お姉さんも一緒に、歌お?」

 

愛里寿が、受付の少女に問いかける。

 

「お仕事があるから……でも、一緒に歌いたいよ~」

 

少女が心底惜しいといった様子で言った。

 

「良い人だったね」

「うん」

 

僕たちは、6階の禁煙室に階段で登る。

部屋番号は608。

気を遣ってくれたのか、そこそこ広めの部屋だった。

 

「これ、どうするの?」

 

愛里寿がマイクを持って僕に問いかける。

 


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